獣耳少女の受難
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月26日〜10月31日
リプレイ公開日:2004年10月30日
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●オープニング
「どう、この耳? 父さんの新作なんだよ」
黒髪の12歳、ジャンヌは自分の頭についた黒兎の耳の髪飾りを振って微笑む。ジャンヌの父親はこのような獣耳付きの髪飾りを作る職人である。
パリから徒歩で1日離れた村。そのそばにある緑濃い森の中。
ジャンヌは友達と一緒に子供達だけで遊びに来ていた。
皆でその軽やかな足取りのまま、大人達に禁じられていた森の深くまで入りこんでしまう。
子供達の行く手を阻むように茂っていた潅木が、がさりと動く。
出会ったのは山賊達だった。この近くには山賊の生き残りの潜む洞窟があったのだ。
「なんだ、このガキが」
リーダー格は幾らか不精髭の顔立ちだった。
10人ほどの山賊達は、手に手に持っていた山刀やヤリを使って子供達を追いたてる。子供達が捕らえられるのにそんなに時間はかからなかった。
薄汚れた衣装の無骨な男達に囲まれて、あまりに怖くて泣きそうになる子供達。
しかしガキ大将の少年が気丈に叫ぶ。
「お、お前ら! 俺達の村とは約束が出来てるんじゃねえのか!! 俺達は襲っちゃいけねえんじゃねえのかよ!!」
少年の言う通りだった。
この山賊達は、以前に村に雇われた冒険者達の活躍で退治され、生き残りも二度と村の近くには寄らず、村人を見かけても襲ったりしないよう約束させられていたのだ。その約束と命を引き換えにしたのである。
「約束を破るつもりかよ!」
その指摘を受けた山賊達は醜い顔をより一層、渋らせた。
嫌々の仕方なしという態度で子供達に突きつけた武器を下ろして、解放する
「おっと、お前は別だ」
逃げようとしたジャンヌの背を、山賊の筋肉質な手が捕まえた。
「きゃ!?」
「お前は人間じゃないから、捕まえてもいいだろ。人間はそんな耳してないからな」
山賊のリーダーはジャンヌが着けた、兎耳の髪飾りを見て言っていた。
「お前は人間じゃない。メスの兎だ」
リーダーの言葉に、山賊達に下卑た笑いが巻き起こった。
違うもん!とジャンヌは髪飾りを取ろうとしたが、髪にもつれてしまってなかなか取れなかった。手間取っている間に山賊が持っていた荒縄に強引に縛られてしまう。
「おい! ジャンヌを放せ!!」
子供達は口々に叫んだが、それも武器を突きつけられてしまうまで。
「オレらが捕まえたのは兎だ。約束は破ってないぞ。この兎を返してほしければ金貨100枚だ」
そんな山賊達の言葉を聞きながら、子供達は逃げ帰るしかなかった。
村に帰った子供達はこのことを村の大人達に知らせ、それを聞いたジャンヌの父親はことさら愕然としたようだった。
大人達は冒険者ギルドに少女奪還を依頼すべく、パリへ走った。主にジャンヌの父親が多めに上乗せした依頼報償金を手に。
●リプレイ本文
●1
「い、いたいけな少女を盾にするなんて、ゆるせません」
「小さな女の子を人質にとるなんて許せないよね!」
アイリス・ビントゥ(ea7378)の言葉にティズ・ティン(ea7694)は相槌を打つ。
一旦、村のジャンヌの家で作戦を見直す小会議をする冒険者達。
集まった冒険者達は真剣に山賊にさらわれた獣耳少女ジャンヌ奪還の作戦会議をしているのだが、いつのまにか話は獣耳の方へと流れていく。興味を持つ者が少なくないのだ。
「あ、私も付け耳ほしいな。私に似合ってるのって虎耳かな」
「虎耳ですか? 残念ですが作ってないのですよ。売れ筋は猫耳、犬耳、兎耳といったところでして」
ティズの要求にジャンヌの父親である獣耳職人は答える。彼の話によれば、獣耳飾りはリアルに耳の流用ではないが、獲った獣の毛皮をその形に加工して作られているのだそうだ。
それを聞いたアイリスは、報償を金の代わりに熊耳でもらおうとしていた考えをとりやめた。彼女の故郷、インドゥーラではそのような製品は不浄にあたるのだ。
「獣耳少女か。リアルなモノならちょっと勘弁してほしいが、形だけ獣耳を真似たアクセサリーなら、まぁ、獣ではないのでよかろう。この辺の境界線は大事だからな。一線を越えるとただの異端だ」
黒髪のナイト、フォボス・ギドー(ea7383)は言いながら、村で借りた大きな布を自分の盾と武器に巻く作業を続ける。布を巻くのは音を立てないようにするためだ。
「で、では当初の作戦通りということで、いいですね?」
アイリスの言葉が会議を締めくくる。
イングリッド・エアハルト(ea7827)は大量の荷物を詰めこんだバックパックを一時、この村で預かってもらうことにした。
●2
「ジャンヌお姉ちゃんを帰せ! これでおまえらを倒すんだから!」
ティズは山賊に向かってロングソードを振り回しながら、声を振り絞って叫んだ。
皆に先行して森の奥へ入った彼女は、案の定、山賊達に出くわし、囲まれることとなった。
10歳の彼女はロングソードを不器用に振り回してみせ、ジャンヌを助けに来た村の子供を装う。
「そんな格好で俺達をどうにかするつもりだったのかい? へへへ、鬼さん、こちら」
山賊達が下卑た言葉と手拍子で囃したてる。
ティズはつたない手際のまま、山賊達にあっさり捕まってしまうが、そこは作戦通り。
捕まっても気丈にロングソードをなかなか放さなかったティズだが、もぎ取るようにそれを取られる。
「物騒な武器にその格好‥‥お前、ただの村の子供じゃねえな?」
山賊のリーダーらしき男が、ロングソードにメイド服といういでたちだったティズの正体をいぶかしんだ。
ティズの思惑が外れて、彼らは身体検査を行い、ポシェットの中のダガーが発見される。
「危ねえ、危ねえ」
武器をすべて取られたティズは、山賊のアジトの洞窟へ連れていかれた。
縛られた彼女はそこで同じように縛られている少女ジャンヌと出会うのだった。
●3
「ドッカーン!! ガッツーン!!」
ティズが捕まって1時間も経たないうちに、奇妙な叫びが山賊達のアジトに届いてきた。
洞窟の入り口で見張りをしていた山賊が槍を手に近づくと、破壊音を口で言いながらラージハンマーで周囲の木や地面を打ちつけているアンナ・ミラージュ(ea7517)の姿をすぐに見つける。彼女が手当たり次第にハンマーの威力を確かめている周囲の森の景色はちょっととんでもなくなっている。
彼女が思っていたように山賊の見張りは中にいた仲間を呼び、アンナを捕まえようとやってくる。
その時、アイリスやカノン・レイウイング(ea6284)も木陰から姿を現し、山賊達への挑発を始めた。
『あなや山賊 獣と獣耳少女の区別もつかず 獲物と見まごう間抜け者♪
あなや山賊 獣と獣耳少女の区別もつけず 人質にとる卑怯者♪』
カノンは『メロディー』を歌って山賊達を激昂させながら逃げ、さらに190センチの長身のアイリスは、
「つ、捕まえてごらんなさ〜い」
と言いながら、ふざけるようにアンナと逃げるのを7人の山賊達に追いかけられた。
勿論、これは山賊をおびき出し、アジトから離す作戦。
ある程度、遠くまで誘き出したところで待っていた冒険者達は2人の仲間と合流し、山賊達との戦闘に移る。
「え、え〜い!」
振り返ってロングソードを抜いたアイリスは、山賊の肩口めがけて振り下ろす。ジャイアントの長身による高みから振られた刃は、肩を割って大量出血のほとばしりを見せた。
神聖騎士のフィソス・テギア(ea7431)は賊を相手にするのに極力、自分のクロスソードを使わなかった。危なげながらすべての攻撃をサイドステップで回避していく。
フィソスに対してむきになって槍の突きを加えていた山賊は、やがて自分の足が動きにくくなっていることに気がついた。見れば、茂る下草が伸び、自分の足に絡みついている。
「植物を馬鹿にすると怖いわよ‥‥。『森の女王』の通り名を持つ予定は伊達じゃなくてよ?」
フィソスの背後で『プラントコントロール』を使ったイングリッドの操る草がするすると足首にまで巻きついていく。慌てた山賊が転倒した隙にイングリッドは『ストーン』を唱えた。その山賊は起きあがろうと無様にもがく姿で石になっていく。
「訳の解らぬ理由をつけて年端も行かぬ少女を人質とし、金を要求するなど外道のすることだ。因果応報。それ相応の報いは受けてもらうぞ」
か細い叫びをあげながら徐々に固化する男を冷静に見下ろすフィソスの眼。
カノンは仲間を支援するため、後方から月魔法を詠唱する。彼女の『スリープ』に捉われた山賊は眠そうに眼をしばたかせながら何とか抵抗するも、その不意をつくアイリスの一撃に斬り倒された。
「戦いは何も生まないよ〜。話し合おうよ〜!」
言いながらアンナはラージハンマーを振り、受けとめた山賊の槍の柄を粉砕する。
次々と仲間が戦闘不能に陥り、劣勢を悟る山賊達。
動ける4人は一斉に踵を返すとアジトに向かって敗走を始めた。
捕らえた少女ジャンヌを盾にするつもりなのだと悟った冒険者達は、アジトに侵入している潜入班の成功を祈るのだった。
●4
シフールのノラ・ルイード(ea6087)は洞窟の天井すれすれを飛んでいた。
「そっちに足引っ掛けると石が落ちてくる罠があるから気をつけてね」
フォボスを先導して洞窟に侵入したノラは、彼に罠を教えながら奥へと飛んでいく。
武具に巻いていた布を取り払ったフォボスはそれを構えながら足早にシフールを追う。
フォボスはすでに山賊の1人を入り口で打ち倒していた。
最奥と思しき岩室まで辿りつくと、そこにはジャンヌを守って2人の山賊と戦おうとしているティズの姿があった。縄抜けをした彼女は空手ながら何とか山賊から少女を守ろうとしている。
「待て! 山賊ども!」
モーニングスターの鎖をじゃらんと鳴らしながら、フォボスは山賊達の注意を引きつけた。
「お前ら、村人には手を出さない約束をしていたらしいが、手を出したということはここにいるのは退治されてもよいモンスターだということなのだな」
笑いながら撲殺武器を一層、見せつける黒髪のナイト。
一瞬、ぞっとした表情をした山賊達はティズとジャンヌの腕を掴んで引き寄せ、ナイフを当てた。
「‥‥てめえら、動くとこの娘達がどうなっても知らねえぞ!」
「やれるもんならやってみろ。その後、お前ら皆殺しにして、辿りついたらすでに手遅れでした、人質は殺されてました、とウソの報告するという手もあるぞ」
言ってフォボスの武器は傍にあった武具棚を破壊音と共に一撃粉砕した。
この無慈悲な脅しに臆したのは山賊だけでなく人質のジャンヌもであった。彼女は泣き始める。
山賊は自分達の無力を悟り、人質から刃を外して降伏した。
この間中、ノラは山賊リーダーの弱みを握ろうと洞窟中を捜査して飛びまわったが、そちらの方は収穫がなかった。
●5
洞窟の前で武装解除された6人の山賊達は、皆、ばらばらの方向に逃された。
「もし、また顔を見るようなことがあったら地獄の果てまで追いかけるからね!」
普段なら怖く思えないようなシフールのノラの脅し文句も、今の彼らには何よりも怖く思えただろう。
カノンは泣いていたジャンヌを楽しい歌でなだめながら、一緒に村へ帰ることにする。
●6
「み、みなさん、お疲れ様でした」
父娘再開の後、ジャンヌの家でアイリスは皆に茶を振舞った。蜂蜜を使った甘い菓子とハーブティーは彼女の持ち込みである。
茶会にはジャンヌの友達である村の子供やその親達も招かれた。
その席でカノンは、山賊がコテンパンにやられる姿と冒険者達の活躍を『ウサ耳少女と間抜けな山賊』という歌にし、皆に振舞った。今は即興曲だが立派な歌に手直しして、やがてノルマン中に広めたいと彼女は考えていた。そうなれば、あの山賊達もますます悪さがしにくくなるだろう。
「‥‥そうだ。忘れてたわ」
茶会も盛りあがりの頃、ふと呟いたのはイングリッド。
ジャンヌの父親に近づくと淡いブラウンの光をまといつつ、呪文の詠唱を始める。
「む、この呪文は‥‥やめろっ!」
フィソスはその呪文に聞き覚えがあることに気づき、肩を掴んでイングリッドの詠唱を中断させた。
「イングリッド殿、何のつもりだ。その呪文は石化のものではないか」
「だって、この父親が獣耳を作ったことが今回の騒動の元凶じゃない。封じるべきよ」
真顔で言うイングリッドに、ぞっとしない顔をするジャンヌの父達。
冒険者達はそこで茶会を切り上げ、早々に街に帰ることにした。