新説? 猿蟹合戦
|
■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月08日
リプレイ公開日:2004年11月07日
|
●オープニング
「この『アサギリ座』、次回公演は『猿蟹合戦』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
夕の冒険者ギルドにまた口上の呼ばわりが朗々と響き渡る。
冒険者ギルドではこれで4度目になる劇団、アサギリ座公演の報せである。
ノルマンにアサギリ座という小さな芝居小屋がある。
この小屋は毎回、ジャパンの御伽話を題材として演劇をやるのだが、最近はマンネリの打破のために飛び入り参加自由という特色を出している。普段なら役者でない者が自由に舞台に上がり、劇に参加してもいいというのである。面白ければ筋を本来から脱線させてもいい、何でもありなのだ。
過去には『桃太郎』は主役が鬼側の姫と駆け落ちしてしまったり、『かぐや姫』は主役が男子となり故郷の月での悪の陰謀を挫くため、同士を連れて帰ったり、『浦島太郎』は正義の深海戦士、亀ライダーが痛快に大暴れするというそんな元の物語とは似て非なるものになってしまっている。
客はあまりの筋の変貌にある者は面白がり、ある者は呆れ、それでいてある程度は人気を集めるという状況だ。
ウケれば勝ち。劇団はそういう心づもりらしい。
さて、そんなアサギリ座に今回から変わったことがあるらしい。
今までは飛び入りの役者も普通の客と同じように観劇代をとっていたのだが、今回からは冒険者の飛び入り参加を正式に『依頼』として冒険者ギルドに登録し、それなりの褒賞を支払うというのだ。
これはこれまで、冒険者が最も熱心に参加しており、仕込みや筋の打ち合わせをきちんと行っているからで、また冒険者がやる飛び入りが一番大胆で客受けがいい。ならばいっそ、依頼としてアサギリ座の方から出演をお願いしようと、そういうことになったわけである。
勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことは忘れてはならない。
衣装や小道具はある程度、劇団側が用意してくれる。
「この『アサギリ座』、次回公演は『猿蟹合戦』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
宣伝役の口上が繰り返される。
次回公演『猿蟹合戦』。
自分なりの物語を大衆に見せつけてやるのも面白いかもしれない。
●リプレイ本文
●1
アサギリ座。開幕した舞台にナレーションの声が響く。
『ある日、ジャパンのある場所で、猿は出会った蟹が持っていたおにぎりが欲しくなり、自分の持っていた柿の種との交換を持ちかけました‥‥』
赤い『蟹』役のパラ、ミカロ・ウルス(ea2774)は絵の蟹を飾った帽子を被っていた。
毛皮のベストを羽織った『猿』役の女傑、フォン・クレイドル(ea0504)は柿の種とおにぎりとの交換を彼に申し出、難なく交渉は成立した。
『柿の種をもらった蟹はそれを地面に埋めると、かいがいしく世話をし育てます』
埋めた柿の種に桶とひしゃくで水をやる蟹ミカロ。
「早く芽を出せ、柿の種♪ 出さなきゃ、ハサミでちょん切るぞ♪」
歌いながら世話をしていると、やがて舞台は暗転。再び明るくなると舞台には1本の立派な柿の木が立っていた。実りの秋よろしく立派な枝振りにはオレンジ色の実が沢山ついている。
その時、客席から舞台に上がってきたのはキャシー・バーンスレイ(ea6648)。彼女は蟹や客達に礼すると、自分は『柿の木の精霊』だと名乗った。
「あなたが私をここまで成長させてくれたのですね。感謝してます。一番初めに成熟した実はあなたが食べるのに相応しいです」
柿の精霊キャシーにそう勧められた蟹ミカロはよろこんで柿の実を食べようとしたが、蟹である彼はどうしても柿の木に登ることが出来なかった。
すっかり困った顔をしているとそこに猿フォンがやってくる。
「何をしていなサル?」
「丁度よいところに来て下さった。猿さん、実は柿の実を採ってほしいのです」
蟹ミカロの頼みを二つ返事で引きうけた猿フォンはするすると木を登り、高い枝に腰かけた。そして手の届く範囲にある柿の実をむしゃむしゃと食べ始める。
「早く僕にも採って下さいよー」
蟹ミカロはせがみますが猿は美味しそうに熟した実を食べるばかり。それどころか、熟していない固い青い実を手に取ると、蟹ミカロに向かって投げつけ始めた。
「何ですか、あなたは? この木はこの蟹さんの物です。あなたに触れる権利はありません!!」
柿の精霊キャシーはそう言いながら投げつけられる青い実から蟹ミカロをかばう。
しかし力いっぱい投げられた青い実が蟹ミカロに命中し、哀れ、彼はそれが致命傷となりで死んでしまった。
憤慨し、悲しむ柿の精霊キャシー。
猿フォンは木から下りると、殴りかかってくる彼女をかわし、逆にスープレックスホールドを決めた。蟹のように泡を吹いて柿の精霊キャシーは気絶する。
猿フォンは手に持った熟した柿をかじりつつ、舞台袖より退場する。
「テエヘンダ、テエヘンダ! オヤブン!」
猿フォンと入れ替わるようにイントネーションが奇妙なジャパン語を叫ぶ岡っ引が舞台にとびこんできた。
『岡っ引のハチ』役、カミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)。ジャパンの町人風のちょんまげかつらをかぶり、男物の着物の尻をはしょった格好で十手と御用提灯を持っている。尻っぱしょりの格好は細く白い素足をむきだしにし、その気がある人達にはたまらないかもしれない。
気絶から醒めた柿の精霊キャシーが蟹ミカロの死を嘆く横、岡っ引ハチのカミーユは死体の検分を始める。
その時だ。
「コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ‥‥」
死んだはずの蟹ミカロはゆらりと起きあがった。生気のない眼つきは彼がアンデッド『ズゥンビ』になったことを物語っている。無念と妄執がアンデッドとして復活させたのだ。
「テヤンデバロチクショ!」
動く死体に尻餅をついて驚く岡っ引ハチのカミーユ。
そのハチに、蟹がアンデッドと化すほどの無念な事情を説明したのは柿の精霊キャシー。
「‥‥そういった事情でしたら、わたくしも微力ながらお手伝いいたしますわ」
岡っ引ハチのカミーユは丁寧なゲルマン語でそう言うと、ズゥンビ蟹ミカロの仇討ちに助力することにした。
蟹ズゥンビのミカロと岡っ引ハチのカミーユは、坂の上にある猿の家を目指して歩き出したのである。
●2
『道の途中、蟹ズゥンビ達は、物見遊山で諸国を漫遊する栗王国の『栗姫』に出会います。栗王国とは、世界中にある栗を統べる凄い王国のようです‥‥』
蟹と岡っ引が連れ立って歩いている理由を興味深げに訊いてきた栗姫シエル・サーロット(ea6632)は、2人から事情を教わると仇討ちに加わった。多分に興味本位である。
途中でさらに『臼』の着ぐるみを着たバルタザール・フレサンジュ(ea7994)に出会い、彼も自主的に仇討ちの仲間に加わってきた。
この臼バルタザールの動きは何だか不審である。
歩いている最中で、時々グラリと姿勢を揺らして蟹ズゥンビのミカロに倒れかかろうとするのだ。
だが、その度に、
「ええい、そのどでかい図体をもっと脇にどかしなさい! わたくしの肩に当たるでしょう!」
栗姫シエルに注意され、蟹を押し倒すまでにはいかない。
そんな栗姫シエルはうるさく、栗だけあってやたら棘々しかった。やれ歩いていたら足が痛くなった、やれ寒いからなんとかしろ、やれお腹が空いた、と後から後から文句を並べて仲間達を困らせる。
その癖に手を貸そうとすると、
「ええい、下賎な者がわたくしに触るではない!」
と言って、払いのけるのだ。
「ゴタゴタヌカシッテット、オナワニカケッゾ!」
岡っ引ハチのカミーユはそんな仲間達をとりまとめようとジャパン語で懸命に叫ぶ。
そうこうしている内に皆は猿フォンの家に到着するが、すると臼バルタザールは表情を暗く変え、仲間達に向き直った。
「残念。あなたの仕返しはここで終わってしまった」
臼バルタザールは言う。
「私はあなたの仇討ちを阻止するために猿に雇われたのです。あなた達にはここで死んでもらいます」
蟹ズゥンビのミカロをボディアタックで押し潰しにかかる臼バルタザール。
彼は今度こそ押しつぶすのに見事に成功する。‥‥だが。
「まだだ‥‥まだ、やられるわけにはいかない‥‥!」
再びズゥンビとして起きあがってくる執念深き蟹ミカロを見て、恐怖にかられた臼バルタザールはうつぶせの状態から坂道を転がり逃げてしまう。バルタザール、舞台より退場。
まだ猿が帰っていない家に侵入した蟹達は、それぞれが潜んで猿を待ち伏せることにした。
●3
『しばらくして秋風の中を帰ってきた猿が帰ってきました。家に入った猿は囲炉裏端で布団を敷き、寝息を立てている栗姫の姿を見つけます‥‥』
「うわっ、何をしてるんだ、おまえ!?」
「うるさいわねえ。‥‥わたくしの眠りを邪魔しないで下さる? このばか猿」
いかにも寝起きの機嫌悪そうな表情で猿フォンを叱りとばす栗姫シエル。
打ち合わせでは囲炉裏に入って待ち伏せするはずの栗姫シエルは、灰にまみれるのが嫌だからと勝手に布団をひいて寝てしまっていたのだ。
栗姫が見つかり、待ち伏せの失敗を悟った蟹達は奇襲をあきらめ、各個攻撃に出る。
水飲み桶の陰に隠れていた岡っ引ハチのカミーユは、
「シンミョウニオナワニツキヤガレ!」
と叫びながら飛びかかるが、逆に返り討ちにあい、板の間にスープレックスホールドを決められる。彼女は蟹のように泡を吹く。
押入れから飛び出してきた蟹ズゥンビのミカロにも、猿フォンはスープレックスホールド。
「あれ、おっかしいな? こいつ、殺しといたと思ったのに?」
倒れ伏した蟹を見下ろして、不思議がる猿フォン。
見ているとすぐに蟹ズゥンビのミカロは起きあがり始める。
猿フォン、彼にまたスープレックスホールド。そして念入りにストンピング。
だが、また蟹ズゥンビのミカロは起きあがる。
「まだだ‥‥まだ、やられるわけにはいかない‥‥!」
「こ、こいつ、不死鳥の如く‥‥!」
『‥‥何とも恐るべきアンデッド蟹の執念。倒しても倒しても起きあがる不屈の蟹に対し、猿は畏怖の念さえ抱きかけますが、やがて名案を思いつきます。‥‥殺してもすぐ生き返るものなんか食べて消化してしまえ、と』
音もなく、舞台の照明は暗くなる。
●4
夜景。舞台が明るくなると猿の家の囲炉裏では1尾の蟹が鍋に入られ、ぐつぐつと煮られる光景があった。
その蟹鍋を黙々と食べている猿フォン、栗姫シエル。何故か、臼バルタザールと柿の精霊キャシーまで加わっている。
4人に対し、1尾の蟹しかいない蟹鍋はあっという間に平らげられてしまった。
「蟹‥‥それは、人を無口にさせる魅惑の食材。猿達は、今宵、至福の時を過ごしましたとさ」
柿の精霊キャシーは客席に語りかけるように言うと、ハンカチで口元をぬぐった。
栗姫シエルも蟹雑炊を啜りながら客席に語りかける。
「この話は3つの教訓を教えてくれるわ。‥‥1、仇討ちなんかロクなことはない。2、初対面の人を味方につけたって、役に立つとは限らない。3、そもそも、騙されるな」
「蟹さん、ごちそう様でした。今度、生まれ変わる時も美味しい蟹になって下さいね」
臼バルタザールはそう言い、食後の合掌をする。
「今度こそあばよ。美味かったぜ!」
捨て台詞を残した猿フォンは舞台から退場する。彼女は今夜、旅に出るのだ。
家の外で、去っていた猿フォンを見送る岡っ引ハチのカミーユが呟いた。
「猿はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの蟹味噌と脚ですわ」
岡っ引ハチのカミーユは、殻だけになった蟹に語りかけるように言うと、猿を追いかけて旅に出た。
舞台の幕が降りていく。猿蟹合戦、一巻の終わりである。
本懐を遂げない仇討ち話に釈然としない客席の大きなどよめきが後に残されるのだった。