●リプレイ本文
●1
秋トンボを眼で追いつつ、サー・ブルクエルツ(ea7106)は考えていた。
確かにこの悪魔の破廉恥行為は眼福であることに間違いはないが、悪魔を倒して女性に感謝される方が次のステップアップもスムーズに進めるのではないか、と。
(見ているだけで満足できる男などフニャフニャだ。やはり、女性の方からおねだりされる方が男として何倍もハッピーだからね!)
何の喩えか、脳内見栄を切り、白い歯をキラリ☆と輝かせるサー。
そして彼は今回の依頼は、相手を逃さず徹底的にやりまくることに決めたのだ。しかも格好よくだ。
●2
シフールナイトのカルヴァン・カド(ea8300)は、明日の作戦の為に近くの酒場から古ワインと古い小麦粉を分けてもらいつつ、考えていた。
(ふっ。前回の報告書も拝見しましたが、なんともあわれな小悪魔ですな。‥‥スカートをめくって中を見ることには何の意味もない! 女性自らの意思でスカートをめくることに意義があるのですぞっ!!)
女たらしを自称するカルヴァンは自分の考えたことを口で叫びたくて、うずうずさえしていた。
彼にも今回の依頼に対するやる気があふれていた。無論、格好よくである。
●3
「また懲りもせずに繰り返しているわけか‥‥今度こそ息の根を止めてやるか」
女戦士ティオレ・グレイス(ea8315)は報告書で読んだ『グレムリン』の悪行を思い出しつつ呟いていた。
ご近所を回って古い小麦粉を手に入れたティオレはそれを隠し持って、囮の街娘を演じる所存だ。
「見ていろ、悪魔め。後顧の憂いを立つためにとどめを刺してやる!」
女性の立場としての依頼への熱気が満ち満ちた彼女の視線だった。
●4
「何でこんな依頼受けてしまったんでしょうか〜」
食堂から古ワインを譲ってもらってきたウィザード、エヴァン・ノア(ea8343)は、この依頼を受けたことを今更ながら後悔していた。
前回の作戦を踏襲するとすれば自分も囮役を演じるべきだろう。しかしエヴァンは外見の艶っぽさとは裏腹に、今回のそのような役を演じることには二の足を踏む性質だった。
「仕方ないから私も囮役をしますが‥‥出来れば私の方には来てほしくないですねぇ」
溜め息と共に決意を固めるが、明日のことを考えると気が重くなる彼女だった。
●5
人々が長い影を引きずる、秋の街の黄昏時。
カルヴァンは茶毛の愛馬『シルバー』に乗って街をパトロールしている。通乗馬にまたがるシフールという奇妙なスタイルは、雑踏の中で悪目立ちしているかもしれない。
カルヴァンから見えるところにノルマンの街娘に変装したエヴァンが、少々おどおどした様子で歩く。変装も彼女の色っぽさを隠せはせず、通りすぎる男達を時折、振り向かせた。
雑踏の中で時間が過ぎる。
ティオレは、カルヴァンやエヴァンからかなり離れた辻にいた。彼女も何の変哲もない街娘に偽装し、歩く。歩くだけだがグレムリン登場を待って、街を歩き続けているのだから少々、疲労が溜まっている。
ティオレが自分のスカートの異変に気づいたのはその時だ。
歩くティオレのスカートに幾ばしかの負荷がかかるや、つつっと裾がまくれあがり始めた。
「グレムリンが出たぞーっ!!」
蹴撃。声高く叫ぶティオレはめくれあがるスカートを押さえると思いきや、逆に自分からスカートを広げながら高々と足を上げ、蹴りをグレムリンに見舞った。本当の街娘よろしく下着を着けていない下半身を自ら露わにした大胆な一撃。思わず、その中を覗きこんだろうグレムリンは不慣れな踵落としも避けられなかったに違いない。ちなみにティオレの髪はブロンドである。
魔力がこめられてないからノーダメージだろうが、蹴りの感触からしてグレムリンは石畳の街路を転がったようだった。
透明のグレムリンがどこまで転がったか、適当な見当をつけたティオレは大体この辺りだと隠し持っていた小麦粉をぶちまけた。すると白い雲は大きく広がり、周囲にいた通りすがりの人々も巻きこんで薄白く染めた。
透明だったグレムリンの輪郭も白く風景に浮かび上がる。
「グレムリンはそこかーっ!!」
そこに走りこんできたのがカルヴァンの愛馬シルバー。
カルヴァンは馬上から皮袋入りの古ワインをグレムリンへとぶちまけた。血のような赤ワインはその傍にいた群集にまでかかって赤く染め、グレムリンは小麦粉に赤ワインを混ぜたどろどろの姿を明らかにした。
そのグレムリンを睨みつつ、見栄を切ろうとしたカルヴァンだが、彼の愛馬は不気味な悪魔の姿に恐れをなしたのか、やにわ彼を振り落とすや現場から走り去っていってしまう。
「待て待てぇい! 悪魔退治はこのサー・ブルクエルツに任せてもらおうか!」
そう叫びつつ、エヴァンと同時に駆けつけてきたのは重武装のサーだった。彼は観衆の中に女性の姿があるのを確認し、白い歯を夕陽にきらめかせる。
「サー殿! 早く『オーラパワー』を!」
「待ちたまえ、マドモアゼル。物事には順序というものがあるのだよ」
ティオレに言って、サーは己のアピールのように輝かせていたヘビーヘルム、プレートメイルを外し始めた。全身にまとった甲冑を脱ぐのは一作業である。それも出来る限り格好よく脱いでいこうというのだから時間がかかる。
サーの除装を横目にグレムリンに戦いを挑んだのがカルヴァンだ。彼は自分の両手に『オーラソード』を付与し、淡い光の剣で斬りかかる。元々の力のなさは手数で補った。
グレムリンも長い鉤爪で反撃するが、カルヴァンはシフールならではの身軽さで空中回避する。
空中戦の中でもカルヴァンの眼はしっかり観衆の中にシフール娘がいるのを捉えている。女性に格好いいところを見せられるのならば、彼のやる気は通常の3倍が発揮される。
まだ現場にうっすらとかかっている白い雲を切り裂いて三日月型の真空刃が飛ぶ。エヴァンの『ウインドスラッシュ』だ。風の精霊力による刃は悪魔の皮翼を切り裂いた。
エヴァンの魔法とカルヴァンの攻撃はそれなりであったが、とどめを刺すには決定力が足りない。
戦いの周囲では見守る観衆が、冒険者に応援の声を挙げていた。
「もう何してるのよ、早くしないと逃げられちゃうじゃない!!」
「む、‥‥仕方ない!」
ティオレにせがまれたサーは格好悪い甲冑半脱ぎ状態で、彼女のロングソードに『オーラパワー』をかけた。
淡いピンクの光に包まれた剣を振りかざし、ティオレはグレムリンに対する戦闘に加わった。
サーも自分のハルバードにオーラ魔法をかけることにする。彼の半脱ぎとなった甲冑の下には筋肉質な身体があり、その身体は何故か『踊り娘の衣装』を着ていたのだが、もしかしたらこれが彼の格好よさの要かもしれない。違うかもしれないが。何にせよ、今の格好は一般的に格好よいとはいえない。
裂帛の気合と共に、ティオレの剣はグリムリンに振り下ろされ、130センチほどの身長の相手を大きく斬りつけた。相手は腕が折れたようで右腕で左腕を押さえる。
エヴァンの『ウインドスラッシュ』が再度、皮翼に大きな傷をつける。
そんな中、ハルバードを構えながら、サーが戦いの輪に加わった。
「美味しいところは私に任せてもらおう!!」
ハッハッハッと笑いながら、淡い光を帯びた長柄の先の重い刃でグレムリンの身体を突き斬るサー。
脇腹に大きな傷を受けたグレムリンが、地に落ちた。
グレムリンが再び飛んで逃げようとしたところを、カルヴァンは両手の『オーラソード』で相手を地に縫いつける如く牽制する。その最中にもギャラリーの中のシフール娘に流し眼を送ることを忘れない。
ティオレは更に剣の一撃を飛べないグレムリンの頭上に見舞い、その身体を路面に叩きつけた。
「この世は格好いい方が勝つに決まっている斬り!!」
叫びと共にサーのハルバードの大振りが悪魔の腰を水平に両断した。斬りながら、夕陽を逆光にした格好いいポーズをとるが、半脱ぎ状態の甲冑からこぼれる踊り娘衣装の腰垂れがふんどしのようで決まりが悪い。
断末魔の叫び。
2つに割かれたグレムリンの身体が夕陽光に消えるように消滅していく。
べちゃりと音を立てて、毛むくじゃらの悪魔の身体にこびりついていた小麦粉とワインのまじりあっていたペーストが石畳に落ちた。スカートめくり一代のハレンチ悪魔の最後だ。
「やりましたわ〜!!」
エヴァンが声高く宣言したのにつられるように戦闘を見守っていた観衆からも歓声が上がる。特に女性の喜びの声が一際高い。
「やったぁーっ!! やったぞーっ!!」
両手を頭上に振り上げて勝利を祝うのはティオレだった。戦いを終えた心地よい疲労の中で、彼女は勝鬨をあげながら手の振り上げを繰り返す。観衆も叫びながら拳を振り上げ、冒険者の勝利宣言を共に唱和した。
サーもカルヴァンも、歓声の中で周囲の女性に送る格好いいポーズを怠らない。サーはここにきて、ようやく甲冑を全て脱ぐことが出来た。その下から現れた踊り娘衣装の完全なる姿が筋肉質な肢体を覆う様は、正直、変態さ加減でグレムリンの方がマシだったかもしれない。
「やったぁーっ!! やったぞーっ!!」
叫びながらティオレの手は、エヴァンと正対して振り上げられる。故意か偶然か、その手先がエヴァンのスカートの裾に引っかかり、振り上げた時にはそれを盛大にめくれあげさせる結果となった。
勿論、エヴァンは下着をはいていない。
おおおぉーっ!!と観衆の男達のどよめきが場を騒がせる。
夕暮れ。大勢の観衆が見守る中で、エヴァンは色っぽい腰つきの全てをご披露する羽目となったのである。
ちなみにエヴァンの髪色はブラウンだ。