●リプレイ本文
●1
「真似事‥‥? して楽しいのか、そんなの‥‥? あぁ‥‥劇みたいなものか‥‥」
ウリエル・セグンド(ea1662)は、抱いていた疑問に自己完結した形でようやく決着がついたようだ。
ここはパリから1日ほど離れた、森の中にある洞窟。
音無藤丸(ea7755)はお嬢様接待の為の冒険の舞台探しに、探索が終わっていて怪物がいないはずの洞窟を冒険者ギルドに紹介してもらっていた。
「ふふ、なんだか燃えますね。こういうの」
裏方班の内、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は、洞窟周囲に危険がないかを調べながら呟いている。
先ほどまでニルナと同じように周囲を調べていたアシュレー・ウォルサム(ea0244)は、今は洞窟前に2つの落とし穴を掘っていた。
「やるからには‥‥頑張ってスリルを味わってもらおう‥‥か」
ウリエルはその落とし穴に枯葉を敷き詰め、クッションにする。また彼は洞窟の天井から毒蛇や毒蜘蛛の作り物などが落ちてくるような仕掛けを作っている。
「加減するのって結構、難しいですね」
言いながらセシリア・カータ(ea1643)も、洞窟内の罠の設置にとりかかっている。
ミレーヌ・ルミナール(ea1646)は、洞窟の奥の広くなった岩室に街で買ってきた木箱を置いた。これがコボルトのお宝ということになる。
ミレーヌはまた、子供でもすぐ解るような罠をロープと矢で作り、仕掛けにかかる。
1日もしないで洞窟内は仕掛けたい仕掛けの全てを置くことが出来た。後は自分達は隠れ、このままの状態で洞窟を保全するだけだ。
洞窟の入り口から少し離れたところではクレア・エルスハイマー(ea2884)が、お嬢様一行がやってくるのを今か今かと待ちうけ、見張っていた。
●2
草原の夜。冒険者達は星空の下、草を刈り取った地面の焚き火を囲んで野営をしていた。
「楽しきこと、苦しきこと‥‥その全てが冒険なのだ。だからこそ、得られる物も大きい‥‥私はこの生き方を誇りに思っている」
星を見上げながら聯柳雅(ea6707)は、冒険に連れてきたお嬢様に語りかけるように呟く。
お嬢様の名は『ゴールディ』。17歳だ。
ゴールディはこの冒険に出てきて、生まれて初めてだろう長行程を冒険者達と歩き、また薪拾いなどを体験した。野宿というのも初体験だ。
「そう言えば、ちゃんと挨拶してなかったね」
夜に明るい焚き火を飛びこえ、華国服を着た、胸の大きなシフールがゴールディの方に飛んでくる。
「あたいは、華国の舞踊武道家の真慧琉だよ。コボルト退治、一緒に頑張ろうね」
真慧琉(ea6597)は、普通の冒険者に接するように彼女に挨拶する。他の人達はある程度は失礼がないように気を使って彼女に話しかけるというのに、このシフールはなんと気さくなことだろう。
ゴールディは焚き火を見ながら、今日一日を回想した。
今日の正午には彼女達は、パリの酒場にいた。家が召し抱えているバードの紹介で、彼女は市井の冒険者達の冒険譚を彼らから直接聞く機会を得たのだ。
「冒険への憧れ、私にも覚えが‥‥あなたの憧れは憧れのままにしてあげたいですね」
彼女とテーブルを囲んだ1人、リューヌ・プランタン(ea1849)。
「夢を壊さずに‥‥でも苦労話も必要ですよね‥‥『終わり無き守護者』『白い白馬に跨って』辺りでしょうか」
そう言いながら、リューネが自分の体験談を語り始めようとした時、酒場に突然、男がとび込んできた。その男は自分達のテーブルに気づくや、向かってくること、一直線だ。
「冒険を依頼したい!」
その商人、とれすいくす虎真(ea1322)は叫ぶように言った。
話では、近くの村へ所用で出かけたところ、コボルトの集団に囲まれて何とか逃げ出してきたらしい。
「そのコボルトから自分の荷を取り戻してくれ! 冒険には俺もついていく!」
とれすいくすはこの冒険者達には顔なじみのようだ。
「お嬢様も冒険に出ますか?」
この時、そう訊いてきたのが、フィーラ・ベネディクティン(ea1596)。彼女は言った後で礼儀正しく会釈をした。
「身だしなみさえ冒険者らしくきちんとしてもらえれば、すぐにでも出発してもいいですわよ」
断る選択肢はゴールディにはなかった。彼女はエチゴヤに飛びこみ、簡単な装備を用意した。
フィーラが冒険に出る前の諸注意を、彼女に教授する。
そして、お嬢様は人生初めての冒険に出たのだ。
ふと、ゴールディは回想から我に返った。
野営に近づく人影を聯が見つけ、声をかけたのだ。
やってきたのは1人のジャイアント、猟師(役をしている)音無だった。
「どちらに向われるのですか?」
音無の問いかけに、聯は、森の洞窟へ、と答えた。
「森の洞窟はやめた方が。コボルトが住んでいますよ。先日も数匹に囲まれ、火打石セットと太刀を奪われました」
とれすいくすはそのコボルト退治に行くのだと言った。
「これから退治に行くというのなら、取り戻してくれるとありがたい」
そう言うと猟師の音無は、焚き火から離れて去っていった。それから焚き火を訪れる者はいなかった。
ゴールディの生まれて初めての野宿だった。
●3
森でゴールディは木陰から飛び出てきた小動物に驚いた。地ネズミのようだが身体は木の葉に覆われている。
午前中に森の中の洞窟は見つかった。ここにコボルトがいるはずだ。
ゴールディは洞窟入り口にあったバレバレの落とし穴を避けたが、するとそのそばにあった念入りに隠されていた2つめに落ちてしまった。もっとも深さはたいしたことはなく、底の枯葉がクッションになったので彼女に怪我はない。
冒険者達はランタンに火を入れ、暗い洞窟の奥を進んだ。
「危ない!」
洞窟の天井から作り物の毒蜘蛛や毒蛇が落ちてきたのを、真はゴールディを突き飛ばして、自分がそれをかぶった。暗い洞窟なので本物のように見える、それらを真は遠くに放り捨てた。
一行はそれからも見つけた罠を慎重に解除しながら、奥へと進んでいく。
しばらくすると奥から駆けてくる2体の人影がある。
「バウワウ!」
「ガウガウ!」
やってきたコボルトは、ニルナとカタリナ・ブルームハルト(ea5817)が着ぐるみで化けたものだ。ニルナは素手だが、カタリナは粗製の棍棒を持っている。
当然のことだが、戦闘になる。
真は蹴りや拳撃を幾つか放ち、聯は棍棒をかわした。
とらすいくすの刀は相手が楽によけられるほどの大振り。
戦闘の中、フィーラは魔法を使うふりをする。
リューネは、カタリナの棍棒で叩かれた右腕を押さえ、手に仕込んだ血のり袋から偽の血をほとばしらせた。それを見たゴールディの顔が白くなる。剣を握るお嬢様はこの戦闘には何も貢献していなかった。
機を見て、洞窟奥へと逃げだすコボルト。
冒険者達はゴールディを押すように、その後を皆で追いかける。
洞窟はすぐに広くなった岩室に続いていた。
そこには更に黒っぽいコボルトと左頬に傷痕のあるコボルトも待ち受けていた。アウル・ファングオル(ea4465)と井伊貴政(ea8384)だ。井伊は着ぐるみの上から更にヘルムとアーマーを着けていた。
戦闘の第2ラウンドである。
コボルトのアウルは武器を相手に当てるより、威嚇さながらに近くの岩壁を打ち砕く。
フィーラは魔力が尽きたような演技で、戦闘から離れた。
コボルトのニルナは、手傷を負ったふりをし、別の洞穴から逃げる。
剣を手に身を縮こまらせているゴールディを尻目に、戦闘は冒険者優勢のまま、決着がつきそうだ。
「爆虎掌!!」
気合諸共の聯の拳撃が、コボルトの井伊にアーマー無効の痛打をくらわせる。
地面に転がった井伊に対し、リューネはさあ、とゴールディに手で示した。
「さあ、ゴールディ様。とどめを」
「‥‥出来ませんわ‥‥」
ゴールディは自分の武器をコボルトに振り下ろすことが出来ず、涙ぐんだ。
その隙にと井伊は起き上がり、他のコボルトと一緒に洞穴を逃げだす。
冒険者達はコボルトを深追いせず、その岩室を探索することにした。
すると、すぐに奥の木箱を見つける。
箱の中味はアクセサリー数個、リカバーポーションとソルフの実、そして太刀と火打石セットだ。
「うわぁ、すごいお宝だね!」
真が大げさに喜び、とれすいくすもこれが自分の盗まれた荷です、と言う。
ゴールディは皆が止めるのも聞かず、リカバーポーションをリューネに飲まそうとする。そんな彼女の勢いにまさか、この傷は嘘です、と言うわけにもいかず、リューネはポーションを1瓶、飲み干したのだった。
●4
「お疲れ様。疲れていると思うけど早くこちらへ」
洞窟のマッピングを終えているミレーヌの指示に従って、コボルト達はもう1つの洞窟出口から脱出した。ここからならお嬢様一行とは出会わずに森へ出れる。
視界が狭くて暑い着ぐるみで大変だったコボルト役の労を、クレアが近くの泉から汲んできた冷たい水でねぎらう。
爆虎掌による井伊の怪我は、着ぐるみを脱いだニルナが『リカバー』で癒していた。
「‥‥まぁ、お嬢様に楽しんでもらえたようで‥‥よかったよかった‥‥」
ウリエルは脱ぎ捨てられたコボルトの着ぐるみを興味深げに見つめながら、呟く。
「それは芝居小屋に返すんだから持って帰っちゃダメよ」
セシリアの一言にも彼は動じたように見えないが、内心で残念と呟いている。
●5
「皆、もっとふざけるかと思ったけど、思ったよりまともだったね。お嬢様はいい経験になったんじゃないかな」
冒険の翌日、ゴールディお召抱えの緑衣のバードが冒険者ギルドを訪れて言った。
バードはボーナスとして冒険者達に金貨1枚ずつを渡したが、アウルはそれを辞退した。