●リプレイ本文
●1
深まる秋の日。村を訪れた冒険者達は村長の家で、村長や村人達と会う。
「わたくしがいれば何も心配することはありませんわ、おっほっほ!」
「ねえねえ、アミィ様、あの人、かっこよくないですか? アタックしてきてもいいですか?」
高笑いするアミィ・エル(ea6592)と、その裾を引っ張りながら左眼の色が神秘的なツルギ・アウローラ(ea8342)を指差してけたたましいシフール、真慧琉(ea6597)。2人に緊張感という言葉は似合わない。
彼女達のおかげというか、冒険者達を迎える風景は必要以上に深刻ではないが、それでも村の墓地に現れるアンデッドという事件は冒険者達の訪問をシリアスなものとして捉えざるをない。
「かつては親しく暮らし、最後を見送った者がズゥンビに変わり果て襲ってくるのはやり切れないだろうね」
「私達にとってはズゥンビでしかありませんが、村人達にはつらいことですよね‥‥。心中お察しします」
ミシェル・バーンハルト(ea7698)の言葉に、アルガノ・シェラード(ea8160)は銀色の睫毛を伏せながら言う。
「親しき人物のズゥンビに襲われるという悲劇は見たくも聞きたくもないですから、そんな悲劇が起こる前に解決したいものですね」
「私達だってつらいのだ‥‥。しかし生者がもう『物』でしかない死体に煩わされ続けるわけにはいかん」
ノーテ・ブラト(ea7107)の決意に、村長も胸の内を語った。
「遺体は物ではない。死んでしまっていても、先祖や家族であることに変わりはないはずだ。今は穢れているが‥‥浄化してやればよい」
「そうです。遺体は物ではありません。私達がきちんと浄化して再び埋葬しますから、気を負わないで下さい」
フィソス・テギア(ea7431)とステファ・ノティス(ea2940)の言葉は優しさの中に強さがある。
アルガノは、村長に尋ねた。
「最近、この辺で見かけない人が歩いていたなどの報告を聞いたことがありませんか?」
「さあ‥‥特に気づいたことはないね。そういうことがあれば、村でも話題になると思うが‥‥」
「ズゥンビとジャイアントクロウは同時期に出現したのか‥‥。何か関係が‥‥?」
フィソスも訊くが、彼女の問いはヴィクトル・アルビレオ(ea6738)の知識に、
「ジャイアントクロウはアンデッドとよく一緒に現れるものだ」
とだけ返された。
「‥‥ズゥンビやジャイアントクロウと呼ぶより‥‥死人憑きや大鴉と呼ぶ方がしっくりくるな」
東雲大牙(ea8558)が一人ごちる。武道家の彼が武道着を着ていないのは、記憶喪失である自分の手がかりを破いたりしないようにだという。
村長達と一通り、話が終わった冒険者達は今夜は村で休み、夜明けを待ってズゥンビ退治にかかることにした。
レリック・ダウグ(ea1837)は明日、後衛を務めようという者達に、光り物とか何か刺激臭がしそうな物などを出来るだけ身につけないようにと言っておく。鴉ならそういうものを狙いそうだからだ。
●2
秋になって、夜明けも随分と遅くなった。
朝日の中、シフールの真が空を飛んで、静かに墓地を偵察する。
すると数多の人影が墓地のあちこちでうごめいているのがよく解る。それらはゆっくりと歩きながら真をめざして集まってくるようだった。腐臭が鼻に届く。
そして喉を嗄らしたような鳴き声と共に、空高くから舞い降りてくる黒く大きな影。
「ちょっと、誰か助けて!」
大鴉の爪にかけられるのをかわしながら、真は大声で叫ぶ。
墓地まで15mの距離を置いていた冒険者達は、大烏とズゥンビを相手にするそれぞれに分かれた。
「ジャイアントクロウを襲え」
冷静なノーテの声が、彼に作られた2羽のアンデッドの鳥に命令する。しかしアンデッド鳥は羽ばたいても飛ぶことが適わなかった。
「死者は‥‥在るべき場所に還すとしましょうか」
アカベラス・シャルト(ea6572)の詠唱による『アイスブリザード』は、瞬間の吹雪を発生させる。それは視界のズゥンビを巻き込んで風景を一瞬、白く染めた。
「Auftrage(命ずる)Sturm des Eises(氷雪の嵐よ、吹き荒れよ)Eisblizzard(アイスブリザード!)」
アカベラスの魔法はギリギリで効果範囲からよけた真をかすめるよう、吹雪に大鴉を巻き込む。
●3
「彼の人に大いなる祝福を!」
ステファは『グッドラック』を仲間の皆にかけてまわり、龍麗蘭(ea4441)も前衛に『オーラパワー』を付与していく。
水晶の剣を手にしたアルガノの左手より放たれる『グラビティーキャノン』の黒い光条が、直線上のズゥンビ2体を墓場の土に打ち倒す。しかし、それらはまた起き上がってくる。
「‥‥さて、目標は‥‥最低3体だ」
前衛の内、東雲はジャパン語でぽつりと呟いてからズゥンビに打ちかかっていく。拳撃や踵落しなど大胆な攻撃は、主に頭を狙って繰り出される。
同じように頭部を狙って金属拳をワンツーで繰り出すのはフォン・クレイドル(ea0504)。
「臭い臭い、臭くて鼻が曲がりそうだよ」
フォンは足ばらいで転ばせたズゥンビの頭を踵で踏み潰す。1体に余計な時間をかけず、サクサク行く勢いだ。
しかし頭部の大ダメージも敵には致命的ではなく、また起き上がり、襲いかかってくる。
フォンのすぐ背後にいるヴィクトルが隙を見て『メタボリズム』を詠唱し、ズゥンビの身体に腐敗の脆さを促進させる。しかしズゥンビに接触した手は、腐敗した腕に力強く掴まれた。
その腐敗腕にニードルウィップが巻きつく。
「悪いが、ここから先は立ち入り禁止だ。今日の俺は鉄壁だぜ。後ろの連中にはそれ以上、汚ねえ指1本たりとも触れさせはしない」
ツルギがニードルウィップにしなりを与えると、腐敗した腕はそこからもげる。
直接攻撃の前衛と魔法や援護の後衛のフォーメーションは、ズゥンビの単純な攻撃には突破を許さなかった。
レリックが詠唱する『ファイヤーボム』。火炎は3体の動く死体を呑みこんだ。
「ほらほらほら〜! そんなんじゃこの龍虎の牙は突破できないわよ!!」
龍は前衛を突破しかけるズゥンビの腹にフェイントと共の強打を打ちこんだ。金属拳を握った拳は腐敗した腹に深く潜りこむ。そのダメージで地に崩れ落ちるズゥンビ。
「ネクロマンサー志望の墓堀士をなめるな!」
叫ぶノーテのクルスソードが腐敗した太腿を断ち、倒れ伏したその死体へ彼は『ブラックホーリー』を撃つ。
ミシェルは『ピュアリファイ』を使い、後衛から前衛陣を援護。ズゥンビの腐敗を清めて傷とする。
「見切った!」
正面にまっすぐ突き出されたズゥンビの腕をかわし、フィソスはクルスソードでその腕を切断する。
「邪なる者よ、滅せよ! ホーリー!」
「彷徨える屍よ、あるべき場所に還れ。ピュアリファイ!」
ステファとフィソスのタイミングを合わせた神聖魔法攻撃が、ズゥンビに聖なる致命傷を負わせた。
「浄化完了!」
フィソスが剣を構えて叫びを挙げた時、墓地の動く死体は残り数体と数を減らしていた。
●4
墓地上空のジャイアントクロウは、逃げ回る真に振りまわされる形となっていた。
そうしている間にもガユス・アマンシール(ea2563)の詠唱が繰り返され、連射される『ウィンドスラッシュ』が黒羽根を飛び散らせる。
凶鳥が一際高く鳴いて、その鉤爪が真の肩を傷つけた時、風の真空刃は右の翼を大きく切り裂いた。
鴉は螺旋を描いて、地上に墜落してきた。
「とどめだ!!」
地上に落ちた大鴉に、フォンが金属拳の連打を浴びせる。
大鴉が最後の息を吐いた時、その腹にアルガノが水晶の剣を打ちこんだ。
冒険者達はその様子を見て、大きく息を吐く。
やがて墓地のズゥンビも冒険者達によって一掃され、武器が収められた時には、墓地で動くものは生きている冒険者以外にはなくなっていた。
秋の朝日を浴びる中、冒険者達は勝鬨を挙げた。
「やったね!」
真はどさくさに紛れて、ツルギの首に抱きついた。
●5
「久しぶりにいい汗をかきましたわ。早く水浴びでもしたいものですわね」
すっかり地から離れた太陽に向かってそう言うアミィだが実は彼女は戦闘に参加していない。朝方の戦いでは、彼女の必殺『サンレーザー』は使えなかったのだ。残念さを顔には出さず、高笑いするアミィ。
真の肩の傷は、ステファの『リカバー』で癒されていた。
「安らかに眠ってくれよ。もう誰もあんたらの眠りは妨げないからさ」
レリックは言いながら、ズゥンビだった死体に祈りを捧げていた。
墓地では、ステファとフィソスが傷ついた死体を埋めていた。
ヴィクトルやミシェルも、その骸達が魂の平安を得られるよう、もう死者の再び眼覚めることがないよう、墓地に弔いの祈りを捧げる。
「ちょっと、ノーテさん、それ不味いんじゃないのかしら?」
墓地の土を掘っているノーテの背に、アミィが声をかける。
「死んだもののためにお墓を掘るのは、墓堀士としては当然ですよ」
「幾らなんでも不味いですわ。村の墓地なんですのよ。怒られますわよ」
ノーテはズゥンビだった村人の死体はともかく、死んだ大鴉や自分の造ったアンデッド鳥までも村の墓地に埋めようとしていた。幾らなんでもそれは不味いだろう、の声はアミィだけでなく他の仲間からも出る。
仕方なく彼は、墓地の外にそれらの塚を作ることにした。
「彼のものに安らかな眠りと神の祝福が在らんことを」
ノーテが祈りを捧げ終わった時、村人達は自分達のところへと道をやってくるところだった。
墓地に小鳥の声が帰ってきた。