新説? 鶴の恩返し
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月30日〜12月05日
リプレイ公開日:2004年12月03日
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●オープニング
「この『アサギリ座』、次回公演は『鶴の恩返し』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
夕の冒険者ギルドにまた口上の呼ばわりが朗々と響き渡る。
冒険者ギルドではこれで5度目になる劇団、アサギリ座公演の報せである。
ノルマンにアサギリ座という小さな芝居小屋がある。
この小屋は毎回、ジャパンの御伽話を題材として演劇をやるのだが、最近はマンネリの打破のために飛び入り参加自由という特色を出している。普段なら役者でない者が自由に舞台に上がり、劇に参加してもいいというのである。面白ければ筋を本来から脱線させてもいい、何でもありなのだ。
過去には『桃太郎』は主役が鬼側の姫と駆け落ちしてしまったり、『かぐや姫』は主役が男子となり故郷の月での悪の陰謀を挫くため、同士を連れて帰ったり、『浦島太郎』は正義の深海戦士、亀ライダーが痛快に大暴れ、『猿蟹合戦』では蟹がアンデッドになった末、皆に食べられてしまうというそんな元の物語とは似て非なるものになってしまっている。
客はあまりの筋の変貌にある者は面白がり、ある者は呆れ、それでいてある程度は人気を集めるという状況だ。
ウケれば勝ち。劇団はそういう心づもりらしい。
前は飛び入りの役者も普通の客と同じように観劇代をとっていたのだが、今は冒険者の飛び入り参加を正式に『依頼』として冒険者ギルドに登録し、それなりの褒賞を支払うという方式になっている。
これはこれまで、冒険者が最も熱心に参加しており、仕込みや筋の打ち合わせをきちんと行っているからで、また冒険者がやる飛び入りが一番大胆で客受けがいい。ならばいっそ、依頼としてアサギリ座の方から出演をお願いしようと、そういうことになったわけである。
勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことは忘れてはならない。
衣装や小道具はある程度、劇団側が用意してくれる。
「この『アサギリ座』、次回公演は『鶴の恩返し』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
宣伝役の口上が繰り返される。
次回公演『鶴の恩返し』。
自分なりの物語を大衆に見せつけてやるのも面白いかもしれない。
●リプレイ本文
●1
雪の舞う舞台。ジャパンの寂しい雪景色を彩るのは哀しげで切ない横笛の音と、セルミィ・オーウェル(ea7866)のナレーション。
『‥‥昔々、古い家には母親と2人で住んでいる貧乏で若い男がいました。冬になり、今日も雪が沢山、降っています。男は薪を売りに出かけました』
舞台に現れた着物の若者はミカロ・ウルス(ea2774)。
とぼとぼと歩く若者ミカロは岩の前で、ふと足を止める。
「おや? 変な声が聞こえるぞ? どれどれ。なんとまぁ、鶴でねぇか! 罠にかかって動けんのか」
岩陰を覗いた若者は、1羽の鶴が罠にかかってもがく様子を見つける。この鶴は美術でもあるオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)が作った奇麗な人形鳥だ。
「もう大丈夫だ。こんな寒い中、大変だろぅ。そうだ。僕の笠をやろう。気をつけて帰るんだぞ」
鶴の脚を罠から外してやった若者は、鶴の頭に笠を被せてやった。
自由になった鶴の人形は吊っていた紐に引かれてまっすぐに天井まで飛びあがる。そこで遠景用の小さな人形と替わり、笠被る鶴が空遠くへ飛び去る様を演出する。
これにて一景は終わり、舞台は暗転。
1人の黒子が舞台上に積もった紙吹雪の雪を大急ぎで掃除する。
●2
「そろそろ息子にでも嫁をもらって楽に暮らしたいが、うちの息子‥‥お人好しだからの〜。悪い女に引っ掛からないように、見張らんと」
舞台転換した粗末な家で愚痴をこぼしながら囲炉裏を見つめるのは、若者の母を演じるヒスイ・レイヤード(ea1872)。その向かいには若者ミカロが座っている。
『‥‥鶴を助けた若者。この晩、その若者を尋ねる者が戸口に現れました』
「星村かな子と申します。この度はぜひともおまえ様の妻にして頂きたく‥‥!」
かな子と名乗る白い着物の女性は、頭に笠を被っていた。
「近づくんじゃない。どこの馬の骨ともわからん年増に、私の大事な息子を渡せるかい? 手を出すんじゃない!!」
オイフェミア演じる『星村かな子』に追い返す勢いで応じる、母ヒスイ。
『‥‥しかし若者はこの唐突な求婚を縁と感じたのか、かな子を嫁にもらうと言ってしまいます。面白くないのは母親です。母親は度々、かな子の態度に難癖をつけては嫁いびりをします』
「ほれ、ここ、まだ汚れてる‥‥次は洗濯じゃ‥‥無理やり結婚しおって、うちのやり方には従ってもらうぞ」
『‥‥嫁いびりを生きがいとするような母親に少しもめげる態度を見せず、かな子は貧乏な若者の妻としての日々を過ごします。そんなある日、彼女は1つの卵を産み落としました。‥‥そう、白くつるりとした卵をです』
卵は割れ、中から人形の赤子が出てきた。その赤子はかな子オイフェミアの腕に抱えられながら、舞台袖で黒子に引き取られ、成長した息子役と交替する。息子役はメロディ・ブルー(ea8936)。ハーフエルフだ。
すくすく育つ子供として舞台を走りまわる息子メロディ。卵を産んだ嫁に対し、ますますつらくあたる母ヒスイ。
そんなある日、若者ミカロは家の前で行き倒れの男を拾う。男はガゼルフ・ファーゴット(ea3285)。居候となった男ガゼルフは若者ミカロの仕事を日々、手伝うようになった。
しかし息子と居候を1人ずつ増やし、貧乏は深まる。
するとかな子オイフェミアは家の奥にある機(はた)を使わせてくださいと頼み出た。そして自分が機を織っている間は決して覗かないで下さいと、皆に強く誓わせる。
『‥‥女房はそうして機織りのために部屋に閉じこもるようになりました。彼女が織った反物はやがて完成しますが、それは素人目に見ても大変に美しく立派でした。若者が都へ売りに行くと反物は大層な値がつきました。若者は沢山の金を持って家に帰りましたが、それからというもの、姑は同じ反物をもっと作れと嫁に迫ります。‥‥だが、事態には新たなる脅威が迫っていたのでした』
居候ガゼルフは家の外に出るや大声で叫んだ。
「さて、こんな茶番劇はお終いだ。ア〜ニキ〜!!」
そして黒子に手伝ってもらい、早着替えする。
●3
「ふふふ。俺はブレイク男爵の弟分の『悪のきび団子怪人』だったのだ!!」
丸くて黄色い頭に『悪製』と書かれた巾着袋を被った怪人姿に変身したガゼルフ。
舞台下手より、2mをはるかに超えるジャイアントと1人の女剣士が舞台に登場する。
ガゼルフの大声に驚いた家の中の皆は、機を織っているかな子以外、外に出てきた。
「私は『ブレイク男爵』!」
長髪にピッチピチの貴族風衣装を身につけたジャイアントが叫んだ。サイラス・ビントゥ(ea6044)である。
「‥‥‥‥‥‥」
女剣士は寡黙なままだ。音無影音(ea8586)である。無言でショートソードを構えるが、これは演劇用に刃を潰してある。
「鶴を助けた若者の女房が卵を生んだという噂を聞きつけ、これは人間に化けた鶴に違いないと思い至った! 見世物として一儲けすべく、その母子、このブレイク男爵が貰い受ける!」
「さ、大人しく鶴達を渡すんだ!! でないと兄貴が大暴れしちゃいますからお願いします!!」
ブレイク男爵の前に出、土下座するきび団子。
「‥‥じゃあ、幾ら出す?」
鬼畜な台詞を吐くのは母ヒスイ。
「おっかあ、何を!?」
「ええい、異種族結婚はよい顔されないというのに子供まで出来おって! ますます近所から白い眼で見られるわい‥‥! 耐えられんのは私じゃ!」
「おっかあ‥‥!」
「フン、世の中、金じゃよ。金」
すがる若者ミカロを、言葉で振りほどく母ヒスイ。
「僕、なにか悪いことした? どうして、みんな虐めるの? ぐすん」
息子メロディは潤む眼で皆に、主に客席に訴えかける。憂いを帯びた瞳は人々の情に訴えるものが強い。
ここでグッと来かけたブレイク男爵だが抵抗に成功し、
「その鶴の母子をさらってくるのだ!」
と2人の配下に命令を下した。
襲いかかるきび団子と女剣士。
すると、その時、白い着物の女性がとことこと舞台上に現れた。
「あの〜すみません。鶴田さんが嫁いだという家はここでしょうか?」
そのキャシー・バーンスレイ(ea6648)が若者ミカロに問いかける様子は、場を理解していないようにのんきなものだ。
「鶴田?」
若者は妻の本名はどうやら鶴田らしいと理解した。
「妻とどのような関係で?」
「お友達です〜」
その瞬間、彼女に襲いかかるきび団子。
「鶴のお友達ということはおまえも鶴だな! 来い! おまえも見世物にしてやる!」
「何するんですかぁ〜! 私や鶴田さん一家に不埒なことをする者は許しませ〜ん!!」
『‥‥鶴田さんを尋ねてきた彼女の正体は『鶴戦士』だったのです!』
鶴の構えをとる鶴戦士キャシー。
貴族側と鶴側の戦いは乱戦めいたものになった。
女剣士の音無の殺陣は、それに参加している息子メロディが思わず『狂化』しそうになるほど本格的なものだった。それを薄めたのが鶴戦士の戦う様だ。
「正義の制裁ですぅ〜!! えいえいえいえい!!」
まるで駄々っ子のような彼女の戦闘はメロディだけでなく、客席の熱気も冷ましてしまうほど。
それでも強い鶴戦士。
「ええい、頑張れ! きび団子! 鬼が島で腐りかけの貴様を拾ってやった恩を忘れたのか!」
ブレイク男爵の声に応えられず、きび団子、次いで女剣士は鶴戦士の前に戦闘から敗退した。
「‥‥お・の・れ〜、私が相手になってやる!!」
言うや、ブレイク男爵の服がびりびりと裂け、その下で隆起する鋼のような筋肉が明らかになる。気迫は鶴戦士の身をすくませるほどだ。
ブレイク男爵が舞台を震わせるような一歩を大きく踏み出した、その時。
「うるさいわね! 全然、機織りしてる雰囲気なんかじゃないじゃない!」
突然、家の戸が開き、そこに鶴女房のオイフェミアが現れた。
ただし鶴としての正体を明らかにした様子で着ぐるみの鶴スーツをまとっている。しかも角、牙、ヒレのついた戦闘態だ。
「出たな、鶴!! ならば我が一撃で沈めるのは貴殿こそふさわしいわ!!」
「あーもう!! うるさいったらうざったい!!」
舞台軋ませ、大股で駆け寄ったブレイク男爵サイラスの頭に、鶴オイフェミアは奥から持ち出した機織り機を思い切りぶつけた。さらには怯んだ隙に長髪をむしりとってしまう。実はかつらだった一塊の毛束の下からサイラス本来の禿頭が現れ、照明を鋭く反射した。
「つ、鶴だけに、つるつる‥‥」
頭を抱えながらブレイク男爵サイラスは倒れ伏し、舞台を揺るがしたのだった。
●5
「正体を知られたからには、あたしはもうここにはいられないわ‥‥」
家の前、皆に別れを告げる鶴オイフェミア。
「今となってはおまえとの間に出来た一人息子が気がかりだけど‥‥」
眼の前に並んだ皆の内、息子に眼をやる鶴。
だが、その途端。
「私は黒子。感情を抑え、影ながら貴方を見守り、支えるのが本来の仕事‥‥。しかし、この国はかの貴族どものような者もいる。彼らに狙われるくらいなら、いっそ私が貴方を貰い受けようぞ」
突然、それまで舞台で黒子をしていた皇蒼竜(ea0637)が顔をさらすと、息子メロディを抱きかかえ、風のように退場してしまった。
取り残された者達はしばしあ然としたが、母ヒスイがこほんと咳をひとつ打つと気を取り直す。
「思いがけず案件が1つ片づいてしまったわ。‥‥では、さようなら!」
オイフェミアの言葉と共に舞台は暗くなる。
舞台上では空を飛びゆく小さな鶴人形のみが照明にさらされた。
切なげな横笛の旋律。
客席からは多めの拍手が浴びせられる。