緑色(ビリジアン)の脅威
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月06日〜12月11日
リプレイ公開日:2004年12月11日
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●オープニング
いつの時代、何処の国でも掃除の苦手な嫁というのはいるものである。
だが彼女は度を越していたかもしれない。
いつの時代、何処の国でも嫁につらくあたる姑というものはいるもでのある。
だが彼女もまた、度を越していたかもしれない。
嫁は裕福な家に嫁ぎ、広い家にすむことが出来た。
しかし、その姑はわざわざ彼女をいじめるためだけに使用人をすべて解雇し、家事の全部を嫁がやらなければならないようにしてしまったのである。
嫁は掃除が苦手なのと怠け根性に加え、厚い面の皮も持っていた。彼女は自分にあてられた家事をこなせないことに何の苦痛も覚えず、夫もあえて口を出さなかったため、掃除されない家は荒れるままになっていった。
それにしたって度というものはあるはずである。
「うちの嫁はいつになったら、うちの中を片づけてくれるのかしら」
「あら、お義母さん、こんなのは片づいてない内には入りませんわ。私が嫁入りする前の実家はもっと凄いんですもの」
「せめて溜まった埃だけでも何とかしてくれないかしら」
と姑が灰色がかった床に指を這わせると、それなりに浅い筋が掘れた。
「まだまだ奇麗ですわよ」
と嫁は涼しい顔のままである。
「浴室のカビも何とかしてくれないと‥‥何なの、あの、大きくって、緑色の、もっさりした塊は?」
広い浴室は家の自慢であったが、今、そこは直径5mはあろう、ビリジアンのカビの塊に占拠されていた。
「あれは見事ですわね。怪物学者をやっている知人に見せましたら、こんなものがこんなところに発生するのは珍しい!って驚かれましたわ。何でも下手に扱うと、吸った人が死んでしまうような毒の煙を吐き出すそうですのよ」
「そんな危険なものが発生するまで、家を汚くするんじゃありません!!」
「でもお義母様、あんなのを掃除するのは幾ら私がやる気を出したところで無理ですわ。然るべきところに相談しないと」
「‥‥然るべきところ?」
「冒険者ギルドですわ」
こうして度を越した嫁と度を越した姑は、家の浴室に発生した巨大なカビの塊退治を冒険者ギルドに依頼することになったのである。
●リプレイ本文
●1
「浴室に巨大なカビですか‥‥。なんだか屋敷の方もどんな状況か予想がつくようなつかないような‥‥」
「カビか‥‥アレの繁殖力は凄まじいからな。少しでも油断をすればすぐに侵食される。私の部屋も‥‥ごほん。いや、何でもない。気にするな」
出発前のクライドル・アシュレーン(ea8209)の呟きに、フィソス・テギア(ea7431)は思わず言葉を返している。
「うふふ。フィソスのお部屋は私がいつもお掃除してるもんね」
彼女達に微笑んだのはステファ・ノティス(ea2940)だ。
到着した屋敷はまさにクライドルに予想された通りだった。
外観は意外とまともなのだ。しかし中に入ってみれば『ごみ屋敷』という名もふさわしい。外からごみが持ちこまれているわけではないが、薄汚れている様は屋敷自体が1つのごみであるかのようだ。
「‥‥‥‥ここは、廃墟か? まだ俺の住んでいるいるボロ屋のほうが綺麗だぞ‥‥」
依頼人の前であんまりだと思うが、アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)は言葉を口から漏らさずにはいられない。おっと、と口を押さえるアルジャスラード。ハーフエルフの彼が何か迂闊なことを口走れば、依頼人のパーティへの心象が悪くなるかもしれない。
冒険者達は依頼人である嫁と姑に案内され、片づけられてないごみや整列していない家具を踏み越え、すり抜け、屋敷の奥へと入っていく。
「全く、嫁のていたらくったらお恥ずかしい限りで‥‥」
「何を言ってるのかしら。使用人をすべて解雇したお義母様に問題があるのじゃないかしら」
譲り合わぬ嫁と姑に導かれ、冒険者達は脱衣場を抜け、件の浴室まで辿りつく。
皆は、示し合わせて用意した目の細かい布きれを、口と鼻を覆うように巻きつける。
浴室の戸を開ければ、眼前に例の物体があった。
差し渡し5mはあろう、緑色のカビの塊。
「本当に巨大ですね‥‥もしかして‥‥モンスター‥‥? 『ビリジアンモールド』の一種ね」
ステファは、カビの塊を観察しながら言う。
「とにかく、カビだけでも撤去しなければなりませんね」
クライドルがそう言った時、フィソスはカビの塊の前に立ち、『ピュアリファイ』の呪文を詠唱した。
「ふっ、カビごとき‥‥この私が浄化してくれる!」
彼女がまとった白い光がカビの前面を覆っていく。
しかし、特にカビに魔法の効果があったようには見えなかった。
「くっ、カビの分際で‥‥」
くやしがるフィソスに代わり、今度はステファが『ホーリー』を詠唱。しかし、その魔法の白光もカビに大したダメージを与えることは出来ない。
それでは、とクライドルは井戸の水に浸しておいた大きな布を持ち出した。濡れたこれでカビを覆い、毒煙が立たないようにするのだ。
ばさり、とそれを大きく広げて、クライドルはリョウ・アスカ(ea6561)と力を合わせて、カビの塊に被せた。
その途端、カビの全面から大きな緑の煙が噴き出す。粉っぽい煙は濡れ布の隙間を噴き抜け、浴室の戸口に立っている冒険者達を襲った。煙の範囲は皆が思っていたよりも広かった。
勿論、その対策として口と鼻を覆っていたわけだが、それが万全でないことが今、解る。
体力のないエルフのレノ・ルクュスァス(ea1790)が大きく咳込む。
皆は息を止めながら、急いで戸を閉め、浴室を離れた。
煙の届かない廊下でステファがレノに『アンチドート』をかける。
「‥‥不浄なるものよ、消えよ、アンチドート!」
レノに触れた掌から現れた神聖魔法の白光が彼女の身体を包み、カビの毒素を無効とする。
皆は廊下で一息ついた。大きな深呼吸をする。
「こいつは一筋縄ではいきそうにありませんね」
煙の粉を服からはたき落しながらリョウが言う。そして彼は浴室より先にそれ以外の屋敷全体を掃除することを提案した。
「そうだな‥‥たとえ駆除したとしても環境を改善せぬ限り、また、あのもっさりした緑色の物体が発生するかも解らぬからな」
「このままだと住んでいるだけで病気になってしまいますよ」
フィソスとステファの言葉に説得力があったか、屋敷の嫁と姑は渋々とながら同意した。
こうしてカビ退治の前に、まず屋敷の大清掃が始まった。
●2
6人の冒険者は、共に嫁を働かせるように屋敷内清掃を開始した。勿論、姑も参加である。
箒をかけるだけで灰色の埃が舞いあがるような廊下、水拭きすればきっちりと汚れが掘れるような壁、雑然として時には倒れているような家具をきちんとし、冒険者達は清掃の重労働に日を明け暮れた。
「しかしご立派なカビでしたね。ジャパンでは観賞用の小さな植木を飾るといいますが、あそこまで極悪的に肥大して増長して忌々しいまでの、エメラルドグリーンを更に通り越して醜悪な緑色というのもおこがましい汚濁色をした観葉植物はそうそうないと思いますが‥‥よくああまでも立派に育てたものですね」
レノは嫌そうに清掃に務めている嫁に対し、自分も一緒に掃除をしながら、ちくちくと嫌味の棘を刺す。
彼女は更には返す刀で、姑の方にも斬りつける。
「くわしい理由は存じませんが、スパルタ式の教育方針のようですね。教師としてご忠言申し上げるとするなら、せめてご自分で掃除の仕方を教えるなりなさった方が、老後も安心というものですよ」
「今の状態が続けば生死に関わるぞ。掃除をせぬ依頼主殿も悪いが、母上殿もいい加減、意地を張るのをやめ、再び使用人を雇うべきだ」
「そうですよ。今の状態が続けば身体を害してしまいますから‥‥。私も‥‥これからはきちんと定期的にお掃除するか、また使用人さんを雇った方がいいと思います」
フィソスとステファも掃除をしながら、姑を説得する。
「つまらない意地の張り合いして家の格を下げたくなければ、やめるのだな。この依頼以降は俺に関係ない話だが」
アルジャスラードの言葉は嫁姑の両方にかけられたもの。ハーフエルフの彼の言葉でも、2人は清掃作業をしながらの神妙な面持ちで受けとめていた。
この清掃の最中、口の上だけでも、嫁は掃除はなるべく怠らないようにすると言い、姑は使用人を再雇用すると約束した。
広い屋敷のきちんとした清掃は実に4日の日数が費やされた。
後はあの浴室だけである。
●3
契約期間の最終日となる。
冒険者達は4日ぶりに浴室の戸を開けた。
するとそこには鎮座する緑色の巨大なカビの塊。憎々しげに今もそこに不動のままでいる。
冒険者の再チャレンジは、レノの『アイスブリザード』から始まった。
それはカビを凍結させることが目的だったが、一瞬の吹雪のような魔法では凍結は適わなかった。せいぜい、表面に霜を着かせることが出来たくらい。しかし、それなりのダメージは与えられたようだ。
この『アイスブリザード』のショックでカビが再び煙を噴いたので、皆は一時、廊下まで避難する。
煙が収まるのを待ち、レノは今度は『アイスコフィン』を詠唱する。
全体を封じることは適わなかったが、氷結の魔法はカビの半分近くをその中に封入することに成功した。
今、冒険者達の眼前には緑色のカビの一部を収めた巨大な氷の棺が現れている。後はこの棺を外に運び出せば、川に流そうと土に埋めようといかにも出来るはずだったが、大きく重いこれをこのまま運び出す手段を思いついていなかった。
「ここは俺に任せてください」
言ったリョウが両手持ちのクレイモアを振りかぶり、渾身の力をこめて、思い切りに氷に刃を叩きつけた。運ぶための破片に砕こうとする威力は、彼がコナン流の達人であることからして絶大であるのが解る。
しかし、魔法の氷棺は金属音と共にその剣を弾き返した。『アイスコフィン』はそれほどに硬いのだ。
あきらめきれないリョウは氷棺に対して何度も斬撃を繰り返したが、結果は同じで削ることさえ少しも適わなかった。先に彼の両腕に反動の傷みと疲労が来る始末である。クレイモアの刃にも刃こぼれが生じている。
その内に時間が経ち、氷の棺は自然融解してしまった。
また『アイスコフィン』をかけても同じことを繰り返すだけだ。冒険者達は凍らせたカビの塊を外に運び出す方法を再び協議したが、なかなか良案を思いつかない。
「あのー‥‥こうなったら地道に『ホーリー』を使うのはどうでしょうか?」
おずおずとしたステファの物言い。
時間はかかるが衝撃というものがない『ホーリー』の呪文を連続してかけ、安全にカビの塊を枯らしてしまおうというのだ。
時間もなく、冒険者達にはそれ以外の方法は残されていないように思われた。
●4
神聖魔法『ホーリー』が唱えられる度、白い発光に緑色の塊がわずかずつであるが削られていった。
度々、発動を失敗したり、途中で魔力回復のための昼寝休憩を挟みながら行われた駆除作業。
ステファの魔力により、緑のカビが根絶されたと思われたのは陽も暮れてからである。
最大脅威の緑のカビの塊は排除された。
だが、浴室の清掃はまだまだ残っている。あの眼に見えて大きな塊を取り除いても床や壁や天井には普通のカビの黒い染みがはびこっていた。
しかし、冒険者達のつきあいはここまで。
「これ以上の掃除は家人にやってもらいましょう。何、2人だけで共同作業をやるというのもいい経験です」
リョウがそう言い、カビ掃除用のブラシを嫁と姑に渡す。
冒険者達はそうして屋敷を後にした。
その後、嫁と姑が仲直りをしたという話は聞かないが、嫁も掃除はそれなりにするようになったし、姑も使用人を呼び戻したと、そんな後日談が風の噂で冒険者ギルドに届いてきた。