●リプレイ本文
●1
「ぶっちゃけて言えば、木の股とキャベツを合わせたような感じだ」
と、エグゼ・クエーサー(ea7191)。
冒険者と子供達で20人以上集まって狭苦しい路地裏。木枯らしが吹くそんな寒々しい風景に、アルガノ・シェラード(ea8160)が配った温かいハーブティを皆で啜りながら『子供の作り方』のレクチャーが始まった。
「ちょっと待ったぁ!」
エグゼの講義にいきなり物言いをつけるフィーラ・ベネディクティン(ea1596)。
「‥‥それは具体的すぎるんじゃないの?」
「具体的かなぁ‥‥」
頭を掻きつつ言い直す言葉を探すエグゼに、子供達から、続きはどうしたーっ!の野次がとぶ。
エグゼが言葉を探している内に近藤継之介(ea8411)が後を引き継いだ。
「‥‥鳥が何から生まれるのかは知っているだろう?」
卵ぉー!と子供達が答えて合唱する。
「‥‥そうだ、卵だ‥‥。よくよく冷静に考えてみろ‥‥卵はどうして産まれるのか‥‥その過程の段階で一体何が起こっているのか考えてみるとよい‥‥。他の動物が子供を産む過程、それが人間にもどこかしら当てはまるヒントにもなりえる‥‥。あぁ、ちなみに人間は卵から生まれると勘違いしている奴はいないな‥‥?」
さすがに子供達には自分は卵から生まれたと思っている者はいなかった。しかし近藤の講義は、回りくどくて解りにくかったようだ。子供達の大部分は聯柳雅(ea6707)から配られた羊皮紙の切れ端に、2番目の講義に『わかんない』を意味する×印をつけた。
講義される子供達に混じる聯は、羊皮紙片を握りつつ、次の講義を待った。
次に講義に立ったのはステファ・ノティス(ea2940)だった。
「赤ちゃんはね‥‥お父さんとお母さんが愛し合って‥‥愛し合って‥‥愛し合った結果、生まれるの。だから、皆も大人になって、好きな人が出来て、結婚して、お父さんやお母さんになれば、自然と解るようになるわ。焦る必要はないと思うな」
クレリックのステファは『大人になれば自然と解るようになる派』だった。
「皆のお父さんとお母さんが教えたがらなかったり、嘘をついたりするのは、きっと恥ずかしいからよ。あんまり困らせちゃダメだからね」
「しつもーん! 何でお父さんとお母さんは恥ずかしがるんですかぁー!?」
少女の声で質問がとび、ステファの微笑を固まらせる。
ステファと同じくクレリックのヨシュア・クルシオ(ea9157)が代わりに立った。
しかし、教会の本を紐解きながらの彼女の滑らかな口舌はゲルマン語ではないので、子供達にも冒険者達にもちんぷんかんぷんである。ステファがそのラテン語を通訳する。
「要するにヨシュアさんはこう言っていますわ。『わたくし自身からは、どこからやってくるとも、それは愛の結晶であり、神様から祝福を天使様がお使いしていただくものよ、とだけお伝えいたしますわ』と」
「愛か‥‥愛は重要だな‥‥」
噛みしめるように呟いたのはドワーフのゲイル・バンガード(ea2954)。
「ドワーフは大地に感謝し、愛で結ばれた者同士、支え合って生きていく。だから赤ん坊はな、愛し合う2人の男女が聖なる山を登り、光り輝く大きな岩を見つけないと駄目なんだ。そして、その岩を協力して割ると赤ん坊が出てくる」
おおーっ!と子供達から声が挙がる。
そうか、ドワーフはそうして生まれるのか、と子供達に混じって聞いているティズ・ティン(ea7694)などは思わずメモをとっている。
「よせ。それがドワーフの生まれ方、と子供達が信じたらどうする」
「俺の部族の伝承を言ってるだけさ」
アリエス・アレクシウス(ea9159)の物言いにゲイルは答えた。
子供の生まれ方って、きっと素敵な生まれ方なんだろうな、と信じているティズは、今聞いたドワーフの生まれ方を素敵なものだと感じた。
「私は、子供って愛の結晶っていうくらいだから、2人の男女の愛が頂点に達したときに、2人の手の中から光と共に魔法のように生まれると思うんだ」
彼女は講義を聴いている周りの子供達に、そんな自分の思いを伝えずにはいられない。
「しつもーん! 愛し合うって具体的にどうすることですかー!?」
先ほどと同じ少女の声が冒険者達に質問をとばす。
「これくらいの年齢ですね。色々と知識を欲しがる頃は」
アルガノが呟くように言う。
「そんなに焦らずとも、いつかは解ります。そう慌てることはありませんよ」
自分の茶を飲みながら言うアルガノの余裕ある物腰。
「子供の作り方というのは、男女でお互いが本当に好きになった時に自ずと解るものです。言葉や知識は要りません。きっと貴方達にも、その時が来ます。それまで待っていて下さいな」
微笑みながら答えるアルガノ。彼も『大人になったら自然と解るようになる』派だった。
「子供が出来るということは結婚して神様からの祝福として、2人の間に子を宿すことなのです」
クリスティア・アイゼット(ea1720)が講義する。
「神様は常に私達を見守っています、ですから、君たちの良いことも悪いことも全部お見通しですよ」
クリスティアは、互いに心を許しあった仲でなければ子供は授からない、と微笑した。
「誰でも産まれた時から身体の中に赤ちゃんの素を持ってるんだ」
フェリーナ・フェタ(ea5066)はそう話しはじめた。
「お母さんに抱っこしてもらうととても安心出来るでしょ? いつかすごく大事ですごく大好きな人ができたら、その人から安心をもらうために、同じようにぎゅーってしたくなるものなの。その人とお互いにぎゅーってしたら、ふたりの赤ちゃんの素が混ざって、赤ちゃんがお母さんのおなかに宿るんだよ」
教師を生業とするフェリーナの話口調は慣れたものである。
「産まれた赤ちゃんは、大きくなったら誰かを好きになって、また赤ちゃんがこの世に産まれる。そうやって、いのちっていうのはずーっと続いていくものなんだよ」
「しつもーん! ぎゅーっとするのってどうやるのー!? 見せてー!」
また同じ少女の声。
すると他の子供達も同じように、見せてー! 見せてー! と騒ぎ始めた。
「ませた子供ですわね。ついでに真実を知っても驚かないなどと強がっている時点でたちが悪いですわ」
アミィ・エル(ea6592)がぼやきを一つ、呟いた。
だから教えるのかと思いきや、
「何か、教えたくなくなりましたわ」
彼女はついとそっぽを向き、そしてまた子供達に向き直る。
「いいですか、あなた方の両親が生まれ方を言うのには理由があるのですわよ。世の中の風習として、あなた達が本当に人を愛することを知った時にのみ、子供の出来方を知ることが許されるのですわ。本当の愛を知っている方がいらっしゃるようでしたら、わたくしが教えてさしあげますわ」
一息に言うと満足したげに高笑い。すでに知っている者としての勝利者の笑いだ。
「本当の愛って何ー!? 知ってるなら教えてよー! やってみてー!」
また同じ少女の声で質問があがる。
次にシアルフィ・クレス(ea5488)が講義する。
大人の男性と女性が愛し合い、女性のお腹に子が授かります、妊婦さんを見たことがありませんか、などと基本的には事実を話そうとしうた彼女だが、自分がスペイン語しか話せないので通訳役の妹、アフィマ・クレス(ea5242)を捜す。同じく、この依頼を受けてこの路地裏に来ているはずだが、冒険者達の中に姿が見つからない。
困り果てて、スペイン語で話しはじめると子供達の野次がとぶ。
「皆さん、この人はこう言っています」
先ほどから質問を繰り返していた少女の声がまたあがった。しかし、よく聞くとシアルフィにはなじみのある声だ。
「アフィマ‥‥!?」
「この人は子供の作り方を具体的に実演してくださるそーでーす!」
シアルフィの妹、アフィマは最初から子供達に紛れて、冒険者の皆に質問の声をとばしていたのだった。冒険者がぼかし気味にするところにツッコミを入れていたのは彼女の仕業だったのだ。
アフィマの言葉に、えー、本当ー!? と子供達。
シアルフィは興味津々な年若い眼の群にさらされることになった。そのあまりの遠慮のなさに彼女は腰が引けてしまい、涙腺に熱がこもってきた。
「こら、さっきから子供達を煽っているのはあんたなの?」
「何よ、皆が知りたい知識を補足してあげてるんじゃない」
アリエスが、アフィマの襟を掴んで子供の中から引っ張り出した。
●2
シアルフィが涙眼になったところで講義は終わりとなった。
講義を聴き終えた子供達は路地裏に留まって、わいわい言っている。結局は彼らの満足できる答は提供出来なかったようだ。まあ、コウノトリからは進歩したようだが。
ちなみにアフィマは、アリエスにも叱られることになる。講義に納得出来ない子供を集め、論より証拠、子供を作る現場に行ってみよー、と花街に忍び込む計画を立てているのを気づかれたからだ。
「子供ってのは愛あって生まれるものだ」
エグゼは子供達に言う。
「だから、自分にとって大切な‥‥愛する人ができたときに‥‥その人との子供が欲しいと心から願えるような大人になってほしい」
そして彼は、子供達から羊皮紙片のアンケートを回収していた聯をやにわ抱き寄せると、その唇に紛うことなき口づけをした。そのキスのとまどいで、聯は褐色の頬を色濃く染める。
「あー、チューしたー!!」
「知ってるー! 口と口でキスすると子供が出来るんだぞー!!」
大勢の子供達がキスした2人を囃したてる声が路地裏に響き渡った。
結局、子供達が真相を知るのはまだ先のようである。