私は段々、眠くなる‥‥
|
■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月20日〜12月25日
リプレイ公開日:2004年12月26日
|
●オープニング
「実をいうと、私はもう1週間も眠れていないのだよ‥‥‥‥!」
冒険者ギルドを訪れた男は、すっかり赤く腫れ上がったような眼を見開いて、受付にそう囁いた。
「私を何とかして眠らせてほしいのだ。‥‥おっと、それだけならそこらへんの気の利いた医者ならできそうだ。私が頼むのはそれだけじゃない。私の寝ている間に楽しい夢を1つ、見せてほしいのだ」
その男は、受付が自分の言葉を漏らさず書きとめているのを確認しながら言う。
「‥‥で、楽しい夢とは具体的にはどのようなものでしょうか‥‥?」
受付は『たまに来るんだよな、こんな無茶言う変な依頼者が』という思いを、表情に微塵にも出さずに質問した。
「まあ、そうだな、具体的に言えば‥‥美女に取り囲まれたハーレムの王で、戦艦の司令官! 怪物どもを薙ぎ倒し、数多の勇者も何のその、なんてのはどうだい?」
何故か得意げに言うその不眠者に対し、受付の者の雰囲気は『無茶言うのも大概にしとけよ、すっとこどっこい』というオーラを微妙に醸し出す。
すると男はその微妙なオーラに気づいたか、少々慌てた様子で訂正する。
「い、いや。夢の内容に詳細な要望は特にない! 任せるよ! とりあえずウフフな夢とか、エヘヘな夢とか、アハハな夢であればいいんだ。‥‥じゃあ、自宅で待ってるからな。頼むよ」
依頼受付を済ませた男は、報償金をギルドに預けると帰っていった。
そんな男を受付の者は『全く変な依頼だ。でも取りあえずは客だし、後のことは冒険者達に任せとけばいいか』という笑顔で見送ったのだった。
●リプレイ本文
●1
「夢だけで満足できるなんて、幸せなことですわね」
「いいなぁ、あたいも逆ハーレムの夢、見たいな」
訪れた矢先、依頼人に皮肉を言うアミィ・エル(ea6592)と、うらやましそうに言う真慧琉(ea6597)。
12月20日の夜。
ウハウハな夢を見たいという依頼人の家は靴屋だった。
「拙者、ジャパンよりの来訪者、忍者の音無藤丸です。よろしく頼みます」
忍び歩きで背後から正面にいきなり肉迫したジャイアントの音無藤丸(ea7755)に依頼人が驚く。狭い家に15人もの冒険者が詰めこまれ、家内はちょっとした混沌の様相を呈している。
「依頼主殿、これほど各国の美女達に囲まれること、そうはないことじゃ。運がよかったのう。いい夢が見れそうじゃな」
賢者めいた雰囲気のシフールのマハ・セプト(ea9249)が呟くように言う。
「‥‥ところでお主、何か不安でもあるのかの? お主が眠れなくなった原因に心当たりはないかの?」
「はあ、実は靴職人として仕事に没頭すると眠るのを忘れて仕事に取り組んじゃいまして‥‥。最近は聖夜際に向け、パーティ用の靴の依頼が多くなり、仕事が増えていたんですよ」
マハの質問に依頼人は答えた。
「一度眠らない生活をすると、勢い余ってずっと眠れなくなる性分で」
マハはなるほど、と呟いて、
「さてと、お主は古代魔法語というものを知っておるかの。古代には夢があるのじゃ。神様が乗る空飛ぶ船や神剣、伝承数多の魔物を蹴散らし進むのじゃ」
「‥‥はあ」
「神剣は封じられておっての朽ちた神殿に隠されておるそうじゃ。想像してみるんじゃな、藤丸殿のような巨漢もその道具を持ったお主には手も足も出んのじゃ。凄いのう」
このように事前情報を与えておくことが彼の夢見にどれだけの影響を与えるかは図り知れねど、マハの語りはとうとうと続く。
マハに次いでシュヴァーン・ツァーン(ea5506)も竪琴の伴奏つきで知る限りの冒険譚を語り出す。
皆はその間に依頼人を気持ちよく眠らせる準備にかかっていた。
●2
契約期間の5日をフルに使い切ってゆっくり眠らせようという慎重策もあったが、眠らせるだけなら早いのに越したことはない。長引けば、ついには魔法やボコ殴りに頼ろうという考えもあったのだから尚更だ。
方法は色々と用意されていた。
シモーヌ・ペドロ(ea9617)と紅流(ea9103)は皆の裏方として働く。彼女達はすでに夕に温かなミルクを依頼人に届け、、夜の食事にもワインを供している。依頼人をリラックスさせるためだ。
アフィマ・クレス(ea5242)は部屋の暖房を調節し、リーン・クラトス(ea7602)は今日のために用意した、天日で干したふかふかの毛布、気分を落ち着けるハーブの香り等をベッドにセッティングする。更にリーンはハーレムを意識して、薄着で迫った。
「セーラ様‥‥ハレンチですわ」
薄着のリーンを見て、クレリックのセフィナ・プランティエ(ea8539)が嘆く。そんな彼女はベッドの依頼人の手を握り、空いた手で彼の胸をゆっくりと叩く。彼女の母親が幼い頃にそうやってくれたのだという。
ベッドに上がった九紋竜桃化(ea8553)は、胸元がはだけたような侍装束の胸に依頼人の頭を引き寄せ、
「寝ている間は、わ・た・く・しの胸枕をさせていただきますわ、良き眠りをお約束いたしますわ」
と色っぽい口調。膝枕ならぬ、その豊満な胸枕を提供する。
至れり尽せりの感さえあるこの部屋で、ベッド上の依頼人はすでにうつらうつらが始まっていた。
これで眠れなければ、シュヴァーンが『スリープ』を試すことになる。同じく眠れなかった時が先ずの出番と考えていた王娘(ea8989)が、いよいよの時には実力行使に出る拳の感触を自分の掌で確かめていた。
ブライアン・セッツ(ea7738)が部屋の机の引き出しに大量の豆を入れて、効果音の波の音よろしく依頼人に聞かせ始めたのを見て、シフールのノラ・ルイード(ea6087)は、
「へー、豆やらミルクやらイロイロ誘眠の方法あるんだね。僕もちゃんと頑張らないと‥‥でもちょっとお試し実験‥‥‥‥‥‥ぐー」
ベッドのシーツに上がりこみ、突っ伏して眼を閉じるといきなり寝てしまった。‥‥なんか変な夢を見て、早速うなされているし。
そうこうしている内に依頼人のまぶたもすっかり閉じて、うるさげな寝息を立て始めた。
後は依頼人が好みそうな夢を見させるだけである。
●3
寝息を立てる依頼人に添い寝するのはリーンとシアルフィ・クレス(ea5488)。
リーンは無表情のまま、依頼人の肌を優しく撫で、シアルフィは、大いなる父よ、自己管理という言葉を依頼人にお与え下さい、という言葉を耳元でずっと繰り返している。
「あ、そうだ。いい夢見れるようにおまじないの紙、入れといてあげるね」
そう言って真は『めざせ、逆ハーレム』と華国語で書いた紙を依頼人の頭の下に挿し入れた。
優しげな音色を睡眠の背景にするのはシュヴァーンの竪琴。
机の引出しを豆が流れる潮騒の音。紅と音無がベッドを傾がせ、ブライアンが部屋のドアを軋ませて、船の船室の様子を再現する。そして耳元でナイフ同士を突き合わせてカチカチ言わせ、耳元に華国語で囁いて、思惑通りなら依頼人は今、夢の中で大海を行く船に乗り、異国の海賊と剣で一戦交えている場面のはず。
時機を見て、アミィや九紋竜が甘い囁きごとを寝ている依頼人の耳に吹き込み、ハーレム気分を演出する。
更に紅は布を激しくはためかせる音で、皮張りの羽ばたきを表現した。
「‥‥う〜ん、むにゃむにゃ‥‥待てぇ、ドラゴン、姫を返せぇ‥‥!!」
依頼人の寝言から察するに今、ハーレムから1人の姫が空飛ぶドラゴンにさらわれたようだ。
彼の耳元でセフィナが囁く。
「‥‥ほら、海竜が海の精霊の姉妹を人質に暴虐の限りを尽くしてますわ。そこで艦隊司令官のあなたが一刀のもとに竜を斬り倒すと、姉妹の母親が現れて『お礼に娘の内のどちらかを差し上げましょう』と言ってくれますわ。姉は金髪の美人系、妹は銀髪の萌え娘ですわよ。どちらをとります?」
「‥‥う〜ん、むにゃむにゃ‥‥娘だけじゃなく母親も‥‥」
「‥‥では、自分の心に正直なあなたには母親も入れて美女1セット差し上げましょう」
周囲がええーっ、となるセフィアの展開だが、依頼人の夢のハーレムは彼の欲望にあくまで忠実だ。
ブライアンは香りのよい匂い袋を鼻に近づけ、心地よい気分を演出する。
「‥‥おにいちゃん、すきすき。ぎゅーって、して‥‥」
紙を丸めた筒先を彼の耳に近づけ、ハーフエルフの王が萌えな妹役の声を演じる。しかし無抑揚な彼女の台詞には依頼人の反応は食いつきが悪い。
王は思った。
(いかん。このままで私のせいで興冷めになったりしたら、依頼失敗になりかねん。本業にも影響出るかも?)
王はその思いを顔には出さず、ただちに対策を実行した。用意しておいた水桶を頭からかぶったのだ。
「いや〜〜ん! 冷た〜〜い!!」
たちまち口から滑り出る、素直で幼い言葉使い。
王は、水をかぶることで思考や言動がお子ちゃまに『狂化』するハーフエルフだったのだ。
「えっと〜それでなんだったっけ? おにいちゃん、にゃんをぎゅーってしてー!!」
素直な気持ちで萌えな妹キャラ全開の王が、依頼人の脳髄をヒットする。
「おにいちゃん、にゃんをおにいちゃんのハーレムにいれてー!!」
鼻血が出そうなほど変貌した王の声に、寝ながら依頼人はにやけ顔。
その依頼人の耳にアミィが囁く。
「‥‥ハーレムの女達がご主人の寵愛を巡って、いさかいをはじめましたわ。美女達が手足を四方から引っ張り‥‥‥‥オーエス、オーエス、ぶちっ!!」
いきなりの展開に皆は驚く。依頼人はアミィの囁きを受け入れ、眠りながら息苦しそうにし始めた。
それ以上は夢の囁きを受け入れず、依頼人の眠りが深くなったことがいびきの大きさから解った。
それから彼は文字通り、死んだように眠りだした。
冒険者達は残る者だけを残し、部屋を退散する。
●4
12月21日の朝を迎えた。
「ふぁー、おはよー♪ 気持ちいい朝だね。依頼人さん、いい夢見れた?」
一番にベッドから起きて、ノラがぺしぺしと依頼人の頬を叩く。
依頼人が眼覚めたことを知り、冒険者達は泊まりこんでいた部屋から集まってくる。
「‥‥なんか凄い夢だった‥‥無敵の艦隊司令官として海賊やドラゴンと戦うんだけど、最後はハーレムの女性達に八つ裂きにされちゃうんだ‥‥」
依頼人の報告を聞いたアミィが高笑いをする。
「夢は精神のバランスをとるために必要な思考といわれておりますわ。それを強制的に変更しようなど、精神的に悪い影響ですの。もう、このような依頼をしないことをお勧めしますわ。おっほっほ!」
「ねーねーねー、逆ハーレムの夢、見れたー?」
半分落ちこんでいるような依頼人の頭の周りを飛び回る真。
「夢を見たなら、それが神の与えたもうた試練であること。節制という言葉の意味を知り、貴方が清く正しく生きていけるように切に祈ります」
シアルフィはそう言って、依頼人の前で十字を切った。
「まあ、何にせよ、望む夢は見れたんだから感謝してもらわないとね。はい、これが特別料金」
言ってアフィマは『夢屋、出張サービス費用』と書かれた請求書を依頼人に渡した。
「何これ‥‥? ゼロがひいふうみいよお‥‥うぎゃー!!」
請求書に書かれた料金を見て、依頼人は死にそうなほどに驚愕する。
結局、それはアフィマのイタズラだったのだが、あやうく依頼人をまた臨死体験させるところだった。