●リプレイ本文
●1
新春のアサギリ座。ほぼ満席の客席のざわめき。
真っ暗な舞台でシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)のナレーションが始まった。
『‥‥冬のジパング。ある地方の地下に世界征服を企む悪の秘密組織『アサギリ』がある。その総統『コトダマー』は今夜も世界征服の着実な一歩を、悪の怪人どもを手先として進めていた‥‥』
照明が明るくなり、舞台上の光景が明らかになる。
秘密組織地下司令部の総統の玉座に座る、頭をすっぽり覆う黒覆面に黒ローブの姿。
そしてその面前で、老婆に鞭で打たれる1人の老人。
「おらおら、なに手ェ休めてんだよ!」
アリア・プラート(eb0102)の演じる老婆は、狂気に駆られたようにビシバシとオーガ・シン(ea0717)演じるゴーレム職人の老人を鞭打つ。総統はその光景を膝上の猫を撫でつつ、ただ眺めている。
『‥‥老婆と老人は実は夫婦で、老人の正体はアサギリの元総統だった。しかし子供であるコトダマーに総統の座を明け渡した老人は、今は組織に忠誠を使う一介のゴーレム職人として文字通り、老骨に鞭打つ日々をすごしていた。息子を溺愛する老婆は、世界征服用のゴーレム完成を急いていたのだ』
「あたいの可愛い可愛いコトダマー。一日も早く世界を征服しておくれ」
うっとりとした口調で総統に話しかける老婆は、その顔を返すや夫である老人の尻に鞭を振る。道具係ヴィグ・カノス(ea0294)が用意した鞭は普通の物より長く、音高く鳴り、客席にいても迫力満点だ。
老人オーガの服は威力でビリビリに破れていた。
その光景の何処か色っぽいと思う間もなく、照明がピンクのスポットに変わり、色っぽい音楽が何処からともなく流れてくる。
その音楽に合わせてポーズをとる老人オーガの、
「ちょっとだけじゃよ〜ん♪」
という台詞は男性老ドワーフでさえなければ、きっとなまめかしかっただろう。
「あんたも好きじゃのぅ♪」
BGMに合わせて客席に寄り、更に肌をはだけてみせるオーガに対し、老婆アリアは鞭打つのも忘れて呆れた顔をしてみせる。客席もげんなりだ。
「だみだこりゃ‥‥」
そのあきらめの声を呟いたのは舞台袖より覗きこんでいた娘、パロ・ルウ(ea2849)だった。
●2
舞台は転換し、老人のゴーレム研究室。
先程の娘が壁際に並ぶ6体の石像に巻かれた鎖を解き放っている。
『‥‥総統の孫である彼女は、祖父のゴーレム研究の成果を悪用されないよう、完成済みのゴーレム達を逃がすことに決めた。しかし‥‥』
「待つんだよ!」
突然、研究室の扉が開き、老婆アリアが戦闘員達を連れて部屋に入ってきた。
「あんたの脱走計画なんて総統閣下はとっくに看破なされいるよ! あきらめな!」
「あなた達は‥‥ここにいてはいけないわ‥‥! 早く逃げて!」
最後の鎖を解いた孫娘はゴーレム起動の鍵となる笠を素早くかぶせつつ、叫んだ。
笠をかぶった石像の眼に光が灯る。
「イー!」
ロックハート・トキワ(ea2389)演じる戦闘員がナイフを投げ、それは孫娘の背に突き立った。勿論、仕掛けのある小道具だ。
しかし道具係ヴィグの仕込んだ血のりは、ありえないほど盛大に真っ赤な噴水を噴き上げた。その血は老婆や戦闘員達への眼潰しになる。
口からも血を吐きつつ、孫娘は最後の石像を起動させようとする。しかし手には6体目のための笠が残らなかった。1つ足りないのだ。
孫娘は自分が持っていた手ぬぐいを最後の石像の頭に巻いた。
6体目の眼に光が灯る。
「ぐふっ‥‥私に構わないで‥‥あなた達は‥‥正義のために戦って‥‥! お爺ちゃんもそれを望んでいるわ‥‥!」
動き始めた石像達は彼女の言葉を守るように、壁を壊し、次々に部屋を脱出していく。
手ぬぐいを被った黒いよだれかけの石像も名残惜しそうに振りかえった後、最後に脱出していった。
「お待ち! せっかくの怪人をみすみす逃がしゃしないよ‥‥あ、1C見っけ‥‥へぶっ!」
部屋が壊れたショックで色々な物が落ちてくる中、床に落ちていた銅貨を拾った老婆は天井から落ちてきた大きな木桶に頭頂直撃された。
『‥‥こうして6体の石のゴーレム『ジゾー』はアサギリの秘密地下基地から姿を消した。しかし、それからの石像の足取りを知る者は誰もいなかった』
●3
『‥‥それからしばらくし、『酒場のウェイトレスは我が組織の怪人だ』などの情報戦略を駆使したデマで世界征服の足場を固めたアサギリが、その活動を地上で活性化させる最初の日がやってきた。アサギリがまずとりかかったのは一般民衆を誘拐しての怪人製造である』
舞台は石切り場のようなセットになる。
「お〜っほほほほほ!!」
その高い崖の中腹に黒ローブに妖しい仮面を被ったアサギリの女幹部クリシュナ・パラハ(ea1850)が戦闘員達と共に現れた。彼女の乗っている人力車は戦闘員オルステッド・ブライオン(ea2449)によって引かれている。
『説明せねばならない。女幹部とこの平戦闘員は実は兄妹である。妹は兄に命令することで、兄は妹にこき使われることで、互いに兄妹愛を深めるという、かなりアレな関係である』
「ナレーションうるさい。‥‥さてと、戦闘員、ガキどもをさらい、我が軍団の怪人に改造するのだ〜!!」
「イー!!」
女幹部の命令一下、戦闘員達は崖を滑り降りてくる。
客席の客達は彼らが自分達の元まで直接やってくるつもりだと気づき、軽いパニックに襲われた。
その時だ。
「待てっ!!」
崖の上からかかる声。
クリシュナや戦闘員達が見上げると、崖の上には石色の肌で笠をかぶり、5色のよだれかけを風になびかせた戦士達が現れた。
「お前らが世界の平和を乱そうとしている秘密結社の戦闘員か!? 俺達‥‥」
「私達、ゴーレム戦隊が成敗してあげますっ!!」
ミドリジゾーであるガゼルフ・ファーゴット(ea3285)の最初の見せ場をアカジゾー、ティム・ヒルデブラント(ea5118)が奪ってしまう。見せ場を奪われたガゼルフは早速、体育座りで落ちこみモードだ。
「アカジゾー!」
「アオジゾー!」
「キジゾー!」
「シロジゾー!」
「‥‥ミドリジゾー」
「5人揃って『ゴーレム戦隊カサジゾー』!!!!!」
揃ったジゾーが三味線のBGMで崖上でポーズを決める。ただしミドリジゾーだけがまだ落ちこんでいる。
「こしゃくな! 何がゴーレム戦隊だ! おまえ達、や〜っておしまい!!」
「イー!!」
女幹部クリシュナの命令で戦闘員達はジゾー達に飛びかからんと、一気に崖を駆け上がった。
だが、彼らの大半はいつのまにか崖の途中に張られていたワイヤートラップに足を引っ掛け、転がり落ちていく。
「イ〜!(卑怯者〜!)」
「卑怯で結構」
罠を仕掛けたアオジゾー、クオン・レイウイング(ea0714)は言いながら、なおも這い上がってこようとする戦闘員に上から矢を射掛けたりする。
戦闘中に関わらず団子を食べているキジゾー、リスター・ストーム(ea6536)。彼は背後から一撃を食らわせてきた戦闘員ロックハートを振り向きざま倒すと、また新しい団子を取りだし、食べ始めた。
「は、はわわ〜!」
「ジゾー・シールドォ!!」
「え? ジゾー・シールド‥‥ってなんだよ〜!! って『俺で』かい〜!!」
一番トロそうなことを見抜かれたシロジゾー、キャシー・バーンスレイ(ea6648)が戦闘員の攻撃に遭い、そこでアカジゾーがミドリジゾーを彼女の盾にする。次いでミドリジゾーはジゾー・アタックとかいって敵に投げつけられたりもする。
「待て! 仲間を盾や武器になんかするんじゃない!」
その時、笠ではなく手ぬぐいを頭に巻いた6人目のジゾーが現れ、今にも倒れそうなミドリジゾーを支えた。
「誰ですか、あなたは!?」
「‥‥名乗る名など‥‥ない。‥‥少なくとも、敵ではない」
6人目のクロジゾー、音無影音(ea8586)はここでは名乗らなかった。
盛り上がる三味線のBGM。
アサギリの女幹部クリシュナは思わぬ劣勢に焦りを覚える。
「く、やるな。‥‥しかし我々とてゴーレム戦隊の出現を予想しなかったわけじゃない! 出でよ、対ジゾー猫型怪人『ネコマター』!」
「お前達の相手は私にゃ!」
皆の眼に艶やかな肌色がとびこんでくる。
崖の上に怪人ネコマター役のリリー・ストーム(ea9927)が登場した時、客席はどよめきに包まれた。
豊満な姿態の彼女は猫耳に猫グローブに猫ブーツ、お尻からは二又の猫尻尾。しかし、それ以外は局所を隠す最低限の布地しかないという男性客受けを狙った究極の猫衣装だったのだ。客席では慌てて子供の眼を覆う親達が続出という衝撃度である。
「行くにゃ!! 兄様のカタキめにゃ!」
客席の騒動など知らぬげにネコマターは大きな胸を揺らしながら、ジゾー達に走り寄る。
しかし、その足はほんの数歩を走っただけで止まった。
彼女の眼は、そこにいるキジゾーの姿に釘づけになっている。
「兄様! そんな姿になってもしまっても兄様に間違いにゃいにゃ! 兄様ー!」
突然、眼を潤ませたかと思うとネコマターはキジゾーに向かって走り出した。
「お前に用はない‥‥」
キジゾーは彼女の想いに覚えがあったのか、そう呟くと持っていた団子を彼女の口にねじこんだ。
ネコマターがひるんだ隙にアカジゾーは合体必殺技のポーズを決める。
「ジゾー・ミサイルの準備はいいですか!?」
「おう!」
「いいぜ」
「‥‥は、はいっ!」
「おうっ‥‥って、もしかして、また俺!?」
「‥‥いいぞ」
ジゾー達の必殺技ポーズに対し、三味線BGMも最高潮。
「必殺! グレイナリィ・オブ・アース・トルピィド!」
「ブルー・インパクト!」
「ゴールデン・パワー・アタック!」
「キャシー・ストーム!」
「しくしく‥‥俺ミサイル!」
「ブラック・コンサート!」
『‥‥説明しよう! さっきミドリジゾーをいじめるなと言っていたクロジゾーまで加わったジゾー・ミサイル。技の名前は各自バラバラだが、力を合わせてミドリジゾーをネコマターに叩きつける光景はまさに一致団結の強力な合体必殺技だ。その威力は酒場のウエィトレスさんのお盆チョップ100回分に相当する!』
ジゾー・ミサイルの発動に合わせて、セット裏のアリアが『シャドウボム』をネコマター中心にかけ、爆発を演出する。
その爆発がまたネコマターの姿を更にあられもない格好にするが、それを気づかせない内に彼女は舞台袖から退場した。
ネコマター退場を見送ったキジゾーが股間に強化増幅用(何の?)のオプションパーツを装着する。
「今、ここでなら言える! クリシュナ様〜、好きだ〜!」
言って女幹部を追い回し始めるキジゾー。その異様な股間に驚愕した女幹部クリシュナは舞台上を逃げ回った。
「うわ〜ん! お兄ちゃ〜ん、あいつらがイジメル〜」
泣きながらキジゾーから逃げるクリシュナは、すがるように戦闘員オルステッドの陰に隠れる。
「クリシュナ様〜!」
「うわ〜! 来るな〜! その変なモンをしまえ〜!!」
「フッ‥‥認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものは‥‥」
戦闘員オルステッドはそう呟くと妹をかばうように2人して舞台から退場した。
それと一緒に舞台上の全戦闘員が慌てて退場する。
『‥‥正義は勝った!』
ジャジャーンと締める三味線BGMと、崖上で揃ってポーズをとるカサジゾー。風になびくよだれかけ。
いつのまにかクロジゾーの姿は消えている。
「俺達はこの世界に愛を広めるために戦い続ける‥‥」
「アサギリ座で僕と握手! 約束だ!」
そんなキジゾーとアカジゾーの台詞を最後に、舞台の幕は降りていく。
『‥‥望んで生まれたわけじゃない、涙を隠した石の肌。今日の勝利は人のため。笠をかぶった正義の魂、悪がいるなら駆けつける。行け行け、カサジゾー! ゴーゴー、カサジゾー! われらのゴーレム戦隊カサジゾー! ‥‥ゴーレム戦隊カサジゾー・誕生篇、完』
伏線というべきか説明不足というべきか、多少の謎を残して舞台の幕は完全に閉じた。
原作破壊やセクハラ風味が過ぎた感もある今回の舞台。客席のざわめきは止まらない。
ただリリー嬢は、確実に多数の男性ファンの心を掴んだようである。