●リプレイ本文
●1
「お声をかけていただいて、ありがとうございました。初めての冒険にお連れいただけるなんて、光栄ですわ」
やや棒読み口調でセフィナ・プランティエ(ea8539)は少年に話しかける。
「華国の紅流、武道家よ。しばらくの間、あなたの仲間にさせてもらうわね。よろしく、ね?」
「村の皆さんのことを、本当に大切に想っていらっしゃるのですね。素敵ですわ。私も是非協力させてくださいな」
紅流(ea9103)はそう自己紹介し、ロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)も丁寧に言って、少年に微笑む。
英雄の卵を気取った少年を助けようと集まった冒険者達は、旅路を歩み、少年の村へやってきた。
マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)は村へと先行し、すでに確かめたかったことを確かめていた。
村の裕福な村長の息子だった英雄気取りの少年は、自分の貯めていた小遣いで冒険者への依頼賃を出していたのだ。
その村長は少年が冒険者たちに加わってゴブリン退治をしようとしているのに驚いていたが、少年のやる気が本気であることを知ると、それ以上は止めようとはしなかった。
冒険者達は村長の家で食事を振舞われ、一泊して、次の日に森へゴブリン退治に向かうことになる。
保存食を買い忘れて道中を一食抜いた黄牙虎(ea4658)と竜崎清十郎(ea8223)は、むさぼるように食事をたいらげた。
●2
身を切るような冬の寒風が森の中を吹き抜ける。
「騎士は、己が信念と弱き者を守る事が大切である」
ゴブリンの影をを探して森の中を歩きながら、ゲイル・バンガード(ea2954)は少年に言い、彼に後衛を守らせた。
冒険者達のフォーメーションは、油断なく前を進む前衛と、後方で少年を囲むように進む後衛に分かれている。
少年はフォボス・ギドー(ea7383)から借りたガディスシールドを構えながら歩いている。その頭にかぶっているのは鍋ではなく、マグダレンから借りた羽根付き帽子だ。格好いい外套も羽織っている。すべて少年にとっては大きすぎる按配だが、彼は我慢していた。そんな彼の頭にシフールのマグダレンが腰かけている。
「今日はなかなかゴブリンが見つからないな」
初めての冒険にワクワク感が押さえきれない顔で少年が言うと、
「狩りは獲物を狩るから楽しいのだ。誰も狩られる立場にはなりたくない」
ふと釘を刺すようにシフール武道家の黄が呟いた。
「女は皆、後衛に下がってなよ」
「ジャパンは戦士の国ですわ、女性とはいえ、侍の家に生まれ修行を積んだ者は後ろに控えることはしてはならないのですわ、ご容赦下さいまし」
少年の女性をかばっての発言に、ジャパンから来た女剣士の九紋竜桃化(ea8553)は答えた。
「あらあら‥‥元気なことはよいことですが、もう少し経験がほしいでしょうね。この依頼で戦闘と冒険者について幾つか学んでくれることがあればよいんですが」
アカベラス・シャルト(ea6572)は言う。エルフの彼女は自分のスキルを生かし、この森でゴブリンが現れそうな場所の見当をつけ、探していた。
「‥‥まあ、意気込みは買うがなぁ‥‥」
ジャイアントの志士、風見未理亜(ea8034)が少年に言う。
「‥‥一つ、言っとくぞ‥‥これから行くのは遊び場じゃねぇ、真剣な『命の奪い合い』の場だ。忘れんなよ」
「相手がゴブリンだからといって油断しないようにしなければ‥‥」
ウィル・エイブル(ea3277)がそう呟いた時、褐色の肌をした子供のような人影の群が、木々の向こうから現れた。
●3
ざっと見て10人以上はいる武装ゴブリンに対し、まず動作を起こしたのは小太刀を両手で構えた黄だった。彼女の『ソニックブレード』で繰り出される刃勢が宙を飛び、先頭のゴブリンの鼻筋に深い傷を刻む。
先頭のゴブリンはそれでひるんだが、残りが荒波の勢いで押し寄せてくる。
「出たな、ゴブリン!! この未来英雄が1匹残らずやっつけてやる!!」
少年は叫ぶと、盾を重そうにしながら戦いの場に駆け出そうとした。しかし、引きずっていた外套の裾を後衛の者達に踏まれ、マグダレンに羽根付き帽子をずり下ろされ、走れなくなってしまう。
「将来の騎士たる者、女性を守るのも大切ですわ。戦線の維持は騎士の本懐ですわよ。試練ですわ」
「あたし達を守ってね、小さなナイト君」
ほぼ女性で構成された後衛を守るように九紋竜は少年に言い、ローサ・アルヴィート(ea5766)も彼にウィンクを贈る。
「お願い出来まして? 騎士様?」
セフィナが少年の手をぎゅっと握った。
前衛ではフォボスがハルバードのリーチを活かし、ゴブリンの腹を叩き切る一撃を見舞っていた。勢い余って隣の木まで刃が食いこむ強力な打撃だ。
「将来の騎士たる者、噂に聞くジャパンの剣技を知っておくのもよいと思いますわ、僭越ですが、ご教授しますわ。‥‥示現流剣技『落水』食らいなさい」
九紋竜は、疾走しての示現流の強打撃をオーガ族の脳天に打ちこむ。
華風の剣技で舞うように戦うのが姚天羅(ea7210)。姚は踏みこみがフェイントを含んで多彩に変化し、地を這うような低い剣筋でゴブリンの太腿を切り裂く。赤い血が森の下草を濡らした。姚は、この実戦が少年への戦い方のレクチャーのつもりだ。
エチゴヤマフラーをなびかせた井伊貴政(ea8384)がゴブリンの攻撃をかわし、肩口に日本刀を叩きこむ。シリアスな眼線は背後からナイフで斬りかかろうとしていたもう1人も見逃さず、かわしざまに斬りつけた。
浪人ながら徒手空拳で敵に挑むのが竜崎。彼はゴブリンの群の側面に回りこむと、その1人にローとミドルを組み合わせたキックのコンビネーションを見舞った。腹に一撃をもらって吐瀉物を吐きながら倒れこむゴブリンの、その首筋にまたキックが命中する。
「‥‥さあ、我が『朱雀の舞』見せてやろうじゃないか!」
風見は『バーニングソード』による炎をまとった刃で踊るように敵に斬りかかる。
「おい!! よっく見とけよ‥‥これが、命のやり取りってやつだ!!」
風見はゴブリンの放つ矢を頬のかすり傷としながら、燃える刃の一撃を首筋に打ちこんだ、
ドワーフのゲイルの重斧も、一撃でゴブリンの左肩から腕を断ち切った。返す勢いで斧を棍棒のように使って、ゴブリン1人の背骨に叩きこむ。
冒険者達はゴブリンの反撃をほとんどくらわない。
ローサの弓は追いこむようにゴブリンに放たれている。
ゴブリンの幾人かが追いこまれて集まったところで、アカベラスの呪文詠唱が完成した。
「Auftrage Sturm des Eises Eisblizzard」
発動した『アイスブリザード』が森の風景を一瞬、白く染める。
突き刺すような冷気に襲われてひるんだ敵の隙を見逃すほど冒険者達は愚かではなかった。たちまちにフォボスのハルバードや井伊の刀が斬りかかり、相手を仕留める。
残ったゴブリン達が撤退の様子を見せた。3人だけになったゴブリン達は仲間の無残な死体を踏み越え、逃げていく。
「‥‥すっげえ〜」
後衛で女性陣を守っていた英雄志願の少年は、初めてその眼で見た戦闘に昂奮が収まらない様子だった。
●4
「英雄を名乗るなら必殺技は必要。無いとどんなに強くても地味な雑魚扱い。よろしい?」
羽根付き帽子を揺らし、自分がゴブリンを倒したかのように満足げに歩く少年に、黄は言う。
村へ凱旋する帰り道。少年を囲んだ冒険者達は彼にそれぞれの教えを説いていた。
「陸奥流はよいぞ。ちと覚えるのに時間がかかるが、超近接の暗殺技や素手の打撃技から正道、王道の基本剣技まで色々覚えられるぞ。どうだ? 学んでみないか?」
竜崎はそう言って、歩きながら陸奥流の型を見せる。勧誘する気まんまんだ。
「隠密行動って覚えておくと便利ですよ。勇者なら覚えていても損じゃないと思いますよ♪」
「隠密ねぇ‥‥勇者がこそこそするってのは似合わねえと思うんだけど‥‥」
ウィルの意見に、英雄志願の少年はそう言って渋った。どうも隠密行動を卑怯なことだと思っているようだ。
「ううん。それは違うよ」
ローサは彼に意見する。
「無謀と勇気は紙一重なの。難しいけど判断が出来たらキミも英雄や騎士になれるかもね」
「そうです。勇気があることと無謀なことは違います。貴方を待つ、大切な人を悲しませることが英雄的行動だと言えるでしょうか? ‥‥真の英雄が背負うものは、とてつもなく重いのですよ」
ロミルファウもローサに意見を合わせた。
「貴方が本当にその手に剣を取り、戦うつもりであるならば、まず己にできることとそうでないことをお知りなさい。そして自分が守って戦うものは何なのか、よくお考えなさい。そうして初めて、貴方は貴方の望む姿に近づくことが出来ると思いますわ」
「うーん‥‥難しいことはよく解らねえや」
少年は彼女の意見を咀嚼して、正直によく解らなそうな顔をする。
「でも、さっきのお前達の戦いを見ててから、胸のドキドキが止まらねえや。俺もまず冒険者になってみたいな!」
「今のあなたなら大丈夫、あなたに相応しい仲間が、きっと見つかるわ。だから、がんばってね」
紅はそう言い、少年の帽子を取ると笑いながら彼の髪を掻き撫ぜた。
「キミはいつかきっとイイ男になれる‥‥‥‥ように頑張れ」
ローサは微笑みながら少年の頭を親しみを込めて叩いた。
「もしまた冒険をしようと思ったら、その時は誘ってね〜」
「その時はまた、一緒に冒険をしましょうね」
井伊とセフィナも微笑を浮かべて言う。
凱旋した冒険者達と少年がゴブリン全滅を告げると、村は非常な歓待で彼らを迎えた。
そして冒険者達は帰りの分の保存食を村で分けてもらい、帰りの途についたのだった。