これぞ艶遁の術

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月25日〜01月30日

リプレイ公開日:2005年01月28日

●オープニング

 野良犬が吠える、寒い深夜のことだった。
「くそっ! 何処だ!? どっちへ逃げた!?」
「そっちだ! そっちに逃げたぞ!」
 裕福な商人の屋敷から男達の声が聞こえてくる。
 屋敷の高い塀に手をかけ、飛び越える黒い影。
 それは黒装束に身を包んだ人間だった。顔にも黒布を巻きつけ、覆面としている。
 黒い影は町の人通りのない通りを素早く走り抜ける。まさに飛ぶような走りだった。
 だがしかし。
「へっへっへ‥‥追いつめたぞ‥‥!!」
「もう、逃げられねえぞ! さあ、盗んだ宝石を返しやがれ!」
 やがて黒い影は袋小路で追っ手の男達に追いつめられてしまう。
 男達は服の上から相手のプロポーションで女だと見当をつけ、下卑た笑いを浮かべながら距離を詰める。
「さて‥‥どうしてくれようか、このアマ‥‥!」
 男達がそう言って、黒装束の袖を掴み、自分達のもとへ引き寄せようとした時だ。
 はらりと黒装束が、蝶がさなぎの殻を脱ぐ時のように女の身を剥がれ、白く眩しい裸身が月光の下にあらわとなった。
 東洋系の肌色の胸、腰、尻、脚。
 闇色の中から顕れた、完璧といえるようなプロボーションが男達の眼を一瞬、釘づけにする。釘づけにならざるをえないような、艶然とした肢体だった。
 女盗賊には、男達が鼻の下を伸ばした一瞬の隙だけでよかった。
 覆面以外は全裸の女が、動きを忘れた男達の間をダッシュし、町の通りを走って逃げ去る。
 男達が我を取り戻し、振り返って追おうとした時にはもう遅く、女の姿は視界の何処にもなかった。再開した追撃にも捕まる者はもういない。
 全裸の女は夜の町の何処へともなく消え去ったのだ。
 ‥‥これが最近、町で連続している盗難事件の最近の例である。
 彼女は宝を持っている裕福な者へ予告状を送ると、まんまと盗みを成功させるのだ。そして追いつめられそうな時も、その見事な肢体で追っ手の隙を作り、見事に逃げ去ってしまうのである。
 さて、最近、予告状がある商人の屋敷に届けられた。
『近日、貴殿の所有する宝石『紅い鷲の涙』を頂戴に伺います。くノ一・かすみ』
 かすみとは件の女盗賊の名である。
 予告状を送りつけられた商人は、宝石『紅い鷲の涙』を護衛し、あわよくば、かすみを捕らえるという任務を冒険者ギルドに依頼した。
 果たして宝石は守られるのか? 女盗賊かすみを捕まえることが出来るのか?
 それは依頼を引き受けた冒険者達の働きにかかっているのだ。

●今回の参加者

 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea7431 フィソス・テギア(29歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8370 アーティレニア・ドーマン(38歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8407 神楽 鈴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8568 チェムザ・オルムガ(38歳・♂・ファイター・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea9103 紅 流(39歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9249 マハ・セプト(57歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea9543 箕加部 麻奈瑠(28歳・♀・僧侶・パラ・ジャパン)
 ea9617 シモーヌ・ペドロ(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb0518 ディジェ・ヤーヤ(32歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●1
「しふしふ〜☆ ただいま〜☆」
 シフールの燕桂花(ea3501)がシフール仲間からの情報集めから戻ってくる。
 全裸逃走を繰り広げる『くノ一・かすみ』を名乗る女盗賊を相手にせんと、宝石『紅い鷲の涙』を狙われた商人に雇われた冒険者達は、その屋敷において予告日までの数日を各々の思惑で過ごしていた。
 街のシフールから何か情報を集めようとしていた燕だが、ハレンチ女盗賊の情報は残念ながらこれといってはなかった。代わりに行く先々で仲間達からお茶を奢られ、ほぼ満腹の体でご帰還という、この通り。
 同じシフールでも老人のマハ・セプト(ea9249)は、この依頼の主である商人に話を訊いているところだ。
「依頼主殿、過去かすみに盗られたアイテムが何処に流れたか知らぬかのう。名のある物を狙うのは自身の名声を得るため、技術を見せるためか、売り金を手に入れるためかだと思うのじゃが‥‥肌をさらして逃げるのも忍術の一つであろうが名声や技術としては今ひとつじゃな。そこらの親父が喜ぶ程度ではのう」
 応接室でそんな風に訊くも、女盗賊の盗んだ品の流れなど依頼主は聞き覚えがないとのことだった。
 その応接室の前の廊下。屋敷内でもフェイスガードをつけ、一見、美青年風でたたずんでいるマミ・キスリング(ea7468)の横を、メイド衣装のシモーヌ・ペドロ(ea9617)が掃除の箒をかけながら通りすぎる。
 冒険者でも屋敷に臨時のメイドとして入ったシモーヌは屋敷内を清掃しながら、今も不審はないかと眼を配っていた。マミがわざと男の雰囲気を漂わせているのも、もしや女盗賊が使用人などに化けて、すでに屋敷に潜んでいることを用心してのことだ。男だと錯覚させておくのは都合がいい。
 水無月冷華(ea8284)と紅流(ea9103)はもっと念入りで、予告状が届けられた1週間前くらいから自分達が来るまでの間に新しく入った使用人や近日中に入る予定の者に、怪しい者がいないかを調べあげている。シモーヌを除いて新しく雇われた使用人はいないようだが、彼女達の熱心は女盗賊を捕らえるための労を惜しまない。
 エジプト生まれの褐色の美丈夫、ドナトゥース・フォーリア(ea3853)も応接室の椅子に座ってメイドの観察。彼も女盗賊がメイドのふりをして紛れこんでいないかと屋敷内をうろついていたが、今のところ、怪しい素振りを見せた者はいなかったのだ。
 その内に彼の眼は、茶を配ってくれたメイドの1人の腰つきを見た瞬間、くわっと見開かれる。
「安産型だっ!」
 ‥‥一体、何を見ているんだか。

●2
 予告日の夜。
 冬の白い月が黒雲の裏へと隠れた瞬間、闇に紛れ、屋敷の壁を乗り越えた影がある。
 それが件の女盗賊かすみであることは疑いようがない。黒装束の彼女は闇に同化するよう、影から影へと走り、器用に外から1階の鎧戸を開けると屋敷内へ侵入した。
 暗い廊下を走り、宝石『紅い鷲の涙』の納められている部屋へ来る。
 しかし彼女はそこまでだった。
 宝石が納められているはずの戸棚に近づいた彼女は、その前で見えない障壁に身をつきかえされたのだ。
「そこまでじゃ。かすみ殿、お主は宝石に近づけん」
 部屋の中に隠れていた冒険者の内、宝石に『ホーリーフィールド』をかけたマハが言いながら家具の陰から出てくる。
 踵を返したかすみが宝石をあきらめて脱出を図り、廊下を走った。
 宝石の傍に隠れ『オーラシールド』『オーラボディ』を唱えていたマミがかすみを追う。屋敷内を清掃しながら屋内を広く見張っていたシモーヌも一緒になって女盗賊を追いつめようとする。
 かすみは廊下沿いの鎧戸を蹴破り、窓から庭に飛び出した。
 だが彼女の動向は、すでに屋敷外からタイミングを合わせて使用されていたティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)の『ブレスセンサー』などで捕捉され、冒険者に筒抜けだった。
 ティファルの呼び声に合わせて屋外にいた冒険者達が集まり、かすみを追いつめる。
 月明かりの下、かすみを眼で捉えた水無月が高速詠唱で『アイスコフィン』を唱える。
 冷たい白氷のまとわりつきが女盗賊の黒装束表面に這うが、彼女は怯えながらそれを振りほどいた。
 そして、自分の胸元に手をやり、皆の前で一気にそれを引き剥がそうとする。
「『艶遁の術』破れたりっ!」
 それよりも一手早く、ドナトゥースの剣が鞘走り、かすみの黒装束を切り裂いた。
 相手が脱ぐよりも早く服を切り開けば、意表を突かれた男子が凝固することはない。それを狙ったドナトゥースの策だったが、彼の思惑は現実には適わなかった。
 黒衣を切り開かれて顕れた白い裸身はやはり見事で、それを見たドナトゥースは瞬間といえども金縛りにかかってしまったのである。
 だが男連中の内、実質年齢104歳のシフール、マハにその裸身の呪縛はかからなかった。
「なんじゃ! この老人に肌をさらしてもよいことはないと思うのじゃがな、お嬢様。見せるのなら好きなおのこだけにするがよいじゃろう。確かに綺麗じゃが種族の違いもあるしの。かからぬよ」
 情欲が枯れているのか、マハはそれだけ言うと軽く笑った。
「残念だけど私にはその忍法もどきは通じないわ。って言うか、軽々しく人前で脱ぐもんじゃないわよ」
 武道家の紅も一歩を進めながら言う。
 彼女を含め、今回、追っ手の大半は女性である。彼女達に女盗賊の必殺の術は通じなかった。
 かすみは追っ手の女達に半包囲されてしまった。
「すぐ脱ぐやつに負けるか、ちきしょー」
 ローサ・アルヴィート(ea5766)は八つ当たり調の言葉を叫びながら、スリングで狙撃。それは額に命中する。
 燕が上空から『オーラショット』で攻撃を加え、淡いピンクの光が彼女の肩口で弾けた。
「泥棒をするいけない子には電撃ビリビリや。往生せいや〜」
 ティファルは『ライトニングサンダーボルト』の電撃で、白い裸身を打った。
 神楽鈴(ea8407)は遠距離から『ウインドスラッシュ』で攻撃。脚に当てて、動きを止める。
 それでも逃げようとするかすみを、フィソス・テギア(ea7431)が騎馬で行く手をふさぐ。
 追いつめた神楽が気合を込めた斬撃を放ち、かすみは転がりながらかろうじてそれをかわした。
 その時だ。

●3
「それ以上、かすみちゃんをいじめないでぇー!!」
 突然、やってきたディジェ・ヤーヤ(eb0518)が身を投げ出すようにかすみと皆の間に割って入った。
 屋敷外を見回り、ディジェの『テレスコープ』で館を監視していたディジェ、アーティレニア・ドーマン(ea8370)、チェムザ・オルムガ(ea8568)の3人はかすみが現れた館の異常に気づき、駆けつけてきたのだ。
 ディジェは勢い余ってかすみにタックルする形となった。それどころか、全裸のかすみにそのまま抱きついて身体をすりよせる。
「‥‥うふふ♪ ‥‥全裸の女の子だなんて‥‥なぁんて美味しいシチュエーションかしら♪」
 というディジェのそれはもう、欲望に満ち溢れた暑苦しい抱擁だ。
 かすみを捕らえたディジェの身を引き剥がそうと、ドナトゥースが彼女の肩に手をかけた瞬間だった。
 ハーフエルフのディジェの髪が逆立ち、眼が一気に血色に染まる。
「男は触らないでぇ!! 世界中の可愛い女の子は、みぃんな私のモノよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 そして自前の鞭を音高く振り回す。
 やにわ『狂化』した彼女はサディスティックな言動と共に暴れだし、冒険者仲間を鞭で打ち、かすみも鞭で拘束しようとする。そのまま彼女をお持ち帰りしてしまおうという強制手段だ。
 冒険者達はかすみよりも手強いかもしれない相手を、まず押さえつけなければならない状況になった。

●4
 そんなデジェをかすみから引き剥がし、なんとかなだめた冒険者達。ディジェの眼は普段の碧色に戻り、銀色の逆立つ髪も重力を思い出したようにナチュラルに戻った。
 冒険者達は捕まえたかすみをロープで縛り上げることにする。
「‥‥出来た」
「違うわよ!」
 縛りを完成させたチェムザの頭に、アーティレニアのツッコミが小気味よい音で入る。
「アーティ‥‥なかなか、痛いぞ」
 何処をどう間違えたのか、チェムザは全裸のかすみを縄が白肌にくいこむ『とってもエッチな縛り型』にしてしまっていた。記憶喪失だという彼の記憶の片鱗として現れたのがこの縛りだとしたら、彼は一体、記憶を失う前はどのような人生だったのか。ちょっと考えるのが怖いことではある。
 シモーヌはかすみの裸身をしげしげと眺めつつ、がっかりしている。『人遁の術』で相手を惑わす美少年こそかすみの正体だと思っていたのにどうやら違うようだ。
 全裸で縛られている寒そうなかすみの肩に、フィソスが外套をかける。
「貴様! そのような事をして、女としての自覚があるのか! 身をわきまえろ!」
 と、フィソスはふしだらな格好のかすみを叱った。
「あんたがやってることはただの見せたがり、そんなの美しくないよ。どうせなら、あたしみたいにどんなことしてても色気溢れるようにならなきゃね♪」
 と、アーティレニアは言って、踊り娘ならではの艶然たる笑みを見せた。
 冒険者達は捕まえたかすみをそのまま、役人の元に突き出すことにした。
 役人に引き渡された女盗賊は牢に入って、これまで犯した盗みの所業を全て白状させられることになるだろう。そして恐らくは牢獄行きだ。それは仕方がない。
 マミは役人にかすみを引き渡す際、出来れば自分が身元引き受け人となって、彼女を仲間としていつか働けるようにしてほしいと意向を伝えた。
 ドナトゥースに至ってはかすみにひとめ惚れしたようで、捕えられた牢に足繁く通い、今も彼女を口説き続けているという話である。