●リプレイ本文
●1
「皆、シフールになりたいかーッ!?」
「おーッ!」
「英国へ渡りたいかーッ!?」
「それはノーッ!」
「それでは第1回! 家族対抗シフール合せっ‥‥オゥチ!!」
いきなり司会として仕切っていたドナトゥース・フォーリア(ea3853)の銀髪の後頭部に、フィーラ・ベネディクティン(ea1596)の張り手ツッコミが入った。
ちなみに合いの手を入れていたのはノリのいいシフール連中だ。
シフールになりたいという無茶な依頼人につきあうために集まった冒険者達である。
「しふしふ〜☆ というわけで、あたいがシフシフ団団長代理の燕桂花(ea3501)だよ〜☆ よろしくね〜☆」
「しふしふ〜♪ シフシフ団音楽担当その1、リル・リル(ea1585)だよ〜♪」
真っ先に依頼人や仲間達に挨拶するシフールは、燕とリルだった。蝶羽根をはばたかせて依頼人の前を飛ぶ。
「うきゃっ☆ おちゃらけ放浪癖シフールなガルゥおに〜さんこと、ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)ですっ♪ ヨロシクね〜☆」
そんなハイテンションで依頼人に挨拶するケヴァリムだが、ゲルマン語の話せない彼はシフール共通語のため、依頼人には通じていない。
そんなケヴァリムの挨拶をキャル・パル(ea1560)は通訳した。ちなみに「しふしふ〜」という挨拶をパリで流行らせたのはキャルだという。今となっては『初めまして、おはよう、こんにちは、こんばんは、おやすみ、さようなら、いらっしゃい』など、挨拶系全般の意を含む、便利な言葉となったものだ。
「さて‥‥シフールになりたい‥‥お気楽極楽でお菓子の家に住みたい?」
燕は腕組み、依頼人の顔の前に浮遊して語り出す。
「シフールだって、お気楽極楽に生きてるのは少ないんだけどねぇ‥‥まさか、シフールは花の蜜を飲んだりして生きてると思ってるとか? シフールだって、あんちゃんと同じものを食べてるんだよ〜? それを食べるためには、毎日何かしら働いてお金を得てるんだよ〜? あたいだって、毎日この鉄鍋をふるってお金稼いでるんだし‥‥だから、シフールになったらお気楽極楽に生きていけるなんて幻想は抱かない方がいいよ〜」
自分の人生(シフール生)をにじみださせるようにじっくりと言葉を搾り出す燕。
「ところで、何でシフールになろうと思ったの? 今のお肉屋さんを継ぐのが嫌になったの? 動物さんを切り刻んだりするのが嫌なの? 解らなくもないけど‥‥だからって、シフールになろうだなんて‥‥夢見すぎだよ〜」
「まぁ、方向性とかはともかく、何でもよいから夢を持つというのは悪いことではありませんわよね」
苦笑する燕にシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)が言葉を挟む。
そんな彼女達を2m30cmの高みから覗きこむ者がいた。サイラス・ビントゥ(ea6044)だ。
「私はインドゥーラの僧侶、サイラスと申す。うむ、種族を超えるため、厳しい修行を修めるというのだな。積極的に修行に挑もうとする若者に私は感動した!」
彼はにっこり笑って、依頼人の若者の肩をがっしり掴む。
この時、依頼人は自分を圧するかのように巨大なカツドン宗僧侶に怯えを感じていたようだ。
●2
2月22日。
午前はシフール日常の見学だ。
リルはシフール飛脚の日常生活を見せてもらうよう、事前に交渉してあった。
ドナトゥースは、リルと依頼人と一緒に見学に参加。郵便配達業務の見学の際には彼に併走する。彼が早々と脱落しないように支えてあげるためにいたのだが、太り気味の若者はヒイフウ言いながらシフール飛脚の業務には最後までついてきた。
その見学が終わると宮崎桜花(eb1052)が待っていた。
彼女は精神修養と言い、依頼人を板の間に直接座らせ、足を組ませた。
「何故、こんなこと、しなきゃいけないの?」
依頼人はそう問うたが、宮崎は、
「シフールの翼は体に比べて明らかに小さいですよね。あの翼では体を浮かすこともままならない。なのに皆、空を飛んでいる。これ即ちシフールの飛翔は魔法の力である証。シフールになるためには魔法の力が不可欠。魔法の力に眼覚めるための精神修養です」
そう言って、昼の1時間ほど依頼人に精神集中させた。
午後は訓練だ。キャルがシフール共通語を彼に教える。
「最初は挨拶からだね〜。『しふしふ〜』って何度も言ってもらうよ〜。ちゃんと気持ちも込めるんだよ〜。各々の音も微妙に違ってたりするから注意だよ〜。簡単そうに聞こえるかもしれないけど、シフール共通語は奥が深いんだよ〜☆」
こうして依頼の1日目が過ぎていった。
●3
2月23日。
シフール日常生活見学は、今日はシフール通訳の仕事ぶりを見学。
昼は宮崎による1時間の精神修養。
午後の訓練。リルがまず演説する。
「まず! シフールはお気楽極楽ばかりではない、デンジャラスな部分もあるのだぁ〜! 焼きシフール、蒸しシフール、干しシフール、串シフール、生シフール、月見シフール、踊り食いシフール‥‥」
「蒸しシフール、揚げシフール、冷やしシフール、月見シフールとか‥‥」
シフール料理(!?)のレパートリーを並べるリルに、キャルが口を添える。
「そうそう、それらなどなど、いつも危険と隣り合わせなのだぁ〜! それから元気のいいにゃんこに追いかけまわされ刻みシフールに‥‥って、ぎゃ〜!」
言っている傍からリルに野良猫がとびかかってきた。
「押しつぶすのダメ〜、羽食いちぎるのもダメ〜!」
にゃ〜にゃ〜言う猫と戦い始めるリル。猫はただじゃれているようにも見える。
しばらくすると彼女達は仲良くなったようで騒ぎは収まった。ただし羽根はちょっとボロボロ。
「にゃははは〜♪ ‥‥そんなわけで、シフールはいつも危険と隣り合わせなんだよ〜。人間で言うと、にゃんこはライオンや虎に襲いかかられるようなものなんだよ〜。‥‥ライオンと虎、知ってる? まあとにかく‥‥レッツゴ〜♪」
リルは早速『イリュージョン』で依頼人に『でっかいにゃんこ』が襲いかかってくる幻影を見せた。
後は依頼人の悲鳴が響き渡る。
●4
2月24日。
今日はケヴァリムが依頼人の家の肉屋をお手伝い。楽しくって仕方がないっていう風をあたかも依頼人に見せつけるように行った。
この時、セルミィ・オーウェル(ea7866)は依頼人の家で彼の両親に話を聞いた。依頼の件は口に出さないつもりだったが、さすがにそれは話さないと相談の要領を得ないので仕方なく話す。
と、どうやら肉屋の修行が嫌で彼が逃げだしたらしいという推測がヒット。
「でも、小さい頃からシフールになりたいと言ってました。あんな身軽に飛べたならどんなに素敵だろうと」
そう語る、両親。
昼は宮崎による1時間の精神修養。
そして午後の訓練。
「太ったシフールなんかいないわ」
いきなり自称シフール研究家なフィーラが依頼人に指摘する。。
燕も、
「シフールになりたいんだったら、まずはその身体を細くしなくちゃねぇ‥‥いくら何でも、そんなにも重そうな身体じゃ、羽根があっても飛べないよ〜? 頑張って痩せてもらわなきゃ‥‥」
ハーリー・エンジュ(ea8117)は、シフールになるための特訓、という名のダイエットを指導する。
「ほらほら、シフールにはそんなぽっちゃりさんはいないよ。頑張って!」
ダンスが得意なシフールの舞踏ダイエットだ。
「ワン・ツー! ワン・ツー! 腕を前に! もっと脚を上げる!」
それが一通りすむと、シルヴァリアが空中浮遊の感覚を彼に掴ませるためにも、彼を川で泳がせようとする。
「白鳥は水面を優雅に泳ぎますが、水面下では常に激しく足を動かしています。それと同じでシフールも一見、何も考えてないようにお気楽極楽に浮いてますが、実際は大変な努力を払っているのです」
「こんな冷たい水で泳いだら死ぬよぉ〜」
と依頼人。
しかしシフールの飛天龍(eb0010)もこの特訓につきあうと聞き、実際にシフールがやるなら、と渋々にも寒中水泳に参加した。春、遠からじの日であった。
●5
2月25日。
午前。依頼人はハーリーの日常につきあった。
朝起きたらご飯を食べて、ギルドに行って依頼がないか確認する。
なかったら町に出て踊りを披露しておひねり集め。子供相手に一緒に遊んだりもする。
「ナイフを持つだけでも一苦労だよ。シフール用のナイフがあってもいいのにね」
「猫に追いかけられたりもするし‥‥ふざけて羽根をむしろうとする子供だっているし‥‥」
「シフールだって遊んでいるだけじゃ生活できないんだよ。ちゃんと働いて稼がないと」
ここぞとばかりに依頼人に生活の愚痴を聞かせるハーリー。
そして昼。宮崎による1時間の精神修養。
午後の訓練の時間。
特訓につきあったのがサイラスとネフェリム・ヒム(ea2815)のジャイアントコンビ。
依頼人がシフールになったことを想定して、飛ぶ努力をしてもらうことにする。
「シフールは空を飛べるのであったな」
サイラスはネフェリムと一緒に彼を持ち上げ、2人がかりで投げ飛ばしてみる。
「飛べない者が飛ぼうというのだから、これぐらいはやらないとな」
その言葉が終わってしばらくし、放物線を描いて景色の向こうに落ちてきた依頼人。無様な落ち方だ。
「何をしている!? そんな落ち方ではひどい怪我をしてしまうではないか。よいか、最低でもこのように受身をとれば、ひどい怪我にはならん。さ、やってみるのだ」
ネフェリムが依頼人を『リカバー』で治し、受身のとり方を教えて、巨人2人でまた投げ飛ばす。
特訓は飛び方から落ち方へと方向性が変わっているようだが、誰も気にしない。
ついでにシフール本人のリルも投げられるスリルをせがんだので、2人は彼女を力いっぱい投げてみた。
キラリ。リルは青天の星になった。
●6
2月26日。
「し、しふしふ〜‥‥」
シフール武道家の飛は、例の挨拶が恥ずかしいらしい。
特訓最終日の午前は、飛の日常につきあった。
早朝、起床。
武道の型を一通り。
朝食。
基礎体力作り。
昼食。
‥‥非常にシフールらしくない、武道家らしい毅然とした日常がそこにあった。
この後、飛は木を相手にした打撃練習を行うらしいが、依頼人は宮崎による1時間の精神修養を受けに行く。 午後は、本多風露(ea8650)が待っていた。
「それでは空中に浮いた気分にさせてご覧にいれます。こう見えてもわたしは東洋の神秘たる技を身に付けているのです。わたしの服装を見て、いかにもという気がしませんか?」
確かに東洋の巫女風装束を着ている本多。
「それでは後ろを向いてください。シフールになる技を使うためには後ろを向く必要があるのですよ。‥‥つべこべ言っていると手元が狂って首が落ちちゃいますよ」
言いながら刀をちらつかせる本多に、依頼人は首をすくませながら背後を向ける。
「後ろを向きましたね? では」
本多は峰打ちで依頼人の頭を引っぱたき、気絶させた。
そして自前で作った布張りの即製シフール羽根を彼の背に取りつけ、皆でロープを使って木に吊るした。
リルが冷や水一杯で眼を覚まさせ、『イリュージョン』を彼にかける。
「‥‥あはっ! おやっさ〜ん、見てくださ〜い! 俺、飛んでるっすよ、おやっさ〜ん‥‥しふしふ〜!!」
依頼人は今、シフールになって飛んでいるという幻覚を見ていた。
幻覚が切れるまでの間、彼は満足げに大声でずっとはしゃいでいた。
●7
契約最終日も、もうすぐ陽が暮れる。
サイラスは厳しい特訓を耐え抜いた依頼人の肩を抱き、夕陽を指差す。
「よく頑張った。これで貴殿も立派な冒険者だ! ‥‥あれ? 修行を間違えたか‥‥」
結局のところ、依頼人がシフールになるのは無理だった。
ネフィリムは依頼人の眼の高さに身を屈めて、言った。
「本当に願う想いは、自分の中で納得のいくまで取り組むとどんな形であれ、適うものです。『現実上、結果として達成していない、イコール、願いが適わなかった』と思わないで下さい。現実には無理なこともあるのですから、自分の夢がちょっとだけ形を変えているだけなのです。夢のために取り組んだ事柄、思い出が、自分を成長させているのです。夢のために費やした時間は夢そのものであり、貴方はもう夢を手にした‥‥夢が適ったといえると思います」
「どんな商売、種族であろうと、簡単なことなどないということだ」
ドナトゥースは腕を組み、言う。
「毎日、美味しい肉が食べられるなんて素晴らしいことだと思いますわ」
「シフールさんは眼の前の困難からは逃げないよ〜♪」
シルヴァリアとキャルは若者の家業である肉屋を誉めて、それを継ぐことが羨ましくて素晴らしいことだと認識させようとした。
だが、この期に及んで、1人、情熱をふつふつとたぎらせている者がいる。
ウィザードのラザフォード・サークレット(eb0655)だ。
「私は、あんたの腑抜けた態度に腹を立てている」
ラザフォードは怒りにも似た口調で依頼人に言い放った。
「あんたはシフールの暮らしがどれだけ大変なのかを知らなかったのか? まず間違いなく、あんたなんかよりも数万倍、苦労してきてる奴はいるんだよ」
ほとんど唐突にラザフォードの依頼人への説教が始まった。
全てが終わり際に始まった、事を振り出しに戻すような猛説教を、依頼人も他の冒険者達もぼう然とした思いで聞く。そこまでラザフォードの説教は熱がこもり、また一方的だった。
「‥‥解ったか!? 何!? 解らないだと!? 口で言っても解らん奴は‥‥!!」
ラザフォード、問答無用で高速詠唱による『グラビティーキャノン』。
依頼人が一閃の黒い光条に打ち倒され、地面に大転倒した。ただし受身は上手い。
「眼が覚めたか。あんたは現実から逃げていただけだ」
依頼人が冒険者達に助け起こされるのを見ながら、ウィザードは鼻を鳴らす。
そんな依頼人を見下ろしながら、セルミィが言う。
「いっそのこと、一度死んでシフールに生まれ変わりますか?」
くすくすと笑う彼女に、依頼人はぶるぶると首を振る。
「そんな、僕は今はこの身一つで十分ですよ〜」
すっかり冷えあがった依頼人がそう言い、そのタイミングで冬の夕陽は落ちてきた。