河童天国、リベンジなるか?

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月08日〜03月13日

リプレイ公開日:2005年03月13日

●オープニング

「河童ですわ、河童。たまりませんわ〜!」
「うわ、また来た!?」
 彼女が冒険者ギルドを訪れたのは、昼も午後すぎのこと。
 見た目ぽやぽや〜とした若妻風の女性はギルドの依頼受付カウンターに来るなり、河童を1つ、注文した。
「また河童ですか‥‥?」
「そうよ、河童よ〜。見せて〜!」
 ぽやぽやした口調でその場でくるくると回るのがその女性。何処か幸せそうな表情のまま、回る勢いで大きな胸がぷるるんと揺れる。童顔に似合わず、人に誇れる胸の大きさである。
「‥‥以前も河童が見たいという依頼を出しましたけど、ポシャりましたよね‥‥?」
「あらあら、そうなのよ」
 ちょっと解説が必要かもしれない。
 ジャパンの河童がぜひ見てみたいというこの女性。実は以前に、冒険者に河童の扮装をしてスモー(相撲)マッチなど河童三昧を自分に見せてほしいという依頼をギルドに出願し、しかし冒険者の人数が集まらなかったために契約無効になる派目となっているのだ。
「たしか集まった冒険者はゼロでしたね。見事に」
「そうなのよ。まったくそうなのよ。これはきっと河童の扮装をする楽しさが皆に伝わらなかったからだと思うの。それに扮装用の衣装を調達する手間の問題かもしれないわね。もしくは他の冒険依頼で忙しかったか、それとも星の巡りが悪かったからか。‥‥でも今度は大丈夫!」
 彼女は大きな胸をぷるるんと揺らす。
「河童の衣装は、私が作るわ。それに報酬は奮発して多めに払うから〜」
 どうも彼女のスイッチは河童モードのまま、固定されてしまっているようで、酔った眼つきで今回も河童河童とせがむのだ。
 彼女は冒険者ギルドに『冒険者による河童のスモーマッチなどを見せること』という依頼契約を結ぶと、来た時と同じようにぽやぽや〜とした雰囲気のまま、帰っていった。
「‥‥3度目はないと思ってくださいよ」
 見えなくなった後ろ姿に思わず呟いている受付係。
 というわけで再び、ノルマンの冒険者ギルドでは河童のなり手を募集するのである。

●今回の参加者

 ea2563 ガユス・アマンシール(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea8868 フランカ・スホーイ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb1079 メフィスト・ダテ(32歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●1
 セーヌの水もぬくむ、うららかな初春の日差しが降り注ぐ、ある日のこと。
 ここノルマンにて、ジャパンの河童を見たいとせがんだ若妻風の依頼人の前に、それに応えようとする者達がいた。
 ロシア生まれのエルフ、フランカ・スホーイ(ea8868)はセーヌの川辺に集まる、その1人。
 現在、彼女の様相はなかなかに奇異である。何せ、両替商へ寄ってきたフランカは手持ちの内の金貨3枚を銅貨300枚に両替し、それをつづり合わせた物を袖なしのかたびらのようにして身体に着こんでいるのだから。
(カッパ‥‥copper‥‥つまり、銅貨のことですね。ここに気づくとはやはり私。さすがです)
 依頼人に全ておんぶにだっこというのは如何なものかと、河童の衣装を自前で用意したフランカ。勿論、自分の間違いには今だ気づかず、体力に見合わぬ重いかたびらを着て、ふらつきながらもスモーの準備にとりかかっている。
(スモーですか。これは恐らく発音の悪い依頼人の言い間違いで、正しくはsmoke‥‥つまり煙ですね。生木を用意して火を焚きましょう。盛大に煙が上がるはずです)
 そう考えて、川辺で生木を燃やすと目論見通り、盛大な煙がもくもくと上がる。
 重いコートもせいで身動きもままならぬフランカ。火を前にして汗だくである。
 春の川辺に立ち上る白煙が眼に入り、しみる。
「銅貨に煙。なんなのでしょうね? ‥‥これがジャパン文化ということなのでしょうか?」
 むせながら思わず、一人ごちる。
「やはり優良種たるハーフエルフさまのいらっしゃらない国々では、こういった文化的錯乱が存在するようですね。いずれはそういった国々にも狂化‥‥もとい教化の光を照らさねば‥‥!!」
 狂化中のハーフエルフよりも更にイッちゃってる狂信者の眼をし、叫ぶフランカ。白煙の中でゆらめく炎を見つめることがますます彼女をハイにする。
 一体、何がどう河童なんだか、スモーなんだか、まるで怪しい宗教の拝火儀式か、重いかたびらを着こんで自分を不自由にすることで脳内快楽を得る危ない趣味の方であるかのように彼女はさも嬉しそうに笑う。いや実際、フランカはこの重いかたびらに拘束される感じが何となく『イイ』ように思えてきていた。
 彼女が自分の間違いに気がついたのは、他の冒険者達が依頼人と共にやってきた時。
 火を消され、依頼人手縫いの河童の衣装を手渡されると、彼女もまた1人の河童にならざるを得なかった。
 両替商に手数料まで取られたのに残念なことである。

●2
「きゃー! 河童よ、河童ー!!」
「かっぱっぱー♪」
 嬉しそうに踊り叫ぶ依頼人の前で、ウリを齧りながら河童語(?)を叫ぶドナトゥース・フォーリア(ea3853)。大柄な彼も、身の丈にピッタリの緑色の河童衣装をあてがわれて、今やすっかり一人前の河童だ。更に聖職者がかぶるようなキャップを買ってきてかぶり、頭頂に皿があるという河童の様相までも見事に真似ていた。
 ドナトゥースに比べるとガユス・アマンシール(ea2563)の河童はうらなりといった感じで、エルフの彼のやや細身の体格では衣装がそこかしこでだぶついている。どうにもスモーは弱そうに見える。
 フランカは重い銅貨のかたびらを脱ぎ、女性用の河童衣装に着替えさせられていた。重いかたびらが名残惜しい。
 ちょい背は低めながらもがっしりした体格のメフィスト・ダテ(eb1079)は、河童装束を着た自分と他の人の河童を見比べながらも、相撲マッチでは負けまいと静かに闘志を燃やしていた。
「面白い依頼だな。こんな平和な仕事も悪くはない♪」
 そう言って微笑んだメフィストの前を、楽しそうな依頼人がくるくると踊りながら通りすぎる。彼女の大きな胸は回る遠心力で持ちあがりながらも型崩れはしない。立派なものだ。
「では、いよいよスモーマッチよー!」
 依頼人は待ち切れないかのように叫んだ。
「スモーマッチか。たしか場外と倒される他、床に手を着けたら負けのはずだったな」
「足の裏以外が地につくと負け。意外に簡単なルールだ。しかし着替える前でもよかったのでは」
 木の棒で、川辺の地面に大きな円を描く依頼人を見ながら、ガユスとメフィストは言った。
「こういうのは河童だということが重要なのよー!」
 依頼人は即答。円を書き終わって木の棒を腰のベルトに挟んだ。

●3
 スモーマッチ、第1試合。
 ガユスVSメフィスト。
 ガユスは、メフィストがやっているのを真似して自分も四股を踏んでみようとする、
 両足を広く開き、腰を落として構える。膝に手を当て足を高く上げ、踏み下ろすはずがバランスを崩し無様にひっくり返ってしまう。
「痛たた。冒険者が運動不足か、情けない」
 依頼人を行司として始まる一戦。
「ハッケヨイ。ノコッタ!」
 メフィストは掛け声と共に張り手で牽制。
 しかしガユスは試合が始まるや否やひたすら逃げ始めた。組み合ったら、たちまち投げられるとばかりに土俵際をひたすら逃げる。
 ところがそれはメフィストの計算の内。そのまま張り手で追いつめていき、土俵際まで追いこんだ。
 メフィストの押し出しが決まり、ガユスは走って逃げていた勢いのままに空を一回転して土俵の外へと転がり出でた。川辺の土を転がって、泥にまみれる河童衣装。
 メフィスト勝利。ガユスは体力も戦術も無理があったようだ。

●4
 スモーマッチ、第2試合。
 ドナトゥースVSフランカ。
「女性相手では戦えないなぁ‥‥」
「そうですか。でも私は元々、スモー取る気ありませんから」
 試合放棄でドナトゥース勝利。

●5
 スモーマッチ、第3試合。決勝。
 ドナトゥースVSメフィスト。
「尻子玉はねぇが〜? 悪い子はいねぇがぁ〜?」
 ドナトゥースは手にはウリを持って、齧りながら登場。恐怖の褐色悪玉(ヒール)として大王河童さながらの風格で土俵入りだ。
 対するメフィストを四股は入念に踏みながら、針の穴に眼線を通すような非常な集中をして土俵に入る。
「ジカンイッパイ!! ハッケヨイ、ノコッタ!!」
 仕切る行司の手が上がると同時に、
「どすこいっ!!」
 メフィストが頭を低くし、真正面から当たりに行った。
 それを迎え撃つのがドナトゥースのフェイントアタック張り手の連発。
「かっぱっぱー(華麗な手さばきだー)!」
 しかしその無軌道な張り手は相手に当たりこそすれ威力に乏しく、低い体当たりに威力負けした。
 ドナトゥースがメフィストを受けとめ、土俵中央でがっぷり四つに組んだ体勢となる。
 上手を取ったのはメフィストだ。ここで投げを打とうとする彼だが、スープレックスが不慣れで、投げの姿勢で思わず身体が泳いでしまう。
 その隙を逃さないドナトゥース。一回転するような体さばきから自分の陰に隠した腕を伸ばし、ブラインドアタック張り手。
「かっぱかっぱ(この手さばき、見切れまい)」
 死角から繰り出される張り手をよけ切れず、メフィストの姿勢が大きく崩れた。
 メフィストはそのまま、ドナトゥースのパワーで土俵を押し出され、土俵の外の地面に倒れた。
 ドナトゥース優勝。
「いたたたた。負けましたけど、いつか勝ちに行きますよ♪」
 立ちあがったメフィストはそう言って微笑む。
 勝者は敢闘の握手を彼と組んだ。
「きゃー! 一番、大きな河童が勝ったわー!!」
 ドナトゥースの勝ちを、我が身の勝利の様に浮かれて叫ぶ依頼人。食いいるようにスモーマッチを観ていた彼女は本当に嬉しそうな浮かれっぷりだ。
 依頼人は、勝者ドナトゥースの身を屈ませて、キスをプレゼントした。その豊満な胸を彼に押しつける。
「‥‥キスは嬉しいけど、既婚者なら不味いんじゃないかな」
「何、言ってるの。あたし、独身よ、きゃー!」
 依頼人は『若妻風』だが若妻ではないのだ。
 それを聞き、ドナトゥースは依頼人をここで口説いておこうか、真剣に考える。
 この後、ドナトゥースは依頼人にせがまれ、河童の衣装のまま、遊泳を披露する羽目になる。
 泳ぐのには季節が早かったが、泳ぎ終わった後は先ほどにフランカが燃やしていた木にまた火を着け、それで暖をとることにする。
 3月の河童日和は、依頼人を無事に満足させ、成功に終わったのだった。

●6
 翌日。
 ドナトゥースはパリの牢獄に出かけて、捕らえられているかすみに面会し、先日の河童な活躍譚を面白おかしく話した。
 更に彼は、冒険者ギルドで噂の素敵仮面、怪盗『ファンタスティックマスカレード』の話題も差し入れる。
「何でも仮面に褌一丁プラス、マントのイギリス産変態だとか‥‥」
 彼の話は噂を伝え聞く内に大分、捻じ曲がっているようだが、話す本人は気づいていない。
「‥‥今度はお嫁さんを狙っているっていうけど、どうなるんだろうね?」
 さて、どうなるのだろう。
 この記録の本分は河童の物語であり、ファンタスティックマスカレードの話ではないのだ。
 何はともあれ、ノルマンの河童天国、これで落着であった。