牛頭の魔物
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:14人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月15日〜03月20日
リプレイ公開日:2005年03月20日
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●オープニング
「お父様! そんなにお父様が私とアンリの結婚に反対だというのなら、私だって考えがありますわー!!」
硝子をこすり合わせるような金切り声が響き渡った午前のお屋敷。
その玄関が開け放たれて、まとめた手荷物と一緒にとびでる女性の影がある。
「私の人生は私のものよ!! お父様のものではありませんわ!! そんなに私の人生を縛りたいなら、私、自暴自棄になってやるー!!」
彼女はそう言い、走り出す。近所にくまなく聞こえるような大声を挙げながら。
「売れない画家のアンリが私なんかにふさわしくないというのならば、私はお父様が選んだような人となんか絶対、結婚しません!! いっそ人外の嫁になるわ!! そうね、ミノタウロスの嫁になってやるわー!! こっちから襲ってやるー!!」
叫びつつ道を走り去るミランダという名のそのお嬢様は、その健脚の速度を落とさぬまま、街を走り去っていった。
目撃者の情報によれば、彼女は近くの森に入っていったという。
そこは牛頭の怪物、ミノタウロスが出現するという危険な森で、近所の者、特に女性は近寄ろうとはしない。
男しか生まれないミノタウロスは他種族の女性に子供を産ませるという。即ちミノタウロスの全てはハーフといえなくもないが、それはさておき、自暴自棄になったお嬢様、貞操の危機である。
ミランダの父は、冒険者ギルドに駆けこみ、娘の保護救出を依頼した。
「ミノタウロスなんて奴に遭ったら、退治して、タンシチューの材料にでもしてしまえ!!」
そんな過激なことを言うその父親は、冒険依頼の契約に多めの料金を払うことを承諾した。
依頼は森から娘を無傷で連れ戻すこと。
ミノタウロスの潜む森での救出行が冒険だ。
●リプレイ本文
●1
昼なお薄暗い森の奥深く、ランタンをかざした一行が歩き続ける。
本多風露(ea8650)は戦闘を避けたくて忍び歩きで移動する。彼女以外の仲間は忍び歩きをしないのであまり意味はないのだが。
ランタンを持った照明係のメフィスト・ダテ(eb1079)は、令嬢ミランダの足跡を探そうと眼を凝らしている仲間達の前方を照らしている。
「まったく、呆れるような依頼だがしくじるわけにはいかない厄介事だ」
メフィストは1人、呟く。
くノ一、九重玉藻(ea3117)は、彼女は森を強引に突っ切るようなことはしていないはずなので、普通に歩けるような場所を中心に彼女の足跡を探す。ただし草木が不自然に踏まれたり折れている場所がないかどうかもチェックする。ミノタウロスの足跡がないかも要チェックだ。
一行はミノタウロスに遭遇することを危険だと考えていた。
七神斗織(ea3225)は視覚、聴覚を研ぎ澄ませて令嬢を探している。彼女もミノタウロスは遭わないに越したことはないと思っていた。
獅臥柳明(ea6609)は念の為、仲間にヒーリングポーションやリカバーポーションを貸し与えている。もし戦闘になれば、返ってこないかもしれないがそれは覚悟の上である。
シュゼット・ソレンジュ(eb1321)は、ミノタウロスが1体だけとは限らないと言い、倒せても他のに出会わない内に逃げ出すべきだと意見を出していた。
「見つけだしたら、こんな森に長居は無用だ」
最初、冒険者達は2班に分かれていたが令嬢の足跡らしきものを追う内、いつのまにかほぼ1斑に合流していた。
戦闘があれば、いつでも前衛に立てる位置にいるヴィゼル・カノス(eb1026)は足元の地面に奇異な足跡を見つけ、マリー・ミション(ea9142)もそれをまじまじと見つめた。
「これって足跡じゃないかしら? ミノタウロスってこんな足してましたっけ?」
一見、裸足のジャイアントの足跡である。
「足跡が随分ありますよ。この近くにいるんじゃないの?」
恐らくはミノタウロスであり、最近つけられたと思しきものが木の根を踏み砕いている。
メフィストは、怪物から感づかれないようにランタンの火を消した。
その時、森の中、皆の右手から角笛の音が聞こえてきた。
近くの村から角笛を借りてきていたドナトゥース・フォーリア(ea3853)のもの。
令嬢発見の合図だ。
●2
発見した令嬢ミランダは手荷物はそのままのようだが、薄汚れ、くたびれて見えた。
それでもミランダを見つけた冒険者達の、彼女に対する第一印象は『気丈』だ。
冒険者達は彼女に、自分達が父親の依頼で連れ戻しに来たことを説明した。
李風龍(ea5808)は、
「親父さんもアンリさんも心配しているから、とにかくひとまずここから出て、それから考えよう」
とミランダを説得する。
しかし、その言葉だけではミランダの決意は揺るがない。気丈の炎が彼女の瞳で燃えた。
ユフィ・コーネリア(ea3974)はここで恋人からの説得の手紙を渡したいところだったが、生憎、アンリは手紙が書けるほど字が達者ではなかった。仕方なくユフィは白紙の手紙をさも恋人の字があるかのように読み上げた。
「‥‥ミノタウロスなんかに君を渡してたまるもんか! 僕は君のお父さんと戦う決心がついた。君を花嫁に迎えるまで、断固として引かない! だから戻ってきてくれ!」
嘘も方便と心の中で舌を出しつつ読み上げた文章に、ミランダの決意がわずかにも揺らいだように見えた。
ヴィゼルは、令嬢のそんな弱気につっこみを入れる。
「恋人がいて、しかもその関係でこうなったってのにその選択はどうなんだよ? その恋人に対しても酷ぇ選択だと思うぞ」
「あなたは事の重大さを解っていますか? 生まれてくるのは全て魔物なんですよ。アンリさんを裏切ることにもなります。さぁ、一緒に帰りましょう」
マリーはフードを深くかぶりハーフエルフであることを隠してながら、ミノタウルスの子供を宿すことがどれだけ悲惨な結果になるかを説く。
それに本多が続く。
「あなたの貞操が化物に奪われたのなら、あなたの恋人は大層悲しむことでしょうね。本当に恋人のことを愛しているなら短慮なことはせず、誠心誠意心を込めて親御さんを説得してみたらいかがですか? 説得しても無駄なら2人で遠くに行ってしまえばよろしいのです」
九重もその言葉にうなづく。
仮面で顔を隠したフェイテル・ファウスト(ea2730)は埒があかなければ、令嬢を魔法で眠らせ、強引に連れ帰ってしまおうかとも考えていたが、彼女の顔を見る限り、そこまでしなくてよさそうだ。
今、令嬢の顔には最初とは違う『決意』の色が見えていた。
「親の決めた婚約者が嫌だからと家出をするだけなら、行動的なお嬢さんと言えなくもないが」
ロシアから来たハーフエルフ、ユラヴィカ・ジルヴェ・ナザル(eb1149)は腕を組み、言う。
彼は彼女の、ミノタウロスの嫁になろうという論理飛躍が素晴らしいと思っていた。どういう思考回路をしているかは謎だが、思い切りのよさには拍手を送りたいほどだと。
「本気であの牛の妻になってもいいと思うのか? 好きな男の代わりに、毛だらけの異臭ただよう牛鬼に抱かれたいのか? ‥‥本気で抱かれたいというのなら止めはしないが」
その言葉を言ったのと、森の奥から牛頭の化け物が現れたのはほとんど同時だった。
●3
のっそりとした歩調で、しかし確実にミノタウロスは冒険者達に接近してくる。
雄牛の唇から漏れる吠え声。隆起した筋肉に支えられた双刃の斧。血走った眼。
冒険者達は撤退戦を開始した。
「今回の依頼は捜索と救出だからな。倒す気なんてあんまりないんだよ」
ヴィゼルは言いながら、持っていた保存食を相手の側に投げた。これで興味が反らせられればよかったのだが、生憎、ミノタウロスはそれに眼をくれず、自分達の方へやってくる。
ユフィは遠方から弓矢を射かける。
「ごめんなさい。死んでもらいます♪」
フェイタルもそう言いながら、まだ敵が遠方にある内に『ムーンアロー』を射かけた。
顔をしかめてダメージに耐えるミノタウロス。しかし歩速はむしろ速まる。
マリーは今の距離を保てる内に、高速詠唱で『ホーリー』を発動させる。
フェイタルは『シャドウボム』へと攻撃を移行し、敵の足もとの影を爆発させる。
シュゼットは『ライトニングサンダーボルト』。紫電が森の空気をきな臭くする。
ダメージをはねのけるように、ミノタウロスは突撃。
『ライトニングアーマー』をまといながら獅臥は、ミランダを守るように彼女と戦闘地帯をいち早く離れる。
ユラヴィカもクレイモアのスマッシュで一撃を加えた後、即離脱。戦闘時の高揚に捕まらない内に戦地を後にした。マリーも一緒である。
七神も敵を牽制しつつ、撤退に移る。ヴィゼルもだ。
ミノタウロスを一時、足止めしようとする者が戦う。
「おほほほほほほ! 行け、エリザベス!」
九重は高笑いと共に大ガマを召喚。ミノタウロスに体当たりさせる。
振り回されるミノタウロスの斧が大ガマに命中。側の幹に身体を叩きつけた。
李は、日本刀と脚払いの同時攻撃でミノタウロスを転倒させた。
ドナトゥースは、鞘から抜き放った状態で両手持ち。腰を捻って背中に刀身を隠し、初撃に全てをかける。
「食らえ! 『獅子咆哮』ッ!!」
掛け声と共に繰り出される一撃はしかし必殺とまでは行かず、太腿に深手を負わせるに留まった。
ミノタウロスの振り回した斧が、ドナトゥースを胸板を切り裂く。李はその傷を『リカバー』で癒す。
メフィストは『オーラパワー』を発動し『オーラショット』を射撃する。
無理な突出はせず、仲間と連携しながら戦っていた本多は、大振りの斧をかいくぐり、『霞刀』で急所を狙い撃ち。しかし思ったようなダメージを与えられず、ここが退き時と悟る。
冒険者達は大ガマのエリザベスが足止めで戦うに任せて、この場を撤退することにした。
戦いの中で傷を負った者達は、先に令嬢を連れて撤退した仲間達の後を追った。
●4
森を離れ、冒険者達は令嬢ミランダを連れての帰路を辿る。
「貞操だけは護らなければ、絶対後悔することになるわよ」
帰り道でマリーは、ミランダにそう説教した。
七神も武士らしく礼儀正しく真摯に彼女を説得する。
「お父上への当てつけでミノタウロスの嫁になるなど‥‥言語道断ですわ。今のあなたはそれでもよいと思っているのかもしれませんが、残されたアンリ様はどうするのですか? あなたは彼を愛していらっしゃるのでしょう? 彼を悲しませるようなことをしてはいけませんわ」
「‥‥思い直しました。私、ミノタウロスの嫁になんかなろうと、もう思いませんわ」
説得に対して、きっぱり答えを返した令嬢ミランダのその顔は、実際にミノタウロスを見た恐怖で今も少々、青白んでいる。
「どうせ認めてくれないなら一緒に逃げちゃえば? ミノタウルスに嫁ごうとした勇気があれば、きっとうまく行くわよ」
「もし駆け落ちしたいならギルドで依頼してくれれば、格安で駆け落ちを手伝ってあげるわよ」
そんな彼女にマリーは小声でそっと囁き、九重も笑みを浮かべながら、そうそそのかす。
屋敷へとミランダを連れかえった冒険者達の内には、彼女の父親に、彼女と恋人アンリの結婚について認めさせようと説得する者もいた。
果たして、ミランダとアンリの行く末がどうなるかは彼ら次第であるが、何かあれば冒険者達はまた助けに現れるかもしれない。
とりあえずはミランダがミノタウロスの嫁になろうなどと思うことは、もうないようであった。