世界を癒そう
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月12日〜04月17日
リプレイ公開日:2005年04月18日
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●オープニング
その派手な衣装を身に着けた黒髪の美青年は、冒険者ギルドの扉を後ろ向きにくぐってきた。
彼の素振りはまさしく前へと歩く動作である。しかし、その姿勢のまま、細身の身体は床につけた足が滑るように後ろへと歩く。観る者を魅了する滑らかな動きは美しいパフォーマンスでもあった。
「あなたはエムジェーイ!」
「アオ!」
見ていた冒険者が呼びかけた名前にその美形は天井を仰ぎ、吠えて応えた。
エムジェーイ。
歌とダンスの上手さで名が知られた歌い手である。その中でもダンスの上手さは飛び抜けていて『月を歩く者』という称号さえあった。
そのエムジェーイが冒険者ギルドを訪れ、受付に告げたのは次のようなことだった。
エムジェーイがある孤児院のためのチャリティ・コンサートを当の孤児院内舞台で行うことになっていた。
しかし、彼と組んでコンサートに出ることになっていた吟遊詩人などパフォーマーやスタッフが食中毒のために寝こんでしまったのである。幸い、エムジェーイ1人は菜食主義者のため、同じ料理を食べていなくて助かったのだが、このままではコンサートを中止せざるを得ない。
エムジェーイは彼らの代役を冒険者達に依頼にしにきたのだ。
「僕と楽しいコンサートをし、一緒に世界を癒そう! フォー!」
スピンを決めたエムジェーイは、依頼契約の書面を受付で取り交わすとまた華麗な足さばきを見せながら帰っていった。
その背を見送った受付係は溜め息をついたのを周りの冒険者達は見逃さない。
「‥‥え、何故、溜め息をつくのかって? ‥‥実はですね、エムジェーイさんは確かに芸術的な歌い手さんですが、裏で少年に手を出す悪い癖があるって噂なんですよ。‥‥孤児院の子供に手を出したりしなければいいんですけどね」
成る程、ではパフォーマーやスタッフとして支えるのと共に、エムジェーイの悪い虫をどうにかすることも必要なわけだ。彼が子供に手を出すことなどあっては成功したイベントとは言えない。
エムジェーイのコンサートが成功するかは、冒険者達の双肩にかかっているのだった。
●リプレイ本文
●1
奇麗な夕焼け。4月も半ばに近づき、あと数日でエムジェーイのコンサートを迎えるという日。
会場となる孤児院でルチル・カーネリアン(ea9817)が舞台セット作りや手直し等、裏方の仕事の手伝いに追われている夕刻、ルーシェ・アトレリア(ea0749)とノイズ・ベスパティー(ea6401)はキャメロットの市場や酒場で歌を歌って人を集め、コンサートの宣伝を専ら努めていた。
「もうすぐ孤児院でかの有名なエムジェーイさんのチャリティーコンサートがありまぁーっす! これを見ないとキャメっ子じゃないよー!!」
夕陽に染まりながら、市場で声を張り上げるシフール、ノイズ。この数日、孤児院の子供の面倒を見てきた2人は、コンサートの成功を祈って声を大きくし、雑踏の中で注目を浴びる。
ジプシーのジゼル・キュティレイア(ea7467)は、昼間は街角で占いや大道芸をやりながらコンサートを宣伝、夜は舞台衣装や小物の準備をする者を手伝っていた。
各人の思惑がありながらも、冒険者達はコンサートを成功させるために奔走する。
準備万端。こうなると一番の不安材料は、エムジェーイの例の悪癖だ。
●2
「ねぇねぇ、エムジェーイさんて良くない噂があるのぉー? 本当?」
イリヤ・ツィスカリーゼ(eb0603)は孤児院の子供達に直に訊いてみた。
しかし、孤児達はその噂のことは知らなかった。もしくは信じていなかった。
イリヤと同じように孤児達に紛れこんでいる村上琴音(ea3657)は当然、噂を知っている。孤児に紛れこんだ村上は彼らの中からエムジェーイを監視しているのだが、今のところは彼に不審な挙動は見られない。
特に彼をひたすら見張っているユウン・ワルプルギス(ea9420)の監視の容赦なさは、エムジェーイに1人きりの時間さえ与えない。
「何故、君は僕をそんなに見張るんだい? フゥー!」
エムジェーイを嘆かせるほどユウンのチェックは厳しいものだ。
ここで1つ、心配が出来た。あまりにも厳しいチェックは、コンサートを前にしたエムジェーイに余計な気疲れをさせてしまうのではないかと。
そこでエムジェーイの監視からユウンを外す代わりに、ジゼルは鈴のついたアクセサリーを彼につけさせることにした。この音が聞こえることで今、何処にいるか解るようにするというのだ。
監視はユウンからシフールのポップ・ヴェスパティー(ea7430)に代わった。
「はじめましてエムジェーイさん、同じ舞台に立てるなんて幸せです‥‥僕‥‥あなたの大ファンだから‥‥」
愛想のよい笑顔で挨拶するポップだったが、内心は兄弟であるノイズをこの変態オヤジの手から守ろうとする使命感で満ちていた。うっかりにもこの依頼を受けたノイズにエムジェーイの毒牙が向かないよう、自分を犠牲にしても食いとめるつもりでいて、そのためにはわざと『少年』らしくしてエムジェーイの興味を惹くつもりだ。
寝室にもトイレにもついてくる勢いの彼に、エムジェーイの態度はそわそわと落ちつかなくなる。時折、ポップの肩に手を回しながら語りかけるようになった彼に、
「‥‥いくら『リカバー』があるからってスターの顔に鉄拳制裁はよくないものねぇ」
聞こえるようにそう呟いたのが白井蓮葉(ea4321)。
その言葉を聞き、少年愛疑惑のある歌い手の手がびくっと引っ込む。
「エムジェーイさん、あくまで1つの仮定として喋らせてもらうけど‥‥」
部屋の窓際に立ったユウンの背中が語り出す。
「別に僕は君の個人的な性癖にとやかく口出しをするつもりはないよ。むしろ『エムジェーイは少年に手を出す』という風評が広まって困るのは、君の方じゃないかな」
窓からは4月の夕の風が入ってくる。涼しいほどに爽やかな風。
「君はもっともっと有名になることに力を傾けるべきだ。そしてそんな悪評をものともしないほどの名声を手にし、そして少年達に好かれるように‥‥色々な意味で」
とんでもないことをさらっと言ったユウンの背中。
「例えば豪邸だ。君が巨万の富を手にしたら娯楽施設を自宅に設けるといい。‥‥君が子供達に夢や希望を共有出来るような、一緒に遊べて、君と少年達がもっと親密になれる‥‥」
「勿論、子供達を傷つけるようなことはダメだよ」
言葉を投げたのは、舞台演出の打ち合わせから小休止に帰ってきたルチルだった。
「子供を傷つけるのが許されるわけないじゃないか。歌や踊りで世界を癒そう! とか言ってるくせに子供に癒えないほどの傷をつけてるのが解らないんじゃ、すべてが上辺だけのもんになっちまうよ‥‥。志と行動を矛盾させちゃダメさ‥‥」
ルチルが言った言葉は、窓際のユウンとエムジェーイを振り向かせる。
エムジェーイは、1人にさせてくれと言うと、鈴の音を鳴らしながら自室へと入っていった。
●3
コンサート当日。客席は大入り満員。
孤児院の特設ステージではコンサートの前座となるオペラ『火種売りの少女』が始まっていた。
「火種はいりませんか‥‥? 火種はいりませんか‥‥?」
「身よりのない少女は火種を売って暮らす日々〜♪ 売れない火種、凍える身体〜♪ 手をつけた火種で温もることは出来るのか〜?」
主役の少女を演じるルーシェの背景で、リュートベイルを演奏しながらナレーションを歌声で語るメロディ・ブルー(ea8936)。
真冬のある日、火種売りの少女ルーシェは火種を売ろうと各家庭を巡るがつれなくされ続け、暖を取るためにとうとう売り物の火種に手を出してしまう。
火種の火を宙にかざせば『ファンタズム』の演出効果で空中に浮かび上がる、温かそうな食事の幻。
やがて消えていく火の替わりに新しい火種を宙にかざすと、今は亡き父母の思い出や温かそうな幻の物品が浮かび上がる。しかし、それも売り物が尽きるまで。やがて暖をとる手段がなくなった空腹の少女は凍えた身体で路面に倒れた。
「ああ、神は少女を見捨てなかった〜♪ 救いの手を差し伸べたる若きクレリック〜♪」
メロディの声と共に優しいクレリック役のバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)が現れ、少女ルーシェを抱き起こす。孤児院の出身である彼は優しく温かい笑顔が迎える孤児院へと少女をつれていき、これからは彼らと楽しく過ごすことになるという、そういうストーリー。
「さあ集え、素晴らしき神の子供らよ。天に宝を積むは今〜♪ 天に宝を積むは今〜♪」
さりげなく孤児院への寄付を募る文句が歌声の中でリフレインし、前座のオペラは幕を閉じる。
●4
暗いステージの照明の炎が突然、燃え盛った。
「アオッ!!」
舞台の奈落からエムジェーイが飛び出し、いきなり歌い出す。素晴らしいダンスパフォーマンス。
ルチルの『ファイヤーコントロール』による照明操作や、村上の『ウォーターコントロール』による噴水でステージ上は躍動的な派手な雰囲気で盛り上がり、ポップとメロディの演奏もステージに華を添える。
狼男の扮装をしたフレイハルト・ウィンダム(ea4668)をバックコーラスに従え、有名な曲『戦慄』が歌われる。シーヴァス・ラーン(ea0453)がダンサーとしてエムジェーイと共に観客を舞で魅了する。
大ノリの観客。
観客の中に立ち、エムジェーイが客の子供達に何かをしでかさないかと見張っていた白井は、彼が何かをふっきった調子でコンサートに専念しているのを見て、安心する。
「えぇぇ?! お‥‥おトイレ? え〜っと‥‥おトイレ行きたい人ー!」
彼女の傍でノイズが観客の子供達の相手に奮闘していた。
ジゼルも今にもステージに上がりこもうとせんが勢いの客を整理するのに忙しい。
歌が1曲終わる度、ステージ上の書き割りの背景が舞台袖に引っ込んだりとめまぐるしく配置を変える。マルト・ミシェ(ea7511)の『サイコキネシス』による仕事だ。スピーディーな転換がステージにスピードを生み、素晴らしいテンションを維持する。
セラフィエル・オーソクレース(ea9013)の竪琴演奏と歌が加わり『世界を癒そう』をエムジェーイは歌う。彼女の声と竪琴の音色がエムジェーイの声と絡み合い、美しいハーモニーになった。
滑らかなダンスの流れから飛び出すスピン。そして前を向いたまま後方へと滑る足さばき。
シーヴァスは『ホーリーライト』の光で自分を演出し、ダンスで勝負を挑まんとステージ上でエムジェーイのパフォーマンスを真似し始めたが、今の彼の技量では『月を歩く者』にまだ及ばないことを悟るしかなかった。
エムジェーイの高音が吠える。歌われる『黒か白かなんてどうでもいいじゃないか』。
1時間半にも渡るステージは冒険者達と繰り出されるパフォーマンスの中であっという間に過ぎていった。
コンサートのラストは観客も加わった『僕達は世界だ』の大合唱で締められる。
こうして盛況のコンサートは無事に幕を閉めたのだった。
●5
「君達のおかげでコンサートが無事に終わった。‥‥僕も色々と自分を見つめなおすことが出来たよ。ありがとう、フォー!!」
コンサート後の打ち上げで、エムジェーイは冒険者1人1人に握手を求めてきた。このコンサートを終えた彼は何か、一皮剥けたような気さえする。
これを機に、悪い噂が消えてくれれば‥‥冒険者達は真剣にそんなことを願う。
最後の握手はフレイハルトだ。
何はともあれ、コンサートは成功。楽しい時間を共に過ごした冒険者達は無事に報酬を受け取った。