●リプレイ本文
●1
4月から5月へと移り変わる頃の、遅い春の温かい風が森の空気を運んでくる。
深い森の懐にある村。
金髪をかぶせて耳を隠したクロト・クルセイド(ea9882)は、前の冒険者達がオークと戦った森や洞窟がどのようなものであるかを村人達に訊いていた。彼女は村人から訊いた周辺の様子を木版に木炭で描きこんだ。
オーク達の武装は戦槌が主だったという。他は旅人から奪ったらしいナイフとか。
「どんな情報でも、ないよりはマシですから‥‥」
アルカード・ガイスト(ea1135)はそんなことを言いながら、オークの目撃情報を訊きこんでいる。
羽紗司(ea5301)とセオフィラス・ディラック(ea7528)は、ギルドで前回の依頼報告書を読んで掴んできた情報を村人達の言葉と照らし合わせていた。
「逃げたオークか。退治してしまわねばならないのはいたしかたないか」
「彼らもこの世界の住人には違いないのよね。そう考えるとつらいわね」
情報収集の傍ら、羽紗はそんなことを呟き、エルドリエル・エヴァンス(ea5892)も相槌を打つ。
「強いオークか‥‥どんな奴だろうな」
そんな彼らとは対称的にセオフィラスは強そうだというオークとの対戦を今にも待ち望んでいるかのよう。
「どちらかといやぁ、後始末みたいな依頼だけどな‥‥誰かがやらなきゃいけねぇんだろさ」
銀髪を掻きながらそんな感想を漏らすのは龍深冬十郎(ea2261)。
夜枝月藍那(ea6237)は森のことを村人に詳しく訊き、前のオークが行動していた範囲も検討する。
そして、やはりオークの再集結の場になりそうなのは、前回に掃討した洞窟だろうという結論になり、身支度を整えると早速そこの調査へ出かけることにした。
●2
「オーク、オーク、オーク〜♪ オークを狙〜え〜♪」
道行きの鼻歌が思わず口に出るジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。
冒険者一行は1時間もしない内に洞窟の見える場所までやってきた。
急襲を警戒していたセオフィラスとアルカード、近藤継之介(ea8411)は緊張を解く。
森の中の拓けた丘の中腹にある大きな洞窟は、暗く深いうろをさらけだして冒険者達を待っているかのようだ。
ここで冒険者達はかねてからの計画通り、2班に分かれた。
1班は洞窟周囲を調査する。もう1班は少し離れた所を。
エルドリエルは同じ班の仲間と洞窟の裏手に回る。その後をアレクサンドル・ロマノフ(ea8984)とクロトが追うように続き、更にその後を夜枝月が追う格好。彼らは周囲の森の痕跡を探る。
龍深は入り口辺りから、洞窟の中を提灯の灯りで覗きこんだりする。
洞窟の前にここ数日のものであるオークの足跡を見つけたのはレゥフォーシア・ロシュヴァイセ(ea6879)だった。彼女は孫龍鈴(ea8387)と妹のフェルシーニア・ロシュヴァイセ(ea6880)を呼び、この周囲を詳しく調べてもらうようお願いした。
「足跡がこんだけあって、歩幅とかを考えればオークの数がどれぐらいかは解ると思うよ」
次々に新しい足跡を見つけだした孫は、ここにいるオークの数を割り出そうとする。
「6体というところか‥‥大きいのが1体いるな」
「龍鈴さん、怪我をしても私がリカバーで癒しますから、安心してくださいね♪」
「私と妹がサポートします。ですから攻撃に専念を‥‥この身にかえてもお守りします」
地面を睨む孫に、フェルシーニアとレゥフォーシアの姉妹が語りかける。
「どうする? 燻し出すか?」
孫が自問するように言った時、洞窟の前方を捜索していたロゼッタ・メイリー(eb0835)が声を挙げた。
「オークですわ! オークが現れましたわ!」
彼女の指差す方向に向いた皆は、森の中から戦槌を担いだ豚頭のヒューマノイドが5人現れたのを見た。
彼らは自分達のねぐらに人間達がいるのに驚いたようだったが、すぐに戦槌を構えて戦闘態勢をとる。
●3
敵も味方も、互いの間合いを計るようにじりじりとした緊張の空気の中を泳いだ。
分かれていた2班はロゼッタの挙げた声を聞いて、洞窟前で合流。自然な流れで前衛と後衛に分かれた。
夜枝月は既にアレクサンドル、クロト、エルドリエルに『グットラック』を呪付している。
ロゼッタはロシュヴァイセ姉妹に『グットラック』を呪付した。
「皆の者、や〜っておしまい! ‥‥な〜んてね」
ジョセフィーヌは軽口を叩く調子で長弓を構え、適切な射撃位置まで移動する。
オークが一斉に走り出した。武器を構えながら距離を詰めようとする。
「そんなにせっかちさんだと、女の子に嫌われちゃうぞ♪」
エルドリエルは『アイスブリザード』を敵中に発生させる。
アルカードの詠唱は『ファイヤーボム』を。
一瞬の吹雪と灼熱の膨炎がオークの突撃を止めた。
「接近戦は任せましたよ」
アルカードは前衛が走り出す前に、セオフィラスの太刀に『バーニングソード』を付与する。
足が止まったオークの1人に、近藤が牽制で放った真空刃が命中する。
ジョセフィーヌの矢がオークの胸に1本、突き立つ。
龍深達、前衛が接近する。1人のオークの戦槌が龍深のシールドソードの表を重く叩いた。
「冒険者を、お前らと同じ烏合の衆と思うなよっ!」
龍深のシールドソードはそのオークを肩口から一気に斬りさばいた。
エルドリエルはその龍深の相手となったオークに『ウォーターボム』を放ち、とどめとする。
魔法で傷ついていたオークの首筋に羽紗の蹴りがまともに入る。その倒れたオークはクロトの『ホーリー』の白く淡い光に身を包まれ、最期の叫びを挙げた。
孫のワンツーパンチから足払いが決まり、1人のオークが泥土に倒れた。そのオークにレゥフォーシアの『ブラックホーリー』が決まり、絶命させる。
数の差や作戦もあり、冒険者達の一方的な押せ押せムードだった。
セオフィラスは胸に矢の立ったオークを、炎の太刀の一撃で屠った。
大きく振りかぶってからの近藤の斬撃が、頭をかばったオークの戦槌ごと頭蓋を割り、地に打ち倒す。
オークを全て倒した思った瞬間、冒険者達は新たな脅威が洞窟の中から現れたのに気づいた。
そのオークは今倒した5人よりも体格が立派な、武器である戦槌も一回り大きな相手だった。
●4
オークの戦士が吠えた。
突撃による一撃が龍深の手からシールドソードを弾き飛ばした。
前衛の陣を崩された冒険者達は、戦いながら陣形を組みなおす。
クロトはクルスソードを抜いた。
「ゲロくせえオークがでしゃばってんじゃねえ!」
後衛のアレクサンドルから『グラビティーキャノン』が放たれた。高速詠唱による2連発。黒い光条の衝撃に翻弄されるように弾き飛ばされ、オークが地面に転倒する。射線上の潅木がとびちった。
怪物は武器を構えながら急いで起き上がろうとする。
「魔に属す者‥‥闇に身を置く者‥‥同じ闇なる夜に捕らわれよ!」
そこにレゥフォーシアが近づき『ダークネス』による眼くらましを試す。
「暴れ狂える者、刻の束縛を受け、その活動を留めよ!」
そしてフェルシーニアが『コアギュレイト』。しかし彼女の魔法は装備が重すぎて成就しなかった。
オークは真の暗闇に包まれた状態となった。まるで闇の塊のようなオークが戦槌を振り回し、人と樹木の区別もつけず、周囲の森を力一杯殴りつける。
その闇にエリドリエルの『ウォーターボム』が炸裂する。飛沫が森に音を立てる。
孫はその大振りの隙に軽やかに飛び込むと金属拳によるパンチを見舞う。
魔法の闇はやがて消えた。
羽紗はオークの攻撃を受け流し、その隙に蹴りを撃ちこんだ。しかし次の瞬間、振り回された戦槌を胸板に食らい、後方の木へと弾き飛ばされた。
「大振りの一撃を食らうのは危険だ! 疲れさせるんだ!」
孫は叫んだ。
冒険者達はしばし防御と回避に専念する。相手を引きつけるようにしながら、その深くにはとびこまず、かわし続ける。
オークは冒険者を追い、戦槌を大振りで振り回す。だが捕まる者はいない。その疲労が蓄積されたダメージと共に段々と動作に緩慢さを目立たせるようになっている。
アレクサンドルの『サイコキネシス』が敵の武器の軌跡をねじ曲げ、それがますます相手の疲労になる。
疲労が極みに近いと見た近藤は、オークの正面に立った。刀は下段にある。彼はオークの大振りを翻した刀で受け、そのまま刃を打ちこんだ。
「‥‥北辰流目録‥‥『受返』‥‥!」
カウンターを受けたオークの肩から大きな刃傷が疾る。
身を翻すと、怪物は逃走に移った。
「逃がすかぁ!」
戦いの緊迫感の中で狂化していたクロトは、逃げるオークに背後から斬りつけた。
背の傷から盛大に血を吹き、オークは森の地面へと勢いづきながら転倒した。
倒れ伏し、身を震わせていたが、口から血を吐くと動かなくなる。
オークの戦士は死んだ。
「皆でボコれば怖くない♪ なんちって」
緊張の解けた戦場でフェルシーニアが言い、ロゼッタは羽紗の怪我を治すため『リカバー』を使った。
●5
皆が埋葬し終わる頃には陽も暮れ始めていた。
オークを地に埋めようと言ったのはクロトだった。衛生面からの考えもあるようだが、自分達が倒した人型のものを埋めようとする提案に皆から特に反対はなかった。
洞窟の中にあった前の冒険者達が屠ったオークの亡骸も集め、全てを地に埋めると、墓標のない墓の群が出来あがった。
疲れた冒険者達は村での一晩の歓待を期待しながら帰途についた。