新説? 桃太郎
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月02日〜07月07日
リプレイ公開日:2004年07月08日
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●オープニング
その呼ばわりは、冒険の依頼というよりは観劇の誘いだった。
「わが『アサギリ座』の今回の演目は『桃太郎』です。ここにいらっしゃる冒険者の方々にも、どうか友人家族をお誘い合わせの上、観劇、参加のほどをお願い申し上げます」
ギルドにやってきた男が声高々にそんな口上を読み上げる。
しかし『観劇』はともかく『参加』とはどういうことか?
実はノルマンに『アサギリ座』という小さな芝居小屋がある。
その小屋は一風変わっていて、いつもジャパンに伝わる『桃太郎』や『かぐや姫』などのお伽噺の数々を演目として公演するのだ。ジャパン文化の理解を深める手助けになりたいという、そんな方針らしい。
ただしマンネリ化したせいか、最近の興行は落ちこんでいて解散は間近いなどと噂されているが、それにしても観劇の誘いで『参加』などと言うのはどういうことだろう。
そんなことを考えていると、一座の宣伝をしに来た男はさらに声高く言った。
「わが『アサギリ座』は今回より新機軸、『お客様が参加できる演劇』を始めることにしました。‥‥もし公演中、お客様が飛び入りの役者として突然舞台に上がって物語の登場人物になりたいと思うなら、わが一座はそれを受けとめます。桃太郎の4番目のお供として鬼退治に参加したいというならばそれも結構です。かぐや姫の求婚者として姫をさらって逃げたいというのなら、わが一座の役者達はアドリブで何とか対応いたします。今までお伽噺を聞いていて、結末が気に入らないとか、自分なら話の筋をこうするのにとか、そういう思いを抱いたことはありませんか? わが『アサギリ座』はそんなあなたの思いをかなえるお手伝いをできるかもしれませんよ」
‥‥客が参加して自分の思うように筋を変えられる?
ちょっと魅力的な気もするが、大勢の人間がわれもわれもと参加して、めいめいに話の筋を自分の思う方へと引っ張りはじめたら劇はどうなってしまうのだろう。劇が破綻してしまうのではないだろうかと、ちょっと心配な思いがする。
「勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことはお忘れにならないようお願いします」
聴衆の思いを読んでいたように男は言う。
「座長のいうことには『ウケるが勝ち』‥‥そういうわけで」
観劇料は1人10C。これは見るだけの客だけでも、飛び入りの役者になる客でも変わらないらしい。
幾らかの興味が胸のうちに湧いてきた。
●リプレイ本文
●1
アサギリ座。開幕。
舞台中央に立つクロウ・ブラックフェザー(ea2562)がいきなり客席に呼びかける。
『みんなー、こんばんはーっ!!』
ほとんどがその呼びかけにあ然とする客席。
クロウは口調を丁寧に改めるとナレーションを始めた。
『‥‥昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
2人は、お婆さんが川で拾ってきた大きな桃に入っていた男の子を『桃太郎』と名づけ、大切に育てました。
ある日、立派な若者になった桃太郎は鬼退治がしたいと言い出し、鬼が島へと旅だちました‥‥』
クロウは舞台袖に下がりながらも語りを続ける。
●2
場面転換。舞台はジャパンの街道で鬼達が悪さをしている光景となる。
人々を蹴散らす赤鬼、青鬼達は客席にすら唸って、怖がらせようとする。
『こんな時こそ! 彼の名を呼ぶんだっ! みんな元気良くなっ! せ〜のぉ‥‥もぉもたろぉぉ!』
クロウは叫んだ後で、客席の声に耳をすました。
『‥‥声が小さいな。もっと大きな声で! せーのっ! もぉもたろぉぉォォ!!』
その声に応じ、舞台上手から赤髪褐色肌の桃太郎、リュオン・リグナート(ea2203)が登場。
金棒を持った鬼達と桃太郎リュオンが幾度か斬り結ぶが、リュオンが模擬刀を奮う様は実戦さながらの迫力。
やがて鬼達はかなわぬと知るや、舞台下手から退場する。
刀を鞘にしまう桃太郎。
そんな桃太郎の前に、ラヴィエール・クロース(ea1577)が登場。フリルとレースのついたピンク色ワンピース、ピンクの犬耳と尻尾をつけた彼女は腰を振りつつ、お供になりたいと申し出る。
「ピンクは愛と正義の味方なのですよー」
言って、ピンクの尾がついた腰をさらに振る犬ラヴィエールを見て、さてどうしようかと桃太郎リュオン。
「仲間に入れてくれませんか? ‥‥ダメ?」
小首を傾げつつのラヴィエールは、声色を使って子犬のような声で鳴く。
「解った。じゃあ、きび団子をやろう」
桃太郎リュオンが犬ラヴィエールにきび団子をやろうとした時、きび団子役のガゼルフ・ファーゴット(ea3285)が舞台に現れた。
「俺、きび団子っていうんだ‥‥」
頭には黄色く丸いハリボテを被り、手足が出せる大巾着を着こんだガゼルフは照れながら挨拶する。巾着には『きび団子』と白く染め抜かれている。
「つまらないものなんだが‥‥」
そう言いながら、きび団子ガゼルフは犬ラヴィエールへと懐からきび団子を出し、渡す。
客席最前列。食べ物自体が仲間になるという、そんな展開の舞台に客として観ていたウリエル・セグンド(ea1662)は、妙な感激を覚えた。
「やる‥‥な、きび団子とやら」
呟きながらウリエルは意を決する。客席から舞台へと、飛び入りの乱入。
「俺はキジ‥‥きび団子をくれたら‥‥力を貸そう」
突然に自分をキジと言い張るウリエルは、全然、鳥らしくないだろ、と桃太郎リュオンに突っ込まれるが、
「それは‥‥気にするな‥‥これはひと目を忍ぶ仮の姿。眼には見えなくても心に羽があるから‥‥大丈夫だ‥‥ケーン」
よく解らない謎な台詞で、桃太郎のキジ役を奪い、きび団子をもらってしまう。
その後、さらにキビ団子を与えた猿も仲間に加えた桃太郎一行は、道中の途中で行き倒れていた旅人、イクスプロウド・アレフメム(ea1613)を見つけて助け、鬼が島への安全な入り方を知っているという彼の導きで一路、島を目指した。
●3
『舟に乗って鬼が島を目指した桃太郎一行は、旅人の案内で鬼が島へと隠密潜入します。‥‥しかし、そこで待っていたのは、恐ろしくも美しい鬼姫に率いられた鬼達の待ち伏せだったのです!』
クロウのナレーションと共に暗転した舞台は、エルザ・ヴァレンシア(ea4310)が演じる『鬼姫』に率いられた鬼達が、桃太郎一行を包囲しているという場面となる。
旅人イクスプロウドはニヤリと笑った。
「私の正体は、鬼が島の鬼達に雇われた秘密諜報員兼助っ人『アチアチ魔王』イクスプロウド・アレフメム! ふふふ、あなた達の情報は私が逐一、連絡していたのですよ。おかげで迎撃体制は万全というわけです」
旅人イクスプロウド、いやアチアチ魔王は言いながら鬼姫エルザの方へと走りよる。
鬼姫エルザは高笑い。
「おほほほほっ、鬼の圧倒的武力にひれ伏すがいいわ♪ ‥‥って何〜!! めっちゃタイプの殿方発見!!」
桃太郎を見て、思いがけず胸がときめいている鬼姫の叫びをよそに鬼と一行の戦闘は始まった。
金棒を振るう赤鬼、青鬼と武器を交える、桃太郎、犬、猿、キジ。
「俺はキジ‥‥クチバシ以外では戦えない鳥‥‥だからな‥‥ケーン」
呟きつつ、クチバシに見たてた手刀で地味に闘うウリエル。
そんな戦闘シーンで、きび団子ガゼルフは鬼を相手に、
「あの、俺きび団子なんですが、食べてくれません?」
とおずおずと申し出る。
「頼みますよっ!! 俺も団子人生かかってるんですから!!」
滂沱の涙を流しつつ叫びつつで食い下がる彼に、赤鬼が仕方なさそうな表情で出された団子を一つ摘む。すると、
「かかったな!! 俺は毒入りだ!!」
と理不尽でハジケた叫びをきび団子はあげる。
そんなよく解らない戦いもあったりしたが、大勢の鬼を相手にしても桃太郎一行は手ごわく持ちこたえた。
この待ち伏せを跳ね返して桃太郎は勝利するだろう。客席の観衆がそう思った時。
突然、色とりどりの花のカーテンの中から、額に角を生やしたゼルス・ウィンディ(ea1661)が華やかに登場する。
「初めまして皆さん。私の名前は『ゼル』。呼ぶ時は親しみをこめて『ゼル様』とでも呼んで下さい」
鬼の幹部ゼルスは女性客を意識したさわやかな笑顔を披露。そして桃太郎の仲間達を静かに見据える。
「あなた達の実力は見せていただきました。実に素晴しかった。どうです? 私と手を組みませんか? 仲間になれば、高給待遇で三食昼寝付き、しかも週休5日ですよ」
その勧誘を聞いた犬ラヴィエールは、自分の犬耳と尻尾をピンクから黒色の物へとつけ替えた。
「愛と正義だけじゃ生活できませんわー。ゼル様ぁー」
現実的な発言つきで、鬼の幹部ゼルスの元へと走って寝返る犬ラヴィエール。
「うんうん。素直でよろしいですね〜」
鬼の幹部ゼルスは、ラヴィエールの頭を撫でながら笑う。
「俺にも‥‥三食保証というところが魅力的だ‥‥ケーン」
キジのウリエルまでもあっさり寝返り。次いできび団子ガゼルフもアチアチ魔王イクスプロウドに買収されたが、それはきび団子魂ではねのけた。
しかし結局、猿にまでも寝返られてしまい、きび団子以外の味方をなくした桃太郎は気力が萎える。
戦う気をなくした彼らは、あっさりと鬼に捕まってしまった。
●4
舞台は場面転換し、クロウのナレーション。
『仲間に裏切られ、捕虜となってしまった桃太郎ときび団子。鬼達はそんな彼らを下僕としてこき使います。‥‥嗚呼、この世に正義はないのか!?』
鬼が島の城砦の中では、桃太郎リュオンときび団子ガゼルフが奴隷のごとく働かされている。
「全く、皿洗いにいつまでかかってるんですか? それが終わったら庭の掃除と廊下の床磨き。その次は、犬さんのお散歩と、お猿さんのノミ取りと、キジさんのハジラミ取りですよ」
鬼の幹部ゼルスの容赦ない台詞と共に鞭が唸る。床打つ鞭の響きに追いたてられて、待っている仕事の山をこなすしかない2人だった。
●5
『終わらない労働に疲れ切った桃太郎ときび団子。‥‥しかし、意外な救いの手は恋の翼と共に桃太郎へ訪れます』
場面は転換し、城砦は全ての鬼やその仲間達が倒れて横たわる死屍累々の光景と変わる。
景色の中で呆然と立っている桃太郎リュオンときび団子ガゼルフ。
その時、姫装束をひるがえしつつ、颯爽と舞台に現れたのは鬼姫エルザだった。
「桃太郎様〜♪ 初めてお目にかかった時からお慕い申していたわ♪ 鬼や寝返ったその仲間達は皆、私が食事に毒を盛ったせいで星になってくれたわ♪ ささ、桃太郎様〜♪ 私と一緒にここの財宝持ってトンズラしません?」
上品に笑いながら、恐ろしげな恋の告白をする鬼姫。
遠慮も何もなく迫る彼女の笑顔に対し、思わず、うんと言ってしまう桃太郎。
「よかったじゃないか、桃太郎! こうなったら一刻も早く城砦の金銀財宝を持って3人で凱旋しようぜ!」
きび団子ガゼルフは嬉しそうに声をあげる。
しかし、鬼姫が彼に告げた言葉は甘くなかった。
「ただし、きび団子さんはダメよ♪」
冷ややかな台詞をつきつけられて固まるガゼルフ。
「だって、これは私と桃太郎様の2人きりの愛の逃避行だもの♪ 桃太郎様〜♪ 私と永遠の愛を語りましょう♪」
鬼姫エルザが桃太郎リュオンの首に飛びついて情熱的なキスをした途端、舞台の照明は逆光になり、重なる2人とがっくり膝をつくきび団子ガゼルフの姿はシルエットになる。
そのラストシーンにかぶさるクロウのナレーション。
『こうして、愛ゆえに鬼達を裏切った鬼姫と、場に流され‥‥もとい、助けてくれた彼女に感謝した桃太郎の2人は、手に手を取って鬼が島を逃げ出し、鬼たちから奪い取った宝を元手に幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし‥‥‥‥って、いいのかよっオイ!』
●6
客席を拍手と戸惑いのざわめきで等分にしつつ、下りていく幕。
舞台でいまだに他の役者達と一緒に倒れ伏しているキジのウリエルは、今夜味わった初体験の感動余韻を噛みしめていた。
「‥‥劇‥‥いいな。こんなのなら‥‥また‥‥観に来たい」
本当にこんなんでいいのか、という周囲の役者達の思惑をよそに幕は無事に下りきった。
終幕。