裸のお嬢様

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月20日

リプレイ公開日:2005年05月19日

●オープニング

 キャメロットにはジョアンナという女冒険者がいる。
 巨乳、豊満でほどよい色気が瑞々しい、その姿態。普段は優雅な物腰の女貴族で、ギルドで気に入った依頼を見つけると早速、冒険者職に転ずるという、いわば趣味で冒険者をやっているというこの女性、今朝はいつものように執事を従えながら、それでいていつもより奇異な風体で冒険者ギルドへと現れた。
 優美な動作で口元に小指を添えながら、ギルドの入り口をくぐった白い姿態は、まぎれなく肌を剥き出しにした全裸であった。詳しく描写すれば一糸まとわぬといったほどではない。豊満な腰は帯剣をした革のベルトで締めつけ、傍らの執事が細長い支持棒の先につけた黒い丸(●)で下腹部をかろうじて隠すという、危ういながらかろうじてオールヌードの名をまぬがれた、それでいて全裸よりもいかがわしい香りがふんぷんの格好だ。
「どう? 今日は私の新しい鎧をお披露目に来たのだけど」
 言って、その場でくるりと回るとジョアンナの下腹部を隠す執事も一緒に巡る。
 ジョアンナは1人満足そうに冒険者ギルドの受付フロアをゆっくりと巡った。彼女がどのように動いても●を下腹部から外さぬ執事の動きはあたかもプロフェッショナル。ある者は凝視、ある者は赤面というフロア内の冒険者達や受付係の視線を受けとめて、ジョアンナは満足そうにうっとりとした笑顔を浮かべる。
「まさか、この鎧が見えないようなお脳が足りない人はこの場にいないわよね‥‥?」
 彼女は足を止めると、貼り出された依頼の張り紙をざっと一瞥し、
「‥‥私のハートにきゅんとくるような依頼はなしね。今日はこれでおいとまするわ。おほほほほほ」
 堂々とした動作で冒険者ギルドを立ち去った。勿論、局部を隠す執事も一緒だ。
 言葉を失っていた冒険者ギルドが音を取り戻すにはしばらく時間が必要だった。何がジョアンナに起こっていたのかを理解しようとするよりも、早く日常に復帰しようとする者達の今あったことを忘れようという努力がそこにあり、なんとかギルドは冒険者達に冒険依頼を斡旋するという通常の機能を損なうことなく今日を過ごすことが出来た。冒険者には奇態を示す者は少なくない。いつまでもつきあってもしょうがないのだ。
 それでいながらジョアンナのことはその日1日の活発な噂だった。
 次の日、執事が1人きりで冒険者ギルドを訪ねてきた。いや正確には元執事だ。彼は解雇されたという。
「‥‥お嬢様は何故、鎧を着ている私の下腹部をわざわざ隠すような恥ずかしい真似をするのかとお怒りになられて‥‥」
 執事はギルドの受付で隠し切れない涙を流した。
「お願いです! ジョアンナお嬢様を助けてください! お嬢様は詐欺師に騙されているのです!」
 執事が言うには最近、ジョアンナの屋敷に住み付いた、鎧職人と名乗る男達がいるらしい。
 屋敷を訪れた彼らは誉め言葉巧みにジョアンナに言い寄り、資金さえあれば世にも美しい素晴らしい甲冑を彼女のために作ってみせると言った。興味を示したジョアンナは彼らに大金を与え、屋敷の鍛冶場を利用して、オーダーメイドの鎧を作らせてみたところ、彼らは曰く『とても美しく、しなやかで強く、空気のように軽いのだが、馬鹿な者達は見ることはおろか触ることさえ出来ない魔法の鎧一そろい』を作り上げたという。果たして執事はそれを見ることが出来なかったのだが、ジョアンナは鎧職人の歯も浮くようなおだてに心の足場を失い、また自分を馬鹿だとは信じたくないプライドが確かに作用したようで、まさしく見えて触れるものとして、全裸の肢体にそれをまとったのだ。鎧職人が言うには鎧の下に衣装を着るだけで鎧の魔法は失われてしまうという話でもあり、ジョアンナは惜しげもなく裸で街を闊歩するようになった。
 屋敷の使用人達は面と向かって意見する気概もなく、ただ堂々と全裸で闊歩する女主人に付き従うのみであった。それほどまでに彼女はこの鎧には満足そうであった。
「私は意見しました。しかし鎧職人の詐欺師どもはいまやジョアンナお嬢様のお気に入りです。お嬢様のお怒りをかって、私は解雇されました。‥‥お願いします! お嬢様と同じ冒険者として意見し、詐欺師の陰謀を暴いて、追い出してください! 私は不憫なお嬢様をこれ以上、見たくはないのです!」
 執事は泣いていた。男泣きであった。
 執事がこの依頼の報酬として提示した金は決して高くはない。
 それでいて救う者が高飛車な道楽冒険者ジョアンナとなれば、救う価値を見出せない者も多いかもしれない。助けるにしても彼女の偏屈を今更どう曲げるか、そこも難しい。
 キャメロット、5月。
 果たして、この依頼がどうなるかは冒険者達の心意気にかかっているのだった。

●今回の参加者

 ea0945 神城 降魔(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2388 伊達 和正(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2475 ティイ・ミタンニ(27歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea2545 ソラム・ビッテンフェルト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3747 リスフィア・マーセナル(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6284 カノン・レイウイング(33歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea6917 モニカ・ベイリー(45歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7073 ソニア・グレンテ(25歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea7467 ジゼル・キュティレイア(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 ea8984 アレクサンドル・ロマノフ(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9952 チャイ・エンマ・ヤンギ(31歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1298 フアナ・ゴドイ(24歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb1960 ラミエル・バーンシュタイン(28歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb2237 リチャード・ジョナサン(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●1
 またお嬢ジョアンナが冒険者ギルドにやってきた。
 その豊満たる姿や全裸であり、剣帯のみを身につけたその肢体は今回は下腹部を隠す者もなく、堂々たる態度は周囲の羞恥を誘って場の空気を気まずくする。
 しかし、それに臆せず、彼女に語りかける者達がいた。
「私はリチャード、スコットランドでハイランダーをしています。今日はお眼にかかれて光栄です」
 ハイランダー、リチャード・ジョナサン(eb2237)は丁寧に名を名乗る。
「ジョアンナ様‥‥いえ、お姉様とお呼びするのをお許し下さいませんか? お姉様は私の理想ですわ」
 挨拶するなりそう語る金髪のラミエル・バーンシュタイン(eb1960)。
 よくってよ、とジョアンナは彼女に答えた。
「素晴らしい魔法の鎧があると聞き、魔術師、錬金術師の端くれとしては是非とも一度拝見したいと思いました」
 アレクサンドル・ロマノフ(ea8984)もそう言い、その場で彼女が着ている鎧の造形を賛美し、まさしく『見ているかのように』立派な色や形を誉めちぎった。
「ねぇジョアンナ、とても素晴らしい鎧ね。貴女の素晴らしい鎧職人にソラムの鎧を作っていただけないかしら?」
 そう言ったのはロア・パープルストーム(ea4460)。
「貴方方、気に入ったわ。私の屋敷にいらっしゃい。おほほほほほ」
「お姉様、連れもご一緒してよろしいでしょうか?」
「よくってよ」
 リチャード、ラミエル、アレクサンドル、ロアと共に屋敷に向かうことになった冒険者達は冒険者ギルドの外へ出る。
 ギルドのすぐ横の路地を通りかかったジョアンナがそこを覗く。
 するとそこに彼女が知る者がいた。
「あなたはなぜ私の邪魔をするの!」
 路地裏でそう叫ぶリスフィア・マーセナル(ea3747)。彼女の姿はジョアンナと同じく剣帯のみを着けた全裸で、その下腹部を隠そうとする者に罵りを投げつける。
 彼女の下腹部を必死に隠そうとする者こそは以前ジョアンナに仕えていた元執事だった。
「この鎧は愚か者には見えない鎧なのよ! あなたは自分が愚か者だと認めるの?!」
 罵るリスフィアに対し、必死の献身でその下腹部を支持棒付きの丸板(●)で隠そうとする元執事。時に蹴飛ばされて地に転がることもあったが、めげず、食い下がる。
「どうしたのですか? お姉様? 路地裏に何かあるのでしょうか?」
「い、いえ、何も。おほほほほほ」
 ジョアンナ達は早歩きを更に急がせ、威厳を保ちつつ屋敷へとその場を立ち去った。

●2
 ジョアンナの屋敷に着くと冒険者達は容赦がなかった。
「セーラ神の御名の元、そのような恥知らずな真似はやめなさい」
 客間の椅子に脚を組んで座るジョアンナの頭にシフール、モニカ・ベイリー(ea6917)のハリセンが小気味よい音で炸裂する。
「な、何を失礼な!?」
「お嬢様、真に遺憾ながら俺にもその素晴らしい鎧というものは見えぬ」
 椅子に腰掛けた志士、神城降魔(ea0945)は無表情の顔色も変えずに言い放った。
「見えるのは貴女の裸体だけ。俺が馬鹿である、それもご尤もかもしれぬが、少なくともここにいる者にも見えていないはず。そのような鎧がある、そう認めることもまた一興。しかし、ほぼ全ての者がその鎧を見えていない以上、街を歩いている者は貴女を見ても裸体の女性が歩いている、と思うことだろう」
「あなた以外のわたくしを含め世の中全ての人にはその通り、あなたの格好は無様な全裸に見えますよ。自分だけにしか見えない幻の鎧に何の価値があるのでしょうか? 自分で自分のことを利口だと思っているようですが周りの者はあなたのことを単なる愚か者にしか見てはおりませんよ」
 神城に続いてカノン・レイウイング(ea6284)も言った。
「何よ、貴方達! さっきはこの鎧のこと、誉めてくれたじゃない!?」
「今までのは全てでたらめで私には鎧なんか見えていない。あなたが本当に鎧が見えているなら、何故、私の嘘の話に同意するのか」
 次に言ったのは鎧を褒めていたアレクサンドルだった。
「あなたも本当は鎧など見えていないはずだ。それを職人の口車に乗せられ、自分が馬鹿だと認めたくないために見えると偽っているのでしょう。しかし見えなくて当然です。そんな鎧は元から存在しないのですから。仮にあったとしても、あなたのような聡明な方に見えないのなら世界のほとんど全ての人は見ることが出来ない。そんな物は結局ないのと同じです」
「馬鹿には見えない鎧は、どんなに素晴らしくても馬鹿には裸に見える鎧よ? ジョアンナは貴族だから、あえて下々に裸身を『施し』てるけど、あたしだったらそんなサービスはご免よ」
 と、ロアは言い、
「世界の9割はその鎧を見抜けぬ愚者です。かのマーリン師でさえ見抜けぬ鎧では意味がありますまい」
 マーリンの名を口に出すリチャード。この賢者が見抜けぬというのなら一体誰が見抜けるというのか。
 恥を知ったのか、怒ったのか、全裸のジョアンナの肌は見る見るうちに紅潮する。
「そそそそそ、そんなことはないわ‥‥ッ!!」
「‥‥はぁ‥‥解りました。でもこのままでは埒が明かないので別の服をまず着て下さい」
 顔を赤くしうつむいたままの吟遊詩人ソラム・ビッテンフェルト(ea2545)が率直に言った。
「我が一族の名誉にかけて、ジョアンナさんは今、何も着ていません。私はジョアンナさんの歌を作らせてもらいに来ましたが、それは格好のよい女貴族兼冒険者の歌であって露出狂の女性の歌ではないのです」
 ソラムの言葉にジョアンナはくぅっと歯を食いしばる。
 口論に紛れてフアナ・ゴドイ(eb1298)の身が銀色の光に包まれる。『チャーム』をかけたのだ。
「どうやら私は愚かなようです。残念ながら鎧を眼にすることは出来ないようですわ‥‥。あら!? 肩口にホコリが」
 言いながらフアナは持参した羽箒でジョアンナの肩の辺りをくすぐった。
 くすぐったそうに身をよじるジョアンナ。
「変ですね‥‥鎧ごしのはずなのに。‥‥愚者には触れない? でしたら愚者からの攻撃は防げないのでは? ‥‥それに愚か者達に裸を晒してますけど‥‥構いませんの? おそらく、このキャメロットのほとんどの者が、ジョアンナさんの背中のほくろの数までばっちり把握出来ることになりますわ」
「実用性で言うなら、馬鹿に触れることの出来ぬ鎧はゴブリンの攻撃を通してしまう。その時点で鎧としての役割は皆無。如何だろうか?」
 真面目な顔で無表情を通す神城。その説得にジョアンナは言葉を喉に詰めたまま、息も漏らさない。
「そんな! 私のまとっているのは美しい鎧のはずよ! 私のこの鎧が存在しないはずはないー!!」
 耳を押さえ、突然にジョアンナは吐き出すように叫んだ。
 その時、対面に座っていたラミエルは彼女にうっかりと(?)お茶をこぼした。
「熱っ!」
「まあ大変! 折角の鎧が汚れては一大事だわ。さあ脱いで」
 ラミエルは彼女の鎧を脱がそうとする。しかし手応えのないその鎧を脱ぐことをジョアンナは嫌がった。
 ここで腕組みしながら壁にもたれていたチャイ・エンマ・ヤンギ(ea9952)が行動に出る。
「いつまでチンタラやってんだい!」
 言うや手の鞭にしごきをかけるチャイ。
「あなたには見えてるんでしょ? じゃあこのくらいのこと、何ともないわよね?」
 一閃。チャイの鞭が客間を横切って、ジョアンナの肩口まで疾った。
 雛鳥の声のような悲鳴。革鳴りの音と共にジョアンナの上半身に朱線の傷が生じる。
「あら? 痛いのかい? 顔が苦痛に歪んでるじゃないか! それにあんたの身体に私の鞭で出来た傷跡が見えるような気がするんだけどねぇ? 何? 私がバカだから、鎧には触れられない? ‥‥そうかもしれないねぇ。オォォ〜ッホッホッホ!」
 チャイの右腕が再びしなりを鞭に与える。
 しかし彼女の二撃目は空中にで切断された。
 居合が鞭を切り落としたのだ。
「一撃で十分」
 納刀する神城。
「騙されていることを認めなさい! あなたは間違いを認めたくないプライドで盲目になっているのよ! 自分を追いつめて後には引き下がれなくなってるの! 必要なのは認める勇気だよ!」
 宙に浮かぶモニカは言い、ジョアンナはそれ以上、何も言わず肩を落とした。
 ティイ・ミタンニ(ea2475)はそんな彼女に、今回の依頼は彼女のことを今も思ってくれている元執事からによることを打ち明けた。

●3
 一方、ジョアンナの屋敷にいる鎧職人の男達に会いに行った者達がいる。
 上半身に何も着けず肌を露わにしたソニア・グレンテ(ea7073)は、鎧職人に自分の『胸当て』を新調するように依頼した。
「アンタ達が噂の鎧職人かい? アタシのこの胸当てを新調してほしいんだけど。‥‥まさか『見えない』ってことはないだろうね?!」
 ぎくりとした顔をする鎧職人。しかしすぐさま平静を装い、彼女の肌に触れようとする。
 そこにビンタが往復で2発。
「やらしい手つきで触ろうとしてんじゃねえ!! そこは鎧じゃねえ!!」
 怒ったソニアにたじろぐ鎧職人達。
 そこでジゼル・キュティレイア(ea7467)がにっこりと微笑む。彼女は何も並んでいない空の棚から『鎧』を1つ下ろす仕草をし、
「まあ、何もないかのように軽い。なんて素敵な甲冑でしょう。‥‥一流の職人ならば、己の生み出した物に欠陥がないか、自ら試着して試すハズでは? 己の作る物に納得するまで、仕事をするのが匠というもの!! 今からでも遅くありません、試しましょう!!」
 そう言うと職人の1人にその鎧を着せるかのように振舞った。
「強度がどの程度かは調べてみればよいことだ!!」
 ソニアは『鎧を着ている』職人に弓を構える。
「勘弁してくれぇ! 見えない鎧なんかあるわけないだろぉ!」
 逃げ出す職人達。
 その足元に矢が突き立つ。
「逃げんじゃねぇ!! この詐欺野郎共が!!」
 ソニアが叫んだ瞬間、部屋に伊達和正(ea2388)とティイが乱入してきた。彼らは事前に情報収集をし、男達が過去に起こしてきた詐欺の証拠を集めてきたのだ。
「貴様達の悪事は明白だ、法の裁きを受けろっ!!」
 伊達の声で詐欺師達は身をすくませる。
 その後から部屋に入ってくるジョアンナと他の冒険者達。
 カノンは竪琴を爪弾いた。『メロディー』が皆の心を捉える。
「今、あなたたちの眼の前に見えるジョアンナの姿はどうでしょう〜? あなたの心の声が真実の言葉です〜♪ さあ叫びましょう〜♪ 声高らかに〜♪ 今の彼女は〜♪」
「全裸!」
 冒険者達が叫んだ。
「全裸!」
 詐欺師達が泣くような声で叫んだ。
「全裸!」
 声に怒りをこめ、しかし全裸に威厳をもってジョアンナが叫んだ。
 かくして詐欺師達は捕まり、あの男泣きの執事は無事ジョアンナの元に戻れたということだ。
 依頼成功の酒場での祝宴は全額ジョアンナが持ってくれたという。