●リプレイ本文
●1
さざなみのようにざわめきが揺れていたアサギリ座の客席が、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)の竪琴の音が聞こえると共に静まり、一斉の注目が舞台に向く。
『ここは月。月の女王が今日も悪事を企んでいる‥‥』
幕が開き、エリック・シアラー(eb1715)のナレーション。
スポットライト。舞台は月の御殿。
豪奢な高座に座した麗蒼月(ea1137)は背面の大窓より見える地上の風景を振り返り、手の鉄扇で頬を煽ぐ。
『月の女王は地上界の支配を望んでいた。‥‥しかし神はその計略に気づき『かぐや』と呼ばれる性別不肖の1人の人間をこの世に送る‥‥』
座したままセットと共に麗退場。舞台に現れた裏方達がセットをてきぱきと片づけ、組替え、風景を月御殿からジャパンの竹やぶへと変更する。
代わりに竹やぶの景色をを歩くのはターム・エリック(ea6818)演じる爺である。爺のくせに胸がある。ぼさぼさ長髪の白髪で顔を隠し気味の爺は腰を曲げながら杖を突いて竹やぶを歩く。
すると前方に1本の光る竹がある。
一旦は素通りした爺タームだがやはり光る竹の物珍しさに興味を隠せず、前で立ち止まる。
鉈の一振りで竹は切断され、その中から赤子が現れた。思わずその赤子を抱えあげる爺タームだが、その赤子役は『エチゴヤ親父ウサ耳バージョン』の人形だ。
『かくして竹に封じられていた『かぐや』は爺に拾われてから3ヶ月、赤子の時の姿と似ても似つかないほどの美しさを備えた大人へと急成長した‥‥。かぐや姫と呼ばれるようになったそのもとにはその美しさの噂を聞きつけた求婚者もやってくるようになり、爺は‥‥』
「仕方ない、かぐや姫に会いたくばまず1G払いなさい。話したければさらに1Gじゃよ」
と爺タームは求婚者達から金をせしめて、金持ちになった。
●2
『神から下された性別不肖の正義の使者。色香に惑わされた多くの人間がかぐや姫のもとを訪れる‥‥』
かぐや姫役キラ・ヴァルキュリア(ea0836)は、ニック・ウォルフ(ea2767)に着つけを手伝ってもらった十二単をまとい、爺タームが建てた小御殿の縁側で今日も溜め息をついていた。首を振るとポニーテールが揺れる。
今日も何人もの求婚者を袖にしていた。無理難題の宝を要求し、追い払うのだ。
それでもやってくる求婚者達。リゼル・シーハート(ea0787)にかぐや姫は、
「そうですね‥‥『エクスカリバー』でも持ってきてもらいましょう♪」
それはお安いご用だ、とリゼルが『ファンタズム』の詠唱を始めると、
「あ、因みにエロスカリバーなんていうのは禁止ですし、偽造したら刺しますよ?」
にっこりと微笑むかぐや姫キラの顔を見て、求婚者リゼルのポーズは思わず固まる。
そんな折、天井があるはずの上方からキラとリゼルの間に落ちてきたものがある。
「あら。可愛い子ね」
かぐや姫をそのまま小型化したような落ちてきた少女を演じるのはカミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)。
「わたくしは『かぐや』ですわ。しばらく、あなたのところでお世話になりますわ」
かぐや姫と同じ名を持つ少女『かぐや』はそのまま小御殿に居候として居ついた。ちなみにかぐやカミーユはかぐや姫キラと区別され『ちびかぐ』と皆に呼ばれるようになる。
『かぐや姫の噂を聞きつけた人達は男女問わず家を訪れ求婚するが、かぐや姫は己の使命の為に決してなびかない。‥‥かぐや姫は帝に会い、地上世界を狙う月の女王の計略を話すことにした‥‥』
●3
舞台は変わり、帝の宮城へ。
『帝とかぐや姫、この2人の出会いは何をもたらすのだろうか‥‥。瑞穂城。水辺に建つ、とても美しいこの宮城に時の帝は住んでいた。忍びこんだ者は二度と帰ってこまいという難攻不落の罠だらけの宮城である』
謁見の間で、御簾にて顔を隠してかぐや姫と爺、そしてちびかぐと謁見する帝シスイ・レイヤード(ea1314)。
「初めまして、かぐや姫と申します。いきなりの来訪、お許し下さい。しかし時間がなかったため、このような形になってしまいました」
かぐや姫キラは神につかわされた自分のことと地上を狙う月の女王の野望を御簾裏の帝シスイに語って伝えた。
「‥‥敵が迫っている? 急に言われても信用出来ると思うのか? 危機だというのなら敵がいるという証拠を見せてみることだ。‥‥こちらも状況が確認できたら惜しまず協力しよう」
帝にろくにとりあってはもらえず、かぐや姫達は宮城より帰された。
「お爺様‥‥帝には頼らず、私達だけで月の女王を迎え撃つことに決めたわ」
かぐや姫キラは道すがら、爺に決意を話した。
「そのために仲間の『美少女戦士』達を集める必要があるわ。私はこれから彼女達を捜す旅に出るわ」
「そうか、姫よ。しかし案ずることはない。1人目はすでにここにいるのじゃから!」
言って、爺タームは己が白髪にむんずと手をかけ、一気に剥ぎ取った。同時に着物を脱ぎ捨てるや下から現れた若い姿態がある。すっくと背筋を伸ばしたオレンジ基調のミニスカート姿はケンブリッジの学校の制服によく似てかぐや姫の求める美少女戦士である。
「オカマ爺とは仮の姿。かぐや姫を守る愛と正義の美少女戦士! 見参!!」
25歳で『少女』と呼ぶには少々年が行ったところもあるが、まずは1人の見参。
「そしてもう1人!」
タームが手を差し向けた方を見れば駆けてくる乙女がいる。緑色基調のタームと同じ格好の美少女戦士ティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)だ。
「まあ早速の集合ね。これなら何とかなりそうだわ」
かぐや姫キラがそう言った途端、裏方が現れて舞台を変転させた。かぐや姫達は舞台を退場し、月の御殿のセットと入れ替わる。
謁見の間では月の女王である麗が、配下に地上侵略の命を伝えるところだった。
「‥‥いい? まずは‥‥邪魔者の、かぐや姫と‥‥その配下達を‥‥倒す‥‥のよ‥‥」
片膝をついて女王の勅命を聞く4体の影に次々と照明が当たる。
いかにも悪っぽい鎧の使徒『シュート・メ』ことピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)。
黒基調の美少女戦士と同じ格好をした『蛍』ことルフィスリーザ・カティア(ea2843)
丸ごと山羊の被り物をかぶった『月の悪魔』ことマリー・エルリック(ea1402)。
頭上の三方に団子を重ねた『月見団子怪人』ことガゼルフ・ファーゴット(ea3285)。
4人の使徒はかぐや姫達を倒すべく地上に迫った。
●4
地上の荒れ野。
『ついに女王配下とかぐや姫の激突! どうなる、地上‥‥!?』
ケンイチとカノン・レイウイング(ea6284)の竪琴二重奏を戦闘の背景とし、美少女戦士と月からの使徒達は激しく激突した。カノンは特殊効果も担当していて、ティファルが放つ雷光なども『ファンタズム』で派手に表現している。観客も息を呑む立ち回りだった。
ミニスカ美少女戦士のハイキックアクションに男性客は別の感動で息を呑む。
ニックに妖しいメイクを施された蛍は大鎌(模造)で襲う。
唸るタームの鞭。劇だから当てないが見た目は派手だ。
「フフフ‥‥フがみっつ‥‥かぐや姫さま‥‥お覚悟‥‥」
豪華な聖書をぶんぶんと振り回す月の悪魔マリー。しかし戦闘のしょっぱなから疲れ気味。
「必殺技『ヨーメイ・ビリー』!! んんん〜、かぐや君? この窓枠の汚れはなぁにかなぁぁぁあ!?」
ラージクレイモア(模造)を構えながら技を叫んだシュート・メは、正面突撃のすれ違い様に抱えた窓枠に溜まった埃をかぐや姫に見せつける。
『出た! ヨーメイ・ビリー! 姑のいやらしさを見せつけるこの技の威力は実にクレイモア50発分だ!』
戦闘の背後で両手を組んで祈りを捧げるかぐや姫はその技の威力に身体が揺らぎ、汗が浮く。しかしそれ以上は動じず、勝利を祈るポーズを取り続ける。
『いざ見よ! そこに現れしは心清き正しき美しき戦士達♪
聖なる力を操りて悪を討つ♪
皆の声援がその力となる♪
さあ、聖なる美少女戦士に熱き声援を♪』
カノンの『メロディー』ナレーションが観客の声援を沸き立たせる。
その時、月見団子怪人ガゼルフが美少女戦士に肉迫した。
「あの〜。よかったら1つどうっすか〜」
軽い口調で頭上の団子の試食を迫るガゼルフ。それをつまんだのはティファルだった。
「かかったな!! これは『しびれだんご』だ!!」
痺れて倒れるティファルを前にして高笑いの月見団子怪人。しかし彼もパワーの源である団子を減らしたことで一気に弱体化し、突如乱入してきた礼服仮面こと和装礼服と仮面で身を装ったリゼルに攻撃を受ける。
シュート・メはその鎧の重量で舞台に穴が空き、はまったところを鞭の連打を浴びている。
月の悪魔マリーは戦っている内に疲れ切ってしまい、その場で寝てしまった。
「蛍!! なんで敵のところに‥‥。わたくし、かぐやですわ!」
「ちびかぐちゃん‥‥かぐや様‥‥わたし‥‥」
美少女戦士に大鎌を振りかざしていた蛍ルフィスリーザは、親友だったちびかぐカミーユと出会ったことで月の女王の洗脳が解けつつあった。
「美少女戦士‥‥?」
蛍は今や自分が美少女戦士の1人であることを思い出した。
ちびかぐカミーユは懐よりティアラを取り出し、大きな声で言った。
「わたくしは千年後から月の女王を倒すため、伝説の水晶ティアラを持ってまいりましたかぐや姫の未来の娘。伝説の水晶ティアラ、あなたの力で悪を倒してくださいまし!」
そして祈るかぐや姫の頭にティアラを装着する。
途端、そのティアラは当たったスポットライトでまばゆく輝く。照明が舞台を乱舞し、それを浴びたシュート・メ、月見団子怪人、月の悪魔は悲鳴を挙げながら舞台をごろごろ転がって袖から退場した。
やがて照明乱舞が収まれば舞台には戦闘の終わった静けさがあった。
「地上を‥‥守ったわ」
かぐや姫の呟きの後、美少女戦士達と観客の歓声が湧き起こった。
●5
『その頃、月では‥‥』
月の御殿で月の女王は使徒達の戦闘の一部始終を大きな銀鏡に映して見ていた。
「地上、は‥‥児童性愛、の‥‥巣窟‥‥? ‥‥こんな、世界‥‥いらない‥‥」
『説明せねばなるまい。月の女王はかぐや姫の正体はちびかぐの方であると勘違いし、ちっちゃなかぐやの方が男達の求婚を受けていたと思っているのだ。そんな病んだ世界は女王の興に沿わないのだった‥‥』
「『神』も、ろくな‥‥世界を、作らない‥‥ものね‥‥」
月の女王が嘲笑げに呟き、舞台はすっと暗くなる。
舞台が明るくなった時、月と全く同じ構図で地上の帝が瑞穂城の御簾の裏にいた。
「ククク‥‥わが部下を減らすことなく、厄介事の片がついたようだ。いつもこんな上手くいくとよいのだが」
帝シスイの忍び笑いを漏らすのと共に終劇の幕が降りていく。
観客達はこのクールなラストには活劇を応援した熱を奪われ、いささか爽快感を殺がれたようだった。