黄金マッチョ

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月15日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月20日

●オープニング

 夜も更けて暗い街の裏路地を、家路を急いで1人早歩きの若い女性。
 周囲に他の人もない後ろ姿はあまりにも無防備で、眺める人がいればさぞ心配の気や高まる光景であるが、やはりというか、すぐにその前後に3人の男達が現れ、道をふさぐ。
「姉ちゃん、夜道の1人歩きは物騒だぜ」
 自分達のことを棚に上げて言う禿頭のリーダー格は手にしたナイフの黒い刃を舌で湿らせる。
「通行料として有り金全部置いてきな。さもなくば‥‥」
 強盗の野卑な言葉に、ひ、と身をすくませるしか女性は出来ない。
 夜の闇の中にしばしの膠着めいた時間が過ぎた。
 やがて痺れを切らし、返事のない女性に今にも男達がかかろうとした時、
「ぅわははははははははははは‥‥!!」
 何処からともなく声高らかに笑い声が裏路地に響いた。
 そして家の屋根から飛び降りてくる黄金の巨漢。颯爽と着地し、女性を背にかばう。
 月光を反射するのは1人の変態としか言いようがない。鍛え上げられた全身が純金色に輝く裸漢であり、腰も金色の褌で覆う。背には黒いマントが夜気をはらんだ風になびいていた。
 顔は黄金色の髑髏の仮面。その内側から今も尚、笑い声が響いている。
「何だ、この変態野郎が!」
 強盗達は一斉に金色裸漢に飛びかかった。
 しかし、黄金色の裸漢は強い。隆々と筋肉が盛り上がる手に持った銀色の杖で敵の刃を受け、あっという間に3人を打ちのめしてしまう。
「畜生! 覚えてやがれ!」
「ぅわははははははははははは‥‥!!」
 強盗は捨て台詞を残して逃げ去っていく。
 その惨めな背を見送る高笑い。
「ありがとうございました」
 女性が礼を言うと同時に、金色裸漢は身を翻した。黒いマントが黄金色に輝く身体を隠し、路地を走り去るその姿を隠匿する。まさに黄金色の裸漢は闇に紛れて姿を消した。
 残る女性に届くのは高笑いの残響のみ。
 と、そんな謎の変態の活躍が連夜続いて市井の話題となり、吟遊詩人も夜の女性を守るその活躍を歌に謡うようになった。曰く、
『何処? 何処? 何処から来るのか、黄金マッチョ♪』
 と。
 さて冒険の依頼である。
 謎の黄金マッチョの活躍に助けられた女性有志一同がこの男の捕獲を冒険者ギルドに依頼した。
 彼女達は自分達を助けてくれた謎のヒーローに改めて礼を言いたいので、多少強引にでも捕らえてほしいというのである。
 今までに彼は夜に女性がピンチになった時しか現れていない。彼を捕らえるならそこから考える必要があるだろう。力任せが通じる相手だろうか?
 夜の街の正義の味方。果たして正体はどんな男だろう。

●今回の参加者

 ea0328 マイ・レティシアス(21歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2388 伊達 和正(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2475 ティイ・ミタンニ(27歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea6044 サイラス・ビントゥ(50歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6930 ウルフ・ビッグムーン(38歳・♂・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0838 凍瞳院 けると(21歳・♀・僧兵・パラ・ジャパン)
 eb1124 弧篤 雷翔(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●1
 銀髪のエルフ、アディアール・アド(ea8737)は街を走っていた。
 彼が求めるのは黄金マッチョの出現率が高そうな場所だ。これまで彼に救われた女性達に訊いて回り、そこを特定しようとしたのだが、特にここがそうという場所には絞り込めなかった。
 黄金マッチョは女性の悲鳴がある夜なら街の何処にでも現れる。
 まさに神出鬼没なのだ。
 ならば召喚しようと考えたのが、ドワーフのウルフ・ビッグムーン(ea6930)だった。
 依頼を受けて最初の夜、彼は依頼人のご婦人達と広場で手を繋いで円陣を組み、
「マッチョさん、マッチョさん。お越し下さい」
 と召喚儀式を行ってみたが、黄金マッチョ本人はおろか友好そうな空飛ぶ怪しい光も見出すことは出来なかった。とても残念である。
 かくして冒険者達の思惑は次の日の夜の、囮作戦へと移る。

●2
 星の奇麗な夜だった。
 教会からコロッセオへと向かう道筋の特に寂しい所を町娘と少年が通りかかる。
 訂正。少年と見えたのは性別女性の15歳、弧篤雷翔(eb1124)だった。
 町娘らしき風体はティイ・ミタンニ(ea2475)。
 2人の女性がとぼとぼと夜道を進むと、待ちうけていたかのように現れた影がある。
 道の前後をふさぐように2人ずつ現れた影は4つ。
 頭にすっぽりと布袋をかぶり、コー、ホー、コー、ホーと大きく呼吸音を繰り返すのは伊達和正(ea2388)。抜き身の日本刀を右手に下げている。
 夜の闇に溶けるような褐色の女ジャイアントはミラ・ダイモス(eb2064)だ。逞しい腕にメタルクラブを構え、ティイと弧篤の前に立ちはだかる。
 月光に映えた全身青一色のハーフエルフがミラに並んでレイピアの切っ先とベイルを前に出す。ヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)だ。
 そして女性2人の背後で両手に山盛りのラズベリーを持って睨みつけているドワーフがウルフだ。フルーツを構えた暴漢という彼は他の3人に増して色々な意味でデンジャラスといえる。イギリスという国はいつ何時彼のような暴漢に襲われるかを警戒しなくてはならず、そのため、フルーツを持った暴漢用の護身術を教える教官もいるらしいという噂だ。
「おい。どうにかなりたくなかったら一緒につきあうんだ」
 ウルフが言う。
 緊迫する空気でいきなり殴りかかったのはミラだった。
「この重量を乗せた一撃、食らえばただではすまないぞ」
 言いながら頭上から振り下ろした攻撃は大振りであればこそティイが避けられたものの、この囮作戦にリアリティを出すための本気の一撃だった。
 同じく伊達の大振りの日本刀が夜気を裂いて弧篤に襲いかかる。かわす彼女を追って、二撃、三撃と大振りが繰り出される。
「おいおい、女に傷をつけるな。大事な商品でもあるんだからな」
 暴漢達のリーダーっぽくヴルーロウが不敵な笑みを浮かべながら言う。
「なあ、お嬢様方。素直についてくれば、お金持ちが優雅な暮らしをさせてくれるかもしれない。一緒に来てくれないかな?」
 悪役に乗り気でなかったヴルーロウだが、今は自分の演技に酔っている。
「あーれー! 誰かー!」
 攻撃を避けつつ、上手いとはちょっと言い難い演技でティイが悲鳴を挙げまくる。
 追いつめられる2人。
「助けてー!!」
 ティイが叫んだその時だ。
「ぅわはははははははははははは‥‥!!」
 月を頂上にした背の高い樹木の上から高笑いが響き渡った。
 振り仰いだ視線が集中すれば、樹上にはマントをなびかせる黄金の影があった。
 月光に金が縁取るシルエットは逞しく筋肉質。銀の杖を握った裸漢は高笑いのまま、樹から跳び、しっかり路上に降り立った。襲われた女性2人をマントの背にかばうようにし、暴漢4人と黄金髑髏の仮面が向き合う。
 うっわー、本当に黄金のマッチョだ、すっげーと背にかばわれながら瞳キラキラで弧篤は思う。
「何だ、てめえは!?」
 口汚い台詞を言いながら伊達が斬りかかり、銀の杖の一撃で弾き飛ばされる。彼はそのまま、想定される戦闘区域外に出る。
「出たな変態!」
「ふっ、引っかかったな黄金マッチョ!」
 ミラとヴルーロウが言う。
「ふははは、まんまと出てきおったな。今までの礼をたっぷりとしてくれるわ」
 とウルフが見栄を切るように言い、その言葉に黄金マッチョが身構えた時、
「今までどうもありがとう」
 と素直に礼の言葉を述べるウルフ。そのあまりにストレートなギャグのリアクションとして全員がずっこける。
「今だ!!」
 ウルフはこの隙をついて黄金マッチョを組み押さえようとしたが、素早くその身をかわされた。
 彼に逃げられないように襲いかかる暴漢役達。
「この俺がやりたくもない役をやっているのは貴様のせいだ!!」
 レイピアで突きかかるヴルーロウの攻めを黄金マッチョは危うげなくかわす。
 黄金マッチョはこの騒動が自分をおびき出して捕まえるための計画だと気づいたようだ。黒いマントを翻し、素早く闇に紛れて逃げようとする。
 だがその逃げ道をふさぐべく巨大な影が立ちはだかった。
「素敵に無敵! そして怪しさグゥレィト!! グゥレィト僧侶仮面、国を越えて、ただいま見参!!」
 グレートマスカレードを装着し、エチゴヤマントを夜風になびかせた2mを遥かに超える巨漢が黄金マッチョの眼前でポーズをとり、名乗りを挙げた。
「さあ、黄金マッチョとやら、おとなしくしていただこうか!」
「ナイスタイミングです、サイラスさん! 早く彼を捕まえて下さい!」
「むう、私、いや我が輩の名はグゥレィト僧侶仮面だと言っているのだが!」
 ティイの言葉に慌てるサイラス・ビントゥ(ea6044)、いやグゥレィト僧侶仮面。
「似ているからといって決めつけるのではない!」
 朱色の僧侶服のおかげで正体バレバレのグゥレィト僧侶仮面は喝!! の声と共に数珠を握り締めた右手を突き出した。物理的退魔の法。ただのパンチともいう。
 近距離から黄金の胸板を捉えたその拳は、相手を路面に打ち倒した。
 水飛沫が上がる。
 筋肉マッチョの周りの地面は既にマイ・レティシアス(ea0328)の『クリエイトウォーター』により、ひたひたに濡らされていた。更にマイはその手を水に触れさせる。
「我が手に宿れ‥‥氷雪の姫っ!」
 高速詠唱による『クーリング』。黄金マッチョが倒れている水溜りが凍り始めた。
「ぅわはははははははははははは‥‥!!」
 笑いながら黄金マッチョは起き上がって逃げようとする。
 しかし傍にあった潅木の茂みが動いて彼の上半身を押さえつけた。アディアールの『プラントコントロール』だ。
 他の冒険者達も黄金マッチョを凍る水に押さえつけ、動きを封じる。特にジャイアント2人ののしかかりは強烈である。
 水溜り凍結。
 黄金マッチョは黒マントと背面が氷づけられ、身動き出来ずに捕らえられたのだった。
「み、皆様、すみません‥‥。私の氷の‥‥せいで‥‥」
 申し訳なさげにマイが言う。
 押さえつけている冒険者達も一部氷漬けだった。

●3
「この間は危ないところを助けていただいて‥‥」
「どうも私達のことを助けてくれてありがとうございます‥‥」
 近くに隠れて事態を見守っていた依頼人達が黄金マッチョに心からの礼を述べる。
「ぅわはははははははははははは‥‥!!」
 それに対し、黄金マッチョは笑うのみだ。
 今の彼は身体を自由にするためと不意の逃走を防ぐために氷漬けのマントをアディアールに切り取られ、身体を輝かせていた金粉も一部が水に流れて地肌剥き出しといういささかみっともない姿になっている。
 そんな彼でも弧篤は嬉しそうにその立派な筋肉をぺちぺちと撫でている。
「どうッスか? あなたのその筋肉、世のため人のため愛でるために我が隊で役立たせるッスよ!」
 筋肉少年少女隊隊長として弧篤は黄金マッチョを勧誘する。
 しかしやはり彼は笑うのみだった。
 依頼人達は礼を言い終わった。キャッチ&リリース。黄金マッチョと別れる時間が来たと皆が悟った。
「あの‥‥すみません‥‥私‥‥『氷雪の魔女』‥‥マイです‥‥。あの、黄金マッチョのファンというか‥‥あの、好き‥‥あの、これっ!」
 最後にマイが黄金マッチョにプレゼントを手渡した。
 レースの褌だった。
「ぅわはははははははははははは‥‥!!」
 受け取った黄金マッチョは一際高く笑いながら、ほどかれた包囲から駆け出した。
 通りを走り去る黄金髑髏の裸漢の後姿。肌色はやがて夜の闇にまぎれて消えていく。
 記憶に間違いがなければ、裕福な階層が住む区画の方角のはずだ。
 見送った冒険者と依頼人達は帰り道を辿り始めた。明日にでも冒険者ギルドに報告書が出されるだろう。
「よかったら散歩でも御一緒しませんか? 全力でエスコートします」
「夜の散歩‥‥?」
 伊達の申し出にティイが応えた。
 断る理由もない。確かにこのまま帰るには惜しい、星が奇麗な夜だった。

●4
 それからも時折の夜、黒マントをなびかせた黄金の怪人が街の婦人を助ける姿が見られたという。
 声高く笑う彼が股間に締めているのは奇麗なレースの褌なのだという。