新説? 金太郎

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月18日〜07月23日

リプレイ公開日:2005年07月24日

●オープニング

「この『アサギリ座』、次回公演は『金太郎』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
 夕の冒険者ギルドにまた口上の呼ばわりが朗々と響き渡る。
 アサギリ座公演の報せである。
 ノルマンにアサギリ座という小さな芝居小屋がある。
 この小屋は毎回、ジャパンの御伽話を題材として演劇をやるのだが、飛び入り参加自由という特色を出している。普段なら役者でない者が自由に舞台に上がり、劇に参加してもいいというのである。面白ければ筋を本来から脱線させてもいい、何でもありなのだ。
 過去には『桃太郎』は主役が鬼側の姫と駆け落ちしてしまったり、『かぐや姫』は主役が男子となり故郷の月での悪の陰謀を挫くため、同志を連れて帰ったり、『浦島太郎』は正義の深海戦士、亀ライダーが痛快に大暴れ、『猿蟹合戦』では蟹がアンデッドになった末、皆に食べられてしまったり、『鶴の恩返し』は鶴の母子を見世物にしようとする悪の貴族と鶴戦士が戦ったり、『笠地蔵』はセクハラ風味の戦隊物になり、『雪女』は異種族結婚をテーマとして前面に打ち出したてハッピーエンドに終わったり、『舌切り雀』はクライマックスにやたら強いお婆さんが化け物全てを打ち倒したりというそんな元の物語とは似て非なるものになってしまっている。ついでに言えばイギリス公演版『桃太郎』では実は桃太郎の双子の姉であった桃姫が登場し、不気味なきび団子を食べたキジが早々に死ぬわ、犬は桃姫に愛の告白をするわ、『かぐや姫』では姫の元に集った美少女戦士達と月の女王配下の怪人達が戦うという物語になってしまった。
 客はあまりの筋の変貌にある者は面白がり、ある者は呆れ、それでいてある程度は人気を集めるという状況だ。
 ウケれば勝ち。劇団はそういう心づもりらしい。
 前は飛び入りの役者も普通の客と同じように観劇代をとっていたのだが、今は冒険者の飛び入り参加を正式に『依頼』として冒険者ギルドに登録し、それなりの褒賞を支払うという方式になっている。
 これはこれまで、冒険者が最も熱心に参加しており、仕込みや筋の打ち合わせをきちんと行っているからで、また冒険者がやる飛び入りが一番大胆で客受けがいい。ならばいっそ、依頼としてアサギリ座の方から出演をお願いしようと、そういうことになったわけである。
 勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことは忘れてはならない。
 衣装や小道具はある程度、劇団側が用意してくれる。
「この『アサギリ座』、次回公演は『金太郎』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
 宣伝役の口上が繰り返される。
 次回公演『金太郎』。
 自分なりの物語を大衆に見せつけてやるのも面白いかもしれない。

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea1872 ヒスイ・レイヤード(28歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb1079 メフィスト・ダテ(32歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1789 森羅 雪乃丞(38歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●1
 拍手と共に舞台の幕が上がる。
 緑深きジャパンの山。その雰囲気を表すセットと山の獣役の劇団員達。
 見守られて、ここで対決する2つの姿がある。
 右や熊のテディ役、頭に熊耳を付け、熊尻尾の付いた素脚丸出しのハイレグ衣装、ジャイアントの女性アイリス・ビントゥ(ea7378)。
 左や怪童ゴールド役、『金』の文字を飾る大胆な赤腹掛けで巨乳の胸元を隠し下半身は褌きりりの同じくジャイアントの女性シャクティ・シッダールタ(ea5989)。
『‥‥ここはジャパンの足柄山』
 舞台に響くナレーションはヒスイ・レイヤード(ea1872)。
『‥‥格闘女王ゴールドは日々、動物相手のトレーニングで身体を鍛えていたが、お山最強の座を賭け、熊のテディと決闘する日がやってきた。ついに今日この時、地面に円を描いた土俵の端と端でテディとゴールドは互いを睨んで身を低く構える。‥‥そして、待ったなし!』
 瞬間、地を蹴って土俵中央で激しくぶつかる2人の身体。体格はゴールドが一回り以上大きい。
 汗が弾けて組み合った2人はしばらく互いに押し合い、均衡したと見える力でそのままゆっくりと土俵を巡る。
 突然、ゴールドが腕を捻ってテディの身体を投げ飛ばし、土俵に熊の巨体が音を立てて転がった。
 周りの獣が歓声を挙げ、ゴールドの決闘勝利を賛える。
「いい勝負でしたわ」
 ゴールドが起き上がろうとするテディに手を貸した。
「テディさん、あなたはまだまだ強くなれるわ‥‥。どう、わたくしの弟子にならない?」
「あ、あの、あたしなんかでいいんですか‥‥?」
「勿論ですわ」
『‥‥その日からテディはゴールドの弟子となった。2人は競うように互いを鍛え上げ、血の汗を流すような特訓の日々を過ごす。親友にも似た2人が過ごしたそんな日々はある日突然のゴールド失踪にて突然幕が閉じることになる』

●2
 テディ役アイリスは失踪したゴールドを探して、足柄山とその近辺を駆け巡る。裏方の手でめまぐるしく変わる背景セット。
「ご、ゴールドさん〜‥‥、何処行ったんですか‥‥」
 だが手がかり一つ見つからず落ちこむテディ。
『‥‥さて、その頃、治安が悪くなりかけていると悩んでいる領主は、賞金を用意し『闇の武道会』を開催することに決めた。腕自慢を集め、この生死をかけた試合を観戦することにより、町人達のストレスも減るだろうと考え‥‥その準備を部下に申しつけた』
 ヒスイのナレーションが状況の説明を始めると共に、悲嘆に暮れたテディの前に1人の男が現れる。
「どうですか、あなた、闇の武闘会に出てみませんか?」
 男はテディに言う。
「この大会には貴方が捜しているゴールドも参加しますよ」
 男の一言がテディの瞳に炎をともした。
「そ、それは、ほ、本当ですか!?」
「嘘を言っても仕方がない。どうですか、大会には他にも腕自慢が真剣勝負で参加しますし、腕試しのいい機会ですよ」
 テディはその言葉に参加の決意を固めた。
 見送る山の獣達にも振り返らず、テディは武闘会のスカウトの男について山を下りたのだった。

●3
 闇の武闘会が始まった。
 大勢の観客に見守られた四角い石造りの武舞台に立った格闘家達が、決められた順番通りに死闘を消化していく。勿論、本当に石造りではないがセットはリアルだ。リアルな武闘。
 ついにテディも武舞台に立った。
 相手は森羅雪乃丞(eb1789)だ。
「奇麗な顔をそんなに険しくしなさんな」
 胴着に袴姿の森羅が言う。これから戦いというよりも口説きに来たような雰囲気だ。
「いっそ俺の仲間にならないか、ん? しがらみなんざ捨ててこっちの味方になれよ」
 試合が始まっても森羅の軽口は止むことがない。
『‥‥まさに戦いよりも口説きを優先するようなその様子。しかしテディはそんなに甘くなかった。鎧袖一触、ダッシュからすれ違い様の体当たり一発で森羅をKOだーっ!』
 実況するヒスイの言葉通りに森羅は武舞台の外に弾き飛ばされた。技は劇なので勿論、互いに示し合わせた演技だ。しかし戦い慣れた冒険者ならではの迫力がある。
 森羅はテディの一撃でボロボロにされ、敗退。
 テディは武闘会の準決勝へと駒を進めた。

●4
 テディの準決勝の相手は、地獄の道化師の格好をした『メフィストフェレス』を名乗るメフィスト・ダテ(eb1079)。
「熊よりも悪魔の方があくまでも強いのだ〜」
 不気味におどけるような口調で挑発するメフィストと武舞台で睨み合うテディ。
 見守る観客役の声援のボルテージが上がる中、試合が始まる。
 メフィストは拳、蹴りと次々に打撃を繰り出し、テディを防戦一方にする。
 しかしそんな試合中にありながら、テディは観客の中にいる人影に注意が逸れていた。
 観客の中に立ち、腕を組み無表情にテディの試合を観戦している『金』の腹掛けはゴールド役シャクティだ。
『‥‥テディ、防戦一方! 武舞台の端に詰まったぞ! もう後がないー!』
「え、えい! やあ、やあ、たあ!」
 カウンターに繰り出した張り手がメフィストの頬に決まり、次いで繰り出された連続攻撃が道化師衣装を武舞台中央まで押し戻す。
 そして正面から組みついて、ベアハッグで締め上げた。背骨が軋む音を立てる。その音は裏方の効果音なのだが、客席を青冷めさせるほどに真に迫っていた。
『‥‥ここでメフィストフェレスのギブアップ! やりました、テディ決勝進出だーっ!』
「次こそは覚えてろよ〜‥‥」
 負け台詞を吐いて崩れ落ちたメフィストを尻目に、テディは急いで武舞台を下りた。
 観客をかき分け、ゴールドの背を追いかける。
「ま、待って! ご、ゴールドさん!」
 腹掛け姿の背へ必死に叫ぶテディ。
「こ、こんな大会に出るなんて何故です!?」
 だがゴールドは答えることなく、観客の人ごみの中に消える。
 ただ最後に一度だけ振り返ったその表情の無機質さは心に強く焼きつくようだった。
 決勝の相手はそのゴールドだった。

●5
 決勝の武舞台で対峙した2人は、大勢の観客の怒涛のような声援を受け、衝突の時を今や遅しと待っていた。
『‥‥テディの胸には不安があった。捜していたゴールドは今、眼の前にいる。しかし、その表情には心というものがまるで感じられなかった。お山で共に特訓した日々の彼女とは全く別人のよう。見つめる瞳にはただ静かな虚無のようなものが広がっている‥‥』
 ナレーションによる心情描写を背景に立つ、テディ。
 相手が見つめるのに、ただ機械的に見つめ返しているように見えるゴールド。
『‥‥勝負開始!』
 2人は激突した。
 いきなりテディを武舞台に打ち倒したのはゴールドの張り手だった。倒れている内に蹴りが来る。その動作に師匠と弟子という情は欠片もない。
 連続する蹴りを受けながらかろうじて転がってかわしたテディに、ゴールドは相手が起き上がるのを待って大跳躍からのハイキックを見舞った。
 そのキックをテディは胸で受けとめる。そして足を両手で掴んで全身で振り回し、武舞台の外へと放り出すほどの大モーションの投げを繰り出した。
『‥‥おーっと! ゴールド、この投げに空中で身を捻ってバランスをとり、武舞台に残ったー! そしてテディに再度のダッシュ張り手! 突っ張る! 突っ張るーっ! たまらずテディ、後ろに下がるが下がり続けると後がない! 残るか、テディ!? 残るか、テディ!? ‥‥残ったーっ!』
 ゴールドは武舞台の端まで辿りついたテディに組みついた。怪力でテディを持ち上げ、宙でその身体を逆さにする。そして相手を抱えたままで高くジャンプし、首関節を脚で固定して武舞台へと叩きつける。
『‥‥必殺のゴールデン・ドライバーだっ!!』
 ゴールドの体重までも加えた石造りの武舞台への頭からの逆落とし。一瞬、テディの意識が飛ぶような猛烈な大激突。頭部から流血する。
 流血は勿論、偽の血糊なのだが劇を見守る観客の中にはあまりに凄惨な場面に思わず眼を覆う者が続出する。
 武舞台のゴールドは技を決めた後、伏したテディを見下ろしていた。無表情ながら何処か既に勝者の余裕めいたものをうかがうことが出来る。
 その足首を掴んだのがテディの手だった。
『‥‥ゴールドの脚を掴んだテディが起きあがり様に彼女の身体を持ち上げたーっ! そして宙で相手の上下を入れ替えるーっ! そしてジャンプ! ‥‥これはゴールデン・ドライバーだーっ! 師匠のお株を奪う、必殺の逆襲技が炸裂ーっ!!』
 固定されたゴールドの額が石造りの床への激突。流血。
 その姿勢から強引にテディが再ジャンプ。
『‥‥これは! ダブル・ゴールデン・ドライバーだっ!!』
 もう一度、テディの組みついたゴールドの頭が石造りの武舞台に激突した。
 テディはそれが限界であったように尻餅をつく。
 ゴールドの身体が崩れ落ちた。
 動かぬゴールドに対し、実況兼審判でもあるヒスイがテンカウントを数え始める。
『‥‥セブン! エイト! ナイン! テン! ‥‥ゴールド、立ち上がれないーっ! テディの優勝だーっ!!』
 舞台上の観客の歓声が沸く。小屋の客席も昂奮の叫び声で沸いた。
 全ては舞台の演技だ。しかし、それを忘れさせる迫力がここにはあった。
 決勝の武舞台に立ちあがったテディが全身でそれを受けとめた。

●6
『‥‥テディは師匠ゴールドを抱き起こした。彼女の眼には足柄山であった感情の色が戻っていた。しかしゴールドの身体はぐったりと力なく、息も瀕死のそれだった‥‥』
 まだ止まぬ観客の声の中、ゴールドを抱き起こすテディ。
「ご、ゴールドさん‥‥!」
 師匠を呼ぶ声にゴールドが反応した。
 ゴールドの唇が動いた。
「‥‥ウ‥‥ウォークラ‥‥」
「え? な、何?」
「‥‥ウォークライ‥‥秘密組織‥‥格闘‥‥マインドコントロール‥‥」
 そこまで言ったところでゴールドの瞳から気力の色が失われ、首ががっくりとうなだれた。
「し、師匠ーっ!!」
 テディの哀しい叫びが観客の声を掻き消すほど大きく響き渡った。
『‥‥戦いは終わったが、多くのモノを失った者もいた‥‥様々なドラマがあったようだが‥‥一生心に残る思い出になるだろう』
 ヒスイのナレーションと共に暗くなる舞台。
 と、観客の中にいた1人の男にスポットライトが当たる。
 眼元を隠す仮面を身につけたそのジャイアントは三笠明信(ea1628)。貴族風の礼服を着、自信たっぷりな表情で憎々しげに微笑んでいる。
「‥‥まだまだだ。この闇の武闘会は我が『ウォークライ』の野望の第一歩にすぎん‥‥」
 三笠演じる悪徳プロモーターの呟きが終わると舞台は完全に暗くなっていく。
 そして終劇の幕が下りてきた。
『‥‥アサギリ座風金太郎、これにていったんの幕です。ご観劇ありがとうございました。尚、ちびっこの皆、武闘家の真似はとっても危ないから真似しないようにね。約束だぞ』
 なんか長編連続劇の第1話のみを観せられたようなどうにも尻の座りが悪い終わり方だが、それなりに迫力もあったしと客達は皆それなりに満足して帰っていくようであった。