女子監房第13号
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月25日〜07月30日
リプレイ公開日:2005年07月31日
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●オープニング
女のすすり泣き。
パリで様々な罪を犯した女性の囚人が投獄の期間中、罪を悔いて過ごすのがこの場所だ。
それは建物の地下にあった。
窮屈で陰鬱な階段を降りて尚陰鬱な通路を通って辿りつく、格子戸が並ぶ壁の途中。
石造りの地下通路の壁にはめられた鉄の格子戸の番号は簡素な文字で『13』番。
女子監房第13号。
番号からして不吉だが、囚人は差別なくただ端から順番に放りこまれる。
ある日、この監房13号で2人の女性囚人が病死した。
不潔の病でこれを看過した看守達に当然罰は与えられ、牢は潔められたが事態はそれで収まらなかった。
彼女達はアンデッドになったようだ。
夜な夜なこの13号に2体の青き炎の人魂が壁から染み出でるように現れて、女の姿になると夜通し牢内をうろうろと巡る。あてつけか真に哀しいのか、涙を流さぬ泣き声と共に。
そのため、牢獄の夜は囚人にも看守にもこの場所がそうである以上に恐れられるようになり、皆の気が落ち着かぬようになった。ノイローゼの囚人も出る始末。
冒険者ギルドに依頼が渡った。
この2体のアンデッド退治が依頼の要旨。
アンデッドといえば銀製か魔力を帯びた武器以外の通じぬことも十分にありえる。冒険者の種類を選ぶ依頼だ。
監獄の扉を開け、陰鬱な地下に現れる2体の亡霊を滅ぼしてほしい。
●リプレイ本文
●1
地下の陰鬱な区画だった。
1つの監房は狭く、6人も入れば満員になる。
本多桂(ea5840)は、従妹の本多風露(ea8650)と一緒に看守や他の女囚に件の幽霊となった囚人がどのように死んだのか、何か言い残した言葉でもなかったかと訊いてみた。すると、病死した囚人達は最期は熱に浮かされ、特に意識的に言い残した言葉もなく死んだらしい。死んだ女囚はそれぞれカミラ(罪状:情夫殺害)とユーメリーン(罪状:結婚詐欺)という名だったという。
アフラム・ワーティー(ea9711)はアンデッドと化したらしい彼女達の出没場所や時間、状況を改めて詳しく看守達に確認した。すると決まって深夜、監房13号の奥の壁から染み出るように現れるという。涙無き悲嘆の叫びと共に監房内をうろつきまわり、早朝には帰っていくという。
「それにしても汚い牢屋ね」
女子監獄の現場を確認しながらの午前中にアミ・バ(ea5765)は言った。
「正直、嫌なのよね。人が死ぬくらい不潔なのって」
実際、この監獄は不潔さ故に人が死んだというのに現状は特に改善されていない風だ。
アミはエプロンとマスクと三角巾を持ちこみ、昼の明るい内に監房の清掃を始めた。清掃道具は自腹をはたいて看守や囚人の人数分持ちこみ、彼等、彼女達にも手伝わせる。
しかし陰鬱な年月の内にこもった汚れは1日仕事では落とせず、アミは実に5日間の依頼実行期間全ての昼間を全員清掃にあてることにする。運動不足の囚人達にはいい運動になったかもしれない。
更にアミは3日に一度、囚人達に身体をぬぐわせることを義務づけるよう、看守達に言った。有無を言わさない態度だった。
●2
壁際のランプが所々の闇をうがつ、深夜。
夜番の看守が椅子に腰掛けながらうつらうつらする地下で、女囚達が静かな寝息を立てている。
そこにすすり泣くような女の声が聞こえてきた。
突然、監獄の気温が低くなったような気がする。
女囚達の寝息はやみ、怯えたような空気で牢獄内がひきつった。
「来たようね」
待機していた冒険者達、サトリィン・オーナス(ea7814)は前衛に立とうという井伊貴政(ea8384)に『レジストデビル』をかけ、井伊はアフラムに『オーラパワー』を付与してもらった日本刀を抜く。アフラムは更に井伊と自分に『オーラエリベイション』をかけるべく詠唱する。
冒険者達は廊下を進んで第13房へ駆けつけ、既に開けられている格子戸から前衛が中に入った。
2体のアンデッドは壁から染み出す青い炎のようにも見えた。すすり泣きと共に2体の幽霊が房の中に入ってくる。すすり泣きとはいえ、安眠を妨害するのに十分な結構な大声だ。
井伊、アフラム、本多風露と本多桂は房の中で武器を構えた。狭いここでは武器を振り下ろすのにも気をつけなければならないだろう。
アンデッドは中年女性のような風貌だった。
「‥‥『レイス』のようね」
本多桂は自分の知識からアンデッドの種類の見当をつけた。
「誰かに何か言いたいの? よければ話を聞くわよ」
房の外から格子越しに話しかけたのはマリー・ミション(ea9142)。
「あなた達が死ぬ原因になった看守が憎いのでしょうか?」
そう訊いたのはセフィナ・プランティエ(ea8539)。
「彼等なら既に相応の処罰を受けていますわよ」
マリーとセフィナは彼女達の無念を話し合うことで晴らせるならばと真摯に語りかけた。
しかし彼女達のすすり泣きのやむことがない。それどころか手を真っ直ぐ前に突き出し、掴みかからんとしてきた。
「会話の余地無しね!」
アミは『オーラパワー』を付与した剣を振った。
手を切りつけられたレイスの1体が後ろに下がる。
「倒して成仏させるって路線ですね。せめてこの世の苦しみから解放してやるが武士の情けですか」
日本刀を構えた井伊がもう1体に斬りつけ、そちらも後方に下がらせる。今の一撃の傷は深いようだ。
監房の中のクレリックを外に逃がす。
前衛の前2人は、後ろ2人と位置を入れ替えた。
蒼炎にも似たレイスは身体の縁をはためかせながら、怖い表情で襲いかかってきた。
本多桂は『霞刀』の一撃をかわされ、その懐に霊の手の接触を受けた。胸から痛みと共に冷気が広がる。
2体のレイスがすすり泣きながら襲う。その足先は床を離れている。宙に浮くのだ。
「今宵、この剣にあなた達の絶叫が加わることとなるでしょう」
本多風露は素早く位置を従妹と入れ替え、『魔剣トデス・スクリー』を相手に見舞った。その刃は1体の右腕を切り落とし、切り落とされた腕は即座に霧散した。レイスは叫びを挙げた。
格子越しにサトリィンが本多桂に『リカバー』をかけた。高速詠唱だ。
アミは後陣から真空の刃を放って加勢にしようと考えていたが、それだけの余裕がこの狭い戦闘空間にはなかった。
後方の白クレリック達を守るように前で戦うアフラムが、敵の攻撃をかわし損ねて氷のような手の接触を肩に受けた。アフラムはアミと身体を入れ替えて後方に下がり、セフィナがかける高速詠唱の『リカバー』がダメージを癒すのに任せる。
本多桂は相手の攻撃をかわす勢いで霞刀を見舞った。この斬撃は相手を深く切り裂き、右腕を失っていたレイスの炎のような身体が大きく揺らめいた。
それをアミの剣が追撃する。その一撃はレイスにとって霊としての形を保つエネルギーを断ち切ったようでそのアンデッドは炎が消えるように身体の輪郭を崩した。
サトリィンが牢の外から射程距離ぎりぎりの高速詠唱で『ピュアリファイ』をかける。
するとレイスは白く眩しい光に包まれて消滅していく。浄化されたのだ。
牢獄のすすり泣きが1つ消えた。
残り1体が逃げずにかかってきた。
井伊の刀はレイスの胴を薙いだ。しかしレイスはその攻撃を受けながら井伊に体当たりするように攻撃を仕掛けてきた。両の腕を押しつけられた井伊の身体から生命力が逃げるように冷気の痺れが広がっていく。『レジストデビル』による防御力を差し引いたとしても結構なダメージだ。
その時、房外からセフィナが『ホーリー』を発動させた。
レイスの身体が眩しい白光に包まれる。
怯んだ隙にパラのアフラムは小さい身体を生かして2人の隙間に身を差し入れ、井伊を押しのけて彼をレイスから引き剥がす。そして更に『オーラパワー』を付与したライトソードの一撃を離れ際に打ちこんだ。
本多風露の居合が更にレイスの胴を薙いだ。
レイスの姿はまさしく風前の灯火のようにか細く揺らめいている。
マリーが『ピュアリファイ』をゆっくり確実に詠唱した。
残る1体のレイスが白く眩しい光に包まれる。それは女子監房13号内から格子を抜けて廊下へと漏れる強い光だった。すぐに光は消え、アンデッドが消滅した後にはむしろ清々しさを感じるような空気を冒険者達は味わった。すすり泣きは消えた。
「‥‥あ、あの‥‥アンデッドは‥‥?」
「もう大丈夫。浄化されました」
怖々と覗きに来た看守達に、サトリィンによる『リカバー』を受けながら井伊は答える。
看守達は安堵の表情を見せ、そして雰囲気から察したのか周囲の監房にいる女囚達からも歓声が上がった。もうすすり泣く亡霊に安眠をおびやかされることはないのだ。
歓声は狭苦しい監獄の中で大きく響き渡った。
●3
まだ夜は明けていない。
「先生‥‥罪深き彼女達の霊が天に還りますよう‥‥」
敬愛する師の姿を思い浮かべながら、追悼の念を送るサトリィンの姿。
「彷徨う魂よ、心安らかに眠りなさい」
マリーも祈りを捧げながら呟く。
セフィナは用意しておいた花束を牢に捧げる。
冒険者達は監房13号の中で、カミラとユーメリーンの御魂に祈りを捧げていた。
井伊はジャパン式に両掌を合わせて祈っている。
「せめて安らかに‥‥」
アフラムも呟いた。
最後にサトリィンは監房13号内を『ピュアリファイ』で清めた。
「出来ることならば、こんな形でまた囚人からアンデッド化してしまうような方が出ないように監獄内の環境改善をした方がよいかもしれないわね」
「特に清掃は欠かさないことね。それも囚人のお勤めと考えればいいのよ」
サトリィンの言葉にアミが続ける。
「罪を憎んで人を憎まず‥‥監獄は人を苦しめる所ではない、更正のための施設であるべきよ」
サトリィンは言って、更に祈りを続けた。
看守達も廊下で、女囚達もそれぞれの房で祈りを捧げた。
もう、すすり泣きが聞こえることはなかった。