緊張の夏

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月30日〜09月04日

リプレイ公開日:2005年09月04日

●オープニング

 残暑のパリから1日ほど離れた森で、男2人が緑の天蓋の下を弁当持ちで歩いていた。
「ここらもガキの時分に遊んだ景色とは変わってないな」
「おうよ。それより川はまだだっけ。そろそろ喉が乾いてきたな」
「もうすぐだ。水場にはよく鹿なんかが水を飲みにやってきてるはずだ。今日は肉料理と洒落こみたいな」
 弓を携えた2人は言いながら歩く。
 やがて川のせせらぎが前方から聞こえてきた。
 森の緑を抜け、2人は小さな川の岸に現れた。
 だがそこには先客がいた。川岸にうずくまったみすぼらしい身なりの3人の男が何やらかを囲んで、ガツガツと何かをしている。
 雰囲気がおかしい。
 彼らが囲んでいるものが無残に四肢を引きちぎられ、腹から内臓を掻き出された猪の死体だと気づいた時、3人はこちらを振り向いた。
 屍としか言えないような不気味に腐敗した面相だった。血に染まった口元には真っ赤になった牙が並んでいる。
「うわっわわわわっわわっ!!」
「ズゥンビだぁっ!!」
 2人は叫びを挙げ、恐怖に駆られて来た道を戻り、逃げ出した。
 3人の死体は立ちあがり、彼らの後を追いかけてきた。
「ひえええ!! 追いかけてきやがるぅ!!」
「ズゥンビってのろまだと聞いてたけど、速えじゃねえかっ!」
「このままだと追いつかれるぞっ!!」
「走るんだよっ、スモーキー!! このまま、無事に振り切って逃げられたらパリの冒険者ギルドに駆けこんで、森のズゥンビ退治を依頼しよう、そうしよう!!」
「解った!! じゃあ、喋ると息が切れるからしばらく喋るのやめて走るぞぉ!!」
 2人は無言で走りつづけた。

●今回の参加者

 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea4909 アリオス・セディオン(33歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5283 カンター・フスク(25歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea5678 クリオ・スパリュダース(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6044 サイラス・ビントゥ(50歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6707 聯 柳雅(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6749 天津 蒼穹(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7234 レテ・ルシェイメア(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb1502 サーシャ・ムーンライト(19歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●1
「先日グールを退治したと思えば、今度はズゥンビですか‥‥。この時期、アンデッドの出現しやすい何かがあるのでしょうか?」
「夏は怪談の旬だから」
 ウィル・ウィム(ea1924)が口にした疑問に、クリオ・スパリュダース(ea5678)が即答する。
「いや、冗談だが」
 しらっと言ってのけるクリオは表情も変えない。
 ズゥンビ退治へと出発しようとする冒険者達は、集合場所であるパリの外れに全員集まっていた。残暑の陽光に照らされながら、汗をかきつつ出発前の作戦会議だ。ダベりんぐともいう。
「いやさ、ともかく走りズゥンビなわけでしょ? そんな特殊なモンスターがパリ近郊に出るのって、かなりヤバいような気がするわ。殲滅戦想定しないとまずいわね」
 リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は深刻そうに言う。
「いやズゥンビではなくグールだろう。見た目ズゥンビ、死体を食う、口に並ぶ牙、ズゥンビよりも俊敏‥‥」
「だろうな。この間戦ったばかりだから、さすがによく憶えている。つくづく縁があるな」
 ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)とアリオス・セディオン(ea4909)がモンスターの見当をつけた。
「まあグールに間違いないな」
 モンスター知識に詳しいクリムゾン・コスタクルス(ea3075)も念を押すように言う。
「俺も前に依頼で相手したことがあるが厄介だな」
 レイ・ファラン(ea5225)がさぞ厄介事を抱えたように黒髪を掻く。
「素早いしやたらと頑丈なんだよな‥‥。ズゥンビと違って傷つけられても鈍化しないし、おまけに麻痺毒もあるときた‥‥」
「いや毒は持ってないぞ。そこは安心だ」
 レイの間違いをクリムゾンが訂正する。
「ともあれ、ズゥンビより頑強で素早いというのでしたら気を引き締めねばなりませんね」
 馬にまたがったサーシャ・ムーンライト(eb1502)は自らを戒めるように言う。
 冒険者達の意識では倒すべき相手はズゥンビではなくグールということでまとまった。
「敵の数は解っているようだし、生者を見ると襲ってくるタイプなら発見は容易いだろう。敵を見つけ次第、退治の開始だな。‥‥ノルマンの冒険者の御力、拝見させていただこう」
 槍を携える侍、天津蒼穹(ea6749)は組んだ仲間に発破をかけるような言葉を送った。
 冒険者達は既に皆、依頼人の2人と会って、当時の状況を詳しく訊いている。
 倒すべき怪物3体個別の呼称はクリオによって決められていた。
 それぞれを『のぞみ』『かなえ』『たまえ』と呼んで区別することにしている。
「外見、男に見えるのに女っぽい名前つけてどうするよ!?」
「まあよいではありませんか。親しみやすいですしね」
 とファイゼルのツッコミは、シャクティ・シッダールタ(ea5989)によって受け流される。
 冒険者達はグール退治の為にパリを出発した。

●2
 保存食を1つ空け、翌日に件の森に到着した。
 ちなみにクリオと聯柳雅(ea6707)は保存食を用意していなくて、みっともない空きっ腹の音を仲間達に聞かせる羽目となった。
 見事な緑の天蓋が覆う頭上を時折見上げながら、冒険者達は森を進む。
 小鳥の声。木陰を夏風が通り過ぎていく。
「依頼の状況も示しているけど、動物が水場にしている川をこのモンスターは餌場にしているから、まずそこまで行こう。川べりなら見通しもあるし、途中の小道で『サープライズッ!』よりははるかに戦いやすい」
 クリオはそう言い、他の者達も川を中心に探索することに賛同した。
 依頼人に教えられた通りに進んでいくとやがて木々が開けて川に出た。
 そこからシャクティはパーティを3組ずつに分けてグールを探すことを主張したが、レテ・ルシェイメア(ea7234)はグール3体がまとまって行動している可能性を考慮して、全員一緒で探索すべきだと意見した。
 果たして冒険者達は全員で川辺を上流へと辿っていくことにした。
 レイはグールが何処から出てくるか解らないし、3体だけとは限らないかも知れないからと周りを警戒する。
 痕跡を探しながら途中、依頼人がグールに出会った場所らしき場所を見つけ、そこに散乱していた猪の骨の所からリュシエンヌはグールの姿を求めて『ムーンアロー』を発射した。
 しかし月色の矢は獲物を見つけられずに迷走して術を放った当人に命中した。
 冒険者達はさらにしばらく上流へと歩いた。
 結構長く歩いた。仰いだ太陽は午後に近づいて傾いている。
 ふと喉が乾いた聯は水を手に汲もうと、川辺にしゃがんだ。
 すると、水面に映る影が無気味に見えた。自分の影かと思うとそうではない。細身の聯とは違うがっしりとした不気味な影は水中にいて、突然水面を破って爪が伸びた腕が伸ばされ、掴みかかってきた。
「グールだっ!!」
 後方へ跳び退った聯は仲間達に注意喚起の叫びを挙げた。
 グールが現れた。
 1体は川の中から、もう1体は上流から、更に1体が下流の方から川を目指して俊敏な動作で走りこんでくる。
 3体とも涎が糸を引く牙を剥き出しにし、掴みかかるように襲いかかってくる。
 冒険者は瞬時に戦闘態勢になった。

●3
 まずクリオがアルジャスラード・フォーディガール(ea9248)に『オーラパワー』をかける。
「どれが『かなえ』だっけ?」
「背の高い順に『のぞみ』『かなえ』『たまえ』。そう決めただろ」
 アルジャスラードの疑問にクリオが表情なく冷静に答える。
 アルジャスラードは3方のグールをざっと見比べ、中くらいの背丈に見えた上流からのグールへ向かう。
 クリオは更に『オーラパワー』をファイゼルと聯にかけるべく準備する。
 『のぞみ』『かなえ』『たまえ』を直接相手にする3隊の前衛がそれぞれに向かい、後衛となる仲間をその中央で守るようなフォーメーションとなる。
 後衛のウィルが自分達を守るために『ホーリーライト』の白光を手元に照らした。
「悪を切り裂く正義の刃! 天津蒼穹、いざ参る!!」
 大声を放ち、天津が3体のグールにまとめて名乗りを挙げる。
 ズゥンビなどとは違い、グールは素早かった。
 アリオスが『レジストデビル』で自身の防御力を強化している内に『のぞみ』が彼に肉迫する。
 サーシャが彼とグールの間に盾を割り込ませ、その力強い腕と爪からアリオスを守った。
 鋭い牙で『のぞみ』がサーシャに噛みつこうとしたのを今度はカンター・フスク(ea5283)が剣で受ける。
 後方でサイラス・ビントゥ(ea6044)は『フレイムエリベイション』の巻物を使い、己の気力を高めた。
 アリオスが自分の『鎮魂剣』で『のぞみ』の左肩に斬りつけた。それは深々と肩をえぐったが評判通り、グールは動作に何の遅滞もなく更に襲いかかってくる。
「ゆけぃ! シャドウバインディング!!」
 サイラスは『シャドウバインディング』の巻物を使い、陽光でくっきりとその足元に現れている『のぞみ』の影を魔力で縛りつけた。グールの動作が固まる。
 サーシャは渾身の力をこめた大振りの一撃を敵に叩きこみ、カンターもその剣を叩きこんだ。
「悪霊退散! 喝!!」
 ジャイアントのサイラスは物理的退魔の法(早い話が数珠を握ったパンチ)を怪物の頬に見舞う。
 一方、アルジャスラードは龍叱爪を構えた両手で『かなえ』の攻撃をかいくぐりながら、巧みに攻撃していた。しかし少しでも気を抜けば反撃を食らい、彼の肌に牙をかすめた傷が増えていく。
 腕や頭を振り回す『かなえ』の攻撃は大振りだが危険だ。
 クリムゾンは『名剣デル』を構えながら、巧みなステップで『かなえ』の攻撃をかわしている。
 レイはアルジャスラードの攻撃に組み合わせるように刀による斬撃を振るい、『かなえ』にわずかずつだが的確にダメージを与えていった。腐敗した血のような汁が傷から飛び散る。レイはグールの匂いが嫌いだった。
 その時、レテ・ルシェイメア(ea7234)の『シャドウバインディング』の呪文詠唱が結実した。影を縛られた『かなえ』の動きが固まる。
「今だっ!!」
 この機を待っていたクリムゾンは攻めに転じて、斬りかかる。
 グールの胸板に剣傷が疾った。
 他の仲間も動きを縛られた『かなえ』に対し、一気に攻勢に出る。
 傷だらけのアルジャスラードは戦いの中で『狂化』していた。
 残るグールの『たまえ』を直接相手にする4人は善戦していた。
 ジャイアントのシャクティは両腕で構えた金棒を振り回し、大振りながらその命中率と手応えには満足がいくものがある。
 聯は身軽に敵の周囲を動き回り、そのフェイントのかかった動作で『たまえ』を翻弄していた。
 ファイゼルはそんな敵の前に回り込むようにしつつ、横薙ぎに刀を払い、敵の膝や腰に斬りつけていた。
 ファイゼルも聯もシャクティも『たまえ』が天津の槍の間合いの中に入っていかないよう、計算しつつ戦っている。
 自分に『オーラパワー』を付与した天津は、いきなり大技を見舞った。
「行雲流水‥‥! 為・虎・添・翼!!」
 天津は疾駆から大跳躍し、自分と武器の重さを乗せた一撃を『たまえ』の頭頂に打ちこむ。その一撃は相手の頭蓋を陥没させ、腐った血肉が森の景色に飛び散った。
 しかしそれでも『たまえ』の動作は鈍らない。牙をむき出して汚い爪が槍の柄を掴む。
 そこをファイゼルが『たまえ』の手を斬りつけて、槍から手を離させた。
 天津は全身を使って腰だめの構えで槍を振るい『たまえ』に次々と傷を負わせる。仲間と合図を出し合い、それぞれの動作が邪魔にならないように攻勢を築いていた。
 ある時は攻めの刃となり、ある時は仲間をかばう盾となり、冒険者達は戦った。
 そしてレテの『シャドウバインディング』が再び唱えられ、とうとう『たまえ』も拘束することに成功する。
「喰らえ!虎の咆哮を!!」
 一気に近づいた聯が、龍叱爪をつけた右拳の正拳突きと伸びやかな左足の渾身の蹴りを動けない『たまえ』の胴に叩きこみ、更に必殺の『爆虎掌』を打ちこんだ。
 その攻撃で『たまえ』は全身を脱力させ、地面に倒れこむ。
 冒険者達は残るグールをその動きが縛られているうちに仕上げにかかる。
 シャクティが全力を込めた叩撃がレイの斬撃と同時に『かなえ』の胴を薙ぎ払う。熱狂したアルジャスラードに切り刻まれていた『かなえ』も森の大地に崩れ落ちた。
「サイラス・ダイナミックッ!!」
 サイラスの振った金棒の一撃が『のぞみ』の腹を打って葉茂る木の梢までとばし、落ちてきたグールはそのまま地面に倒れ伏して立ち上がらなくなる。
 3体のグールは倒れて動かなくなり、ここには傷ついた冒険者のみが立っていた。
「お前さんに恨みはないが‥‥人が悲しむのは見たくないのでな」
 天津は動かなくなったグールの屍に言葉をかけた。

●4
 アルジャスラードとサーシャは川の水を頭からかけられ、『狂化』状態から眼を醒ました。
 戦いで傷ついた者達は仲間の『リカバー』によって傷を癒された。
 サーシャは続くグールが地面の中から現れたりしないかとしばらく警戒したが、そんなことはないようだ。
 3体のグールの死骸は集められ、この場所で燃やされることになった。
「それにしても思い出の場所に苦い思い出ができちまったわけか」
 ファイゼルは依頼人の心境を思いはかって苦笑した。
 重ねられたグールに火が放たれる。
 煙が森の天蓋を抜けながら薄まり、ようやく空へ上る。
 死体の焼ける嫌な匂いがした。
「さて、後は依頼人に無事退治したことを報告するだけだな」
 ファイゼルはそう言ったが、アリオスとレテはそれには首を縦に振らなかった。
「森には他にグールがいるかもしれん。そいつらを探して退治したほうがいいだろう」
「そうです。依頼契約の期間一杯を使って、アンデッドを探しましょう」
 アンデッド殲滅を主張する2人の眼は本気だった。
「依頼の3体は退治したんだし、いいんじゃないかな‥‥」
「そうだな。せめて探すのは今日一杯にして、それで出なかったらもういいんじゃないか」
 そう提案したのは聯とクリオ。保存食がなく空きっ腹を抱える2人だ。
 グールが燃えたのを確認した冒険者達はその足で森の中を探索した。陽の暮れるまで真剣に探索した彼らはそれ以上、他にグールなどの痕跡を見つけられず、この森にはもうアンデッドがいないらしいと結論する。
 冒険者は温かく美味な酒場料理が自分達を待っていることを期待して、パリへの家路についた。