新説? 花咲か爺さん
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月20日〜09月25日
リプレイ公開日:2005年09月26日
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●オープニング
「この『アサギリ座』、次回公演は『花咲か爺さん』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
夕の冒険者ギルドにまた口上の呼ばわりが朗々と響き渡る。
アサギリ座公演の報せである。
ノルマンにアサギリ座という小さな芝居小屋がある。
この小屋は毎回、ジャパンの御伽話を題材として演劇をやるのだが、飛び入り参加自由という特色を出している。普段なら役者でない者が自由に舞台に上がり、劇に参加してもいいというのである。面白ければ筋を本来から脱線させてもいい、何でもありなのだ。
過去には『桃太郎』は主役が鬼側の姫と駆け落ちしてしまったり、『かぐや姫』は主役が男子となり故郷の月での悪の陰謀を挫くため、同志を連れて帰ったり、『浦島太郎』は正義の深海戦士、亀ライダーが痛快に大暴れ、『猿蟹合戦』では蟹がアンデッドになった末、皆に食べられてしまったり、『鶴の恩返し』は鶴の母子を見世物にしようとする悪の貴族と鶴戦士が戦ったり、『笠地蔵』はセクハラ風味の戦隊物になり、『雪女』は異種族結婚をテーマとして前面に打ち出してハッピーエンドに終わったり、『舌切り雀』はクライマックスにやたら強いお婆さんが化け物全てを打ち倒したり、『金太郎』は金太郎と弟子のクマの闇の武闘会での死闘となったりという、そんな元の物語とは似て非なるものになってしまっている。ついでに言えばイギリス公演版『桃太郎』では実は桃太郎の双子の姉であった桃姫が登場し、不気味なきび団子を食べたキジが早々に死ぬわ、犬は桃姫に愛の告白をするわ、『かぐや姫』では姫の元に集った美少女戦士達と月の女王配下の怪人達が戦うという物語になってしまった。
客はあまりの筋の変貌にある者は面白がり、ある者は呆れ、それでいてある程度は人気を集めるという状況だ。
ウケれば勝ち。劇団はそういう心づもりらしい。
前は飛び入りの役者も普通の客と同じように観劇代をとっていたのだが、今は冒険者の飛び入り参加を正式に『依頼』として冒険者ギルドに登録し、それなりの褒賞を支払うという方式になっている。
これはこれまで、冒険者が最も熱心に参加しており、仕込みや筋の打ち合わせをきちんと行っているからで、また冒険者がやる飛び入りが一番大胆で客受けがいい。ならばいっそ、依頼としてアサギリ座の方から出演をお願いしようと、そういうことになったわけである。
勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことは忘れてはならない。
衣装や小道具はある程度、劇団側が用意してくれる。
「この『アサギリ座』、次回公演は『花咲か爺さん』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
宣伝役の口上が繰り返される。
一度はデビルに支配されかけたという劇団も元気なものだ。
次回公演『花咲か爺さん』。
自分なりの物語を大衆に見せつけてやるのも面白いかもしれない。
●リプレイ本文
●1
初秋のパリで、アサギリ座の舞台は春遠からじのジャパンを演じる。
枯れ木と土塀が居並ぶ寒村の風情。
ほぼ満席の客席からの拍手に迎えられ、舞台袖より登場するは巨躯のターム・エリック(ea6818)演じる正直爺さん。その褐色の顔の下半分は白毛まじりの髭で覆われ、胸も着物の下でさらしで押さえて、すっかり男を演じる彼女も舞台中央で立ち止まっての第一声が、
「いや〜ん☆」
腰をくねらせ、すっかりオカマという花咲か爺異聞設定の様を見せつける。
さて、そんな正直爺さんタームが歩いていると、彼が入場したのと反対の舞台下手より走って現れたのが城戸烽火(ea5601)演じる白い犬。手も足のように使って駆けてくる様子は、黒髪に白い犬耳、腰に白い犬の尾、柔らかな白い毛皮の衣装がその豊満なボディラインに沿い、毛皮の切れ目がこっそりと裸のへそを覗かせてなかなかマニアックなものがある。その手の趣味の男心に火をつけること効果覿面疑いなし。やはりというか観客席の独身くさい男客から口笛が飛ぶ。
そしてその白犬城戸を追って現れるのが5人の子役。皆、手に木の棒や投げる石を持ち、これで城戸を追いたててきたのだな、と観客にはよく解る。
「こらっ! 何をしてるのよ! 犬をいじめちゃ駄目でしょ!」
「あ、オカマ爺だ!」
犬をかばう正直爺さん。着物姿の子役は背を伸ばせば身の丈2m近くなる老人が立ちはだかったのに対し、ひるみを見せたが、しかしそれも一瞬のこと。天性の悪餓鬼らしきこずるい輝きを眼に宿らせて、
「目標変更! オカマ怪獣をやっつけろー!」
木の棒やつぶてで正直爺さんタームに打ちかかる。
これに対して正直爺さんタームは口をがあっと開けて、
「悪餓鬼どもが! 辛子味噌塗って頭から食べちゃうわよっ!」
あらん限りの声で恫喝したのが子供達を腰を抜かさせんばかりに驚かせた。
「た、退却ぅー!」
餓鬼代将らしき子供がかける号令に他の子供も従い、子役は現れた時以上の速さで舞台下手より退場していく。
助けられた白犬城戸は正直爺さんの手を舐める。
「助けていただいてありがとうですワン」
「いやいや礼には及ばないわよ」
「お礼に龍宮城に連れていってあげましょう」
「いやいや、それじゃ別の物語になってしまうから」
爺さんと犬が会話していることに違和感を覚えさせる暇もなく劇は進行する。
「それではあたしはお爺さんのペットになってあげましょう」
「それじゃ、あたしはあんたが白い犬だから『シロ』という名前をつけてあげるわ」
「お爺さんのそのイージーなセンスが好きですワン」
「おや? 足に怪我してるじゃないの?」
「これはちょっとドジを踏んで‥‥いや、何でもないですワン」
「ともかく家に帰ったら膏薬を塗ってあげるわ」
かくして犬のシロを飼うことになった正直爺さんは家に帰ることにする。
落ちてくる夕陽が村の景色を夕景にする。
実は今の一部始終をタームを遥かに越える巨体を土塀の陰に潜ませて、隠れて眺める者がいた。磨き上げた禿頭に陽を反射させ、盛り上がる筋肉を張り詰めた着物の内に納めた者は正直爺さんの隣に住む意地悪爺さん、サイラス・ビントゥ(ea6044)。
意地悪爺さんサイラスは正直爺さんタームとシロ城戸が退場してからの舞台にのっそりと出てきた。
「隣の爺が犬を手にいれたであるか。ここはいつも通り『俺の物は俺の物、お前の物も俺の物』原理で手に入れるもいいが、とんだ駄犬なら手に入れ損ということになる。しばらく様子を見て、あの犬が役に立ちそうならその時こそ隣の爺からふんだくるのである」
意地悪爺さんサイラスの傍若無人の振る舞いは村でもよく知られたもので、隣の爺の農作物に見合わぬ小銭しか支払わず「金は払ったのだ。い・い・だ・ろ・う?」と凄みを利かせてふんだくるのが常道だ。
意地悪爺さんサイラスは正直爺さんとシロの後をつけるように舞台を退場した。
その舞台の夕景セットを今回はおもに裏方を務める我羅斑鮫(ea4266)達が片づけ、次幕の夜景セットへと転換させる。目立たぬ衣装の裏方、大忙しであった。
●2
夜空を示す黒幕に無数の星が散りばめられた街の夜景。
大きな店の蔵から白い影が出、一跳びで高い塀の上まで上がる。
「待て! 宝を持っていくな! 必ず捕まえてやるからな!」
白い影を追う我羅など店の者役の役者達が口々に叫ぶが、追われる者は追い手の調子など気にせぬ素振りでひらりと塀から通りに飛び降り、塀の内にいる者を置き去りにして走り出す。その腕には、今この店から盗んだばかりの宝の品々がある。
かがり火の焚かれた夜の街の通りを無音で走る白い影こそ、夕方に正直爺さんに助けられた犬、シロである。シロは実は犬の盗賊こそ正体で、夜は海賊風の眼帯で変装をして盗人家業に精を出していた。
「クス。この程度の守りであたしを防げるつもりなのですか」
邪な笑みを浮かべるシロ城戸の犬の速さを追える者は誰もなく、彼女が盗みに訪れた大店はこの夜だけで7軒に及んだ。彼女が特にこの夜に盗みに励んだのは正直爺さんタームへの恩返しがある。彼女は自分を助けてくれた爺さんへ盗んだ財宝を献上しようという、そのつもりであった。
夜道を走るシロ城戸の背景を、裏方達が総動員で街から村の景色へと変える。
シロ城戸は正直爺さんの家の前で立ち止まった。
「色々と手当たり次第に盗んできたからハズレっぽいのも結構ありますワン。これとこれはクズ同然だからいらないですワン」
中味満載で膨らんでいた唐草模様の風呂敷の中から、自分の眼利きで気に入らない物をシロはぽいぽいと放り出す。放り捨てる先は隣の意地悪爺さんサイラスの庭先だ。まるで何処かの観光地の土産物のような悪趣味な調度品の数々が隣家の庭先に小山を積む。
選別の終わった良い宝物は、シロ城戸は正直爺さんの家の前に置いた。
「お爺さん、朝起きたらびっくりしますワン」
シロ城戸は風呂敷と眼帯を土に埋めて隠し、夜の仕事を終えた疲れで庭に寝そべって眠り込んだ。
やがて照明が明るくなり、舞台に朝が来たことを知らせる。
●3
正直爺さんタームは朝が早かった。早朝に体操しようと家から出た正直爺さんは家の前に積まれた豪華な宝物を見て、腰も抜かさんばかりに驚いた。
「あらやだ! 何これ!?」
これは夢ではないかとしきりに眼をこする正直爺さん。やがて一つの結論に辿りつく。
「‥‥そうだ、きっとオカマへの偏見迫害にもめげずに日々正直に慎ましく過ごしているあたしに、神様がご褒美をくれたのね。ありがとう、神様!」
手を合わせて感謝した正直爺さんタームは置かれた宝を集めて、家の中へ戻る。
それからしてしばらく、
「な、何なのであるか、これは!?」
陽も高くなってようやく起きてきたのが隣の意地悪爺さんサイラスだ。庭に出た意地悪爺さんは自宅の庭に山と積まれた悪趣味な品にまず驚いた。
しかし彼はにやりと笑って、
「誰が置いてったか知らぬがこれはこれでよさそうな物であるな。私もこれで一気に物持ちである」
この悪趣味な宝の数々を気に入ってしまい、喜色満面で庭の宝を回収し、巨体に似合わぬせせこましい態度で家の中へ運び込んだ。
ところがこの意地悪爺さんのお宝回収の様子は通りがかった村人達に目撃されていて、その様子を語る話はあっというまに村中の噂となった。更にそれは口伝に近隣の村や町にまで広まり、数日が過ぎる頃にはその悪趣味な品が盗まれた宝の特徴と合致すると街の盗まれた店で言われるようになる。
かくして真偽を確かめるべく捕り物役人が意地悪爺さんの家にむかうことになった。
●4
「い、いや、知らないうちに投げ込まれたんだ! ほ、本当だ、か、返すから許してくれ〜」
大勢の捕り物役人に家に踏み込まれた意地悪爺さんサイラスは顔に似合わぬ情けない態度でそう弁明する。しかし家に置かれていた宝の数々を動かぬ証拠として縄でぐるぐる縛りあげられてしまった。
近所の迷惑爺さんが捕まった様子を見物する取り巻きの中で一番ショックを憶えたのが正直爺さんタームである。知らない内に置かれていた宝物として自分も身に憶えのある正直爺さんは、家の宝物を全て処分したい衝動に駆られ、それを庭の物置へとりあえず運び込むことにした。
その時、シロ城戸の口で着物の裾をつままれる。
「どうしたの、シロ?」
「さらばです。お爺さん、お元気で。あたしは旅に出ますワン」
「突然、どうしたのよ」
「捕り物役人が来たらやば‥‥げふんげふん、思うところあって鬼が島へ鬼退治に行く若者を捜しに旅立つことにしました。今まで面倒を見てもらってありがとうございました。それではお達者で」
「待ちなさいよ、シロー!」
突然去っていくシロ城戸を追おうとして手に宝を持ったまま道に出る正直爺さんターム。
それを見つけたのが捕り物役人の1人である。
「おい、爺。手に何を持っている?」
「あ、これは、えーと‥‥」
「ある店から盗み出されたという『魔法の灰』が入った巾着によく似ているな‥‥? む、まさかお前、隣の爺とグルになって‥‥!? 中を見せてみろ!」
「え、まさか、これが『魔法の灰』とやらであるわけがありませんわよ。ほら、この通り、中味は‥‥ただの灰よ」
「灰じゃないか!」
「何の変哲もない、ただの灰なのよー!」
その時、春一番にも似た強い風が吹き、巾着の中から大量の灰を風の中にすくいあげ、風にさらわれて村の風景に並ぶ枯れ木に舞いかかる。舞台のセットの中ではそれは灰に見たてた細切れの布吹雪となる。
ここで舞台上方を花柄迷彩の装束を着た我羅が『疾走の術』『湖心の術』を駆使して眼にもとまらぬ速さで無音疾駆し、仕掛けの紐を次々と外す。仕掛けとして満開の花々が描かれた大きな垂れ幕が枯れ木の風景の上にかかり、舞台は狂い咲きにも似た満開花吹雪の様相となる。
舞台上、桜一色。
「枯れ木に花を咲かせるとはまさしく盗まれた『魔法の灰』! お前らか、あの犬に似た格好をした盗賊を操っていたのは‥‥確保ぉっ!!」
「濡れ衣よぉ〜!! いや〜ん、私が何したってのよぉ!! オカマ差別よぉ〜☆」
かくして正直爺さんタームも捕り物役人達に縄でふんじばられ、意地悪爺さんサイラスと共に連行されるところでアサギリ座の舞台の幕が下りてきた。花吹雪の中、正直、意地悪、両色の爺さんが役人に捕まってしまうという、とんでもない終わり方で『花咲か爺さん』、終演である。
感想様々な拍手の中、幕は完全に下りた所で舞台袖からシロ城戸がひょっこりと現れる。
「花咲か爺さんの真似は危険だから皆は絶対しないでね、ワン」
そう言って尻尾ふりふりポーズをとり、彼女に萌えた男性客からの口笛や掛け声に応えて身をくねらせる。
ちょっとしたおまけもあったが、冒険者達の『花咲か爺さん』これにて完了であった。