新説? 一寸法師

■ショートシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2005年12月18日

●オープニング

「この『アサギリ座』、次回公演は『一寸法師』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
 夕の冒険者ギルドにまた口上の呼ばわりが朗々と響き渡る。
 アサギリ座公演の報せである。
 ノルマンにアサギリ座という小さな芝居小屋がある。
 この小屋は毎回、ジャパンの御伽話を題材として演劇をやるのだが、飛び入り参加自由という特色を出している。普段なら役者でない者が自由に舞台に上がり、劇に参加してもいいというのである。面白ければ筋を本来から脱線させてもいい、何でもありなのだ。
 過去には『桃太郎』は主役が鬼側の姫と駆け落ちしてしまったり、『かぐや姫』は主役が男子となり故郷の月での悪の陰謀を挫くため、同志を連れて帰ったり、『浦島太郎』は正義の深海戦士、亀ライダーが痛快に大暴れ、『猿蟹合戦』では蟹がアンデッドになった末、皆に食べられてしまったり、『鶴の恩返し』は鶴の母子を見世物にしようとする悪の貴族と鶴戦士が戦ったり、『笠地蔵』はセクハラ風味の戦隊物になり、『雪女』は異種族結婚をテーマとして前面に打ち出したてハッピーエンドに終わったり、『舌切り雀』はクライマックスにやたら強いお婆さんが化け物全てを打ち倒したり、『金太郎』は金太郎と弟子のクマの闇の武闘会での死闘となったり、『花咲か爺さん』は犬の盗賊のせいで正直爺さんも意地悪爺さんも一緒に役人に捕まったりという、元の物語とは似て非なるものになってしまっている。ついでに言えばイギリス公演版『桃太郎』では実は桃太郎の双子の姉であった桃姫が登場し、不気味なきび団子を食べたキジが早々に死ぬわ、犬は桃姫に愛の告白をするわ、『かぐや姫』では姫の元に集った美少女戦士達と月の女王配下の怪人達が戦うという物語になってしまった。
 客はあまりの筋の変貌にある者は面白がり、ある者は呆れ、それでいてある程度は人気を集めるという状況だ。
 ウケれば勝ち。劇団はそういう心づもりらしい。
 前は飛び入りの役者も普通の客と同じように観劇代をとっていたのだが、今は冒険者の飛び入り参加を正式に『依頼』として冒険者ギルドに登録し、それなりの褒賞を支払うという方式になっている。
 これはこれまで、冒険者が最も熱心に参加しており、仕込みや筋の打ち合わせをきちんと行っているからで、また冒険者がやる飛び入りが一番大胆で客受けがいい。ならばいっそ、依頼としてアサギリ座の方から出演をお願いしようと、そういうことになったわけである。
 勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことは忘れてはならない。
 衣装や小道具はある程度、劇団側が用意してくれる。
「この『アサギリ座』、次回公演は『一寸法師』です。‥‥興味ある方は友人、ご家族を誘って、ぜひご覧になってください」
 宣伝役の口上が繰り返される。
 次回公演『一寸法師』。
 自分なりの物語を大衆に見せつけてやるのも面白いかもしれない。

●今回の参加者

 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5510 シーン・イスパル(36歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1079 メフィスト・ダテ(32歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●1
 寒風吹きすさび、雪が降るのも間近かと思われるパリ、12月の夜景。
 寒さにもめげず芝居小屋『アサギリ座』に集まった街の人々は観劇の銭を払い、入り口をくぐる。
 小屋内の暖かさに大勢が上着を脱ぐ。並ぶ観劇の座にめいめい腰を下ろし、弁当でも買い、今か今かと幕が開くのを待って、時には隣席の者とくっちゃべる。
 やがて八分の入りとなったアサギリ座の観席の照明も薄暗くなり、舞台装置の照明の火が前方の舞台を明るく照らしだした。
『‥‥新説・一寸法師、始まり始まり〜♪』
 ナレーターを務めるメフィスト・ダテ(eb1079)の張りのある声が響き渡って幕が開き、ジャパンの村を牧歌的に模したセットの中で、村人役の役者達が日常の風景を描き始めた。
 セットの中央につつましやかな農家が据えられている。中が覗けるよう客席側の壁を取っ払ったその家は囲炉裏傍にお爺さんとお婆さんが向かい合って座る光景があった。
 お爺さん役は我羅斑鮫(ea4266)、お婆さん役は城戸烽火(ea5601)である。
『‥‥昔々、ある所にお爺さんとお婆さんがおりました。2人には子供が出来ませんでしたが、神様にお願いしたところ、男の子が生まれました』
「うおー、婆さんや! もう辛抱堪らん!!」
「やだ! 突然、何するんですよ、爺様!?」
 突然囲炉裏を越えてのしかかってきた我羅爺さんを城戸婆さんはハリセンで迎撃した。小気味よい乾いた音でがお爺さんの顔面を思い切りはたく。
「うぉっ! 眼が、眼がぁぁぁぁ!!」
 転げまわる我羅爺さんの前で、平然とハリセンをしまう城戸婆さん。客席にはウケている。
 我羅爺さんはひとしきり転げまわると、はあはあと息をつきながら自分の場所に戻った。
「婆さんはつれないのぉ」
「爺様こそ何でいきなり押し倒そうとするんです?」
「いや実際、俺の周りの年寄りといえばやたら元気な奴ばかりだったんでな、役作りがその記憶に引きずられてしまうんだ。‥‥それにこういうシチュエーションも新鮮でな」
「あら、やですよ、爺様。皆が見てる前で」
 老け役らしからぬしなを作る城戸婆さん。ちなみに我羅はメイクで老人を演じているが、城戸は忍術『人遁の術』を使用して外見は本当の老人になっていた。実際に恋人同士とはいえ、我羅はよく欲情出来たものだ。
『‥‥2人とも』
 ナレーターのダテの声が強い口調で舞台に響き渡った。
『‥‥ナレーションを無視しないように。‥‥ともかく、お爺さんとお婆さんが神様にお願いしたところ、男の子をお授かりになりました』
 城戸婆さんと我羅爺さんがナレーションを謹聴していると、囲炉裏の陰から小さな男の子の人形がぴょこりと現れた。どうやら巷で『ちま』と呼ばれているタイプの人形のようだ。
 観客はどう見ても支える者もいないのにひょこひょこと動く人形を見て、ざわざわと不思議がった。
 実は人形はシーン・イスパル(ea5510)が『インビジブル』の魔法を以って透明化し、持って操っているのである。シーンの操る人形は自由自在に家の中を歩き回り、その光景はささやかにファンタジックで観客達の眼を引きつけた(『インビジブル』の効果が切れそうな時、シーンは上手くセットの陰に隠れて術をかけなおしている。尚、人形を持ったまま、術をかけると一緒に透明化してしまうので、一度、身から離し、術をかけてから持ち直している。シーンのささやかな苦労である)。
『‥‥神様から授かった可愛らしい子供をお爺さんお婆さんは大層大切に育てました。‥‥そしてそれから何年も経ちました。しかし若者となってもいい年なのに、ちまっとした小さな子供はその背丈のまま、全然成長しませんでした。お爺さんとお婆さん、そして村の人達はそんな小さな不思議な子を段々と気味悪そうな眼で見るようになります』
 舞台の村は春である。
「いつまでたってもチビだね」
 ある日、城戸婆さんは『ちま』に向かってそう言い放った。
「男なら大きくなるか大きなことが出来るまで、帰ってくるんじゃないよ」
 お婆さんはそう言いながら箒で『ちま』を家の外に掃き出した。
 外には我羅爺さんが立っていた。
「何年経っても成長しないなんて、お前は化け物の類じゃないのかい?」
 お爺さんの言葉が向けた言葉も厳しいものだった。
「この家に戻ってきたかったら、自分が化け物じゃないことを証しを立ててくるんだぞ」
 そう言って家の戸を閉め『ちま』を締め出してしまった。
 村では近所の子らを演じる子役達が意地悪そうに『ちま』を棒で突つきながら追いたてる。それは村外れに着き、村から走り出るまで続いた。小さな『ちま』には、それは長い忍耐の時間だった。
 こうして『ちま』は村を旅立った。旅立ちは散々な経験だった。

●2
 舞台セットは変転する。
『‥‥村を追い出された『ちま』は何日も流れ流れて、とうとう東の都に辿りつきました。そこで彼は美しいお姫様と道でばったり出会い、物珍しさと彼女の気まぐれから彼女の屋敷に住みこみ付き人として奉公をすることになりました。ここで『ちま』はお姫様から『一寸法師』という名前を与えられます‥‥』
 ダテのナレーションと共に舞台風景は都の大きな屋敷のそれとなる。
 2階の姫の部屋にそのお姫様と一寸法師がいた。
 城戸姫は十枚も重ねた座布団の上にあぐらをかいて座っている。姫は『人遁の術』を解いてはたちの見た目に戻った城戸が演じているが、彼女の装束は一見ジャパンの着物風なれどへそが見えているセパレート、その裾も白い太腿あらわなギリギリミニスカになっているという、やたら挑発的な桃色衣装で、豊満な魅力溢れる城戸のセクシーさと相まって客席の独身男達から口笛の十も二十も誘おうかという塩梅だった。過去のアサギリ座公演でやはりセクシー衣装で一部男性客のハートを鷲掴みにした城戸、本領発揮である。
「退屈じゃのう」
 城戸姫は一寸法師をお手玉と一緒に空中に放り出し、弄びながら上流階級のアンニュイを体現した。
 窓の外では山から迷いこんだ鶯が飛びすぎる。
「のう、一寸法師。何か退屈を紛らわすような面白い遊びはないか? そうじゃ、何か世間に面白い話はないか?」
 姫がそう訊くと一寸法師は姫の腕から肩までをよじ登り、何やら耳元に吹きこんだ。
「‥‥何? 巷では鬼の棲む島が話題になっているのじゃと? 鬼が近くの漁場を荒らして民を困らせている? 何やら面白そうじゃ。一遍、鬼というものを見てみたいのじゃ! よし、一寸法師、案内せい!」
 叫ぶように言うか、座布団を蹴飛ばした城戸姫は一寸法師の手を掴んで振りまわすように部屋を出、屋敷の階段を一気に駆け下りた。そしてすれ違う使用人達が振り返る暇もなく、屋敷の外へと脱出する。
 姫が抜け出た屋敷は使用人が立ち尽くすのみの光景になった。
 照明が落ち、屋敷の風景は舞台暗転の闇に沈みこむ。
 闇の中で裏方がセットを組み変える音がする。
『‥‥こうしてお姫様は一寸法師を連れて、鬼見物へ出かけました。2人きりの船出はやがて鬼が棲むという島に無事辿りつきます。海岸を歩く2人はほどなくして、1人の鬼に出会いました』
 照明が明るくなり、鬼の棲む島へと変わった舞台が観客の前に披露される。

●3
 ごつごつとした黒い岩場が広がる風景で、肌が赤い鬼と対面する、セクシー衣装の城戸姫と彼女を守るように寄りそう一寸法師の姿があった。
 虎縞の褌を着けた赤鬼を演じるは老爺のメイクを落とした我羅であった。
「なんだ、見慣れぬ者だな。どうだ聖夜祭を楽しまぬか? プレゼントならこの小槌で出してやろう」
 砕けた調子で微笑を浮かべる筋肉質な赤鬼我羅は腰に下げた立派な小槌を掌でぽんと叩いて、示した。
「まあ、立派なお宝じゃのう」
「そうかそうか‥‥何処を見つめておる。その視線の先は俺の褌じゃないか」
「違うのじゃ。わらわはその小槌を見ているのじゃ。‥‥本当に見れば見るほど立派なお宝じゃのう」
「そうさ。これは本当に立派なお宝だ」
 その時、赤鬼我羅は城戸姫の器量の良さに今更気づいたかのように眼を大きく開く。
「おー、なんと美しい。俺の嫁になれ。ほれ、俺はこの打出の小槌で金銀財宝や望む物、何でも手に入るんだ」
 役ではなく本心で口説いているかのように聞こえる口調に城戸姫の顔はほのかに紅に染まる。
「‥‥えー、嫁かのう。ほんにどうしようかのう。‥‥よくよく見れば意外にいい男じゃし‥‥」
 腿を内股ですりあわせてもじもじとし始めた城戸姫に対し、一寸法師が彼女の周りで気を引きとめるかのようにぴょこぴょこと跳びはねた。
「なんじゃ、一寸法師? 鬼の嫁などになってはならぬと意見申すのか?」
「なんだ、お前。小さくて鬱陶しい。大きくしてやるから言いたいことをはっきり言え」
 小さな一寸法師を見た赤鬼我羅は、持った小槌を法師の上に振り下ろした。
『‥‥なんということでしょう。打出の小槌が振られると、ちまっとした一寸法師の身体がむくっと少し大きくなりました。2回3回と鬼が続けて小槌を振るとその分、大きくなります。鬼はどんどん振り、一寸法師もどんどん大きくなり‥‥やがて一寸法師の姿は普通の若者と背の高さの侍となりました』
 ダテのナレーションとほとんど同時、タイミングよくそこで『インビジブル』の効果時間の切れたシーンが人形の一寸法師と入れ替わるように姿を現した。シーンの衣装は既に大きくなった一寸法師、若武者のそれである。
「じゅわっ!」
 巨大化した一寸法師=シーンは中腰に構えて、赤鬼我羅と相対した。
「姫様は渡さぬ!」
「ふふん」
 赤鬼我羅は笑った。
「俺がお前を倒せたら姫を貰うぞ。代わりに俺を倒せたらこれをくれてやる」
 小槌をぽんと叩き、背負っていた金棒を手に構える。
 一寸法師シーンは腰の刀を抜く。大きくなった針の刀だ。
 緊迫する戦闘場面の開始を予感して、観客は声援を張り上げる者と息を飲む者に分かれた。

●4
「お前弱いな。出直してこい」
 観客の期待盛り上がりも何処へやら、戦いはあっけなく決着が着いてしまった。
 赤鬼我羅が立てた金棒と黒い地面に挟まれて、一寸法師シーンは倒れ伏している。金棒で散々に打ちのめされた上での顛末だった。勿論、金棒は芝居用の紛い物だがシーンには少々痛く、頭に小さなこぶが出来たかもしれない。
「元の大きさに戻してやるから家に帰れ」
 そう言って赤鬼我羅は再び小槌を一寸法師シーンに向かって、振った。
 シーンは伏したまま、ぼそぼそと『インビジブル』の呪文を唱える。
 十数回、小槌が振られると、音もなくシーンの姿が消えて、代わりにセットの岩陰に隠していた元の小さな一寸法師の人形が入れ替わる。
 小さく戻った一寸法師はそれでも姫を守るため、彼女の方へと駆け寄った。
 そんな彼を踵でぽんと後方に蹴り飛ばしたのが城戸姫だった。
「弱いお主はもういらぬのじゃ。わらわはこの鬼が気に入ったのじゃ。じゃあ法師よ、何処にでも行くがよい」
 そう言って城戸姫はたくましい赤鬼我羅の胸にしなだれた。
「よし、今日から姫が俺の嫁だ」
「わらわは幸せじゃ」
 新カップルは互いに寄りそって舞台の下手から退場していく。
 舞台に残された一寸法師はしばらく舞台をうろちょろしていたが、やがて岩場の陰に繋いであった小船にちょこんととび乗った。この島に姫とやってきた船だ。
 舞台の岩場が上手と下手から左右に引かれて割られ、海を模した幾重もの青幕が広く現れた。それは波の上下の中央に法師を乗せた舟を置き、ざざあという効果音と共に舟を遠くに運んでいく。
『‥‥哀れ、鬼に負けて仕える姫を取られた一寸法師は独り、波間へと漕ぎ出しました。こうなると都の屋敷には戻れません。勿論、お爺さんお婆さんの待つ家にもまだ帰れません。一寸法師の乗る舟はいずこへと知れず、遠く海を運ばれていき、いつかは皆に顔向け出来る立派な若者へのレベルアップを信じる彼を新たなる冒険へと誘うのです。頑張れ、一寸法師! くじけるな、一寸法師! ‥‥というわけでこの劇は遥かなる一寸法師の旅路のほんの始まりにすぎませんが、丁度時間となりました。アサギリ座公演『新説・一寸法師』、今回はこれにておひらき〜♪』
 ダテの最後のナレーションと共に舞台に幕が下りてきた。
 やはり内容に納得のいかない観客若干名で客席がさざめくが、それは舞台の上にセクシー姫衣装の城戸がまた現れるまで。
 幕の前の城戸はギリギリのミニスカ衣装の裾をさらにちょっとだけまくって、
「一寸法師の真似は危険だから、ちびっこは真似しないでね☆」
 媚び売る笑顔でポーズを決めれば客席の独身男達はおおーっと唸り、口笛が響く。その規模は客席全体が沸いたよう。現金な変わりようだ。
 劇の理不尽さをお色気で補正しようというあざとい演出だが『ウケたら勝ち』のアサギリ座。終わり良ければ全て良し。
 ともかく舞台は無事に一巻の終わりとあいなった。