●リプレイ本文
●1
依頼があった当日に、有志の冒険者達は依頼者である若者の家へと押しかけた。
「男は中身で勝負! キザでカラッポな男なんかより鍛錬修練努力に根性を総動員して告白に望め!」
ユキネ・アムスティル(ea0119)のイギリス語による励ましは、フィーナ・ロビン(ea0918)に通訳されて彼に伝えられる。
冒険者達は、気弱そうな若者を今日、明日という短い時間にどれだけ磨きあげられるかに勝負をかけた。
「『告白の丘』に彼女が来るなら、彼女も心の準備は出来てるハズ! あとはあなたがキチンと思いを告げれば大丈夫です。‥‥はいっ、アエイオエウアオ‥‥」
バードのクリス・ラインハルト(ea2004)はいざの告白に備えて、若者の発声、滑舌をコーチする。妥協を許さない心づもりだが、若者の舌は頑張ろうとする緊張により余計にもつれてしまうようだ。
そんな彼をリラックスさせようと、恋占いをする褐色肌のシフール、シグマリア・アンズ(ea1726)。
銀色の小枝をテーブルにそっと立てると、気持ちを集中させた指をそっと離し、倒れた方向で占いをする。
「占いの結果は‥‥『お邪魔に注意』」
イギリス語で呟いたシグマリアはすぐに顔を上げ、
「大丈夫。かなえたい気持ちがあれば幸せは掴める、きっと」
そう笑う彼女の言葉がやはりフィーナの通訳で若者に伝えられる。
「時間はないんだ。面倒くさいが依頼を引き受けた以上はやらねばならん」
ドワーフの神聖騎士、ゲイル・バンガード(ea2954)は『通常馬に乗った王子様作戦!』のため、発声練習中の若者を半ば無理やり自分の馬へと押し上げた。彼を馬に乗せて騎乗訓練。猛特訓だ。
「ア、アエイオウ、オアイエオ、ア、アオアオ、ウ、ウオアイウエ‥‥!!」
プロポーズ前日を思いがけずあわただしくした若者は、舌を噛みそうになりながらもなんとか馬にしがみつく。
その日の夜もふけた頃、若者のいざという時の滑舌は前に比べれば幾らかましになり、乗馬も普通に歩かせるくらいなら出来るようになった。
●2
プロポーズ当日の午後。
かなり日も傾き、夕暮れも近い。
今日の若者の家での作業はフィーナが歌う、勇気を奮い起こす呪歌を背景に進めらていれた。
「こういう相談に乗るのはジプシーの本懐、がんばりますよ〜」
ハルヒ・トコシエ(ea1803)は、若者自身などから聞いた彼女の好みの情報を元に、彼を彼女好みの男性に変身させようとした。ハルヒの理美容の技は、彼を素敵な男性に変身させると共に彼自身に自信をつけて、その気にさせるのが目的である。
「カッコいいですよ〜」
髪を整えながらもリップサービスを欠かさず、軽くマッサージをしてリラックスさせる。
冒険者達は若者の身支度を整えながらも、彼の勇気を奮い立たせ、持続させようとする。
竪琴を置いたフィーナは、若者の服装センスにちょっと首を傾げる。
「あなたに似合う色を選んであげます〜。やっぱり〜、こ〜ゆ〜シチュエーションの盛り上げは〜、第一印象から入らなきゃダメだと思うんですぅ〜。警戒色とか、下手に似合わない色を着てっちゃうと印象悪くなっちゃいますし〜、お顔立ちに合った、なおかつ魅力を引き立てる色が大切なんですよ〜」
言いながらフィーナは、彼が持っている衣装から今日の最善と思われる組み合わせを選んだ。
こうした作業の流れの中で、若者の身なりは馬子にも衣装というほどに奇麗で素晴らしいものになっていく。それに支えられてか、彼の眼に自信の輝きが見える気もした。
「これは、緊張をするのをやわらげる薬です」
あがり症を抑えるという小瓶に入った薬を渡す、フィーラ・ベネディクティン(ea1596)。
蓋を開けるとミントの香りが部屋に漂う。どうやら幾種類かの薬草で作られているらしい。
「絶対に効きますよ」
フィーラは実際の効能よりも、暗示の効果を強く狙ってきっぱり言い切る。
若者は薬を一気に飲み干した。
リュミエール・スプランディード(ea5483)は、その薬の有効性を高めようと自分の竪琴を手に取った。
『立ちなさい、進みなさい、貴方の望みを叶える為に』
『脱ぎ去りなさい、曝けなさい、望みを隠す全ての枷を』
彼女の『メロディー』は時代を先取りしたような前衛的な曲とボーカルで仲間達も驚かせた。
弦をかき鳴らす荒々しい曲調は部屋全体を振るわせ、歌声は飛沫立つ荒波のようだ。
『貴方は神に誓いを立てた、ただの一つの願いの為に』
『貴方は悪魔と契約した、ただの一つの欲望の為に』
『遮る脅えは切り裂きなさい、阻む羞恥は撃ち砕きなさい』
『貴方は聖なる十字軍、聖なる御所に手を伸ばす』
『貴方は邪悪な背教者、邪悪の望みを叶えて見せる』
この曲はそれを受け入れるような素質が聴衆にない限り、むしろ反発されるような騒音ぎりぎり‥‥いやむしろ騒音で曲を作ったような代物だ。
だが若者には受け入れる素質があったようだ。もしかしたら先ほど聴いていたフィーナの『メロディ』による勇気鼓舞との相乗効果があったのかもしれない。
歌を聴く彼は椅子から立ちあがると、高々と掲げた左腕の手首を右手で掴み、自信満々なポーズをとった。
まるで一瞬で筋肉が倍増したような男臭さが部屋に満ちる。汗臭いほど自信満々な戦士がこの部屋に誕生した。
「結婚は戦いでしてよ!」
光景にフィーナは思わず叫んでいる。
その時、村の酒場へテーブルの予約をとりに行っていたクリスが帰ってくる。
パーティ費用の値切りは思うようにいかなかったらしい。
「せっかく、バード3人、ジプシー2人の歌と踊りがタダでご披露ですよって言ったのに〜」
どうやら交渉術は酒場の親父の方が上手だったようだ。
「大丈夫!! パーティの費用くらい、僕が全額出してあげます!!」
無駄なほどに男臭くなった若者が叫ぶ。
そして彼は、外に待たせていたゲイルの馬にとび乗った。
●3
どこからか吟遊詩人の奏でる竪琴の音がする。
夕暮れになり、そろそろ夕陽も沈もうとする『告白の丘』の光景。
若者の乗ってきた馬は木につながれ、若者とその恋人は丘の頂きで夕陽を座って見ていた。
ここにいるのは彼らだけではない。
彼の告白をサポートするユキネ達は思いがけない邪魔者、ましてやモンスターなどが現れないように遠くから丘の彼らを見張っていた。何か邪魔が現れれば、依頼者達が気づかないうちに排除するつもりである。
見張りをしながら恋人達の会話に聞き耳を立てる冒険者達は、彼女の若者への言葉を聞いた。
「今日のあなた、別人みたい‥‥」
言いながら彼女は、彼の身体に肩を預ける。
「突然、馬に乗って現れたり、今日は妙に男らしく見える‥‥」
恋人の言葉に対し、黙って彼は肩を抱く。
どうやらいい雰囲気のようだ。ハルヒなどは陰から固唾を呑んで見守っている。
しかし、その時。
「キャー! 何、この人!?」
「えい!! この不審人物め!!」
若者の足は、覗きのために肉迫していたクリスの身体を蹴り転がした。枯れ木や草などでカモフラージュしていたつもりのクリスだが、偽装工作は得意ではなく、あっさり見つかってしまったのだ。
(恩を仇で返すようなことを〜!)
心の中で叫ぶクリスだったが、ここは2人の恋路のため、素直に転がりながら退場する。
そして、いよいよ夕陽が落ちる時間が迫ってきた。
「‥‥結婚しよう。僕が一生、君を守ってやる‥‥!!」
若者のきっぱりとした力強い告白。
うなずく恋人。
夕陽が落ちた瞬間に彼女の唇は奪われる。
(やった〜っ!!)
成功を見届けて、踊り出るハルヒとシグマリア。2人はまず右手、次に左手へと『ライト』を付与し、結ばれた恋人達へ婚約の祝いの舞を送る。奇麗に踊る4つの光。
夜の暗さの中で突然に光の舞を舞い始めた2人に、恋人達は驚いて立ちあがる。
ハルヒとシグマリアに続くように冒険者達は『告白の丘』に踊り出、自由気ままに祝いのステップを踏んだ。
とまどう恋人達を囲む舞はそのまま、宴の予約を取っている酒場へと2人を連れていく。
●4
「‥‥じ、実は、と、というわけだったんです!」
ようやく『メロディ』の効果が失せたらしく元の性格に戻った若者が、裏返った声で彼女に真相を告げた。
村の酒場で始まった婚約パーティ兼依頼達成の打ち上げパーティ。冒険者達のテーブルは婚約した2人を挟むようにして、既に酒宴が始まっている。クリスとフィーナが祝いの歌を披露する。
元の性格へと戻った若者に対し、婚約者となった彼女は少しだけ不満そうな顔を見せる。
「今日のあなたは、道理でいつものあなたらしくないと思ったわ‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「でも、あたしのために頑張ってくれたんだものね。どんなあなただろうと私は今ここにいるあなたが好きよ」
その彼女の言葉に対して若者は顔を赤くして、ぼ、僕も、と裏返った声。
そんな2人を囃したてる声が冒険者達からあがる。
後はひたすらの宴。酒に料理にジュースに馬鹿話。
「今回は色々と勉強になりましたわ」
フィーラはそう言いながら酒盃へと上品に口をつける。
ゲイルは盛り上げるネタがないので、ひたすら酒を飲み、若者と男同士で語り合う
「いいか、『惚れた相手を信じろ、そして何があっても守り抜け』。この2つの信念を貫けば、きっと神は2人を祝福してくれるだろう」
諭すゲイルの言葉と共に飲み干すよう、酒をあおる若者。
リュミエールも1曲披露するが、今度はあの時のような奇妙な曲ではなく、耳に優しいラブ・バラードだ。
宴の夜は婚約者の幸せを願いつつ、楽しく過ぎていった。