新説? かぐや姫
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■ショートシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月22日〜08月27日
リプレイ公開日:2004年08月26日
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●オープニング
「わが『アサギリ座』の今回の演目は『かぐや姫』です。ここにいらっしゃる冒険者の方々にも、どうか友人家族をお誘い合わせの上、観劇、参加のほどをお願い申し上げます」
その呼ばわりは、冒険の依頼というよりは観劇の誘いだった。
冒険者ギルドに宣伝にやってきた、アサギリ座の男が声高々に口上を読み上げる。
ノルマンに『アサギリ座』という小さな芝居小屋がある。
その小屋は一風変わっていて、いつもジャパンに伝わる『桃太郎』や『かぐや姫』などのお伽噺の数々を演目として公演するのだ。ジャパン文化の理解を深める手助けになりたいという、そんな方針だったらしい。
最近は、新機軸として『客が参加できる演劇』というものを始めたらしい。
正規の役者でなくとも参加したい客は、突然の飛び入りでも、事前に打ち合わせをした上ででも舞台で好きな役を演じ、参加できるという画期的なものだ。
宣伝の男は声を張り上げる。
「‥‥もし公演中、お客様が飛び入りの役者として突然舞台に上がって物語の登場人物になりたいと思うなら、わが一座はそれを受けとめます。桃太郎の4番目のお供として鬼退治に参加したいというならばそれも結構です。かぐや姫の求婚者として姫をさらって逃げたいというのなら、わが一座の役者達はアドリブで何とか対応いたします。今までお伽噺を聞いていて、結末が気に入らないとか、自分なら話の筋をこうするのにとか、そういう思いを抱いたことはありませんか? わが『アサギリ座』はそんなあなたの思いをかなえるお手伝いをできるかもしれませんよ」
客が参加して自分の思うように筋を変えられる、とは幾らか魅力的な気がする言葉だが、大勢の人間がわれもわれもと参加して、めいめいに話の筋を自分の思う方へと引っ張りはじめたら劇はどうなってしまうのだろう。見るも無残に劇が破綻してしまうのではないだろうかと、ちょっと心配な思いもする。
そうでなくてもなじみのない結末に納まってしまう御伽噺とはどのような感触なのか?
アサギリ座は前にこの方式で『桃太郎』をやって、その桃太郎は仲間を全滅させた鬼の姫と最後に駆け落ちをするという、とんでもない結末を迎えてしまったらしい。その時の客席の反応は新鮮な感動が半分、戸惑いが半分だったという。
続くくらいだからこの新機軸が不評だったというわけではないのだろう。しかし大好評というわけでもないようだ。
「勿論、舞台に上がってしまえば役者の1人。劇を盛り上げてもらうことはお忘れにならないようお願いします」
冒険者ギルド内をぐるりと見回して、男は言う。
「座長のいうことには『ウケるが勝ち』‥‥そういうわけで」
観劇料は1人10C。これは見るだけの客だけでも、飛び入りの役者になる客でも変わらないらしい。
‥‥『かぐや姫』。
幾らかの興味が胸のうちに湧いてきた。
●リプレイ本文
●1
はたして何があったのだろうか?
アサギリ座の看板は『かぐや姫』のタイトルに大きなバッテンがつき、その上に『フランク版かぐや姫・バンブー王子』と書き改められている。
●2
『‥‥なお、この物語は古い伝承を参考にしており、実在した人物や団体などとは食い違うことがあることをお断りしておきます』
パラのガレット・ヴィルルノワ(ea5804)の説明と共に上演の幕は開く。大小の竹が青々と生えた山の中の第一幕。竹林を背景として続く、ガレットのナレーション。
『‥‥神聖暦850年ごろのフランクのとある分国に、竹取りを生業としているお爺さんがいました。お爺さんは今日も竹を切りに山に入りましたが、その日は不思議な光る竹を山中で見つけます』
近づいたお爺さんが、光る竹に鉈を振り下ろそうとした瞬間、
「僕の父さんを切らないで!! 父さん死んだら僕、どうしたらいいの!?」
竹の子のハリボテを着たガゼルフ・ファーゴット(ea3285)は叫びながら観客席から舞台にとびこみ、お爺さんに泣きながら抱きついた。とまどうというか明らかに怯える老人にしがみつき、鉈の扱いを邪魔する竹の子ガゼルフ。
しかし、お爺さんは気合と共に彼を振りほどくや、横一閃に鉈で光る竹を切り裂いた。
「父さぁーんッ!!」
竹の子ガゼルフ、絶叫。
すると、光る竹の中から現れたのは小さな男の子。
「や、男の子じゃ」
「‥‥男だな」
お爺さんと竹の子ガゼルフは竹の中を覗きこみ、共に子を抱き上げる。
男の子と竹の子ガゼルフはお爺さんの家に連れていかれ、一緒に育てられることになった。
光る竹の中から収穫された男の子『バンブー王子』は、竹の子ガゼルフを友としてすくすく育ち、その美貌と聡明さはやがて国中に知られるほどになったのである。
●3
『聡明で頑健、美しい青年に育ったバンブー王子の元に何人かの姫が求婚に現れますが、彼はその求婚者達に無理難題をふっかけて、遠ざけました。‥‥その内の何人かは試練の時を過ごし、再び、彼のもとへ参上したのです。ただしアリーセ姫のように安物のティーカップを贈り物とし、早々に追い払われてしまう者もいましたが‥‥』
ナレーションしながら自分の役柄『アリーセ姫』を演じ、人形を抱きしめるアリーセ=ガレット。パラの彼女にフリフリのドレスはよく似合っている。
バンブー王子の家の客間に、姫が集まる。
クリス・ラインハルト(ea2004)が演じるイザベラ・アキテーヌは、バンブー王子が出した結婚の条件『人魚姫の涙の宝玉』入手のため、ボヘミア湖に船団を出すものの嵐のために探索失敗。しかし、バンブー王子への思慕を捨てきれず、ずぶ濡れの姿で魚をくわえながら腕を組み、手下を連れて登場した。
『緑林の巫女』エルフリーデ姫を演じるカレン・シュタット(ea4426)は、劇に応じて舞台に上がってきた観客だったが、おっとりしていたとされる彼女を演じるのに見事だった。その求婚の様も本人の如くだが、王子の愛を受け取ることはできなかった。
そして求婚者達のトリを勤めるマルガレータ王女の出番の時に、舞台に上がってきたのがカミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)。
彼女も今までを観客として過ごしていたが、マルガレータ登場の機先を制し、今こそ自分の見せ場というように舞台にトテトテと上がってきた。
「王子さま! 分国のいずれ劣らぬ美姫を袖にして、待っていたのはザクセンの宝玉、このマルガレータですわね?」
自分をマルガレータとし、きっぱりと言い放つカミーユ。
まるで主役の如く舞台中央に出るが、彼女の王女ぶりを豪奢とまでに見せない、哀しいまでの体型貧弱。童顔に幼児体型、身長137cmの背の低さ。王女としてのカリスマはそこにない。
彼女を見つめ、バンブー王子は一言だけ言う。
「‥‥ミルクを飲め」
それは真剣な表情ながらも彼女の貧乳と背の低さを揶揄した一言。つまりは牛乳を飲んで、育てるところを育ててから出直してこい、という意味だったのだが、マルガレータ=カミーユはその意味をはっきりと覚ったか、そうでないのか、やにわ手にしていた牛乳瓶をぐびぐびっと飲み干し、
「わたくしはあなたが出した『ミルクを飲め』という試練を見事クリアしましたわ。これでわたくしと結婚してくれるということね」
さも当然に言い切った。
解釈にまだ疑問の余地があるものの、バンブー王子の出した試練を達成したとも言えなくもなく、このままではマルガレータ=カミーユと婚約が成立してしまう、舞台を見守る観衆もその雰囲気に飲まれかけた時である。
●4
「ハ〜ッハッハッハ、月よりの使者、ここに参上!」
屋根裏から颯爽と登場したのは『月よりの使者』サーガイン・サウンドブレード(ea3811)。笑い声を響かせ、銀色の衣装をきらめかせながら、皆の中央に傍らに着地する。
「バンブー王子、上官の命によりあなたを‥‥う〜ん、この脚本ではつまらないですねぇ。それなら私自身が面白くしましょう。‥‥フフッ、よりどりみどりですねぇ」
月よりの使者サーガインは出演者を一瞥すると、マルガレータ=カミーユを抱き上げた。
「よし、あなたにしましょう。彼女の命が惜しければ、皆さんおとなしくして下さい。これは警告です」
マルガレータ=カミーユを小脇に抱いた月の使者サーガインは、照明が強く当たるところに歩み出る。そればかりではなく、舞台を照らす全ての照明が自分に集まるよう、指で合図し、
「照明!! この場は私が支配しました。私の要求はマルガレータ王女を私の妃に迎え‥‥って、人質にしといて妃もおかしいですね‥‥えぇと、ではどうしましょう‥‥」
滝のような汗で考えこむ月よりの使者。彼自身の脚本はよく練られてなかったらしい。
「‥‥えぇい、それでは全員に金品を置いていっていただきましょう」
派手に立ちまわる割には庶民的な強盗発言をする月よりの使者。悪役として大物とは思えない彼の態度に見切りをつけたよう、姫達の反撃が始まった。
「姐さんはこの時のために月魔法を習得したんだ!」
「馬鹿、総督と呼べ! ‥‥です!」
手下の叫びに訂正を入れながら詠唱を始めたイザベラ=クリスの全身が銀色に輝く。
「うわ‥‥力が封じられる‥‥!」
話の流れのままにうめく月よりの使者サーガインに、次々に責めがかかっていく。
「おらぁ! 行けぇ、魔獣どもぉっ!」
一瞬前までのプリティな雰囲気から一変したアリーセ=ガレットは、獣の仮面をつけた魔獣役の役者2人ををけしかけた。裏モードのアリーセにけしかけられた魔獣達は、月よりの使者の全身にしがみつき、動きを封じる。
動けなくなった月よりの使者へと、スタッフで殴りかかるエルフリーデ=カレン。
結局、サーガインは役者達の総攻撃によりボコボコにされ、倒れ伏したところを簀巻きにされて舞台袖に転がされてしまう。
ついに月よりの使者を倒した、バンブー王子と姫達。
雰囲気のまま、頭上にある書き割りの月を皆が見上げた時、バンブー王子は呟いた。
「私は‥‥月へ帰らなければなりません」
「さては、月は悪者に支配されているんですねっ!」
その声がしたのは観客席から舞台に上がる階段からだ。
のしのしと舞台に上がってきたジャイアントのシャルク・ネネルザード(ea5384)は更に声を張り上げる。
「チューリッヒーッ! ようしっ、ネズミ族の勇者シャルクも王子様のお供になって、月を支配している悪人たちを退治に行きますよっ」
謎の奇声をあげながら謎の種族を名乗るシャルクはすでにやる気満々であり、誰にも止める気を起こさせない。
確かに今倒した使者があのような悪人では、月は悪に支配されていると考えるのもありかもしれない。
シャルクが一時の主役を奪った舞台は照明が落とされ、役者の姿は暗い影に呑まれた。
『‥‥バンブー王子はこうして手に入れた姫や家来たちを引き連れ、悪者の手から真の故郷である月の平和を取り戻すために勇躍帰郷することになりました‥‥』
暗い舞台にとうとうと流れるガレットのナレーション。
しかし、その直後にシャルクのナレーションがつけくわえられた。
『ちなみにその後、バンブー王子は出立の間際にお爺さん、お婆さんからいきなり授けられたニンジュツパワァを使って悪者を退治するのですよ』
‥‥もはや一度、口にされた物語を訂正するすべのないまま、ラストシーンの幕は閉じた。
●5
客がざわめく。
明るくなった舞台では、それぞれ上手下手からクリスとカミーユがあらためて現れる。
「本日はご来場、ありがとうございます♪ ジャパンでは月でウサギがお餅を作ってるそうです。これは出演者一同からのささやかなお礼でっす♪」
舞台の上でしなをつくる2人は兎の耳を模した髪飾り。クリスに至っては多少肌の露出のある衣装でポーズをとる。子供に見せるには少々問題かもしれないが、大人にとっては大した刺激ではない程度の格好だ。
ここでクリスは客席に餅をまきたかったが、入手できなかったのが悔やまれる。
それでも2人の兎娘は客席の男性一部には好評で、歓声と拍手が散発的に巻き起こった。
劇『フランク版かぐや姫・バンブー王子』はざわめきと歓声をない交ぜにした光景の中で、終了したのである。
●6
カーテンコールをしている舞台を袖から眺めながら、フィーラ・ベネディクティン(ea1596)は上演が終わった劇の始終を羊皮紙の束に書き記していた。
これを後で脚本家にちゃんとした脚本にしてもらい、これからも使ってもらおうと考えたのだが、そのことをアサギリ座の役者に言ったら、彼女はこう言われてしまった。
「世の中には1回きりだから良いということもある」