たまには力を抜いて
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:言の羽
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月14日〜09月19日
リプレイ公開日:2005年09月20日
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●オープニング
冒険者酒場には、通訳をしているシフールがいます。
冒険者のなかには頻繁に他国へ出たり入ったりする人が結構いて、でもその国の言葉にはちょっと詳しくない人達もいます。通訳シフールは、そんな人達でも円滑なコミュニケーションを行えるよう、日々頑張っているのです。
◆
「なあ、これは何て書いてあるんだ?」
一見してジャパン人とわかる服装の男性が、メニューを示して通訳シフールの少年に問いかけました。
「えっとですね‥‥白身魚の揚げ物、って書いてあります〜」
その少年は通訳になって日が浅く、まだ仕事に慣れていません。どきどきしながら、失敗しないように、慎重に言葉を選びます。能力は決して低くないのですが、緊張で頭がうまく動かないのです。
「食べたことあるか?」
「はい〜。この前、気のいいお兄さんに分けてもらいました〜。しつこくなくて、おいしかったですよ〜」
「そうか‥‥なら、頼んでみるかな」
ジャパン人の男性は早速、ウェイトレスのお姉さんを呼び止めました。男性の注文をお姉さんに通訳して、少年の仕事は一区切りついたのでした。
別の日。少年が担当していた卓で、喧嘩が起こりました。
「ざけんじゃねぇっ! てめぇ、もう一回言ってみろ!!」
「‥‥だ、そうです〜」
「あぁっ!? そっちこそふざけんなっ。自分は悪くないみてぇなツラしやがって!」
「‥‥だ、そうですよ〜」
少年はべそをかきながら、それでも仕事をしていました。ついさっき、喧嘩をしているお兄さん達の顔があまりに怖いので仕事をせずにぶるぶる震えていたら、相手の言い分を教えやがれと双方から怒られてしまったのです。片方は生粋のイギリス人。もう片方は生粋のノルマン人。お互いに、自分の生まれ育った国の言葉しか知りません。
それなら喧嘩なんてしなければいいのに。少年は思いますが、今まで過ごした環境の違いから来る考え方の相違で始まった喧嘩は、簡単には終わりません。馬鹿正直に伝えてしまった自分のせいだと、少年は悔やみます。
「表に出ろ!」
「‥‥だ、そうで‥‥って、ええええっ!?」
「上等だ、俺の強さを見せてやる! お前も来い!!」
「えええええええええっ!?」
ノルマン人のお兄さんに首根っこをつかまれて、少年は酒場から引きずり出されてしまいました。
「ねえねえ、名前なんていうのぉ?」
「えっと‥‥シェル。シェル・イール」
「シェル君かぁ。かっわいいー♪」
また別の日。少年シェルは、女性が集まっている卓の担当をしていました。
でもその卓の人達はお互いの言葉が通じないわけではなく、至って普通に会話が成立しています。
――なんで僕、呼ばれたのかな〜?
シェルは疑問に思いましたが、綺麗なお姉さんに囲まれて、悪い気はしません。ミルクやお菓子も分けてもらえるし、喜んでお姉さん達とお話をしていました。‥‥お姉さん達に、彼を呼んだ真の目的がある事も知らずに。
「ちょっと、例の物は持ってきた?」
「もっちろん♪ 抜かりはないわよっ」
「?」
ミルクの入ったカップを両手で持ちながら、シェルは首を傾げました。それに気づいたお姉さんは、口紅を塗った唇をにんまりと歪めました。手には何か、ひらひらしたものが‥‥‥‥‥‥
「‥‥お、お姉さん‥‥そのドレス、誰が着るの‥‥なんでシフールサイズなの‥‥」
「そう、シフールサイズよ♪」
「うふふふふ、いい生地使ってるでしょ。特注品なんだから♪」
「この前見かけた時から、キミに目をつけてたのよねぇ」
「やっぱり青がよく似合うわぁ」
シェルは男の子です。普段ドレスは着ません。時々着るような趣味もありません。
それなのにお姉さん達は、シェルにドレスを着せようというのです。しかもお化粧道具まで用意し始めました。
「だっ、誰か‥‥っ」
助けを求めようと周囲を見渡してみても、誰も目を合わせてくれません。
「さぁっ、お着替えしましょうねぇ〜っ♪」
「嫌だぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ」
むしろ、シェルの悲鳴を聞きつけて、面白がる人ばかりが群がってきたのでした。
◆
冒険者ギルドで今日も受付をしていた年上趣味の受付嬢は、目の前で泣きじゃくるシェルに、頭を抱えていました。
「ほらぁ‥‥もう泣かないの。男の子でしょ?」
「男の子だもん、僕は男の子だもん、なのになんでドレス着なきゃいけないのーっ!!」
もう一時間くらいこんな感じ。
正直、受付嬢はシェルの相手をするのが面倒くさくなっていました。受付嬢の仕事は依頼を受け付ける事であって、泣き言を聞く事ではないのです。
「で、あなたは何をどうしたいの?」
「僕は、僕は皆さんが仲良くするお手伝いができたらと思って、この仕事を選んだのにっ」
「あのねぇ、自分で選んだ仕事なら、責任持って働きなさいな」
「だって、だって、想像してた仕事とは全然――」
「違うって言いたいの? ‥‥どんな仕事にも、多かれ少なかれそんな部分はあるのよ。それに、仕事してて嫌な事ばかりだったってわけじゃないでしょうに」
受付嬢の言葉に、シェルははっとして顔を上げました。
確かに、食べ物や飲み物を分けてもらったり、お友達同士の楽しいお喋りにまぜてもらったり、ありがとうと言ってもらえたり。楽しかった事や嬉しかった事もたくさんありました。
「慣れない仕事で、疲れているだけよ。ほんのちょっと気晴らしするだけで、今の真っ暗な気分も、きっと晴れるんじゃないかしら」
そうかもしれない‥‥シェルもその気になってきました。
「実は私もね、あなたみたいに仕事で行き詰ったことがあったのよ。だから、わかるの」
微笑む受付嬢に後押しされ、シェルは依頼を出す決心をするのでした。
●リプレイ本文
●子供は見ちゃダメ☆
「郊外へお出かけでもしましょう」
セレン・フロレンティン(ea9776)が微笑みながら告げた通り、『シェル君に気晴らしをさせようの会』は、冒険者酒場の通訳シフールであるシェル・イールを連れて、徒歩半日ほどの川のほとりへ向かう事にしました。
「わーいっ、お菓子〜♪」
シェルはお菓子をもらってご満悦。目的地への道すがら、一口かじっては幸せに頬を緩め、輪を描きながら飛び回ります。
「ありがとうー。でも‥‥高かったでしょ?」
「いいえ、いいんですよこれくらい。通訳さんには、いつもお世話になっているんですから」
その表情が見たかったとばかりに、セレンもシェルと同じ表情になったのでした。‥‥が。
「ワンッ!」
「ふぇっ!?」
ティアラ・フォーリスト(ea7222)の飼い犬シュガーが甘いにおいにつられてシェルの服をかぷっとくわえたので、シェルは驚いてお菓子を地面に落としてしまいました。
「うわーんっ、僕のお菓子ーっ!」
「あわわわっ、ごめんねシェル君っ。こらシュガー、おイタしちゃだめだよ!」
「ほら、泣かないでください。私の肩にどうぞですよ」
ティアラがシュガーをおさえている間に、パティオ・オーランダー(eb3277)がさっとシェルを抱いて自分の肩に乗せました。
せっかくシェルのために買ってきたお菓子の末路に、ちょっぴりショックを受けたセレンも、そんな自分とシェルを慰めるために、即興で空の蒼さや季節の花々を歌い始めるのでした。
「ふむ、見た目は15歳くらいかのぅ」
そのくらいの年齢なら異性にも興味を示すだろうと、カメノフ・セーニン(eb3349)はいつものスカートめくりをシェルにも見せてやろうと画策していました。サイコキネシスで、ちょちょいっとスカートを動かすのです。ばれたとしても、風の仕業だと言い張るのです。
「カメノフさん‥‥」
高速詠唱で誰にも気づかれないように事を起こそうとしたカメノフへ、忌野貞子(eb3114)が声をかけました。
「どうかしたかの、貞子ちゃん」
「ふふ‥‥以前はしてやられたから‥‥今回は、先制攻撃‥‥」
ニヤリと笑ったかと思うと、貞子は着ている魔法学校女子制服のスカートを、躊躇なくめくりあげたのです。
「おおおおおおっ!?」
貞子はスカートの下にジャパンの下着である褌をつけていましたが、それでもカメノフには有り余る幸福。赤い液体をどばどばっと放出しながら道端に座り込んでしまいました。
「どうかした?」
「いえ‥‥何も‥‥くす」
カメノフの様子に心配そうなアリシア・ファフナー(eb2776)にも、貞子は暗いものを帯びて笑うのみです。
「うちは見てたでー。‥‥見かけによらず、派手なコトすんねんなー」
マージ・アエスタース(eb3153)が遠い目で眺める先には、段々と目的地が見えてきたのでした。
●れっつちゃれんじ
持ち寄ったテントを男手が張り、石を組んでかまども作りました。キャンプの準備は万全です。
お昼ごはんには、アリシアが作ってきてくれたお弁当を道中みんなで食べたので、これから探さなくてはいけないのは晩ごはんの材料です。保存食は持ってきてありますが、それだけではちょっと味気ないですから。
ティアラと貞子は、近くの森を覗いてみる事にしました。今の季節、森には食物が豊富です。
「これは食べられる草でー‥‥あ、この木の実は甘くておいしいよ♪」
「物知り‥‥なのね‥‥」
森や植物についての知識が豊富なティアラにとって、森は一種の遊び場なのかもしれません。あっちこっちと跳ね回る彼女を眺めながら、貞子は誰にともなく語りかけるのです。
「‥‥いいわね、明るい人は‥‥ねぇ‥‥」
本当に、誰に話しているのかは不明ですが、素直に明るい感情を振りまけるティアラを、貞子は羨ましいと思ったのかもしれません。
森には危険な動物もいなかったようで、二人は両手にいっぱいの木の実や野草を抱えて戻りました。
一方川岸には、のんびりと糸を垂らすパティオの姿がありました。隣でセレンもバックパックから釣竿を取り出しています。ごはんのおかずに、魚を釣ろうというのです。二人とも、そのための技術を持っているわけではありませんが、景色を眺め、言葉を交わすだけでも、十分にシェルの気晴らしになるだろうと考えたのです。それが一番大事なのです、今回のお出かけの目的なのですからね。
「お魚、釣れるかなー?」
セレンの膝の上で足をぶらぶらさせ、糸の先に針が付けられるのを興味深く見つめながら、シェルが言いました。
「どうでしょうねぇ〜。釣れるといいですけど‥‥釣れない可能性のほうが高そうですよね〜」
「えええええっ!?」
パティオの楽観的な言葉に、がびーん、と驚くシェル。
「そうですね。‥‥運ですよね」
「ふえええええっ!? ってことは、下手をするとおかずなしー!?」
続いて発せられたセレンの呟きでも、がびびびーん、と嘆くシェルなのでした。
でもその途端。
パティオの釣竿が上下に揺れました。
「来ました、来ましたよ〜!」
この引きの強さはもしかして大物かも!?
子供のように思いっきり目を輝かせ、パティオは釣竿を引き上げます。魚も力の限り抵抗しているようで、なかなか水面に上がってきません。
「頑張ってください、パティオさん! 俺も手伝います!」
魚のあまりの力強さに腕がぶるぶる震えているパティオを支援しようとして、セレンが颯爽と立ち上がります。
「うきゃぁっ!」
するともちろん、セレンの膝の上にいたシェルは転げ落ちるわけです。
――どっぼーんっ
「シェルくん!?」
「シェルさん!?」
ぶくぶくと水中で泡を吹くシェルに、パティオとセレンは大慌て。幸いなことに、そんなに深くない川だったので、すぐに助け出すことができました。ただし、シェルの髪も服も、ずぶ濡れになってしまいましたが。
●ごはんの時間、遊戯の時間
食材が届けられると、アリシアとマージが立派なごはんにしてくれました。木の実のあくを抜いてからスープにしてみたり、アクシデントはあったけどそれでもどうにか捕まえた魚数匹を焼いてみたり、果物を彩り豊かなデザートにしてみたり。
「これでも未来の若奥様やもん!」
そう言って胸を反らすマージは幸せいっぱい。胸いっぱい。見ているみんなもおなかいっぱい。
それでもごはんは食べるのです。だって、せっかく自分たちで材料からとってきたごはんですもの。
「おいひぃ〜♪」
「食べ物を頬張ったまま喋るのはお行儀が悪いわ、シェル君。ほら、こんなところに」
濡れた服を木の枝にかけて干しているため、今は毛布に包まっているシェルの林檎のようなほっぺたには、お弁当がついていました。それをアリシアが指でつまみ、そのまま自分で食べてしまいました。お弁当をつけていたことが恥ずかしくてシェルは真っ赤になってしまい、アリシアもそんなシェルを見て優しく微笑むのでした。
「いいのぉ〜‥‥わしもしてもらいたいのぉ‥‥」
その光景をカメノフは、指をくわえながら眺めていました。カメノフのほっぺたには見事な手形がついています。痛そうですが、ごはん作りの時に何かしでかしたらしいので、自業自得です。
セレンの横笛が最初の音をとりました。続いてパティオが竪琴を奏で始めました。二つの音はメロディーを奏で、紡がれる曲に合わせてアリシアが踊ります。三人とも、普段からそれをお仕事にしている人達なので、腕前はさすがです。
川には月や星の光が反射して煌めき、とても綺麗な夜‥‥
しかしシェルはべそをかいていました。貞子がジャパンの怪談話をたくさん話してくれたからです。怖いのは苦手なのです。
「ひっく、えぐっ‥‥」
「あーあー、しゃあないなぁ。シェル君、うちらも踊るで。そしたら涙なんて一発で吹き飛ぶやろ」
「はいはいっ、ティアラも踊るーっ!」
「なんじゃい。要するにまだまだお子様なんじゃのう‥‥」
みんなが盛り上がるにしたがって、奏でられる曲もテンポのよいものに変わります。踊る人も、奏でる人も、手拍子をする人も、誰もが楽しそうに笑いながら、充実した時間を過ごしたのでした。
●思い出のプレゼント
こうして数日を過ごし、とうとうお別れの時がやってきてしまいました。
あまりにも仲良くなってしまったために、どうしても別れづらいのでしょう、シェルは自分の服をぎゅっと握り締め、うつむいています。シェルの背中にある蝶の羽は震えていて、まるでシェルの心の中を映しているようです。
「シェル君‥‥私、ジャパンから来たから‥‥いつも、通訳さんには感謝してるの‥‥」
「どこから来た人とでも楽しく話せるのは、通訳のおかげじゃからのう」
宥めるように貞子がシェルの髪を撫でながら囁くと、カメノフも立派な髭を震わせ、ほっほ、と笑い声を上げました。
「そうそう、これをどうぞ。お出かけの記念です」
セレンがシェルの首にかけたのは、森で拾った木の実で作ったペンダントです。ちゃんとシフールサイズで作られています。思いがけない贈り物に、シェルがぷにぷにのほっぺたをつやつやさせ、青い目をきらきらと輝かせました。
「感謝と、‥‥これからも、頑張ってくださいね?」
「ティアラも一緒に作ったんだよ♪」
あまり出来はよくありませんが、その事が逆に、どれだけ頑張って作られた物であるかを教えてくれます。
「では私からも。どうぞ」
続けてパティオがシェルの手に乗せてくれたのは、草笛でした。
「これからもお仕事頑張ってくださいです、シェルくん」
こう吹くのですよ〜、とパティオはもうひとつ草笛を取り出し、唇に添えました。
ピーーー‥‥
秋のよく晴れた空に、高く澄んだ音が響きます。見上げるとそこにはマージの作り出した大きな虹の幻がかかっていました。
「ありがとう、ほんとにありがとう‥‥僕、これからも頑張るよっ!!」
涙を浮かべながらもそう言って、シェルは最高の笑顔を返してくれたのでした。