案内しよう、キャメロット

■ショートシナリオ&プロモート


担当:言の羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

「すみません、依頼を出したいんですけど」
 とある村の村長の孫、ソノマ青年は、三度冒険者ギルドへやってくると受付に声をかけた。
 ‥‥運が悪いとしか言いようがない。そこに座っていたのは、冒険者ギルドへ来るたびに彼が悲鳴を上げさせられる相手、年上趣味の受付嬢だったのだ。
「あら、また来たんですか? ‥‥性懲りもなく」
 ゴゴゴゴゴ‥‥という効果音のよく似合う表情で、ソノマを歓迎する受付嬢。先程昼食をとって帰ってきたばかりなのだが、お目当ての先着20名様限定ランチセットが売り切れていたため、非常にご機嫌ナナメなのだ。
 押しつぶされそうなほどの重圧にソノマは少し怯んだが、えいやっと勇気を搾り出し、本題に入った。

「観光案内?」
「ええ。冒険者の皆さんなら、穴場の店もよくご存知ではないかと思いまして」
 ソノマの村にはよき踊り手が住んでいる。名をエルフレアというその娘は、村から出た経験がほとんどない。冒険者という存在とも先日の儀式の折に初めて出会ったのだ。
 そして、数人の冒険者がいるだけでもこんなに面白いのなら、たくさんの冒険者がいるというキャメロットは、もっと面白いに違いない、と考えた。早々にキャメロット観光旅行を計画し、最後にソノマを巻き込んだというわけだ。
 微妙に支離滅裂っぽい思考だが、これこそエルフレアの味であると、ソノマは豪語してはばからない。
「よっぽど冒険者の事が気に入ったんですね。それで、現地の案内も冒険者に頼もうと?」
「まあ、そういうことですね。‥‥あの、彼女、すっごく楽しみにしてるんで、よろしくお願いします」
 一応まっとうな申し出なので、受付嬢は羊皮紙を広げ羽ペンを手に、依頼書の作成を始める。
 するとソノマが仰々しいため息と共に肩を竦めた。
「‥‥何か気がかりな事でもあるんですか」
 依頼を受ける者のためにも、特別な事情等があるのなら、話しておいてもらいたい。
 そういう意味で受付嬢は問いかけたのだが、ソノマの回答は彼女の想像とは遥かにかけ離れていた。
「宿の予約をしてから帰るつもりなんですけどね。‥‥村を出てくる時、エルフレアから、僕と同室になるのは嫌だって言われたんです」
 神妙な顔つきで見つめてくるソノマに、受付嬢もペンを置き、再び問いかけた。
「あなたとエルフレアさんの関係は? 恋人? それとも婚約者? いっそのこと夫婦?」
「いえ。今のところは単なる幼馴染ですけど」
 『今のところは』――この一言に、ソノマとて冗談ではなくエルフレアに本気である事がうかがえる。
 だからこそ受付嬢は、輝く笑顔を彼に向ける。
 さながら慈愛の女神のように。
「もうちょっと彼女の気持ちを考えなさいっ!!」
 受付嬢の渾身の一撃が、ソノマの鼻っ柱に直撃した。

●今回の参加者

 ea1894 サヤ・シェルナーグ(13歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1124 弧篤 雷翔(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2744 ロイシャ・ヘムリアル(23歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb2776 アリシア・ファフナー(27歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●まずは露店〜恋愛の仕方?
「きゃーっ、これかわいい〜!」
「ほんとだ〜♪ あっ、こっちも素敵〜♪」
「ねえねえ、色違いがこんなにたくさんあるーっ」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)が騒げばエルフレアも即座に反応して売られている品を覗き込み、次いでアリシア・ファフナー(eb2776)も輪に加わる。年頃の娘が三人も集まればかしましくもなろう。しかも彼女達の好みそうな小物や装飾品が、所狭しと並べられているのだから。
 ――いや、年頃の娘はもうひとりいた。弧篤雷翔(eb1124)。だが彼女は他の娘達と違い、身を飾る物にはあまり興味がなさそうだ。
「雷翔さんは見てこないの?」
 ほぼ真上にある雷翔の表情をどうにかして確認しようとしながら、サヤ・シェルナーグ(ea1894)が問いかける。
「俺は向こうでうんうん唸ってる人の方が気になるっス」
「そうだね‥‥エルフレアさんは楽しんでるみたいだからいいとして、問題は」
 問題は、ロイシャ・ヘムリアル(eb2744)が相手をしているソノマにある。
 ソノマがエルフレアに本気で惚れていると知り、冒険者一行は彼にエルフレアへのプレゼントを買わせようと決意していた。気持ちを伝える一つの手段として、贈り物は非常に効果がある。エルフレアがジークリンデやアリシアと一緒になって騒いでいるうちに、ささっと終わらせたかったのだが――
「うぅ〜ん‥‥」
 品物を見て、値段を尋ねて、エルフレアの趣味を思い浮かべて。贈り物選びはどうも難航しているようなのだ。
「ソノマさん、ちょっとこっち」
「はい?」
 業を煮やしたロイシャがソノマを連れて行ったのは、目立たない所にひっそり佇む薬草の露店。薬草採集の好きなロイシャ行きつけの店のようで、彼と同じくらいの年齢の少女が元気に出迎えてくれた。
「俺は貴女じゃないと駄目なんだ、っていう気持ちが必要だと思うんですよ」
 質の良い品揃えに強い興味を示すソノマに、そうとは気づかずロイシャは語りかける。
「‥‥そのつもりではあるんですけどねえ」
「ソノマさんは多分、強引過ぎるんです。エルフレアさんの事が本当に好きなら、もっと優しく接したほうが良いですよ」
 13歳から恋愛の講義を受ける18歳。なんとも不思議な光景である。

●酒場〜誰だ、教えた奴
 冒険者という存在を気に入ったというエルフレアのため、一行は彼女を冒険者酒場に案内する。
「ウェイトレスさん。気の抜けたエールをくださいな」
 ジークリンデが屈託のない笑顔でこう言い放ち、壮絶な営業スマイルをウェイトレスが返してくれた時にはどうなる事かと一時その場が騒然としたものの、サヤと雷翔の必死のとりなしで何とか無事にテーブルへ着いた。
「生きた心地がしなかったっスよ〜」
「あら。冒険者のたしなみではありませんか」
「間違ってると思うなぁ、その知識」
 一連のやり取りを、傍観していたエルフレアがくすくす笑う。その横にはちゃっかりソノマが陣取っているが、上着の内側に隠した何かを気にして、そわそわと視線をさまよわせている。
「ダメだよソノマさん。そんなに挙動不審だと怪しまれるよ」
「えっ、そ、そうですかっ」
 ロイシャから軽く肘打ちされて、ソノマは焦って体裁を整えた。
「そういえばアリシアさんはどこに行ったんスか?」
「彼女ならさっき、酒場の人と話してたけど‥‥」
 ゆったりと音楽が流れてくる。蝋燭の光で浮かび上がったのは、持参した衣装に着替えたアリシアの艶かしい踊り子姿だった。舞台に立った彼女は、彼女の美しい姿に目を奪われる客達に向けて、礼をした。
 曲調が変わり、勢いが増す。
 アリシアの踊りは、一言で説明するならば、情熱的だった。意思の灯る瞳に、激しい動き、肌に滲む汗。それは見る者の胸をも熱くさせ、まだ昼日中だというのに雷翔が口笛で囃した事もあり、酒場は大きく盛り上がった。

●昼食〜よく噛んでね♪
 二曲ほど踊った後、アリシアは元の服に着替えなおしてから、皆の待つ席に戻ってきた。頬はまだ赤みを帯びていたが、踊る事の好きな彼女は、その踊りで観客から拍手をもらえた事で、何にも変えがたい満足感を得たようだった。
「アリシアさん、素敵でした〜。わたしはあんなに激しい動きができないので‥‥ちょっとうらやましいですね〜」
 アリシアと同じく踊りを生業とするエルフレアは、パンを一口大にちぎりながら、こう感想を述べた。
 彼らの前には気の抜けたエールのほか、籠に山盛りのパン、炙った鶏肉や海鮮の揚げ物、サラダなど、幾種類もの料理が大皿に盛られている。皆で同じ皿の料理を取りわけて食べているので、一行は段々と互いに親密感を覚え始めていた。
「やっぱり踊っている時が一番幸せなのよね。キミもそうでしょう? エル」
「‥‥エル?」
「そう呼ばれるのは嫌かしら。親しみを込めたつもりなんだけど‥‥」
 突然愛称で呼ばれ、きょとんとするエルフレア。アリシアは慌てて弁明するが、それもすぐに終わる。エルフレアが幸せそうに顔を綻ばせ、アリシアの両手を自分の両手で包み込んでいた。
「嬉しいわぁ〜。わたしもあなたのこと、アリシア、って呼ばせてもらってもいいのかしら〜?」
「勿論よっ! いいに決まってるじゃないの!」
 嬉しさのあまり、アリシアがエルフレアに飛びついた。抱き合って相手のぬくもりに浸る彼女達。しかしそのほんわかした雰囲気を貫いて、ジークリンデが勢いよく立ち上がる。
「ずるいです!! 私もエルって呼びたいです、呼ばせてくださいっ!」
 皿も飛び上がる程の勢いで、ジークリンデはテーブルを叩いた。彼女にはエルフレアと会える時を誰よりも楽しみにしていたという自負がある。仲良くなりたいという想いも人一倍強い。
「じゃあ僕もこれからそう呼ぼうかなあ――がふぅっ!?」
「ソノマさんはお呼びではありませんわっ。黙っていてくださいます!?」
 誰から習ってきたのか、ソノマの鼻っ柱をジークリンデの小ぶりな拳が直撃した。
 威力はさほどでなくとも、精神的なショックは大きかったようだ。ソノマは放心状態となり、ロイシャが彼の名を呼びながらその頬をぺしぺし叩き続ける。
「うん、うまいっス! ――あれ、どうかしたんスか? ソノマさんが目を回してるっスけど」
「いや〜、平和だよねぇ♪」
 食事に忙しくて周囲が見えていなかった雷翔の問いに対し、年齢制限によりエールではなくミルクの入ったカップを傾けるサヤだった。

●王城〜納得いかない
 酒場でそのままアフターヌーンティーまで過ごした後、彼らがやってきたのはこれを見ずしてキャメロットは語れない、言わずと知れたキャメロット城である。城壁の高さもさることながら、首が痛くなるほど見上げねば全貌を視界におさめられない塔もあり、その巨大な造詣と存在感にはエルフレアやソノマだけでなく冒険者達でさえ感嘆の息を漏らした。
「はぁ〜、キャメロットにはこんなキレイな所があったんスね〜」
 かざした手で午後の日差しを遮りつつ、誰にともなく雷翔が呟く。横目でうかがえばソノマが口を開けた間抜け面で呆然としている。そんな顔をエルフレアさんに見せたら幻滅されると言おうとして、その彼女も同じ顔をしていたので、まあいいかと放っておくことにした。
「はーいはーい! お城は僕が案内する〜♪」
 元気よく手を挙げたのはサヤ。以前依頼で城内にある図書館に入った事があり、今回はその時の経験を活用したくて仕方がなかったようだ。
 手を引き先導するサヤと、彼の歩幅に合わせて進むエルフレア。エルフと人間、種族は違えど本当の姉弟のようにも見える。
「あのあたりが魔法についての文献で、こっちのほうがイギリスの歴史だよっ」
「あらあら、そんなに急ぐと危ないですよ〜――きゃっ」
 危ないのはエルフレアのほうだった。滑って転んでおでこを床にぶつけ‥‥るかと思いきや、間一髪のところでソノマが抱き留めていた。
 身体の密着にどちらもうろたえないところを見ると、転びそうなエルフレアをソノマが受け止めるのは日常茶飯事のようだ。それはとても自然な動きだった上に、視線のみでお礼の会話をしている。エルフレア好きの女性達は心中穏やかではない。
「ソノマさんのくせにカッコいいですわ‥‥」
「ええ、ソノマさんのくせに」
 一方、ロイシャはソノマの行動に親指を立てていた。

●教会〜今だ、行け!
 街を一望できる郊外の丘を登ると、古びてはいるが瀟洒な佇まいの、小さな教会があった。太陽が傾き始めた緋色の空に、風で揺れる鐘の音が響く。エルフレアが聞き惚れている間に冒険者達は順に茂みへ隠れ、最後にロイシャがソノマの背中を押して、彼女の前に送り出した。
 不思議そうに首を傾げるエルフレア。
 熟した林檎になりながらも、ソノマは覚悟を決めた様子で、正面から彼女を見据える。
「キ、キミに贈り物があるんだっ」
 胸元から取り出した包みを手渡して、彼女の反応を待つ。
 包みを開けると、出てきたのは革紐の腕輪。短い棒状の金属が幾つもぶら下がっていて、動くごとにそれらがぶつかり音が鳴る。踊る時に身に付ければまるでその身が楽器となったような気分を味わえそうだ。
「‥‥どうかな」
「ありがとう、ソノマ‥‥」
 抜群のシチュエーション。この機会を逃したら男じゃないと、固唾をのんで見守る者もいれば、今にも飛び出して邪魔をしそうな者もいる。
 しかしそこは天然娘エルフレア、やる事が違った。皆の隠れる茂みに向けて手を振ったのだ。
「みなさぁん、わたし、これからこの腕輪をつけて踊ってみますねぇ〜っ」
 打ちひしがれるソノマだったが、どこに持っていたのかエルフレアから横笛を渡され、仕方なく受け取った。

 上手でも下手でもない笛の音の中で、エルフレアはスカートを翻し、舞う。ふわふわと。
 そのままどこか遠くへ飛んでいきそうなほどに。
 腕輪がしゃらしゃら鳴る度に笛の音と絡み、ゆえにどうにか地上に留まっているのではと、冒険者達が感じるほどに。