熊さん退治。未来のために!
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■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 10 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月19日〜10月25日
リプレイ公開日:2005年10月29日
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●オープニング
「‥‥あの、何がどうなって事態の収拾がついたのか、教えてもらえます?」
年上趣味の受付嬢は、カウンターの向こう側に立つ意志の強い三白眼を持った青年に、眉根を寄せながらそう言った。
青年の左隣には一人の女性が寄り添っている。肩までの赤みがかった癖のある金髪と、鼻の頭のそばかすで多少幼く見えるものの、実際の年齢は青年とほぼ同じくらいだろう。幸せそうに微笑を浮かべるその女性を見れば、二人の仲がどれだけ安泰かは一目瞭然だ。
青年の名はアンディ。以前、冒険者ギルドに依頼を出した事がある。しかもその依頼内容は、今彼の腕にすがる彼女に自分との婚約を破棄させ、別れるように仕向けてもらいたいという、とんでもないものだった。
だが参加者は集まらず、結局依頼は成立しなかった。
故に受付嬢は、首を傾げている。冒険者に人生の一大事を頼むほど、青年は確かに思いつめていたのに‥‥一体何が彼の考えを変化させたのだろうかと。
「キミの言いたいことはわかる。‥‥なるようになった、それだけだ」
肩をすくめつつ、青年はそうぼやいた。
曖昧な説明を返されて、尚更疑問符を浮かべる受付嬢。そこへそばかすの女性がここぞとばかりに付け加える。
「いるんです。ここに」
自分の腹部を愛しそうに撫でながら。
◆
要するに。
依頼が成立しなかったので、仕方なく自分で別れを告げに婚約者のもとを訪れた青年は、逆に子供ができた事を告げられ、無責任に彼女の側を離れる事ができなくなったのだ。愛する女性と自分の血を分けた子供――嬉しくないわけがない。彼は自分の身が病魔に侵されている旨と、その為一方的に婚約を破棄しようとしていた旨を、正直に告白した。
「今は、彼女と、彼女のおなかにいる子供の為に俺がしてやれる事、残してやれるものを、時間が許す限りやっていくつもりだ」
「はぁ‥‥それはいいんですけど、なんで熊退治なんですか」
受付嬢はまだ首を傾げていた。
青年が再びギルドを訪れた理由は、依頼を出したいからだった。その依頼内容は、とある森に住む、つがいの熊の退治。
「熊は相手をするのが危険な分、毛皮や肉を売ればその危険に見合うだけの金を得られるからな。手っ取り早く稼げる」
「つがいだと尚更危険度上がりますよね」
「得られる金も倍だな」
「‥‥やけにお金にこだわりますね」
「‥‥こいつの入れ知恵だ」
青年に示されたほうを見ると、そばかすの女性は、当然よ、とでも言いたそうに頬を膨らませていた。
「子供を育てるにはお金がかかるんだから、今のうちにとことん貯金しておかないと!」
働いてもらえる間は働いてもらうわよ、と、どうやらそういう事のようだ。
受付嬢は視線を青年に戻す。どことなく諦めたような表情をしている。
「‥‥まあ、無理はせずに。普通の体ではないんですし」
「あぁ、そのあたりは気をつけるさ。重々にな」
だがやはり、幸せそうでもあった。
●リプレイ本文
●目的、再確認
「二匹いっぺんには勘弁じゃ‥‥」
驢馬の手綱を引きながら、カメノフ・セーニン(eb3349)は自分のヒゲを撫でた。
今回の依頼の目的は、つがいの熊を狩る事。熊という生き物は、一匹でもかなりの強敵である。それが二匹‥‥毛皮や肉を売れば金になるとはいえ、正面からぶつかっていったのでは恐らく、こちらがかなりの怪我を負うだけだ。
ゆえにログナード・バランスキン(ea3067)とアルフレドゥス・シギスムンドゥス(eb3416)は、依頼人であり同行者でもあるアンディに、熊の生態や罠のかけ方、急所や注意すべき点などを尋ねていた。前者は一匹ずつ相手にしていくために。後者はなるべく毛皮を傷つけずに倒すために。
「目的地の森へは、俺も初めて行くんだ。一応猟師仲間から話を聞いてはいるが‥‥まずは、熊のテリトリーを把握する必要があるな。でなければ、罠をかけようにもかけられない」
すらすらと説明するアンディは、病人だとは思えないほどに元気よく歩いている。最低限の防具と一振りの剣だけを身に付けて、その他猟に必要な道具は布袋に入れて担いでいるのだ。程よく筋肉のついた体には、まだ、衰えは見えない。
「熊さんも夫婦なんだよねぇ‥‥ちょっとかわいそうだなぁ」
ティアラ・フォーリスト(ea7222)は足にまとわりつく飼い犬シュガーを見下ろしつつ、可愛らしい眉をくにゃりと曲げた。
「そう思うか」
「うん。だって夫婦ってことは、アンディさんとアイシャさんと同じって事でしょ? なのにティアラ達、熊さんの夫婦を退治しちゃうんだもん‥‥」
アンディが短く問いかけて、ティアラも答える。熊とアンディ達を重ねてしまっているようだ。
「だがな、いちいち感情移入してたら、倒せるものも倒せなくなるぜ? 細かい事は気にしねえで、倒す事だけ考えりゃあいいんだよ、お嬢ちゃん」
いかにも傭兵然とした反応を見せるアルフレドゥス。悪気はないのだろうが、ぶっきらぼうな口調だったので、ティアラは怯えたように肩を震わせる。その頭を、アンディが二度ほど軽く撫でた。
「‥‥そうだよね。二人と赤ちゃんのためだもん、頑張らなきゃ!」
仕掛ける罠についてログナードと打ち合わせを始めたアンディの背中に向けて、ティアラは決心を固めるのだった。
一行が森に到着すると、シータ・ラーダシュトラ(eb3389)が待っていた。セブンリーグブーツを用いる事で、他の皆よりも先に森を訪れ、糞や爪とぎの跡など、熊の居場所や行動範囲を特定するために情報を集めていたのだ。
だがアンディは喜ぶどころか、少々不機嫌になった。熊と出会っていたかもしれない可能性を考えると、独りで森をうろつくなど危険すぎる、よくもまあ無事でいてくれたものだと、シータに背を向けた。あまりの素っ気無さに、シータは何も言えなくなってしまった。
「‥‥ボク、役に立ちたかっただけなのに」
「あー、シータ、気にしないほうがいいぞ」
意気消沈したシータに、ログナードが声をかける。
「しばらく話してアンディの性格が大分わかった。今のは、シータの身を案じての言葉だと思うぞ」
「俺もそう思うぜ。傭兵なんてしてる奴のなかにもああいう性格の奴は多いしなあ」
「‥‥本当に?」
話に割り込んできたアルフレドゥスに向けて、シータは首を傾げた。
口調に似合わず聖職に就くログナードは優しい微笑を浮かべ、アルフレドゥスも豪快に歯を見せた。
「ありがとう! じゃあボク、調査してわかった事をアンディに伝えてくるよ!」
アンディの様子を確認すると、夜営の準備を始めようとしている。そこへ突撃するシータは、ころっと明るい表情になっていた。素直というか、純朴というか。まだまだあどけなさの残る少女が頑張る姿を見て、青年二人も、背に負った荷を下ろしてテントを張り始めた。
●まずは一匹目
「ふぇ、えぐっ‥‥うええええええぇ」
ティアラが泣いていた。その隣ではカメノフがおろおろしている。さらにその隣では、他の全員が白い目でカメノフを見ていた。
数分前――。
スカートめくりを至上の喜びと豪語してやまない、エルフのおじいちゃんカメノフに、今回目をつけられた同じくエルフの可愛らしい少女ティアラ。カメノフは得意のサイコキネシスでティアラのスカートをふわりと持ち上げ、その内側をちらっと眺める事にした。もし気づかれたとしても、風のせいにするつもりで。
だが風のほうが先に悪戯を仕掛けてきた。翻ったスカートからはすらりとした脚が見えた。驚いたシータがとっさに押さえてくれたので大事には至らなかったのだが‥‥事の重大さを理解していなかったらしいティアラにシータが一言二言耳打ちした次の瞬間、ティアラは泣き出してしまったのだ。
「おじいちゃん‥‥スカートがめくれたら‥‥丸見え‥‥なんだよね? ティアラ、お嫁にいけなくなっちゃうよぉぉ」
じわぁっと、ティアラの目尻に一際涙が滲む。
「すっ、すまんのう、そんなつもりではなかったんじゃ、本当じゃっ」
重大さを理解していなかったのはカメノフも同じのようだ。とにかくティアラをなだめようと、あれこれと試行錯誤しているようだが、どうにも泣き止んでくれない。愛犬シュガーも心配そうに鼻を鳴らし、耳を倒しながら、ティアラに体を擦り付けている。
呆れて物が言えない他の面々は、とにかくティアラが落ち着くのを待っていた。
――しかし、急にシュガーが低く唸り声を上げた。一呼吸遅れてアンディも気づき、全員に視線で合図し、その場で低くしゃがむように指示を出した。
‥‥ずしん、ずしん。
何かが近付いてくる。漂ってくる獣の匂い。
高まる緊張感に、いつの間にやらティアラの涙もぴたりと止まっていた。
「嬉しいねぇ。一匹だけでお出ましとは」
熊に聞かれないよう、か細く囁くアルフレドゥス。風下へと静かに移動を開始する。
「狙いどころは先程説明したとおりだ。‥‥まずはあいつの動きを止める」
剣を鞘から抜くアンディに頷く面々。同様に武器を構え、また、魔法詠唱のために精神を研ぎ澄ます。
そして、上体を低く保ったまま、アンディは熊の目と鼻の先に躍り出た。熊の視線が自分に向いた事を確認する。瞳に映る自分。体はまだ以前のように動く。くるりと背を向け、走った。
動くものを追うというごく反射的な行動を熊はとった。大きな体からは想像しがたい素早さで、アンディを追いかけた。
――ぐぁっ‥‥!?
熊の短いうめき声が耳に届くと同時に、アンディは横へ避けた。直前まで彼のいた場所に、熊の巨体が、地響きと共に倒れこむ。起き上がろうにも輪状の丈夫な皮紐が絡みつき、うまくいかないようだ。
「よし、俺の出番だなっ」
頃合を見計らっていたアルフレドゥスの一閃。もがく熊の足元は油断そのものであり、血が吹き出した。
だが彼の攻撃は勿論致命傷ではなく、逆に熊の怒りを買ったようだ。熊はかろうじて自由になる両腕を手当たり次第に振り回した。丸太ほどもある毛むくじゃらの腕が、次に攻撃しようとしていたシータに迫る。彼女は迷った。避けるか、受けるか。結論はすぐに出た――彼女は腱を両手で支え、熊の攻撃を受け流す事を選択した。
「シータさん!?」
彼女の後ろでティアラが悲痛な声を上げる。
自分が避けていたらどうなっていたか、考えると空恐ろしくて、シータは自分の息が詰まるのを感じた。
(「受けきれない‥‥っ!?」)
詰まった息を吐き出せる頃には、後方へ倒れていた。巻き込んだティアラが、馬車に轢かれた蛙のように、情けなく鳴いた。来てほしくはなかったが自分の出番だと、二人のもとにログナードが急ぐ。
一方、精一杯に腕を伸ばした直後の熊には隙ができた。
「わしが抑えておる今がチャンスじゃっ!」
カメノフの得意技、サイコキネシス。
アルフレドゥスもアンディも、その隙を逃しはしない。
「おりゃあああああっ!」
「はあああぁぁ!!」
振り下ろされる刃。貫かれる肉。
――ぐああああああああああ‥‥‥‥
腹に響く低音が、一行にひとまずの勝利を確信させた。
●そして二匹目
翌朝。一行は、二匹目の熊を仕留めようと意気込んでいた。
今回は茂みに潜んで待つ必要はない。いや茂みに潜んではいるのだが、対象は既に一行の視界に入っている。昨日倒した熊とつがいになっていたもう一匹の熊は、つまり、巣穴にいるのだ。
巣穴の場所自体は、シータが集めておいた情報とアンディの知識から、案外簡単に知れた。熊の活動時間帯は、明け方と夕方。昼間に赴けば寝ているだろうというのがアンディの意見だった。‥‥だったのだが。いざ巣穴の近くまで来てみると、対象は巣穴の前をうろうろしていた。
「おい、話が違うじゃねぇかよ」
不満げにアルフレドゥスがぼやく。
「‥‥いや、あれは‥‥旦那を探しているんだ」
動物に関する自分の知識には自信があるのだろう。熊が予想と違う行動をとっていたというのに、アンディはきっぱりと言い切った。そしてそう思う根拠を告げる。
「昨日倒したほうの断末魔が聞こえていた可能性もある。夜が明けても帰ってこない旦那を、一晩中、ああして心配そうに待っていたとしたら」
「熊さん、やっぱりかわいそう‥‥」
「だったら感謝するんだ。俺達は命を分けてもらって生きてるんだからな」
すん、と鼻を鳴らしたティアラの頭に、ログナードが軽く手を乗せた。
昨日と同じ作戦。だが昨日のようには行かなかった。アンディが急に咳き込んだのだ。
伴侶を自分から奪ったのはこいつらだと、熊もわかったようで、対峙した時から非常に攻撃的だったのに。彼はその熊の攻撃範囲内で、膝をついてしまった。
「ちぃっ!」
本来のタイミングはまだだったが、アルフレドゥスが突撃する。熊の動きが一瞬鈍ったのはカメノフのサイコキネシスのおかげでもあったろう。しかし熊はすぐに通常の動きを取り戻してしまった。きらりと光る爪。アンディの代わりに攻撃を受けようにも間に合わない。
「ダメぇぇぇぇぇぇっ!!」
ティアラの絶叫。放たれる重力波。みしみしと骨の軋む音。
熊は転倒した。痛みに耐え切れず、口から唾液を垂らしている。
「ログナードさん、アンディさんをっ」
「おう!」
未だ咳の止まらないアンディを熊から遮るように布陣を展開する。熊が倒れているうちにもう一度サイコキネシスが発動した。
●恐妻家予備軍
「これでよし、と」
シータは額の汗を拭った。テントにアンディを寝かせ、彼の婚約者アイシャから預かっていた薬を飲ませたのだ。
大分落ち着いた表情で、アンディは彼女を見上げた。
「‥‥すまないな」
「いいよ、これくらい気にしないで」
「いや、違う」
何の事を言われているのかわからないシータ。
「あの魔法の重力波で大分、毛皮が傷ついた。売値が下がるだろうから‥‥アイシャは今回の報酬も減らすだろう」
「え?」
「彼女ならやりかねない。いや、やる。俺のせいだといっても実行するだろうな。そして連帯責任だと言って、俺の小遣いも減らすんだ‥‥」
ため息をつくアンディ。
シータは思い出す、薬を差し出しながらにっこり笑ってお金を要求してきたアイシャの事を。その時はまあ、冗談よと笑ってくれたのだが、おかげでアンディの言葉にも信憑性を感じる。
「おーい、できたぞー‥‥ってどうした、シータ」
クリエイトハンドでアンディのためにスープを作ってきたログナードが、落ち込む二人をきょとんとした顔で見ていた。