【ブラしふ団の挑戦!】カブ畑を守れ!
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■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:10月30日〜11月04日
リプレイ公開日:2005年11月10日
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●オープニング
それは、ハロウィンも近いある日、学生食堂で突如産声を上げた。
「我々は、一年間待ったのだ!」
「いまこそ、我らシフールの力を、奴らに思い知らせてやるのダ!」
何人かのシフールが集まって、そんな声を上げている。皆、腕に黒い腕章を付けていて、それには『BS』の文字が躍っている。
「とりあえず、どうすれば困ると思うのだ?」
「もうすぐハロウィンだから、衣装がなくなったら困ると思う」
「よし、それでいこう」
なにやら、悪巧みの相談をしているようだ。と、そこへギルドの受付嬢が、お昼を食べに来る。
「あのー、ここ座って良いですか?」
「うん、いいよー」
「どうぞどうぞ」
悪巧みをしている割には、ずいぶんフレンドリィである。にこやかにそう答えて、席を譲るシフール達。
「では、決行は数日後に!」
「おー!!」
盛り上がった彼らが、拳を突き上げたその時だった。
「わうっ」
「わぁぁぁ。お前はいいんだってば! きゃあああ」
一緒にご飯を食べていた、ペットのコリー犬が、『僕も仲間に入れてー☆』とばかりに吠え、辺りは大混乱。
こうして、なんだかとっても微笑ましい悪の秘密グループが発足するのだった。
◆
「わしの畑がああああああっ!!」
昼下がり。食事をとるため一旦自宅へ戻っていた農家のおじさんは、もう一仕事しようと畑に戻ってきた途端、目の前に広がる光景に叫びを上げた。
ざっと5人くらいのシフールのお子様集団が、おじさんのカブ畑を占領していたからである。
彼らの年齢や性別にはばらつきがあるようだが、全員に共通するものがひとつあった。腕章である。黒字に赤の糸で『BS』と書かれている。彼らは徒党を組んであおり、『BS』がその徒党の名である事は疑いようもない。そして中心人物と思しき、燃え盛る炎のように紅い髪の少年が、一際大きなカブの上に乗って足をぶらぶらさせている。
「何をやってるんだ、おまえらーっ!!」
「何を、って‥‥愚問だねぇ、おじさん。ジャックオランタンを作ってるに決まってるじゃないか」
にやりと口角を持ち上げながら、少年が掲げたのは――ナイフとスプーン。その姿はなぜだか妙にカッコいい。
隣にいた少女が、抱いていたカブを同じく掲げる。半月状の目。牙でギザギザの口。くり抜きかけの中身。立派なジャックオランタンが出来上がりつつあった。ちなみにくり抜いた中身は器にとってある。「後でお料理に使うのぉ〜♪」と笑いかけてくる少女に、おじさんはなんだか怒気を抜かれしまった。
「‥‥ジャックオランタンを作りたいのなら、カブは分けてやる」
相手は遊び盛りのお子様達だ、怒っても仕方がない。カブをひとつやふたつわけてやるくらい、どうという事はない。悪戯をされないようにお菓子をあげるのと同じだ――おじさんはそう判断したようだ。
「やったー!」
「カブくれるってよ、カブ!」
「これでジャックオランタン作り放題だな!」
「誰が一番怖そうなの作れるか、勝負しようぜっ」
「一人一個なんてけちな事言わずに、二個でも三個でも四個でも五個でも六個でも!!」
「ずるいぞ! 僕は十個作ってやるんだから!!」
途端にカブ畑は大賑わい。甲高い声でお子様達が盛り上がっている。
反面、おじさんはぽかーんと大きく口を開け、呆けてしまった
「あんまりハメはずすんじゃないぞ、お前ら。この畑には来年もお世話になるんだからなー?」
紅い髪の少年が笑いながら言う。
はーいっ♪ と、お子様たちは素敵な返事をしたのだった。
頑張れおじさん! 気をしっかりもつんだ!
●リプレイ本文
●まずは下準備
それはシフールのお子様達がぐっすり眠りについているであろう時間。カブ畑所有者であるおじさんの家、その一室を借りて、冒険者達はせっせとカブの葉の束を作っていた。収穫・出荷の際に落としたものや、畑に散っていたものを集めてきて、適量をまとめ、紐で縛る。
明日の朝には、まだ土中のカブ本体と繋がっている葉と葉の隙間に、この擬装用の葉を植えるのだ。
「‥‥悪戯を止めるためとはいえ、この作業、始めるとなかなか面白いな」
ルシフェル・クライム(ea0673)が優しく微笑みながら感想を述べる。
葉の角度や重なり具合によって、本物らしさの度合いは変化する。紐を結ぶ力の加減もある。いかに本物らしさを高めるかという、本来の目的とは異なる方向へ、ルシフェルの情熱は注がれ始めていた。
「あらあら、ルシフェルさんったら‥‥。んー‥‥こっちの葉っぱのほうが新鮮ですね、こっちを使いましょう」
そう言うソフィア・ファーリーフ(ea3972)も、結構楽しそうだ。くんくんと葉のにおいをかいで、より本物に近い葉を選別している。
悪戯する子供達をお仕置きするためというよりは、どちらかというと、一緒に遊ぶために準備をしているように見える。
だがそんなふたりをよそに、小さな木の板を持つエルネスト・ナルセス(ea6004)がにやりとしていた。
「騙されてショックを受ける子供達の顔が目に浮かぶ‥‥」
おじさんからもらった木切れにでかでかと『ハズレ』と書くエルネスト。自分の達筆さに惚れ惚れして目を細める。
この木切れを、ルシフェルの作った擬装用の葉に結び付けて一緒に埋める。子供達が擬装用の葉を引き抜いて右往左往している間に、本物を確保してしまえというのが、今回の作戦。名づけて、くじ引き大作戦、というところか。
「明日の朝ですが‥‥植えるのはお願いしてもいいですか?」
「ん? どこかに行くのか?」
「ええ、マーケットまでお菓子を買いに♪」
せっかくのハロウィン。それに、子供達とて悪気があるわけではないのだ。
お菓子で釣れないかなぁ、という思いを抱いても仕方あるまい。
「私も行くぞ。餌を確保しなければな」
ほのぼのとした会話に割り込む、さらりとした毒。エルネストの言葉を、ルシフェルとソフィアは聞かなかった事にした。何しろ早く作業を終わらせ、明日に備えて寝なければならないのだから。
●作戦開始!
「決戦の時は来た‥‥」
空。
風が少年のもつ、炎のような紅い髪をたなびかせる。瞳も同じ色に輝き、地表を見下ろす。標的である畑には、見覚えのない姿がちらほら。服装からして冒険者であろうと、彼は判断した。
「おじさん‥‥あくまで抵抗する気なんだな‥‥」
子供らしからぬ表情で呟く。――いや、子供だからこそか。無邪気な対抗意識だ。
「楽しめそうだ。なあ、みんな?」
少年の背後には4人――いや5人のシフールが浮いていた。本来の人数に加え、ケミカ・アクティオ(eb3653)が混ざっている。昨日、酒場で騒いでいた子供達に接触し、年甲斐もなく駄々をこね、嘘泣きまでして、無理やり仲間に入れてもらったのだ。
目的はひとつ。情報を引き出す事。
そして彼女は既に、成功している。昨夜のうちに集合時間と場所を聞いておき、冒険者仲間に知らせた。だからこそ、冒険者達は子供達が来るよりも早く、迎えうつ準備を終えて畑に待機しているのだ。となればいつまでも彼女が子供達の仲間のふりをしている必要はない。
ケミカの腕には、紅い髪の少年から渡された『BS』と刺繍の施された腕章がある。次の瞬間、彼女はその腕章を大空へ放り投げた。
「ああっ!! 何するんだお前!」
「その腕章は大事な大事な、メンバーの証であり誇りなんだぞ!」
「ふっ‥‥この私のだだっこ芝居に騙されるとは、青いわね。若造ども。私はスパイとして偽装入団しただけよ!」
風に煽られてひらひらと舞いながら落ちていく腕章。気づいた子供達が口々に彼女の行動へ怒りを示すも、ケミカは気にしない。なぜなら彼女は子供達の事を悪戯する悪い子と認識しており、そんな悪い子にオシオキするのがお姉さんである自分の役目だと思っているからだ。
「ブラしふ団なんて面白そうだけど、みんなに迷惑かけちゃダメよ。悪い事は言わないわ、オシオキされたくないのならこのままおうちに帰るのね!」
捨てゼリフを残し、彼女は地上に向かった。
畑。
おじさんが不安そうな顔でそわそわしている横には、わざわざおじさんの家から運んできたテーブルがある。その上には大小合わせて幾つかの袋と、五つのカップ。エルネストが大量購入したお菓子と、サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)がこっそりと酒を混ぜたジュースである。ソフィアも綺麗にラッピングした小袋を手提げの籠に用意し、腕から下げている。
他のふたり――ルシフェルとチハル・オーゾネ(ea9037)も、それぞれフットボールとリュートベイルを携えて、時を待つ。
と。
猛スピードのケミカが上空からまっ逆さまに落ちて――いや、飛んできた。彼女の後ろには、口々に騒ぎ立て、明らかに怒っている子供達が続いている。
「子供達‥‥なんだかすっごく、怒ってる‥‥?」
目のいいサクラには、未だひらひらと宙を漂う腕章が見えていた。
「あーあ、せっかくお菓子を用意したのに、いたずらする前に例の言葉を叫んでくれる子はいないかなぁ」
「はいはいはいっ! とりっくおあとりーと!!」
これ見よがしに大きな声を出すソフィアの元には、子供達が一斉に駆けつけた。いい子ですね、と頭を撫でられながらお菓子をもらう。もらうとすぐさま、カブに向かって一目散。紅い髪の少年など、お菓子には興味なさそうにカブの元へ飛んでいく。
「ジュースですよ〜。美味しいジュース〜、ジュースはどうですか〜!?」
サクラの用意した飲み物も、通りすがりにカップごと奪われていく。サクラは『カブをとらないのならば飲んでもいい』という条件をつけるつもりだったのだが、そんな暇も余裕もないほど、鮮やかな手口だ。ささっとカップを取り、ぐいっと中身み干し、空になったカップを放り出す。
ジュースに混ぜた酒が効いてくるのはもう少し経ってから。なんてことには微塵も気づかないまま、子供達は畑を飛び回る。
「よーし、一個目‥‥って、なんだよ、これぇっ!!」
男の子が勢いよく掲げた葉っぱの先には、『ハズレ』の札が揺れている。簡単に引き抜けたと思ったらハズレだった。やりきれない思いを、札ごと偽装葉っぱを投げ捨てる事で解消しようとする。
そこへ流れてくる、軽やかな曲。チハルの演奏は素晴らしく、男の子が慌てて耳をふさいでももう遅い。魔法は発動し、男の子はその場に倒れた。ころりと転がり仰向けになった彼は、気持ち良さそうに眠っている。
「ふふっ、効き目はばっちりですね♪」
見事魔法を成功させたチハルが、嬉しそうにリュートベイルを構えなおす。スリープの次なる標的を求めて。
シフールのお子様達の紅一点、舌足らずの女の子は、土の上にかがんでナイフをざくざく振るっていた。彼女の前には切り込みの入った大きめのカブが鎮座している。
「早いな。もう、一個とってしまったのか」
そんな彼女の元へ、苦笑しながらルシフェルがやってくる。額にほんのりと汗をかいているのは、今まさに運動していたからだ。彼の後ろには、並々ならぬ体力に付き合わされた少年シフールが一人、力尽きて、物言わぬ屍のごとくぴくりとも動かない。
女の子は待ってましたとばかりに、ジャックオランタンになりかけのカブをルシフェルへ見せた。まだ途中だが、「上手にできているでしょ?」と言いたいらしい。
「ふむ‥‥こうした方がもっと怖くなるんじゃないか」
ルシフェルは女の子からナイフを借りると、カブに刻まれた目をもっとキツくした。
「うわ〜、お兄ちゃん凄ーい!」
感激した女の子が歓声を上げると、力のありそうな男の子がカブを引きずって近付いてきた。
「何やってんだよ、まだまだカブを抜かなきゃダメだろ!」
女の子を叱る男の子。だがその男の子の背後に、エルネストがぬっと立つ。
「Trick or treat!」
「ぎゃああああ!?」
背後からの突然の大声。男の子は驚いてカブを手放してしまった。すかさず回収するエルネストに、男の子はくってかかる。
「返せよ、それは俺のカブだ!」
「やれやれ‥‥欲張りな子はお仕置きだよ」
「んな――あははははははっ!!」
男の子のわきの下をくすぐりまくるエルネスト。どやらくすぐりに弱かったらしく、涙を流しながら笑い続ける男の子。
「どうして『分ける』から、『取り放題』になるんだ? いや、私も子供の頃にやったけど」
「あひゃひゃひゃひゃっ」
そのまま暫し笑い声は途切れず、ようやく肩で息をして喉がなる音のみになった時。エルネストは地面に這いつくばる男の子に、お菓子の袋を押し付けた。不思議そうな顔で見上げてくる男の子に、彼はこう言った。
「悪戯には相応の罰が下される。覚えておくんだね」
「う〜ん‥‥お菓子ぃ‥‥もっとぉ‥‥」
チハルのスリープで眠らされた男の子は、どんな夢を見ているのかわかりやすい寝言を言っていた。
ちなみに枕にしているのは、サクラの膝。畑をベッドにしておくのはさすがにまずかろうと、サクラ自身が抱き上げてきたのだ。
「子供の寝顔って可愛いですよね〜」
「ふふふ、気持ち良さそうです〜」
林檎のような頬を、サクラの隣からのぞきこむソフィアが指でつつく。ぷにぷにとした感触が伝わり、ソフィアは表情を綻ばせた。サクラもわが子を抱く母のように、ゆったりとすべてを許し包み込むような、そんな雰囲気を醸し出していた。
――この男の子、つつかれた時点で既に起きている。しかし今更、目を開けることはしたくなかった。膝枕が気持ちよいのと、ふたりの綺麗なお姉さんを独り占めしているのと、さっき飲んだお酒入りジュースが効いてきたのとで、彼の心にはほわほわと羽が生えていた。この状況を『ま、いっか』で済ませ、後はひたすら堪能する事に決めたのだった。
●大将のメンツ?
数日間同じような争いを繰り返した、冒険者達と子供達。
ここに彼女もいればな‥‥とうっかり呟いてしまったルシフェルを、恋愛の気配を感じた女の子が問いつめたり。
スリープでは一度にひとりしか効果が及ばず、業を煮やしたチハルが使用魔法をチャームに切り替えたり。
エルネストが隠していた水晶のペンダントを見つけた男の子が、真っ赤になって女の子にプレゼントしたり。
プレゼントされた女の子が即、紅い髪の少年へ見せに行ったので、男の子が号泣したり。
そんな子供達の三角関係を眺めてほくそえむエルネストに気づき、ソフィアが苦笑、サクラが首を傾げたり。
だが紅い髪の少年以外の子供達は皆、二、三個ほどくらいでカブを抜くのをやめてしまった。それよりもとことん遊び相手になってもらえたのが嬉しくて、すっかり満足してしまったのだ。
依頼期間の最終日が訪れた頃にはもはやハロウィンは終了しており、ジャックオランタンを作る必要はなくなっていた。それでも互いに後には引けない、と考えていたのは、実は紅い髪の少年とケミカだけ。他の面々は、おじさん含め、お茶とジュースとお菓子で談笑している。小さなパーティーが開かれる前にお説教に時間はあったものの、畑とカブがおじさんの大事なものだと理解した子供達は、今やすっかり反省している。
「俺達『BS団』をコケにしてくれた事‥‥一生忘れないからな、おばさんっ!!」
「だぁれがおばさんですってぇ!? オコサマのくせに!」
「あんただよ、あんたがおばさんなんだよ! ていうか、俺の事をオコサマなんて呼ぶな!」
「オコサマだからオコサマだって言ってるのよ! それ以上私をおばさん呼ばわりすると、アイスコフィンが飛ぶわよ!?」
今日もよく晴れた空の下、羽を震わせながら発展性のない言い争いをするふたり。彼らを眺めて、他の者はやれやれと肩をすくめた。