【葱】その名を継ぐ者
 |
■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月11日〜11月16日
リプレイ公開日:2005年11月19日
|
●オープニング
フライング葱。
それは特殊な形状のフライングブルームである。
使用するには体を害する危険や色々なモノを捨てる覚悟が必要だとかで、葱リストと呼ばれる乗り手はなかなか集まらない。集まったとしてもかなり濃いメンツであることは必至。まあ尻に刺さなければならないと開発者から厳命されているのだから当然といえば当然か。
葱リスト達に、なぜフライング葱に乗るかと問えば、こう答えてくれるかもしれない。
――そこに葱があるからさ、と。
◆
「おーい。いつもの手紙やでー」
独特の訛りで喋るシフールの青年。体が小さい事を利用して、玄関からではなく、窓から入ってきた。今までに何度も経験している窓のようで、入り込む角度も速度も完璧。かすり傷ひとつ作ることなく室内に着地した。
と、バタタンッ!! とドアが壊れたのではなかろうかという音がした。
「待ってたぞおおおお!!」
シフールの青年は、部屋に滑り込んできた男を華麗に避け、空中で羽ばたいた。男が床板で擦りむいた鼻を痛そうに撫でている姿に苦笑いを浮かべ、持っていた封筒をぱっと手放す。
途端に男が起き上がり、木から落ちる葉っぱのごとくひらひら舞う封筒を、親の仇か何かのように追い求めた。
ようやく手に入れた封筒は、白く可憐で、繊細な文字で宛名が書かれていた。――ヘモグロビンさんへ、と。
「アメリアさーーーーーんっっ」
男ヘモグロビンが、吼えた。
ちなみにこのヘモグロビンは、葱リスト界の雄・カマバット一族を継ぐ者にしてカマバット三兄弟の長男である。勿論言うまでもなく葱リストだ。恋人いない暦は年齢とイコールで結ばれるという、まあちょっと哀しい人生を送ってきたわけだが、最近はそう哀しくもなかったりする。
理由はただひとつ。アメリアという名の女性と文通を始めたからだ。
「なになに‥‥『ここ数日で大分冷え込むようになりました。風邪などひかないよう、温かくして、十分に気をつけてくださいね』‥‥アメリアさんが心配してくれてるー!!」
「――毎度の事やけど、兄さん、うるさいわ」
浮かれて騒ぐヘモグロビンの頭部に、青年はシフールアタックをかます。だがヘモグロビンはものともしないどころか、かまされた事に気づいてもいない。これもまた毎度のことであり、青年はそのまま、いちに、いちに、とヘモグロビンの頭で足踏みを開始する。
「なぁ、はよ返事書いてやー? わいもそんなに暇やないんやでぇ」
「ああ‥‥ほんのりと漂ってくるいつもの香り‥‥アメリアさん、好きだー!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
続けざまに無視されたのがきいたのか、青年の目がすわった。
「それでも葱リストかああああああ!! シャキッとせいやぁっ、シャキッとぉっ!!」
ぶち切れた声で、しかも耳元で叫ばれても、ヘモグロビンは夢心地だった。
◆
その日の夜。カマバット一族はいきなり家族会議を始めた。ただし、長男ヘモグロビンは抜きで。
「議題は、ヘモグロビンの結婚についてである!」
ばばーん、と三兄弟の父グランパが宣言した。
「あやつもいい年齢‥‥そろそろ結婚して、一族の、ひいては葱リストの、次なる後継者を生み育ててもらわねばならん!」
テーブルを力強く叩いてから、彼は息子達の表情を確認した。ふたりとも神妙な顔つきで頷いている。
それに満足したのだろう。グランパはもう一度テーブルを叩いた。
「だが父として、息子には幸せになってほしいと願うのもまた真理! 故にわしはこう考えた! ヘモグロビンが現在惚れておる娘とくっつけてしまえばよいと!!」
「素晴らしい!」
「名案だ!」
至極単純明快な結論に、次男ヘンターイと三男ドリアンが拍手して賛同する。グランパはうむうむと片手を挙げて彼らに応えた。これでは会議というより、ただの伝達である。
「ヘモグロビンがひとりの娘と文通しておる事は、お前達も知っておろう。標的はその娘! なんとしてでも、娘がヘモグロビンと結婚したくなるように仕向けるのだ!」
てなわけで、お手伝いさんとして冒険者が呼ばれる事になった。
●リプレイ本文
●各人の意気込み
「アメリアさん、本当にそう言ったの?」
パラーリア・ゲラー(eb2257)が確認すると、ネフィリム・フィルスは勿論さね、と頷いた。アメリアさんの特技が調香であるという事から、その噂を聞きつけてひとつ作ってもらおうとやってきた客を装い、彼女の家まで行って、わざわざ聞いてきたのである。
ネフィリムの「葱リストってのは凄いよねぇ」というさりげなさの足りない話題振りに対し、アメリアの反応は、こうだった。
――葱‥‥りすと? 葱の種類の一覧表ですか?
「うーん、葱はまだまだ多くの人に知ってもらう必要があるみたいだね」
チップ・エイオータ(ea0061)は腕を組み、至極真面目な顔つきで唸った。「いつも心に青空と葱♪」と言ってはばからない彼の事、それはそれはフライング葱を愛しているのだ。
また、フライング葱を愛しているのはパラーリアも同じ。葱少女隊の一人である彼女も、フライング葱の未来を心配している事に変わりはない。そして今回の依頼は、まさに未来のための密かな戦い‥‥聖戦でもあるのだ!
「ヘモグロビンししょ〜が幸せになるためにも、ここはやっぱり、葱についてアメリアさんにしっかり教えてあげなきゃ!」
「おいらもヘモグロビンがどれだけいい人か、ばっちり伝えるよ!」
燃え上がる二人。彼らのテンションはあまりにも高く、パラーリアのように葱少女隊の一人であるはずのネフィリムからも生暖かい視線を頂戴している。
「じゃあ俺も、歴戦の葱リストとしての姿を披露しましょうかねぇ」
『物好き達が勝手に作った葱ランキング』とやらで常にトップを争っているというヲーク・シン(ea5984)は、訳知り顔で、自分はまずグランパの元に行くと宣言した。
今この場にいないフィーネ・オレアリス(eb3529)はというと、図書館に出向き、花について調べている。
皆、ヘモグロビンとアメリアさんの恋を応援している‥‥‥‥はずだ!
●第一陣
フライング葱の熱烈大ファン、葱シフールのコウ、外見年齢24歳の好青年。ちなみに葱シフールとはチップの命名である。
そのコウに案内されて、チップとパラーリアはアメリアさんの家の前までやってきていた。別の仕事があるからとコウが飛び去った後でこっそり庭を覗くと、情報として聞いたとおりの姿の女性がいて花に水をやっている。肩までのブロンド、細身の体。愛しそうに花を眺めてはそっと顔を近付け、香りをかいで、にっこり笑う。
「うん、今日もいい香りね、みんな♪」
浮かんだえくぼが可愛くて、覗き見をしている彼らでさえもため息をついてしまう。年齢はおそらく20代前半。何とも素敵な女性ではないか。
「ヘモししょー、お目が高いねぇ」
「おいらもそう思うよ」
パラである彼らにとってさえ低めの柵に、勢いをつけて乗る。ふたりして身軽なので何ら支障はなく、そこから彼らはアメリアさんに向けて手を振った。一見不審者のようでもあるが、妙に明るいふたりなのでそれほど不審に感じない。彼らに気づいたアメリアさんは水の入った入れ物をその場に置くと、落ち着いた足取りで近付いてきた。
「おねーさん、何だかいい匂いがするね。これ、お花の匂い?」
「いらっしゃい。可愛い女の子まで‥‥あなたの恋人?」
「ええっ!?」
チップのうろたえる姿に、アメリアさんはくすくすと肩を震わせる。社交辞令を兼ねた優しい冗談だ。だが良いきっかけにはなった。話が恋愛方面にちらりとでも向かったのなら、これを利用しない手はない。
アメリアさんの興味が他へ逸れないうちにと、パラーリアが後を続ける。
「お姉さんにはいないの? 恋人さんとか好きな人とか〜」
「‥‥どうして?」
「そういう人に花や香料を贈るとしたら、どういう物がいいのかなぁって思って。実際にどんな物を贈っているのかを聞ければ、それが一番わかりやすいから♪」
自分の恋愛相談に乗ってもらうような物言いだが、そこはかとなく誘導尋問っぽい。
「そ、そうね‥‥。好きな人というか‥‥気になってる人、なら‥‥」
消え入るような声。頬を赤らめてもじもじしているアメリアさんに、同じ女性としてパラーリアはピーンとキた。そう、アメリアさんの瞳は間違いなく恋する乙女のそれだったのだ!
パラーリアはこの事をチップに目配せして伝えると、遂に本題に入る事にした。
「葱リストってどう思いますか?」
「――はい?」
一瞬きょとんとしたアメリアさん。しかしすぐに、苦々しく眉根を寄せた。変な質問をしないでくれという気持ちの表れなのかと冒険者達は思ったのだが、どうやらそうではないようだ。どうも自らの無知を恥じてるらしい。
「今朝も似たような事を聞かれたんですけど‥‥最近の流行なんでしょうか。私はあまり人前に出ないので、そういった話には少々疎くて」
純粋にして純真。あまりにも無垢で、フライング葱の知識で染みをつけてしまうのはあまりにも忍びない。――忍びない、とフライング葱の知識を持つ一般人ならば思っただろう。
だが、今この場にいるのは一般人ではない。葱リストなのだ。むしろ嬉々として、良さげな印象を与える知識ばかりを選んで伝えていく。
「フライングブルームっていう、空飛ぶ魔法のホウキがあるのは知ってるかなぁ。葱――正式にはフライング葱っていうんだけど、そのフライングブルームと基本的には同じ性能で、外見を葱にしたものなんだよ」
「フ、フライング葱? ‥‥葱で空を飛ぶんですかっ!?」
「そうなのっ☆ ただ、おし――モガッ」
本当ならば肝心要であるはずの、『尻に刺さなければならない』というその一言をつい告げようとしたパラーリアの口を、チップが手で押さえて塞いだ。笑顔が凍りつき、素敵に張り付いている。フライング葱の印象を良くしたいのなら、尻については言ってはならない。禁句だ。
数秒経って手を離すと、パラーリアは少し不満そうに口を尖らせていた。
あ、何か仕出かしそうだ、と感じ取った時には――彼女の手には、しっかりと、フライング葱が握られていた。アメリアさんの家に来る前に、グランパから借用していたらしい。
「パラーリアさん、何する気っ!?」
「何って、葱の準備だよー?」
パラーリアは十中八九、そのフライング葱を例の場所へアレするのだろうが‥‥周囲をうかがえば通行人もいる。衆目に晒されながら女性が葱を使用するという事がどういう事か、彼女は正しく理解しているのだろうか。ぽわーんとしている様子からして、そこまで深く考えていなさそうではある。
むしろ隣にいるチップのほうが大慌てだ。何か隠せるものは、と荷物袋をあさっても何も出てこない。
「いっきまーす♪」
「待ってーー!!」
涙すら滲ませて、チップが手を伸ばす。だが安心していい。こういう時のために黒い服の集団がいるのだから!
彼らは風のように現れ、その行動の最中であるパラーリアを取り囲み、あらゆる視線から隠してしまった。そしてしばらくもぞもぞと動いていたが、じきに蜘蛛の子を散らすようにさーっと去っていく。
残されたパラーリアは、歩いたら引きずってしまう長さの黒いスカートをはいていた。それでもってスカートには例の部分に穴があいており、穴からは葱が顔を出しているのだ。
「‥‥苦肉の策なんだね、黒い服さん‥‥」
いっそもうとことん泣いてしまえとばかりにむせび泣くチップ。
パラーリアは彼がなぜ泣いているのかわからずに戸惑うばかり。とりあえず、彼の頭を撫でてみた。
「あの‥‥今の方々は‥‥」
「葱ある所に現れやすいお友達と言うかなんと言うか‥‥」
アメリアさんも呆然としている。黒い服達についてもそうだが、パラーリアの尻の辺りから伸びている葱に対しても。なので、とりあえず当たり障りがなさそうな黒い服達の説明を試みるチップだった。まあその試みは微妙に失敗しているわけだが。アメリアの視線はどうしても『そっち』に行ってしまう。
そろそろチップがパニックを起こしそうだ。嫌な汗が額をびっしりと覆っている。葱リストとして尻にフライング葱を刺す事は恥ではないが、今回の目的はあくまでも、アメリアさんに嫌悪感をもたれる事無く説明を終える事なのだ。
そしてそれは非常に難しい。
――どうすればいいっ!?
「葱はキャメロット(のごく一部)で流行っていて!!」
上空から声が聞こえてきた。但し、一部は小声で。わかっててやっているに違いない。なぜなら、太陽を背負って飛んできた素敵な影は、葱リストとしての雄姿を惜しげもなく公開するヲーク以外の何者でもなかったからだ。
「葱乗りはキャメロット(の冒険者ギルド)では(案外)数多く存在しているんですよ!!」
『葱乗り』‥‥その表現も微妙に格好よくて、後日、ネギリスならぬイギリスに広まっちゃったりするかもしれない可能性も無きにしも非ず。可能性はゼロではない。可能性は。可能性だけなら。
輝く先輩葱リストに、自分も目を輝かせるパラーリア。偉大な先輩に少しでも近付こうと、自分にくっついているフライング葱へ手を伸ばす。
だがその手は再び現れた黒い服によってがっちりと押さえつけられた。やめておけとでも言うように、ローブで隠れて見えない顔をふるふると左右に振っている。その黒い服、もう片方の手では、気絶して倒れているアメリアさんを示していた。パラーリアの高揚感も一気に冷める。
「アメリアさーん!!」
上空では、黒い服達から投網を放られたヲークが、網の中でもがいていた。
●第二陣
「ほら、ここですよ」
「うわああ‥‥綺麗‥‥」
次の日、一面の白い花畑を眺めるフィーネとアメリアさんがいた。図書館や市場などで色々と調べた結果、ここになかなか人の近付かない、アメリアさん好みの花畑がある事を突き止めたのだ。
差出人の名前を伏せつつもヘモグロビンっぽく匂わせて、アメリアさんに花を届けたフィーネは、昨日のパラーリアのようにそれとなく恋愛の話をして心の警戒を解いてから、「綺麗な花が咲いている処を知っているので、一緒に見に行きません?」と彼女を花畑に誘った。さすがにアメリアさんも渋ったが、フィーネが半ば強引に腕を引っ張ったので最終的には承諾してくれた。
実際に花畑を目の前にして、彼女は自分が渋った事すら忘れていた。
「香り! 香りが知りたいわっ」
「どうぞ、お好きなように。――でもそっちは滑りやすい急な坂になっているので気をつけてくださいね」
「え‥‥‥‥あっ、きゃあああああっ!?」
お約束通りにアメリアさんは転んでくれた。朝方に軽く雨が降ったのか地面がぬかるみ気味だったせいもあるだろう。一瞬宙に浮き、後は下に落ちるだけ。彼女はきつく目を瞑り、その時を待った。
――だが、彼女を迎えたのは冷たい土の感触ではなく、温かいぬくもりだった。
「だっ、大丈夫ですか、アメリアさんっ!!」
名前を呼ばれて恐る恐る目を開けた彼女が見たのは、真っ赤になりながらも彼女を受け止めてくれたヘモグロビンだった。その尻には彼女が昨日気を失った原因であるフライング葱がぶっすりと刺さっているのだが、既に彼女にはヘモグロビンしか見えていない。
よくある『ふたりだけの世界』という奴だ。
見詰め合うふたり。先に言葉を発したのはアメリアさんだった。
「あなたには、二度も助けてもらいました‥‥これって、運命ですよね‥‥」
一度目はともかく、今しがた起こった二度目の偶然は、フィーネによって作られた偽物の偶然なのだが。タイミングよくヘモグロビンが坂の下にいたのは、フィーネが彼を呼びつけていたからなのだが。
そんな事とはつゆ知らず、アメリアさんはぼーっと夢心地で、『もう好きにして』状態になっている。
「あの‥‥私‥‥あなたを、お慕いしています‥‥」
とどめの一言を囁いて、彼女はより強く、ヘモグロビンの腕に抱かれたのだった。
坂の上ではフィーネがびしっと親指を立てていた。