【神の国探索】赤き森

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月29日〜01月01日

リプレイ公開日:2006年01月09日

●オープニング

「真逆、『聖杯』の安置されている『聖杯城マビノギオン』が、リーズ城だったとはな」
「リーズ城を知っているのかよ?」
 アーサー・ペンドラゴンは自室のテラスで、日課の剣の素振りをしていた。傍らには美少女が居心地が悪そうにイスに座っている。けぶるよう長い黄金の髪に褐色の肌、健康美溢れるその身体を包むのは白いドレス。誰が彼女を、蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』だと思うだろう。
 かつてのイギリスの王ペリノアの居城に、彼女は四肢を分断されて封印されていた。しかも、聖杯によって人間の女性へ姿を変えられて。
 これにはクエスティングビーストを狙っていたゴルロイス3姉妹の次女エレインも、流石に騙された。
 彼女を無事保護したアーサー王は、キャメロット城へ住まわせていた。
「ここより南東に50km、メードストン地方のリーズという村を治めている城だ。城主は‥‥ブランシュフルールといったな。名うての女騎士だが、聖杯騎士とは」
「聖杯は然るべき時にならなきゃ姿を現さないんだろうぜ。でも、てめぇらが手に入れなきゃ、俺だって『アヴァロン』への門を開けられねぇんだからな」
 クエスティングビーストが真の姿を取り戻さない限り、神の国アヴァロンへの扉を開ける事は出来ない。
「しかし、この格好、何とかなんねぇのかよ?」
「グィネヴィアの趣味だ。もう少し付き合ってやってくれ」
 クエスティングビーストは王妃グィネヴィアに取っ替え引っ替えドレスを着せ替えられていた。アーサー王との間の子供のいないグィネヴィア王妃にとって、彼女は娘のように思えたのかも知れない。
「アーサー王、失礼します!」
 そこへブランシュフルールへの書状を携えて斥候に向かった円卓の騎士の1人、ロビン・ロクスリーが息急き立てて駆け込んできた。
「どうした!?」
「マビノギオンから火の手が上がっており、オークニー兵とおぼしき者達とデビルに攻められています!!」
「何、オークニー兵だと!? ロット卿は動いてはいないはずだ‥‥モルゴースか! デビルがいるという事はエレインもいるようだな。ロビンよ、急ぎ円卓の騎士に招集を掛けろ! そしてギルドで冒険者を募るのだ!!」
 ロビンはその事を報せるべく、急ぎ引き返してきたのだ。
 そして、アーサー王より、最後となるであろう聖杯探索の号令が発せられるのだった。

 ◆

「消火活動、ですか?」
 羊皮紙に必要事項を記入していた年上趣味の受付嬢はつい、聞き返していた。理由はふたつ。ひとつは内容確認のため。もうひとつは、彼女に依頼書作成を頼んでいる人物の声を聞くため。
 受付嬢が持つ羽ペンの動きを見ていたルーカン・バトラーは、このもうひとつの理由など露知らず、うむ、と静かに頷いた。
「陛下の命により私達が向かう事になったのはリーズ城――湖のほとりに佇み、森に囲まれた美しい城だ。だが今では、悪しきものどもの手に堕ちつつあり、私達はこれを阻止しなければならない」
 私達、と彼は言う。円卓の騎士だけではない、共に行く事になる冒険者を含めての言葉だ。
「だが困った事に、城を囲む森に火が放たれたようなのだ。城の者が逃げる道をなくそうというのか、もしくは援軍の到着を阻もうというのか、はたまたその両方か――。ともかく、なるべく早く消火しない事には、たとえ城に平穏が戻ってこようと、後々の民の生活に支障が出てしまう」
 どれだけ脅威が取り除かれようと、民が元の暮らしに戻れなければ意味がないのだ。
 事態の深刻さを再認識した受付嬢、神妙な顔つきになると、汗ばむ手で羽ペンを握りなおした。
「他には何か?」
「火を放った何者かが、まだ森に潜んでいる可能性がある。森が燃え尽きるまで、火を放つ事をやめようとしないとも考えられるからな」
「では、其の者への対処も依頼のうち、と?」
「そうなる」
 わかりました、と受付嬢は補足事項を書き込んでいく。するとルーカンは思い出したように付け加えた。
「ああ‥‥前回同様、まだ経験の浅い者達を頼む」
「はい」

 こうして、依頼書は作成された。

 ◆

 ――同時刻。リーズ城周辺の森にて。

 数多くのインプが、たいまつを片手に飛び回っていた。

●今回の参加者

 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea6278 エミリエル・ファートゥショカ(26歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea7124 サキ・ランカスター(21歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3219 ハイラム・スレイ(29歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)

●サポート参加者

エル・サーディミスト(ea1743

●リプレイ本文

●雪は降っていなくとも
「‥‥冷えますね」
 高速馬車を降り、森に入ると、タイタス・アローン(ea2220)は自身をナイトレッドに染められたマントで包んだ。一言発した彼の唇からは、息をするたびに白いものが流れ出る。雪は降っておらず、積もってもいないが、空気はしんと冷えきっており、下手に動けば身が切られそうなほどだ。
「防寒服を忘れるからいけないんだよ〜」
 サキ・ランカスター(ea7124)の言う通りで、タイタスの荷物袋には防寒服一式が入っていない。この季節、外での作業だというのに、彼は寒さ対策を怠ったのだ。
 そして怠った者はもうひとりおり、こちらも同じナイトレッドのマントに包まって震えている。エミリエル・ファートゥショカ(ea6278)‥‥マントの下は普段着のため、旅装束姿のタイタスよりも厳しい状況にある。
「エミリエル殿。地図を出してもらえるか」
 くしゃみを繰り返すエミリエルの肩に、ルーカン・バトラーが自分のマントをかける。
「あ、はい‥‥あら、何か変ですわねぇ」
 エル・サーディミストから送られてきた、ただし代金はエミリエルもちの、森の植生などが簡潔に纏められたシフール便。その情報とルーカンの話を合わせ、地図には延焼しやすい方向や既に出火していると思われる辺りが書き込んである。ジーン・インパルス(ea7578)の持つ森林に関する知識もかなり役に立った。
 そのジーンが地図を覗き込んで一言。
「上下逆さま、だな」
 地図と周囲の地形を見比べて、書き込んである文字を見て、ようやくエミリエルは合点がいった様子で地図の上下を直した。
「いつもこうなのですよね〜。これで気がつくと迷っていて‥‥なぜなのでしょう」
 首を傾げる彼女に、誰もが思った。彼女をひとりにしてはいけない、と。
 そこへ、少し離れて空を眺めていたローガン・カーティス(eb3087)が戻ってきた。
「あちらの上空が赤くなっていますね。現在進行形で燃えているのはあちらの方角のようです」
「ふむ‥‥やはり城に程近いほうか。幸い、湖にも近いな」
 正しい向きになった地図を確認して、ルーカンは頭の中を整理する。彼の横ではわざわざキャメロットから運んできた人数分の桶を、ハイラム・スレイ(eb3219)がガチャガチャと音をたてながら準備している。
「行こう」
 何が出てくるかはまだわからない。だが、一刻も早く火を消し止めなければならない。森に頼って生きている命は数え切れないのだ、躊躇している暇はない。

●森の悲鳴
 めきめきめき‥‥
 何年かけてそこまで育ったのか。立派な木が、ゆっくりと、倒れていく。葉は焼けて炭となり、小動物が我先にと逃げ出す様は、嫌でも破滅を感じさせる。
 ぱちぱちと火の粉が爆ぜて、煙が立って、しかしその灰色の煙を通して見ても、森は赤く染まっていた。
「ひどい‥‥森が、崩れていく‥‥」
 呆然と開いた口に手を添えてエミリエルが呟いた。赤と金の瞳に映る紅の炎は、美しいどころではなく、禍々しいばかりに木々を飲み込んでいる。
「いかん、思っていたよりも火の回りが速いようだ。湖の近くは桶で水をかけよう、遠いところは魔法で頼む」
 ルーカンの呼びかけに全員で頷く。消火の魔法プットアウトを使えるサキとジーンに、補助としてフレイムエリベイションとファイヤーコントロールの使えるローガンがついて一班。残った男性陣が一列に並んで水の入った桶を運び、空になった桶をエミリエルが再び湖に持っていくので一班。
「油断だけはするな、常に周囲に気を配りつつ、消火に励んでくれ!」
 そして全員が持ち場についた。これ以上ないほどに真剣な面持ちで。

「ぁぅ‥‥、やっぱり火こわい〜」
 サキは燃え盛る炎から目を背けた。しかしそれでも熱気が彼女の体に届き、火はすぐそこにあるのだと知らしめてくる。
 克服しなくてはいけないとわかってはいても、内から沸いてくる恐怖という衝動には抗いがたい。せっかく消火のための魔法を覚えているのに、その魔法を使えば一気に火の勢いは衰えるというのに、手が震えて上手く印を紡げない。
 しっかりしてよ、私の指――!
 痛いくらいに歯を噛みしめ、勢いをつけて振り返ろうとした時。急に、感じる熱気が和らいだ。
「え‥‥あ、ローガン君!?」
「私を使うといい。そこからならば火に臆する事無く、魔法を放てるだろう」
「うんっ、ありがとう!」
 前を見ても、見えるのはローガンの背中だけ。守られている。その事実がくれる安心感が、サキに勇気をくれる。
「猛る焔、その怒りを静め、今ひとたび穏やかなる時を我に――」
 震えていた指もいつの間にか印を結び、力を生み出していた。詠唱の文句が朗々と詠われて、淡い赤光がサキを包み込む。後は発動を待つばかりとなって‥‥
「みんなまとめて消えちゃえっ、プットアウト!」
 一声。そして一定区画内の炎が一度に消える。
 これで自信を得たのか、サキは詠唱を繰り返し、どんどん消火していく。そんなサキにローガンも満足し、今度は隣を確認した。隣ではジーンもプットアウトを唱えていたのだが、焦りがあるのか、何度も発動に失敗しているのだ。
「くそっ、とっとと消えやがれっ!!」
 ジーンはサキに比べると、魔法を使う者としてはまだまだ未熟だ。わずかな綻びがすぐに失敗へと直結してしまう。
「落ち着け、ジーン殿。まずはキミの中で騒いでいる努力と根性を制御し、更にたぎらせよう」
「あ、あぁ‥‥悪い、頼む‥‥」
 職業柄、たやすく命を奪っていってしまう放火を、ジーンは特に嫌っている。早く消そうと焦るのも無理はないが、焦るばかりでは何事もうまくはいかない。
 ローガンが詠唱している間に、呼吸を整える。腹を据え、腰の両脇でぐっと拳を握り締める。
「いくぞ――フレイムエリベイション!」
 発動と同時に、ジーンの中で何かが脈打った。それがくれるものは、眼前で荒れ狂う火の熱さとは異なる、心地のよい熱さだ。
「――平穏を、安寧を、日常を‥‥今を生きる命の元に! プットアウト!!」
 見事な詠唱の後、発動は成功する。一定量の火が消えて、よし、と次の詠唱のための準備に入るジーン。
 だがその瞳を、何者かの影が横切った。
 目を凝らす。消えたはずの火が残っている――いや、何者かの手にあるたいまつの火だ。それも一つや二つではない。三つ、四つ、五つ六つ七つ八つ九つ‥‥十。きりのいい事に、十のたいまつが灯っている。たいまつを手にしているのは、同じ数だけの、インプの集団。一匹が一つずつのたいまつを持ち、折角火を消した木に再び点火しながら、彼らに近付いてきている。
「キキ‥‥邪魔ガイル。俺達ノ邪魔スル奴ガイルゼェ」
「ケケケケ。ツイデダ、ヤッチマオウゼー」
 にたにた笑う、耳まで裂けた唇の中に、ぞろりと鋭い牙が並んでいた。

 時間は少し戻って、桶組。
 ハイラムが地に膝をつけて汲み上げ、タイタスが桶をルーカンまで中継して、ようやく火に水がかかる。エミリエルはルーカンとハイラムの間を往復して、軽くなった桶を運搬している。各人のとる行動は限られているが、これがかなりの重労働である事は実際にやってみればわかるだろう。
 現に彼らの額には汗が滲み、衣服の背中部分もべっとりと張り付き始めている。森に到着した時には寒さで震えていたふたりですら、息を切らし、体から湯気を立ち上らせているのだ。とにかく火を消し止めようと、誰もが無心に動いていた。
「きついでしょうが‥‥協力して頑張りましょう」
「はい、私も全力を尽くします‥‥っ」
 タイタスの差し出す手に、水がこぼれんばかりの桶が、ハイラムから手渡される。
 何度も繰り返すうちに悲鳴をあげそうになる腕をだましだまし動かしながら、彼らは水を汲み、運んだ。消火速度は魔法には及ばないがそれでも確実の火は減っていき、勢いも衰えているように感じられた。
「おかしい‥‥」
 順調すぎる事にルーカンが首を傾げたのと、ハイラムの耳に不自然な音が届いたのは、ほぼ同時だった。

●弱きのために
「ローガン! 早くサキを皆のとこへ連れてけっ!」
 インプの集団は、一度には襲ってこなかった。直接攻撃を不得手とする者達ばかりで、しかも高速詠唱を習得している者もいないと気づくが早いか、2、3匹で攻撃を仕掛けては一旦後方に下がるという行動をとっている。ケケケケと重なる不協和音は、弱者をいたぶるのが心の底から楽しくて仕方がないと、言葉の必要なしに語る。
 なんとか桶組と合流しようと、魔法組の三人は湖のほとり目指して走った。まだフレイムエリベイションの効果時間内であるジーンが、体力にも秀でている事から、しんがりを請け負っている。一撃でもくらったらひとたまりもなさそうなサキを庇いながら、それでもローガンはジーンを気遣う事を忘れなかった。
「あまり自分を過信するな!」
「大丈夫だって言ってるだろ! いいから行けよっ」
「ヒャハハハハ!! 逃ゲロ逃ゲロ、ドウセ逃ゲ切レナイケドナーッ」
 インプの鋭い爪が空気を切り裂く。咄嗟の判断でジーンは上体を低くする。一瞬後には頭上を通る爪の唸る音がした。
「ああっ、火が‥‥」
 たいまつから移された火はますます広がっていき、燃え尽きてただの炭と化した木々が音を立てて倒れる。しかもそのうちの一本は、サキとローガンに覆い被さるようにして。
「危ないっ」
「きゃあぁっ」
 何とか下敷きになる事だけは免れたが、無理な態勢で避けたために、勢いづいてふたりは転倒してしまった。
 ニタリと笑った一匹のインプが、ふたりに狙いを定める。牙をぎらつかせ、爪を光らせて、蝙蝠の羽をばたつかせる。
 ――間に合わない。駆け寄ってふたりを守ろうとするジーンの行く手は、別のインプによって阻まれている。目の前にいるのに守れないなんて。
 ジーンの歯がぎりりと鳴り、
「ギャアアアアアアッッ!!」
 ふたりを狙っていたインプが、燃える森に聞き苦しい叫びを響かせた。目を押さえている。深々と、それこそ柄でつっかえる根元ぎりぎりまで、エミリエルの投げたシルバーナイフが突き刺さっているのだ。
「よもやこれほどの数とはな‥‥よくぞ持ちこたえた、ジーン殿!」
 続々と到着するルーカン、タイタス、ハイラムを警戒して、ジーンにまとわりついていたインプがジーンから距離をとる。
「お怪我は」
「ない、大丈夫だ。それよりあいつらを倒さないと、森が燃え尽きちまう」
 リカバーを唱えようとしたハイラムに、ジーンはそう言って辞退した。逃げる際に木の肌で擦ってできたかすり傷だけ、適当な布で覆いながら。
「タイタス殿、暫しの猶予を。私が貴殿にオーラパワーをかけよう」
「すみません」
 悪魔であるインプには通常の武器では歯が立たない。タイタスが鞘から抜いた剣はノーマルソード、そのままでは傷ひとつつけられない。よって、魔法付与の必要がある。
 詠唱に入るルーカンの前にタイタスは立ち、横にハイラムも並んだ。ハイラムが構えているのはシルバースピアであり、魔法付与の必要はない。
「まずは羽を! 飛び回られると厄介です!」
「‥‥そう言うキミは何をしているのだ、エミリエル殿」
 ローガンが冷静につっこみを入れる。エミリエルは戦闘中だというのにバックパックを漁っていた。
「手持ちの武器はすべて投げてしまいましたもの」
「‥‥‥‥手伝おう」
「じゃあ、あたしも」
「いや、俺が手伝う。ローガンは前衛の補助を、サキは消火を続けるんだ。インプも火も、待っちゃくれないからな」
 時間を惜しみ、ジーンは一思いにバックパックの中身をぶちまける。保存食などと一緒に予備のシルバーナイフやシルバーダガーが転がり出てくる。
 エミリエルはそのうちの一本を選び取ると、狙いを定め、容赦なく投げつけた。
 一方、タイタスとハイラムは苦戦していた。手ごたえはあるのに、思うようなダメージが与えられていないのだ。
「クケケケッ、ヤッパリオ前ラ、神ノ下僕カヨ!?」
 嘲笑するインプ。魔法を使われたらしいと想像がつく。
「神を‥‥愚弄しないでください!」
「一度ではダメだというのなら、繰り返しこの槍を振るうまでです!」
 セーラ神に仕えるふたりだ。その信心は固く、神の敵に対して容赦はしない。金切り声を上げて飛んできたインプ達めがけ、タイタスは大きく剣を振り上げ、ハイラムは槍のリーチを有効利用して向かっていく。
 彼らの後方からは、ローガンのフレイムエリベイションを受けたルーカンが突撃してきている。
 主人が神であるかこの国の王であるかという違いはあるが、3人は騎士なのだ。怯むなど許されず、また、ありえない。

●終わりの序曲
 結論から言うと、すべてのインプを倒す事はできなかった。過半数を倒した辺りから、残ったインプはたいまつを放り出して逃走を始めていた。
 ハイラムのリカバーやジーンの応急手当を受けながら、もしかしたら援軍を連れて戻ってくるかもしれないインプを警戒していた一行だったが、いくら待っても援軍など来なかった。待っている間に森の消火はあらかた終了し、火の熱さがなくなって、冬の寒さがインプの代わりに彼らを取り囲んだ。
「森は生命の宝庫、神秘の宝物庫ですのに‥‥これでは‥‥」
 焼け跡を見てまわってきたエミリエルが悲しそうに自身の肩を抱く。生きている動植物がいないか探しに行ったのだが、かんばしくなかったのだろう。
「木々の灰は、新しい芽が芽吹く時の栄養になる。‥‥焼失した部分が早く再生するといいな」
 そう言ったローガンは、言葉どおりの意味しか考えていなかったかもしれない。それでもエミリエルには充分な慰めとなった。
 限界まで魔法を使用し続けたジーンとサキは、ハイラムの所持していたテント内で休息している。初めての事を成し遂げた子供を迎えるような、そんな暖かい眼差しで、ルーカンが彼らを見舞っていた。
「‥‥この森に、セーラ神の祝福を」
「神の御加護があらんことを」
 冷たい風が頬を撫でる中、神聖騎士達の祈りが天に捧げられた。