取り戻せ、絆の羽ペン
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:言の羽
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月31日〜08月05日
リプレイ公開日:2005年08月06日
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●オープニング
冒険者ギルドを訪れた中年男性は、なぜだかひどく落ち込んでいるように見えた。
ふらふらとおぼつかない足取りでカウンターまでやってきたかと思うと、うなだれていた頭を急に持ち上げ、真剣な表情で受付嬢に話しかけた。
「ゴブリンの巣穴に行ってもらうことは可能ですか」
「はい? ‥‥え、ええと、冒険者に依頼したいということでしょうか」
素っ頓狂な声を上げる受付嬢。だがそこは持ち前の気丈さでカバー。というか、なかったことにして話を進める。
「でしたら、詳細をお願いします。依頼書を作成しますので」
ごそごそ。
羊皮紙を取り出し、羽ペンの先をインク壷に沈め‥‥そして受付嬢は、男性から注視されていることに気がついた。
「あの、何か?」
「実は羽ペンを‥‥羽ペンを取り戻してほしいんです」
なんだ、見ていたのはあたしじゃなくて羽ペンだったのね。
残念に思いつつ、顔には出さない。そんな年上趣味の受付嬢。
さて、気を取り直して。
「依頼料を支払うよりも新しい羽ペンを買うほうが安く済みますよ。そんなに大切な品なのですか?」
「ええ、とても」
男性の話では、用事があってとある村まで出かけた帰り道、近道をしようと横道に逸れたところゴブリンの巣穴の前に出てしまい、数匹のゴブリンに囲まれかけたのだという。とっさの判断で道具袋を投げつけ、ゴブリン達が怯んだ隙になんとか逃げたのだが――。
もう大丈夫だと確信してからようやく、投げつけた道具袋の中に大切な羽ペンが入っていたことを思い出したのだ。
「あの羽ペンは、息子が初めての給金で私に贈ってくれた物なんです。‥‥私は妻を早くに亡くし、男手ひとつでひとり息子を育ててきました。やんちゃな子で、色々な悪事をしでかしてくれました。よく頭を下げて回ったものですよ。‥‥その息子も働くようになって、『親父、育ててくれてありがとう』って‥‥うぅっ」
「あぁ、泣かないでください、ね?」
男性は感極まったのか嗚咽を漏らし始め、受付嬢はそんな男性の震える肩をそっと撫でた。
●リプレイ本文
●いざ
「1、2、3‥‥4、5‥‥。5匹いますわ。依頼人からうかがったとおりの数ですね」
ナーシェ・ルベド(eb0988)はブレスセンサーで巣穴の中にいるゴブリンの数を数えると、後ろで待機している仲間達に伝えた。
「息子殿と父上殿の為にゴブリンを倒すでござる! 例の作戦を始めるでござるよ」
ひとりで力が入っているのは獅子王凱(ea1854)。羽ペンを絶対に取り返すと意気込み、さっそく作戦開始を告げようとして今回の作戦の要であるジークリンデ・ケリン(eb3225)に顔を向け、大きくうなずいた。
これが初めての依頼になるジークリンデは少々緊張気味だが、それでもゆったりとうなずきを返した。魔法の効果範囲を頭の中で確認しつつ、足音を立てないようにして巣穴へ近付いていく。幸いにも、入り口付近にゴブリンの姿はない。
「‥‥スモークフィールドでゴブリンを巣穴から燻り出す‥‥うまくいきますかしら」
腰に差したショートソードの柄を握るアミィ・アラミス(ea8955)の足元には、先程探し集めてきた薪の小山ができている。万が一スモークフィールドが意味を成さない時の為に用意したようで、彼女は見かけによらず用心深いのかもしれない。
だがその心配も無用の長物だった。魔法を発動させたジークリンデが戻ってきてから少し経つと、巣穴から白い煙が漏れてきた。
●それぞれのやり方
驚いたような様子で巣穴を飛び出してきたゴブリン達へ、馬にまたがったリースフィア・エルスリード(eb2745)が最初に突入した。
「本当にこちらの都合で悪いけれど‥‥貴方達の家を改めさせていただきます!」
自分のことは気軽にリースって呼んでください。依頼人に情報を確認しに行った折、こう挨拶していた彼女は、ロングスピアを振りかざそうとして、馬にくくりつけたままだったことを思い出す。
仕方がないので装備しっぱなしのルーンソードでゴブリンを牽制したものの、彼女は短い悲鳴を発して体勢を崩し、慌てて馬の首にしがみついた。
しかしそれだけでもゴブリン達の士気を下げるには効果があったようだ。ゴブリン達は冒険者達を目の当たりにしてもうまく状況を理解できないらしく、右往左往している。
そこへすっと影が立ちふさがる。光城白夜(eb2766)が両刃の直刀を携え――
「‥‥ちょっと不快な事思い出しちゃったから‥‥八つ当たりさせてもらうよ」
一気に踏み込んだ。
ゴブリンは白夜の動きに気づき、その動きを見切ったつもりになったようだ。唸り声を上げながら、持っていた斧で迎え撃とうとする。
「残念、ボクはこっち」
冷たい、そしてどこか昂揚した声。
その声がゴブリンの耳に届く頃には、白夜の剣がゴブリンの腹を深く切り裂いていた。
「お前達に怨みはないが、親子の思いの為に、参るでござる!!」
白夜が逃走した1匹目を追う暇もなく2匹目と対峙した頃。一方では、アミィと凱、そして彼らに守られたナーシェが残り3匹の相手をしていた。
「おーほほほほほ! このわたくしと出会ったことが不運でしたわね!」
「深く反省なさい! 大切な物を取るとこんな痛い目にあうのよ!」
女性二人はこの状況を楽しんでいるような気もしなくもないがそこは気にせず。
アミィはゴブリンの斧をかわしながら、とにかく剣を振るう。手ごわい相手と判断したのか、ゴブリンの攻撃はじきにアミィへと偏っていく。
だがすかさず、凱が一撃を繰り出す。そして体勢を崩したゴブリンの隙をついて、ナーシェがウインドスラッシュを放つ。なかなかの連携である。
ゴブリンをもっと巣穴から遠ざけなければと、凱が腹に力を込めたその時。
「どいてくださーーーーいっ!!」
リースの愛馬が飛び込んできた。背中には、振り落とされないようにするのがやっとのリースを乗せて。
既に傷だらけとなっていたゴブリン達はこれ幸いと、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。その後ろ姿を眺めながら、白夜がつまらなそうに眉をしかめた。今回の目的は退治ではない。深追いは無用なのだ。
「すみません、皆さんにばかり戦わせてしまって」
攻撃用の魔法としてファイヤーボムを習得しているジークリンデだが、巣穴に影響があってはと、使用を自粛していた。戦闘中は巣穴の脇に隠れ、行方を見守っていたのである。力の限り戦う仲間達に申し訳なさを感じたのだが、それを言葉にした途端、ナーシェがフォローを入れた。
「いいえ、ジークリンデさん。あなたのスモークフィールドのおかげで、ことをすばやく成し遂げられたのですから。もっと胸を張ってください」
各々の得意分野で貢献すればいいのだと、ナーシェは続けた。
●潜入〜羽ペンを探して
煙が晴れるまで十分に待ってから、一行はたいまつやらランタンやらで足元を照らしながら巣穴に侵入した。
ブレスセンサーによって、ゴブリンはもう近くにいないことを確認したが、もしもの為に入り口ではリースが見張っている。ただしかなり疲弊しているが。
「‥‥こちらは寝床のようですわね。藁のようなものが敷いてありますわ」
水で濡らした布で口元を覆うアミィ。やはり用心深いようだ。
「ええ、そのようです。こちらにはなさそうですね。‥‥凱さーん、そちらはいかがですかー?」
決して広くはない巣穴だが、そうしたほうが早いということで二手に分かれての捜索である。ナーシェが呼びかけると、凱は少々苦しげな声で応答する。
「物置みたいな場所を見つけたでござるー。羽ペンはおそらくこの中にあるでござろうー‥‥ただここは狭くて、拙者には大変でござるよー」
凱の身長はこの巣穴の中で活動するには高すぎるのだ。
背中を丸める彼の足元付近には、ゴブリン達がどこからかかき集めた様々な物が雑多に積み上げられている。それをジークリンデがせっせと仕分けし、なんとか依頼人の道具袋を見つけ出す。
「目印は緑の飾り紐というお話ですから、この袋で間違いありません。‥‥‥‥中は空ですね。でも羽ペンはこの近くに必ずあるはずです!」
そして再び仕分け開始。
「まだ見つかんないの?」
土壁に背を預けていた白夜がぼやく。これ以上余計なことを思い出したくないのだろう。早く依頼を済ませてしまいたい、表情がそう語っている。
「ならば白夜殿、ジークリンデ殿を手伝ってあげてくだされ。拙者はほれこの通り、体の自由がきかぬゆえ」
「‥‥‥‥‥‥」
凱の言うとおり、手伝えば早く済むはず。だが白夜は捻くれた性格ゆえに、返事をすることもなく物置部屋を出て行った。
「どうかなさいました?」
入れ代わりにやってきたアミィとナーシェが首をかしげる。
「うむむむ‥‥。あの年頃は難しいでござるよ」
凱も首をかしげようとしたが、頭を天井にぶつけそうになったのでやめた。
仕分け要員が3人に増えたおかげで、作業速度は格段に上昇した。
薄汚れた羽ペンが姿を現すまで、それほど時間はかからなかった。
●取り戻された絆
見事、頼まれた物を持ち帰った一行。ジークリンデが羽ペンを手渡すと、依頼人である中年男性は目尻にたっぷりと涙を浮かべ、喜んだ。
「これこれ、これですよ、息子からもらった羽ペンは! このインクの黒い染み! 間違いありません! あぁもう本当に、なんとお礼を言えばよいのか」
「そんなに大事なモノでしたら、もう少し大事に扱うべきだと思うのですけれど」
アミィの厳しい一言も、狂喜乱舞する依頼人の耳には届かない。
「‥‥思い出の品、いつまでも大切にしてくださいね」
「もう道具袋には入れないで、肌身離さず持っていたほうがいいと思いますよ」
微笑むリースとナーシェからの優しい忠告も、聞こえているのかどうか。
「これからも親子仲良くしてほしいでござる」
凱が加減なくばしばしと背中を叩いた時だけは、痛みに顔をしかめたが、それも些細なもの。
ようやく正面から息子の顔を見ることができる。依頼人は羽ペンを握り締め、一行に対し改めて深々と頭を下げた。
頃合をみて、白夜はひとり、静かにその場を抜け出した。
「‥‥ボクは、何もあげられなかった‥‥」
じっと両手を見つめ、それから空を見上げ――在りし日の記憶を胸の奥にしまいこんだ。