守れ、みんなのタダ茶!!

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:05月11日〜05月16日

リプレイ公開日:2006年05月19日

●オープニング

 呉服屋『鈴乃屋』主催の喉自慢大会を後援した事で、甘味所『華誉』の名と味は人々に広まり、より一層の客数を確保するようになっていた。
 ――そんな明るい現状をせせら笑うかのように降って湧いた、タダ事ではない話。

「いくら新茶だとはいえ、これは値が張りすぎじゃないのか?」
 算盤の玉の並びを見ながら、華誉の菓子職人、栄一郎は唇をへの字に曲げた。
「多少値上がりするとしても、許される範囲はこれくらいだろう」
 パチパチパチッ。指で玉をはじいた後、その算盤をつき返す。相手は父が生きていた頃からの馴染みの問屋で、主に茶の葉を卸してもらっている。長い付き合いである事から、いつも勉強してもらっているのだが‥‥今回示された価格は勉強前の値段よりも遥かに高い。
 問屋の様子を確認してみれば、恐縮しきりで冷や汗たらたら、手ぬぐいでしきりに額を拭っている。栄一郎の目をまともに見返す事が出来ず、算盤ばかりに視線を送っているのだが――
 何か隠しているな、と栄一郎は感づいた。
「吐け。吐けば楽になれるぞ」
 平手で机を叩けば、問屋の体がびくりと震える。じぃぃぃっと見つめ続ける栄一郎。
「‥‥じ、実は‥‥」
 さして時をかけずに、問屋は白状した。

 ◆

 新緑眩しい、一面の茶畑。今年もまた、お茶の季節がやってきた。
 新茶は味わいが違う事から、通常よりも高値で取引される。茶農家にとっては稼ぎ時だと言えるだろう。親類近所総出で、収穫が始められる。

 ――はずだったのだが。

「うわあああっ! 魔物が‥‥魔物がぁっ!!」
「何なんだい、あの大きな蝶はっ。しかもあの体、人の顔みたいで気持ち悪いったら!」
「あんなに多くの数が集まってるのは初めて見るぞ、一体どうしたっていうんだ!?」
 いざ収穫を始めたところ、巨大な蝶が群れをなして襲ってきたのだ。何となくだが怒っているようにも見えるほど、見境なく手当たり次第に、茶畑に入った者を攻撃してくる。噛みつかれて血を吸われた者もいる。
 当然、収穫を続ける事は出来ない。そして収穫が出来なければ、売る物もない。茶農家の一大事である。なけなしの金を集め、仕方なくギルドへ魔物の退治依頼を出す事となった。

 ◆

 要するに、高値をふっかけたのは退治が終わるまでの時間稼ぎをしたかったからのようだ。物がないという事で他の問屋に茶葉を注文されてしまうのを恐れたのだろう。
 やれやれと肩をすくめた栄一郎は、長年の付き合いなのにそんな薄情な事をするわけがないだろうと問屋に告げた。むしろそんな風に思われた事の方が悲しいと。
「いつも美味い茶葉を回してもらっているんだ。ちゃんと説明さえしてもらえれば、むげにはしない。父にも顔向けできなくなるしな」
 そう言って口をつける湯飲みの中身も、目の前の問屋から卸してもらった茶葉だ。
「‥‥この味から変えようとは思っていない。だから協力させてもらう。退治依頼の報酬、うちの店からも出そう」
 経営状況にもある程度の余裕ができたし、こういう事態ならば母親である女主人も文句は言わないだろう。茶の味が変わるのも避けたいが、最悪、現在は無料である茶が有料となってしまってはそれこそ目も当てられない。甘味所としては由々しき事態だ。
 そういえば、と栄一郎は続ける。
「確か、松之屋にも茶葉を卸していると以前に言っていなかったか?」
「‥‥‥‥‥‥ええ、はあ、まったくその通りで‥‥」
 冒険者がよく利用する酒場、松之屋――タダ茶の危機は、華誉だけの話ではなかった。

●今回の参加者

 ea1022 ラン・ウノハナ(15歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea4885 ルディ・ヴォーロ(28歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea8099 黒眞 架鏡(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0559 早河 恩(32歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3700 モサド・モキャエリーヌ(32歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb5083 シュシュラム(31歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

ミケイト・ニシーネ(ea0508)/ 李 雷龍(ea2756)/ クレア・エルスハイマー(ea2884)/ フリーズ・イムヌ(ea4005)/ 和久寺 圭介(eb1793)/ リチャード・ジョナサン(eb2237)/ ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292

●リプレイ本文

●先行の役目
 晴れではあるが適度に雲があり、日差しが強すぎず、どちらかというと少し涼しいくらいの本日の天候。収穫というなかなかに体力の必要な作業を行うにはもってこいの日なのだが。
「うーわぁ‥‥」
 セブンリーグブーツを用いてひとり先行したルディ・ヴォーロ(ea4885)の口から出てきたのはその一言だった。
 依頼人である農家の人に案内されて茶畑を遠巻きに確認してみたはいいものの、その上空にたむろしていたのは、おどろおどろしい色彩の羽と気味の悪い人面の体を持つ、巨大な蝶の群れだった。まるで人の顔がそのまま宙を飛んでいるようだ。
「チョンチョンって言うんだっけ、あれ。えーと、何匹いるのかなぁ」
 彼は知らないが、ジャパンにおいてはそのものずばり人面蝶と呼ばれる、あの魔物達。農家の人は魔物達の様子を「何かに怒っているようだ」と評していた。ルディもそう思うほど、魔物達は大きな口から鋭い牙を覗かせて、周囲の全てを威嚇していた。
 ちょっと骨が折れそうだなぁ、とルディは頬をかいた。数が多いだけではない、茶の木に被害が及ばないようにしなければならないのだ。どう考えても面倒だ。そして彼は面倒な事が嫌いだ。
 だがルディの双肩には、お茶好きの友人達からの「タダ茶を守れ」という重い重い期待がのしかかっている。彼らの期待には応えなければならないだろう。
「しょうがない。まずは情報収集、っと」
 人面蝶とはどんな魔物なのか。なぜこの時期に群れを成して襲ってきたのか。そして戦いの場となる茶畑とその周囲の地形等。少々のモンスター知識があるとはいえ、知る事で有利になれる情報はたくさんあるのだから。

●後続も到着して
「で、茶畑とその周りはこんな感じ」
 ルディが木の枝で地面に描いた地図を、遅れて到着した皆が覗き込む。農家の住む家の少し先に茶畑はあり、人一人がやっと通れるほどの間隔をあけて、何列にも茶の木が並んでいる。茶畑の向こうには未開発の森がある事から、おそらく魔物はそこから来てるんじゃないかとルディは予測した。
「この地図をしっかり頭に入れておかないとねー。後からお茶畑の中を思いっきり走るコトになるんだし、どう動けば素早く走り抜けられるかをイメージしないと♪」
 そう言ってにっこり笑ったシュシュラム(eb5083)の胸が揺れた。誰もが地面の地図を見るために前屈みになっていたのだが、彼女の場合はとっていた姿勢が更に胸を強調したので、つい視界に入れてしまったルディとモサド・モキャエリーヌ(eb3700)が慌てて目を逸らすはめになった。
 だが彼らふたりと同じく男性である黒眞架鏡(ea8099)は無反応で、いつもの口調と表情で状況を分析する。
「そうなると、罠を仕掛ける場所は民家と茶畑の間にある、この空き地が適切だな。不用意に森へ近付けば、茶畑の人面蝶と森に残っているかもしれない人面蝶とで挟み撃ちにされる危険性がある」
「茶農家さんが愛情をたっぷりと注いだお茶畑の上で戦闘なんてしたら申し訳ないですし、元も子もありませんからね‥‥」
 シュシュラムの胸がちょうど視界の外に位置するラン・ウノハナ(ea1022)も、変わらぬ様子で架鏡に同意した。一方で早河恩(eb0559)にはしっかりと男性陣の反応まで見えていて、咎めるようにじと目で彼らを眺めている。
「あー‥‥こほん。では私がこの図を元に改めて、地図を作成しましょう。それを持って、農家の方に詳しい事を伺ってきます」
 咳払いで体裁を取り繕ってモサドが提案すると、ルディが苦笑した。
「ごめん、そうしてくれる? さすがに一人で全部調査するには時間が足りなくてさ」
 聞き込みをしに行って、農家に長時間拘束されたのである。頼むからあの魔物を早く退治してくれ、でないと我が家の経済状況が非常に恐ろしい事になってしまう――と。まあ、おかげで魔物出現に関する詳細を知る事ができたのだが。
 収穫とはかなりの重労働である。なればこそ知り合い近所に手伝ってもらって、一人当たりの分担を減らす。身体的に疲れても気分まで落ち込まないようにと、皆で声を揃えて歌を歌う。今年は歌を歌い始めてしばらくしたら魔物が飛んできて攻撃し始めたのだという。
「まさか、歌がうるさかったから、歌をやめさせるために人を襲ったって事?」
「なるほど。引っ越してきてみたら隣が騒音を撒き散らしている‥‥そう考えてみると、私達人間でも怒り出しそうなものですし」
 恩が思いつき、モサドが補足した案に、全員で黙りこくる。ありえない事ではない。他にそれっぽい理由が考え付かない以上、最有力候補という事になる。
「‥‥ひょっとしたらと思ったのですけど、やはり戦わなくてはなりませんのね」
 攻撃という行為が好きではないランはため息をついた。すると落ちた彼女の肩をケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)がぽんとひと叩きする。底抜けに明るい感じのケヴァリムに、ランは首を傾げて言葉を待つ。
「俺達がやらなくて誰がやるのさ。江戸の旅のオアシス、タダでティーブレイクできちゃう貴重な場を守るためにも頑張らなきゃ♪」
「‥‥‥‥そう、そうですわよね!」
 ぐっと小さな手を力強く握り締めるランの姿に、他の者も意欲をかきたてられたのだった。

「じゃあペットは農家の人にお願いして、庭先とかに預かっておいてもらっちゃおう☆」
 大好きなロバの「ろばばばば☆」の頭を撫でながら、ケヴァリムが一同を見回して言う。彼が人面蝶の事を「毒蝶々」と呼ぶ事からもわかるとおり、彼の知識によれば人面蝶とは毒を持つ危険な魔物なのである。彼の他にも、冒険者達は馬や犬など大切なペットを連れている者ばかりであり、万が一にもそちらに毒の被害が及んではと皆一様にケヴァリムの言葉に頷いた。
「モサドさん、農家に行くのよね。私も一緒に行っていいかしら」
 各自が自分に割り当てられた作業を始めようと散り始めた時、こう切り出したエリザベート・ロッズ(eb3350)を拒否する理由はモサドにはなかった。彼女が保存食を持ってくるのを忘れたので、農家に食料を分けてもらえるように頼みに行くのだとは、思いつきもしなかった。

●大混乱
 余計な荷物を安全な場所に置いて、ケヴァリムとランは宙に羽ばたいていた。茶畑の上で羽ばたいている人面蝶の数は、ざっと十を超えている。罠にはめやすいように誘導して分散させるのが、囮である彼らの役割だ。お互いが飛び回るルートは既に頭へ叩き込んである。
 越後屋手拭いで口を覆い、両手に砂を握るケヴァリム。友人から教えてもらった毒蝶が嫌いそうな薬草は、農家の人曰く「怒らせただけだった‥‥」だそうで、使用を諦めた。
 ランも人面蝶が人面なところに多少の恐怖を感じてしまうものの、松之屋と大好きな職人兄弟と、そして何よりも全冒険者のために、湧いてくる不安を押さえ込んで頑張る所存だ。
 空き地で待機する仲間に合図を送る。直後、二人は全速力で人面蝶の塊へ突撃した。

 同時に、シュシュラムも茶畑に駆け入っていた。その辺で拾った小石を人面蝶達に投げつける。もちろんすぐさま何匹かが飛んできた。特に石が胴体に当たった人面蝶は一目散にやってくる。
「やーん、怖ーいっ」
 言動は可愛らしいが、現在のシュシュラムは全力疾走中である。このまま走って、すぐには追いつかれない程度の距離があいたなら「蝶ーさぁんこっちらっ、手ーの鳴ぁるほーうへー♪」などと挑発してみようかなと考えていたのだが――現実にはそうはいかなかった。
 逆に追いつかれそうになってしまったのだ。
「嘘ぉっ!? こんなに速いなんて聞いてないよーっ」
 何しろ相手は飛んでおり、ただでさえ移動速度が速いのに加えて、列になっている茶の木の間を通るしかないシュシュラムに比べて時間のロスも少ない。
 恩はシュシュラムを補助しようと春花の術を使おうと考えていたが、彼女の危機を目の当たりにしてその考えを捨てた。風の流れを察知して詠唱してなどとやっていたら間に合わない。携えていた弓を構えて、矢筒から矢を取った。
「狙うのは羽の部分‥‥っ!」
 しかし動いている対象を狙うには彼女の技術はまだ足りない。矢は最も怒り狂っていた人面蝶の人面部分に突き刺さってしまった。血が吹き出る事はなかったが、その人面蝶の標的が恩に変わった。

「これをくわえろ」
 飼っている鷹「陽舜」の鼻先に、架鏡は網の端を突き出した。一旦はくわえた陽舜だったが、すぐさま吐き出すように網を地面に落とした。架鏡の表情は変わらない、もう一度、くわえろと指示を出す。結果は同じ。三度四度と繰り返しても同じだった。
「‥‥‥なぜ言う事を聞かない」
「もしかしたら、遊んでるつもりなのかも」
 架鏡の独り言に答えたのはルディで、そのルディの前には彼の飼う鷹「ファーン」がきりっとした顔つきで、陽舜にくわえさせようとしている網の反対側の端をしっかりとくわえている。
 その網が猟師セットの中から出した網なのがいけないのかもしれないが、ともかく、架鏡は陽舜にファーンの姿を見せてみた。網をくわえて飼い主に撫でてもらっている姿を。――すると、ようやく陽舜も網をくわえ、そのまましっかりと離さないようになった。
「よし! 行け、ファーン!」
「陽舜、お前もだ!」
 二羽の鷹が空高く、まっすぐに飛んでいく。投網を大きく広げながら。

 必死で逃げるランの後ろを、何匹もの人面蝶が追いかける。彼女の場合は人面蝶よりも速い。一心不乱にただ逃げ飛ぶ事だけに集中する彼女には魔法の詠唱をする間もない。とにかく仲間の待つ場所へ。
 突然、少し先に人面蝶が現れる。回り込まれたのだ。止まれない、止まれば追いつかれる。避けようにも避けられる技術と自信が彼女にはない。
「上昇して!」
 横からかけられた声に反応して上を目指す。次の瞬間に下方で、砂の散らばる音がした。
 ランはそのまま、斜めに空き地へつっこんでいく。その地点で待っているのは、びくびくしながらなぜか保存食を用意しているモサドと、不敵な笑みを浮かべて立つエリザベートだ。減速する事なく、まるで矢のように飛んできたランを、モサドが受け止め――ようとして衝撃を受け止めきれず、背中をしたたかに地面へ打ちつけた。
 なおも追いかけてくる人面蝶の群れ。タイミングをはかって開始した詠唱が完成し、エリザベートの体が淡い光に包まれる。
「くらいなさいっ、ライトニングサンダーボルト!!」
 突き出した手から稲妻が一直線に放たれる。それは一丸となって向かってきていた人面蝶達を容赦なく襲い、羽を焼いた。
 結構な傷を負わされた彼らは、逆にその恨みを糧とし、牙をむいてエリザベートの柔肌を狙う。
「てぇいっ!」
 恩の放った矢は人面蝶を貫いた。既に傷つき飛行速度の落ちている人面蝶を射抜く事は容易い。――しかし数が多く、二本目の矢を弓の弦に添えた時には鋭い牙が煌めいていて‥‥
「く、来るなー!」
 慌ててモサドが投げた保存食の入った袋に、最もエリザベートに近付いていた人面蝶は勢いをそがれた。
「おイタする子はお仕置きだよっ♪ ‥‥そう、オシオキしてあげるからね。たっぷりと‥‥」
 この好機に射ちこんできたシュシュラムは明るく宣言した後に小声で何やら付け加えたが、それは本当に小さな声だったので誰の耳にも届かなかった。彼女の綺麗な二の腕には、先ほど、結局追いつかれた彼女は人面蝶に囲まれ、避けきれずに噛まれた痕が、くっきりとついていた。

「うわわわわ、後はよろしくううぅぅぅっ!!」
 ランのルートを遮った人面蝶に砂をかけてからというもの、ケヴァリムは時折急旋回を交えて差を広げながら、ファーンと陽舜の二羽とすれ違う。
 頷き合った飼い主達は、同時に命令を叫んだ。先に応じたのはファーンで、次に陽舜がファーンの動きを真似する。開かれた嘴から投網が滑り落ち、人面蝶達の上に覆いかぶさる。網の重みで地に落ちたのがほとんどだったが、数匹は難を逃れ、二羽を追いかけようとする。
 しかし飼い主達はそれを許さない。ルディの放った矢で進路を遮られた人面蝶は、身をすくめている間に、架鏡の振るう忍者刀で深い傷を負わされた。

●とりあえず、守れた‥‥かな?
 罠にかかった人面蝶は投網に捕まったものだけではなく、恩の作った蜘蛛の巣もどきに絡まったものもいた。地面に突き立てた二本の木の枝の間に張った網――そこに何とか回り込んだシュシュラムと恩はふたりで矢を射った。矢を逃れたものはふたりに向かって飛んできて、網に絡まる事になったのだった。
 網から逃れようともがく人面蝶を絶命させ、落ち葉を掃除した後のように山を作る。戦闘の結果千切れ飛んでいた毒々しい羽もケヴァリムが丁寧に拾い集めて、山に加える。
 人面蝶に突き刺さった矢を見て、恩は回収しようとその矢に手を伸ばした。しかしふとモサドが思った事を述べた。
「毒が付着してしまっているのでは?」
 絶対に付着しているとは言い切れないが、逆もまたしかり。扱い方を知らない毒を持つのは危険すぎると架鏡から言われて、恩も渋々諦めた。

 今日はゆっくり休んで、明日は森の中にあるだろう巣の撤去だ。まだ何匹か残っているかもしれないが、群れを退治した事で冒険者達は勢いづいている。きっと難なくこなしてくれる事だろう。
 人面蝶の死骸でできた山に油をかけ、火打石を鳴らす。ほどなく火はついた。
「ふぁいやーっ☆」
 ――仕事を終わらせたら、ゆっくりとお茶を飲もう。誰もがそう思っているように見えた。