【看板息子】ところてんの危機
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■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:8人
冒険期間:07月20日〜07月25日
リプレイ公開日:2006年08月01日
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●オープニング
「‥‥‥‥‥‥暑い‥‥」
ここは甘味処『華誉』。準備中の札がかけられたその中で、団扇で自分をばったばったと扇ぎながら、職人兄弟の片割れ勇二郎が最近の暑さにへばっていた。
床には井戸水を張った桶が置いてあり、彼はその中に両足を突っ込んでいるのだが、もはやぬるいを通り越しそうな勢いの元「水」では、何の意味もない。かといってひんやりした水と入れ替えるためには、店の外へ出なければならない。すなわち、さんさんと輝く太陽の下に出るという事だ。
「‥‥やってらんねぇぇぇ‥‥」
肌が日焼けするのが嫌なのではない。むしろ上等だ。問題は別にある。暑い事。
「またところてんの時期がやってきたわけだ」
調理場から暖簾をくぐって、もうひとりの職人、栄一郎が現れた。こちらは数秒前まで作業していただけあって、着物にたすきがけがされている。だらけた勇二郎とは対照的に、ぴしりと引き締まった風がある。ただ、火を使っていたのだろう、全身汗だくにはなっている。
そんなわけで思い出されたのが、夏の風物詩のひとつである、ところてんだ。以前、ところてん百皿などというとんでもない量を作った事のある彼らにとっては、ある意味、とても馴染み深く、関係も深いものである。
「ところてんねぇ‥‥いいかもなぁ、見た目も食感も涼しげで。で、材料は?」
「それが、届かないんだ」
ところてんの材料となるのは、海草の一種、天草である。華誉では、亡き父の頃からの馴染みである問屋に、菓子の材料の仕入れをほとんど一任しているのだが。
その問屋曰く、産地から天草が届かないらしいのだ。
「発送はされてるのか?」
「手紙を送って確認したところ、間違いなく発送はされているそうだ。荷運びを生業とする者に、天草を積んだ荷車を江戸まで運んでくれるように依頼したようなんだが‥‥」
「出発後に消息不明、か。身元の確かなとこに頼んでるんなら、街道通ってる途中に何かあったとしか考えられねえぜ」
「やはりお前もそう思うか」
兄弟は顔を見合わせる。
ところてんはこれからの時期、売り上げの大半を担う。それを作れないなど、あってはならない事態だ。ここはやはり冒険者ギルドに捜索を頼むべきだろうと、二人の見解が一致する。
「た、たっ、たたたたた‥‥‥‥大変だあああっ!!」
さすがに死活問題とあっては動かないわけにもいかないと、勇二郎が重い腰を気だるげに上げた時だった。慌ても慌て、大慌てで店内に飛び込んできたのは、前述の馴染み問屋である。太目の腹をたぷたぷ揺らしながら、転びそうな勢いで栄一郎に一通の手紙を差し出した。
「どうしたんだ一体。何だこの手紙は」
「にっ‥‥荷車を奪った、奴らから‥‥っ」
内容を確認した後、この店に全力疾走してきたのだろう。手紙を渡したという安心感もあるだろうか。問屋はまともに喋れるような状態ではなくなってしまった。ぜひゅーぜひゅーと喉を鳴らし、必死に空気を補給している。
そちらの介抱を弟に任せ、栄一郎が手紙を開いたのだが――
「要するに、寒天の希少価値に目をつけた馬鹿者の仕業だという事か」
すぐさま、手紙は握りつぶされた。
「店とその人をしばらく任せるぞ、勇二郎」
「了解。とことん思い知らせてくれるように頼んどいてくれ」
静かに怒れる栄一郎。その迫力はまさに鬼神の如し‥‥というのは、いささか言い過ぎだろうか。
◆
握りつぶされた手紙の内容を要約すると、以下のようになる。
『寒天の材料がところてんだという事は知っている。ところてんの材料がこの天草であるという事も。この天草で俺達のために寒天を作れ。高値で売りさばいてやるからよぉ』
寒天とは、この前の冬に栄一郎と勇二郎の兄弟が発明した、新たな食べ物である。その製法は兄弟と、兄弟を手伝った数人の者達しか知らない。製法の関係から一度に作れる量には制限があったが、完成した寒天は、次回作成時に向けての研究材料としてとってあるごく少量をのぞき、ほぼ全てがところてん好きの当主を持つ大店に売られていった。
現在の状況として寒天は、限られた店にしか置いておらず、限られた者しか味わうことのできないものになっている。高値の嗜好品‥‥金に目のくらんだ者達に狙いをつけられたのも、ある意味自然な流れといえよう。
「あれを夏に作るのは無理があるというのに。結果しか見ず、そこに至るまでの過程を顧みないなど言語道断――頼もうっ!!」
まっすぐに冒険者ギルドへと向かった栄一郎は、勢いそのまま、受付に向かった。
●リプレイ本文
●
「走りやすそうな道じゃないか。なあ、コタロウ。――あっちはどうだかわからんが」
愛馬の背に乗り手綱を持ちながら、倉梯葵(ea7125)は周囲を見渡した。地形としてはなだらかな丘陵といったところか。目に見える範囲では分岐点のない一本道だ。人通りは多くないもののよく使われる道のようで、足元の土はしっかりと踏み固められている。
ただし、道の両側は竹林である。まばらにそびえる竹と竹の奥、見えるのは古臭くも中規模の屋敷。あの屋敷が、盗人から地図にて指定された場所だ。
「荷車を隠す場所は‥‥ない事はないだろうが、完全に隠すのは難しそうだな。せいぜいが時間稼ぎか。それも短時間の」
竹の間を荷車で通ろうとすれば、速度を落とさざるを得ない。かといって開けた所では囲まれる危険性が高い。相手の人数がわからない以上、荷車を守りながら対処できるかどうかと不安になる。
葵は手綱を引き、もう一度周囲の確認をする事にした。
竹林に身を潜め、屋敷を窺うのは朋月雪兎(ea1959)とラーフ・レムレス(eb0371)。地形による高度さを利用して、まずは屋敷の外側の様子を確認する。
「なんじゃ、見張りがおらんぞ」
「そんなまさか‥‥ほんとだ」
出発前の相談で誰かが何かを言っていたが、もしかしたら本当にその通りなのかもしれない。盗みを犯した上に被害者を呼びつけておいて、まったく何の対処もしていないように見受けられる。
ここに着くまでにすれ違った人等から聞いた話によると、あの屋敷はどこかの金持ちの別宅だったらしい。それが何らかの理由で捨て置かれ、じきに人相の悪い者達が住み着いてしまったようだ。庭では草花が自由奔放に生い茂り、竹林のせいもあって全体的に薄暗い雰囲気を漂わせている。
「屋敷の中は外ほど荒れてなさそうだね」
「依頼人によれば、取り返す天草は荷車一台分のようじゃが‥‥さて」
いかに盗んできた物とはいえ、それで寒天を作って売りさばこうというのだから、雨風に曝されるような所には置いておかないだろう。また、呼び出した者がやってくるまで荷を解くという面倒な事を後回しにしているとすれば――
「やはり裏口かのう。朋月さん、行ってみるのじゃ」
上半身を低く保ちながらラーフが促し、雪兎が頷いて後を追う。二人とも隠密行動を得意とする者なのだから二手に分かれれば偵察も迅速に済みそうなものなのだが、実はそうもいかない理由があった。
雪兎は方向音痴なのだ。
「忍者がその調子では大変じゃろうのう」
「いざという時はこの子達がいるから大丈夫♪」
魔法の道具を用いてこちらへ先行した時も、何度ラーフが焦った事か。余計な世話かと思いながら、ペットの頭を撫でる彼女の行く末をそれでも心配してしまうのは仕方がなかろう。
●
他の者が到着した頃には、屋敷とは道を挟んで反対側の竹林に、陣地と呼べるものが出来上がっていた。一同顔をつき合わせ、天草についての認識を確認する。
「確かに黄色っぽい海草だったよ」
裏口の軒先に放置されていた荷車を発見した雪兎が回収目標について述べる。
「じゃあわかった事を地図に書き込んで‥‥しまった、筆を忘れてきた」
「詰めが甘いな、倉梯」
後から到着した者達はまだ屋敷周辺の様子を見ていない。そんな彼らでも地図に書き込めば、先行隊が得た情報を理解しやすくなる。と、葵は考えた。考えたまではよかったのだが、袂を探っても筆記用具が出てこない。そんな彼の隣を陣取っていた高遠紗弓(ea5194)からは文句が飛んでくる。
「じゃあお前は持ってるのか」
「ない。そもそも使う予定もなかったしな」
「あのなぁ、持ってるならともかく、持ってないのに俺を責めるってのは――」
「これを使ってください」
口喧嘩という名のじゃれあいが始まりそうなのを感じ取り、葵に素早くペンを差し出したのはモサド・モキャエリーヌ(eb3700)だった。それからこれも、と続けて場に広げられたのは地図の複製だ。人数分ある。屋敷潜入時にはまた何組かに分かれるのだから、これは役に立ちそうだ。特に雪兎には。
ほんのわずか頬を朱に染めながら、葵はペンを受け取った。慣れない西洋式の物ながら、がりがりと地図に書き込んでいく。
「ところてんとか寒天って、おいらはまだ見た事がないけど、美味しいんだよね? 駄目だよ、幸せな気分になるお菓子を奪うなんて」
う〜‥‥とジーン・アウラ(ea7743)が唸ると、「そうだな」と桐沢相馬(ea5171)が適当に相槌を打つ。ジーンの言葉は純粋に菓子が好きだからこそ出てきたものだったのだが、相馬にしてみればせっかく建て直しに尽力した『華誉』が――いや、華誉の職人、勇二郎が? ――より高みに手を伸ばそうとするのを邪魔されているのが癪に障るのだ。
「モサドには道中に話したんだが、寒天を作るには、ところてんを一度凍らせなくてはならない。今の時期に作る事はまず無理だ。実際にあの兄弟が作ったのはまだ寒い時期だったし、それも魔法を使用したからこそ短期間で大量の寒天ができたんだからな」
それは職人兄弟の手伝いをして、寒天作りに携わった事のある数少ない者のひとり、相馬だからこそ知っている事情である。
「という事は‥‥泥棒さん達は、寒天の材料は知っていても作り方は知らないんだね?」
だったらあたし達でもごまかしようがあるよね、とチェルシー・ファリュウ(eb1155)が気合を入れる。明日には屋敷に乗り込むのだが、彼女は職人兄弟の代わりとしてやってきた料理人の役に扮するつもりなのだ。
「しかし、彼らはやる事なす事、全てが中途半端じゃのう」
ドワーフの特徴である豊かな髭を撫で付けながら、ラーフが首を傾げた。他の者も同意する。
盗みを働いておきながら自分達の居場所を知らせる。当然厳重に警戒しているかと思いきや見張りもいない。寒天の材料は知っていても、夏に作るのは非常に難しいという肝心の事を含め作り方そのものを知らない。
何か考えがあっての事なのか、それとも‥‥
「とにかく油断は禁物だよね。おいらの得た情報では、おいら達と同じか少し多いくらいの人数だっていうし」
つまり盗人一味は十人弱。相手の力量にもよるが、うまく立ち回れれば無事に依頼を遂行できよう。
●
「頼もう!」
翌日、日が高くなってから、相馬は開けっ放しで実に風通しのよい状態になっていた屋敷の戸を叩いた。奥から出てきたのは、まさしくごろつきという風貌の、着物を着崩した男だった。
「何だお前ら」
「手紙を受け取った者です。そちらの責任者の方に会わせていただきますか?」
男は、にっこり笑うモサドとその後ろにいる紗弓、チェルシーを見て、首を傾げた。手紙を送った相手は男兄弟二人だと聞いているが、と。だがこの質問は想定の範囲内であり、答もしっかりと用意してある。
「どうしても都合がつかなくて‥‥だから私達が派遣されてきたのですが、私達では駄目でしょうか」
普段とは異なりすぎる紗弓の口調。下手に出ていると思わせるための演技だ。葵が聞いていたらどんな感想を述べてくれただろう。
続けてチェルシーも笑顔で頭を下げたので、男の鼻の下が伸びた。瞬間、紗弓とチェルシーの間で視線が交わされる。
「ご兄弟には及ばないかもしれませんが、精一杯頑張らせていただきます」
「まずはあたし達の力量を知ってもらうためにも、お昼ご飯を作らせてもらってもいいかな?」
意思疎通完了。彼女達は男の腕を片方ずつがっちりと捕らえると、その勢いで台所までの案内を要求した。男はでれでれして、自分の両脇を固める女性達しか見えていない。
相馬が自分の立ち位置をそれとなくずらす。できた通り道を忍び、ジーンは存在を知られる事なく潜入を完了する。その後、物音を聞きつけ他の男達がやってくる頃には、屋敷の外側の配置も完了していた。
「うまいぞー!!」
「こんなまともなメシ食ったのなんて、いつ以来だ!?」
座敷に並んで、九人の男達が胃に食事を流し込んでいた。その必死具合は涙ぐむ者さえ出る始末で、彼らを天草の荷車から引き離す方便として食事の用意をしたチェルシーでさえ、少々かわいそうに思えてくるほどだった。材料は台所にあった物を使っただけ。という事は男達でも作ろうと思えば作れたはず。
いや、実際に誰かが作っていたのだろう。ただし非常に拙い技術しか持たない者が。
「お代わり!」
「俺も!」
「ちょ、ちょっと待って、順番だよっ」
次々と差し出される茶碗に、チェルシーがおさんどんと化す。だが彼らがこれだけ必死かつ賑やかになっているおかげで、今頃荷車は昨日のうちに決めておいた場所へ移動されているだろう。
「で、よく洗った天草を煮るわけです」
「それはわかってんだよ。けどオレがやるとなんかうまくいかねぇっつーか、いい味にならねぇんだよ」
「沸騰したら酢を入れるんですが、その分量の問題ではないでしょうか。‥‥もっと鍋の中をよく見てもらえますか」
調理場では、即席ところてん作成教室が開かれていた。教師はモサド、生徒は職人兄弟に手紙を送りつけた主犯の若い男である。やる気満々にたすきがけをしたその姿からは、彼が盗人だなどとは到底思えない。あまりにも熱心に質問をしてくるので、答えるモサドとしても、自分に料理の心得がないといつばれるか気が気ではない。相馬から話を聞いておいて、本当によかったと心中で胸を撫で下ろす。
その時、裏口を音もなく影が通り過ぎた。合図だ。
「そろそろ外へ行きましょうか」
作業するふりをしつつ合図を待っていた紗弓が、モサドに呼びかけた。
「寒天を作るには広い所じゃなきゃ駄目なんですよねえ。狭くてじめじめした所だと、作れなくなるんです。虫が湧いてしまうので‥‥、ね」
不審に感じて外に出る必要性を問うてきた主犯に、紗弓はこう答えた。方便である事は言うまでもない。そういうものなのかと、主犯は大人しく納得する。
では、と頭を下げて裏口から屋敷の外へ出ていく紗弓とモサド。その後を山盛りの茶碗を持ったチェルシーが「あたしも洗い物しなきゃ」と追いかけていく。実に速やかに、台所には主犯しかいなくなった。
「おい、お代わりはまだか――って、大将。あの姉ちゃんはどこ行ったんすか」
「‥‥あ?」
箸を持ったままの男が座敷からやってきて、主犯しかいない台所を見て、疑問符を浮かべる。座敷での食事はまだ終わっていなかったのだ。
「なのにさっきの奴が洗い物だって嘘ついて出てったって事は――おい、荷車見てこい!!」
一気に表情を険しくした主犯が命令を飛ばす。当然のように、荷車は軒下から消えてなくなっていた。
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うわああああああぁぁ‥‥
後方から悲鳴が聞こえてくる。誰かが罠にはまったのだ。
「やったね、かすていらちゃん♪」
笑顔のこぼれる雪兎に、彼女の連れている忍犬も同意するようにワン、と吠えた。しかし玄関先に仕掛けてきた罠が作動したという事は、嘘がばれたという事だ。
走って逃げているのは雪兎の他に、モサドと紗弓、少し遅れてジーンとチェルシー、殿に相馬。葵とラーフは、昨日決めた場所へ天草を荷車ごと隠しに行っている。もうひとつの目的である、「盗人をとっちめる事」達成の妨げにならないように。
「八人! 全員、刀を持ってるよ!」
ジーンが大きな声を出す。すかさず相馬は土ぼこりを立てて振り向き立ち止まる。
「背後から来られるよりも、準備して迎え撃ったほうがいい」
相馬が鞘から抜いた小太刀が、竹の隙間を縫って届く陽光を受けて鈍く輝く。他の者も頷き、武器を取り出して戦闘体制を整えた。
「止まれぇっ!」
その合間にも盗人達はどんどん近付いてきていた。ジーンの放った矢が、先頭を走っていた主犯の足元に突き刺さる。
「まったくいい度胸だな、お前ら‥‥取り返しにくるとは思っても見なかったぜ」
先頭が止まれば後続も止まる。次々と抜かれる刀。
「でもあなた達は油断しすぎだったと――」
「ええい、黙れ! 行くぞ、てめぇらっ」
チェルシーの言葉を遮って、主犯から戦闘開始の檄が飛ぶ。
同時に集団で切りかかってくる盗人達。ジーンの前に相馬と雪兎とかすていらちゃんが、モサドの前にチェルシーと紗弓が立つ。女性と優しげな男という組み合わせに楽勝だと判断したのか、敵の人数が集中したのは後者のほうだった。得物もチェルシーが木剣で紗弓が小柄、モサドに至っては素手だ。何かの拍子に攻撃が当たってもさほどの威力はない‥‥と、盗人達はやはり油断していたのだ。
チェルシーの木剣は魔法の品であり、武器の重さを乗せた渾身の一撃が当たれば、軽装の盗人達は打撲では済まないだろう。紗弓の小柄には彼女自身の手で魔法が付与され、今は何にも燃え移る事のない炎をまとっている。炎は盗人達をたじろがせた。
それでも大将の命令には逆らえないらしい。刀を振りかぶり突撃してくる。まず一人の攻撃をチェルシーが避け、次の一人をモサドのコアギュレイトが無力化し、三人目と四人目の刀を紗弓が何とか避けた。しかし体勢を崩した紗弓に、五人目がしたり顔で狙いを定める。避けきれないと判断した紗弓は小柄で受けようとするが、どう考えても不利だ。
痛みに備えて歯をくいしばるも、その必要はなかった事に、彼女は気づかされる。
「よかったな、俺が間に合って。でなきゃ高くついてたぞ」
紗弓と盗人との間に割り込んだ、葵の刀。盗人に向けられた言葉はやけに冷ややかで、五人の盗人達を一旦退かせるには充分だった。
「後は頼んだ」
「ふむ、任されたのじゃ」
紗弓に礼を言わせる間もなく、葵は相馬達のほうへ向かう。場所を譲られたラーフは、刀を握る手に力を入れなおした。
「ああっ、また避けられたー!?」
雪兎の攻撃はまったくと言ってよいほどに当たっていなかった。が、代わりにかすていらちゃんが大活躍していた。素早い動きと高度な戦闘技術で見事に主を守っている。
主犯と争っているのは相馬だった。時々ジーンから援護射撃がくるが、決定打を与えられない。武装解除さえ要求してこなかった間抜けな主犯も剣の腕はそこそこあるようで、手下と共に二人がかりで来られてはなかなか踏み込めないのだ。
けれど葵が到着して預かっていた刀を相馬に返した時から、戦況は急激に変化していった。
今が勝機と攻勢に転じるかすていらちゃん。葵の峰打ちで手下が沈み、主犯は相馬の二本の刀による攻撃で自らの刀を取り落とし、それをジーンに押さえられてどうしようもなくなった。焦った主犯が退却しようとすれば、既に自分達の分を片付け終えたチェルシー達が退路を断つ。
囲まれては成すすべもなく、主犯はうなだれ、刀を手から離して降参した。