【看板息子】店に人が増えたけど

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2006年09月23日

●オープニング

 江戸の街、その一角にある甘味処『華誉』。若いふたりの兄弟が母親と共に切り盛りしている店である。
 従業員は三人しかいなかった華誉だが、最近、急に賑やかになった。
「へいっ、ぜんざい一丁!」
「お勘定っすね、今行きますからっ」
「団子二皿注文入りやしたー!!」
 その理由は、決して広くはない店内を所狭しと動き回る男達だ。その人数たるや、三名。むさくるしい印象もなくはないが、皆が皆一生懸命なので、どちらかというと爽やかな印象のほうが強い。
 厨房では店の中核をなす職人兄弟、兄の栄一郎と弟の勇二郎が延々と作業を続けているのだが、こちらにもまた男が増えていた。鍋をかき混ぜる勇二郎の足元で、かまどの火に息を吹き入れる火男の役目をこなしている男が一人。疲れを感じたのか、息を吹き入れるのを一旦やめて、額の汗を拭っている。
 と、その男の目の前にある勇二郎の足が踏み下ろされる。
「さぼってんなよ! 火力が足りなくなるだろうがっ!!」
 かりかりしているのは暑いからか。いや、それだけではない。勇二郎は男達が店にいる事それ自体が不満だった。
「大声を出すな勇二郎。客に聞こえる」
「兄貴はなんで平気な顔していられんだよ。こいつらは盗――」
 バコンッッ!!
 兄への反論のために調理の手を止めてしまった勇二郎は、自らに迫る危険にまったく気がついていなかった。叩かれた後頭部から白い煙が立ち上がる様を想像できてしまうほどの強烈な音を立てて勇二郎を襲ったのは、他の何者でもない、この店の女主人こと彼ら兄弟の母親だった。ちなみに凶器は木製の盆。分厚く丈夫にできている。
「かっ‥‥母ちゃん‥‥今のはさすがにきつい‥‥」
「うるさいよ、この馬鹿息子が。文句言う暇があったらさっさと手を動かしな、手を!」
 患部を抱えて涙ぐむ次男を叱り飛ばすその姿はまさに鬼神の如し。そんな母子の様子を、ぽかんと大口上げて見上げていた男だったが、次の瞬間には彼も怒られていた。
「何やってんだい、火が消えちまうだろ!」
「っ、は、はいぃっ!!」
 勢いに飲まれて、男も女主人に従う。なんで俺が‥‥とぼやくも、耳ざとく聞きつけた女主人からまた怒られる。結果、勇二郎と男は必死になって共同作業をこなし続けた。
「大将ぉ〜‥‥」
「おいたわしや‥‥」
 裏口から調理場をのぞく洗い物担当二名。鼻をすする彼らに、栄一郎はやれやれと肩の力を抜いた。

 ◆

 華誉で働く事になったのは、職人兄弟と同じ年頃の男ばかり、総勢六名である。何ゆえ働いているのかというと、彼らのうちの一人‥‥他の者が大将と呼ぶ男が、それを望んだからである。
 だが最初、華誉の面々はすっぱりとはねのけた。男達は先日、ところてんの材料である天草を盗み、あまつさえ兄弟を呼びつけて寒天を作成させようとした、ごろつきの集団だった。道理的にも心情的にも、許されるはずがない。お上につき出されないだけ感謝してほしいくらいだというのが、勇二郎の言い分だった。
 それでも大将――名を康太という――は、諦めなかった。土下座をしてまで、自分に職人としての技術を授けてほしいと願い出た。自分の作った料理や菓子を美味しいと言ってもらうのが子供の頃からの夢だったのだ、と。
 同じく子供の頃から菓子職人を志してきた兄弟にとって、康太の夢は容易く理解できるものだった。ゆえにきっぱりと断る事ができず、なし崩し的に、康太と康太についてきた五名の子分は、華誉で働き始めるようになったのである。‥‥といっても、給金などないに等しいが。

 ◆

「で、今回はどんな内容ですか?」
 所変わって冒険者ギルド。受付嬢が筆をかまえて待っている。対面している栄一郎は、静かに息を吐き出した。
「うちの居候と弟の根性を叩きなおしてくれ」
「‥‥‥‥‥‥根性を‥‥?」
「ああ、叩きなおしてくれ。あの二人が喧嘩をしなくなれば何をしようとかまわん」
 まったく、このままではどんどん店に支障が出てくるではないか。
 ぶつぶつ呟く栄一郎。普段はつとめて冷静な彼を頭痛が襲うくらい、勇二郎と康太はどうにも折り合いが悪いようだ。

●今回の参加者

 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea1022 ラン・ウノハナ(15歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 ea7125 倉梯 葵(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3700 モサド・モキャエリーヌ(32歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb5099 チュプペケレ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

氷川 玲(ea2988)/ 五百蔵 蛍夜(ea3799)/ アクテ・シュラウヴェル(ea4137)/ 高遠 紗弓(ea5194)/ ラーフ・レムレス(eb0371)/ アドムン・ジェトルメン(eb2673)/ ベルド・クルベリナズ(eb5895

●リプレイ本文


 その日、甘味処『華誉』の営業が始まるよりも前。栄一郎とモサド・モキャエリーヌ(eb3700)は客席の隅で向かい合って茶をすすっていた。
「何となくですけど、起こる問題の原因の半分以上は、勇次郎さん絡みの気がするのですが」
「‥‥そう思うか」
 ずずずずず。
 湯気の絶えない湯飲みを同時に唇へ添え、離す。
「‥‥多分、気のせいでしょう、はい」
「ああ‥‥気のせいという事にしておいてくれ」
 彼らは耳に入ってくる音を、努めて聞こえないように、聞かないようにしていた。これ以上頭が痛くなるのを避けるために。
 音は、調理場から聞こえてくる。机が拳で叩かれる音。足が踏み鳴らされる音。火吹き用の竹筒がぶんぶん鳴り――振り回されているのだろう――、どうでもいい内容について言い争う声と、それをおさめようとする声と。
「すごいねえ、想像以上の喧嘩っぷり」
 激戦地から一名が帰還した。疲れた表情のシスティーナ・ヴィント(ea7435)である。
「それにしても、びっくりだよ。天草を盗んだ犯人さん達がこの店で働いてるなんて」
 栄一郎が淹れてくれた茶に息を吹きかけながら彼女は言う。誰だって驚くだろう。お上に突き出さない事だけでも不思議なのに。
 地面に頭をこすり付けて頼まれて断れるか、というのが栄一郎とお上の意見だ。
「でも勇二郎さんは納得してないんだよね」
 だから絶賛喧嘩中なのだ。ぱりーん、と何かが景気よく割れて、栄一郎の額に青筋が浮かぶ。いつ栄一郎の堪忍袋の緒に限界が来てもおかしくない‥‥いや、限界が来たからこそ、ギルドに依頼したのだ。
 今はご近所の井戸端会議に出かけている女主人さえいれば、とりあえず場はおさまるが、それでは根本的な解決にならない。
「提案があるんですけど」
 元・茶碗だった欠片の小山を布巾に乗せて、リノルディア・カインハーツ(eb0862)が調理場から出てきた。
 彼女の提案を簡単にまとめると以下の三つ。まずは勇二郎と康太が顔を合わせないようにして、双方の話を聞く事。そして勇二郎が納得するような菓子を康太に作らせる事。最後に栄一郎のいない状況で、勇二郎と康太の二人で忙しさを乗り越えされる事。
 菓子を作らせる事についてはモサドも賛成の意を示したのだが、三つ目の案については栄一郎が首を横に振った。
「駄目だな。あの二人では店が回らない」
「もちろん私達も手伝います」
「いや、もっと根本的な問題だ。康太の技術は拙すぎて、まだまだ客に出せる菓子は作れない。かといって勇二郎だけでは、どうしても客を待たせすぎてしまうだろう。今の華誉は、俺と勇二郎がふたりで菓子を作ってようやく回っている。注文の量と俺達の調理の速度からして、それが現状での精一杯なんだ」
 システィーナも頼んだのだが、駄目だった。二人の不仲をどうにかするためなら何をしようともかまわないと言ったのに、後から条件を追加するようですまないが‥‥と、栄一郎は頭を下げた。店や客に不利益が出るようでは本末転倒、仕方あるまいと残り二つの案が実行に移される事に決定した。


「何だこれは」
 客を装って店にやってきた倉梯葵(ea7125)は、その店の前に人だかりができているのを見て、思わず身構えてしまった。黒山の中央に、元気に動く赤いものが見える。カファール・ナイトレイド(ea0509)だ。
「エリりんもリュドりんもよく出来ましたー♪ 次はね、この子達が二本足で歩くのーっ」
 カファールも野次馬も黄色い声で盛り上がりまくりだが、葵だけはどことなく冷めた目で遠巻きに眺めていた。二匹の犬が勢いつけて後ろ足で立ち、その勢いを利用してよたよたと多少移動してから四足歩行に戻る様子を。犬が二本足で歩いているようには到底見えないのだが、野次馬にとってはそんな事はどうでもいいらしい。可愛いければいいのだ。
 複雑な気持ちになりながら、葵は華誉の暖簾をくぐる。
「強火だって言ってんだろ! 全然勢い足りねぇんだよっ!」
「さっきはこれくらいだっつってたじゃねぇか!」
「さっきのは中火だ! 中火と強火一緒にすんじゃねえ!!」
 店の前が前なら、中も中。調理場から聞こえてくる怒声が、客の視線を独り占めしていた。いや正確には二人占めだろうか。
 葵を空いている席に案内しようとした女主人が、壮絶な笑みを浮かべ、「ちょっと失礼しますね」と調理場へ。すかさずバコン! バコン! と痛そうな音が聞こえてきたかと思うと怒声が止み、入っていった時と同じ表情のままで女主人は戻ってきた。
「さあお席にどうぞ?」
「あ、ああ‥‥」
 女って、怖ぇよなぁ――改めてそんな風に思う葵だった。

 さて、彼が案内されたのはシルフィリア・ユピオーク(eb3525)と幼い少女が並んでいる席だった。混んでいるので相席となったのだ。
 茶を運んできた男にとりあえず団子を頼むと、葵は少女が震えているのに気がついた。小さな手はシルフィリアの服の袖をぎゅっと握っている。
「さっき、奥の方で喧嘩してただろう? 怖くなっちまったみたいでねぇ‥‥。あの二人の仲裁をしてほしかったんだけど、これじゃあ無理そうだね」
 その少女はとても人見知りする子で、葵に見られているとわかると今度はシルフィリアの背中に隠れてしまった。碗入りの小粒の団子はたくさん残っていて、もう食べないのかと聞いてもますます強くシルフィリアに抱きつくだけ。
「じゃあ、今日はもうおうちに帰ろうか」
 よいしょ、とシルフィリアは少女を抱き上げる。
「ねえねえ、これ、いらないならもらってもいい?」
 そこへチュプペケレ(eb5099)が後ろの席から尋ねてきた。指が団子の残る碗を示している。
「ああ、そうだね。もらってくれるかい? 折角あの兄弟が作ってくれたのに、残すのはもったいないからねぇ」
「わーい♪ じゃあ、いっただっきまーす! もぐもぐもぐ‥‥あ、こっちもおいしい♪」
 幸せそうに口を動かすチュプペケレ。勇二郎も康太も、この笑顔が見たくて菓子を作ろうとしているだけなのに、なぜ仲違いするのだろう。火加減なんて経験の賜物以外の何物でもないのに、それで喧嘩などしても互いに先が望めないと、なぜわかろうとしないのだろう。


 華誉はピークを過ぎてから、遅い昼食の時間となる。その間、短いながらも店は閉まる。本当ならば交代で食事を取るようにして店を開け続けておいたほうがよいのだろうが、栄一郎と勇二郎のどちらが欠けても店が満足に回らないのだからこうするしかない。繁盛するのは嬉しい事だが、他が色々と追いついていないのだ。
「栄一郎さまをあんまり困らせちゃいけませんわ」
 昼食ついでに、足りなくなりそうな材料を買いに出かけたラン・ウノハナ(ea1022)は、勇二郎の肩に行儀よく座っている。
「別に‥‥兄貴を困らせようとは考えてねぇよ」
 ぶすっとしつつ、勇二郎は握る手綱の先を見た。ランのペットである驢馬の柏槇も、彼の事を見ていた。
 暫しの沈黙。やがてランは勇二郎の顔を覗き込んだ。
「なぜそんなに康太さまを毛嫌いなさいますの?」
「許せないからだ」
 菓子作りを志すなら、材料が失われればどんな気持ちになるか‥‥わからないはずがないだろ、と勇二郎は言う。
「ただ盗みを働くだけでもどうしようもないのに、甘味処からところてんの材料を盗んで寒天を作らせようとして、しかも作らせた寒天を売り飛ばすつもりだったんだぜ? なのに菓子職人になりたいだなんて、筋が通ってねぇんだよ」
「‥‥康太さまを認めるおつもりは――」
「‥‥できると思うか?」
 冷たい響き。ランの心がずきりと痛む。ランには、康太も、康太の子分達も、いい人そうに見えたのに。勇二郎が大好きなだけに、勇二郎が誰かを拒絶する事がこんなにも心苦しい。
 ふと、勇二郎の歩みが止まった。視線を辿ってみると、ちょうど質屋から出てきた康太の姿があった。頭上にはカファールを乗せ、左右にはカファールの飼い犬を引き連れて。
 勇二郎は唇を引き絞ると、ずかずかと近付いていった。康太もこちらに気づいたが、反応して動く前に、胸元を勇二郎につかまれていた。
「質屋に何の用事だ」
「‥‥安心しろよ。店の物盗んで売り飛ばしたわけじゃねぇ。この小さいのが証人だ」
 カファールがしきりに頷いたので、勇二郎は康太から手を離そうとした。しかしその寸前、康太がふん、と鼻を鳴らした。
「いけません勇二郎さまっ!」
 振り上げられた拳にランが抱きつき、命中前のそれを止める。
「喧嘩は根本的な解決になりませんわ! お怪我でもされたら大変です!」
 血が滲みそうなほどに歯をくいしばる勇二郎を、悲しそうに押しとどめる小さな姿。喧嘩か喧嘩かと、建物の中から往来から、人が集まってくる。
 騒ぎを起こしてもいい事はない。勇二郎は乱暴な動作で康太を解放し、柏槇の手綱を引いてその場を離れようとする。ランも後に続く。
「‥‥ねえ勇りん。おいしいお菓子作ろうと頑張るヒトに悪いヒトはいないの」
 勇二郎の背中にカファールから言葉が投げかけられるが、彼は振り返らなかった。


「では、好きで盗賊に身をやつしたわけではないと」
「そういう事だな。ああ大将、おかわいそうに‥‥」
 その頃モサドは、店の裏手で康太の子分達から事情を聞きだしていた。
 康太は元々侍の家の出で、なかなかの剣の腕なのも幼少時からの訓練ゆえだそうな。しかし父親が急死、母親も心労からか倒れてしまい、家はあっという間に潰れてしまった。母親の治療費を稼ぐため、道を踏み外すまでそうはかからなかった。
 自分の作ったものを食べてもらいたいという夢は物心ついたころから持っていたそうだが、父の生きていた頃はその父が許してくれるはずもなく、父が死んでからは病に苦しむ母の姿に、夢の成就など望めるべくもなかったのだ。
「ついこの前、大将のお母上が亡くなった。あの天草で寒天作って、売った金で薬を買う予定だったんだが――間に合わなかった」
 先日の脅迫状を思い出して、モサドはなんとなく合点がいった気がした。色々抜けている部分があったのは、切羽詰っていて余裕がなかったからか。
「身寄りがなくなっちまったのはもちろん悲しい事さ。――けど、これで大将はようやく、自分のやりたい事をやれるようになったんだよ」
 しんみりとした空気が広がる。そっと手を合わせる者もいる。モサドも胸で十字をきった。
 反省はしてるけれど、悔やんではいない。そんなところだろうか。悪事に手を染めようと心までは染めず、康太は母のために生きてきたのだ。
「‥‥あなた方は、どうして康太さんについてきたんです?」
 そろそろ昼休みも終わる。詰めの質問をする頃合だ。
「どうして、って‥‥そんなの考えた事もなかったな」
「ガキの頃から大将は大将だったからな」
「おや、皆さんは子供の頃からのお付き合いなんですか」
「家が近所でな」
「あそこの親父さんは、俺らと大将が付き合うのをよく思ってなくてさ。それでも大将は、俺らを率いて遊んでた」
「楽しかったなぁ‥‥」
「今でも楽しいけどな」
 なるほど、よく慕われている。これだけで康太の人となりは信頼に足るものであるとわかる――女主人と栄一郎は、故に彼を受け入れたのだろう。

●数日後の閉店後
 暖簾を下げた客席で、机上に置かれた団子の皿。作ったのは、額に鉢巻して緊張の面持ちの康太だ。夜毎訓練に付き添ったシスティーナと、手伝いはしなかったが夜食を届けたリノルディアも、団子が食される瞬間を見逃すまいとしている。
「では」
 最初に動いたのは、栄一郎だった。一粒まるごと口に入れ、目を閉じながら咀嚼する。やがて飲み込むと、ゆっくり瞼を開いた。
「母さんも食べてみてくれ」
「はいはい」
 促され、女主人も団子を口に入れる。あら、と声が漏れた。
「改善すべき所は多々見受けられるが、それを補って余りある独特の風味があるだろう?」
「そうね、少し直せばいけるかもしれないわ」
「やったー!」
「やりましたねっ!」
 感触のいい反応に、リノルディアとシスティーナが抱き合った。康太の顔も綻んだが――栄一郎が勇二郎にも団子を勧めたので、また険しい顔つきに戻った。
 俯きぎみな勇二郎の背中を、モサドがそっと押す。康太の子分から聞いた話は、すべて勇二郎に伝えてある。
 手が伸びて団子をつかみ、口に入れ噛んでいる間、康太は勇二郎の手元から目を離さずにいた。こちらも、ランから勇二郎の考えを聞かされている。盗人としての自分を取り押さえた葵からは、厳しい事を言われても文句を返せないような事をしたのだからと、説教を受けた。子供を怖がらせてくれて、とお礼参りにきたシルフィリアには結局、子分のためにもしっかりやれと激励されて。
「勇りんも康りんも、ホントは仲良くなりたいって思ってると思うの。お団子山盛り賭けられるもん!」
 彼の頭上に陣取りながら彼の頭をぺしぺし叩くカファールもいる。
 ごくりと嚥下の音。勇二郎は指先についた粉を舌で舐めとっている。緊張感が最高潮を迎え――
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ふん」
 皆が顔を見合わせる。わかりにくい事この上ないが、合格らしい。
 盛り上がる一同。これで喧嘩もなくなるだろうと、胸を撫で下ろす。団子は昔から作ってたから得意なんだ、と言う康太の団子は、お土産用にと、葵とシルフィリアが確保してしまい、自分も食べたいと騒ぐカファールやチュプペケレとの間で取り合いになる。喜ぶ子分達に囲まれて苦笑いを浮かべるモサドは、裏口から出て行く勇二郎とランに気づいた。

「よく、康太さまをお認めになりましたわ」
「‥‥」
 星空の下、冷えてきた空気が秋の訪れを表していた。たすきがけをしたままの勇二郎には、少々寒いくらいだろうか。
「‥‥勇二郎さま?」
 言葉を発しない勇二郎を不審に思い、表情を確認しようと欄は勇二郎の前に回りこむ。
 すると。
 立ち止まった勇二郎の拳が、横に生えていた木の幹に叩きつけられた。利き手だ。
「なんて事を!? すぐに手当しませんとっ」
「‥‥‥‥あそこでああしなかったら、俺が悪者だったじゃねぇか‥‥」
 勇二郎のとった行動と吐露された感情で泣きそうになりながらも、ランは傷口に手を添えて魔法をかける。気持ちが動揺していて、うまく発動しない。
 傷がすっかり消えてなくなる頃には、勇二郎の頬も、濡れていた。