【看板息子】心がそこに滲み出る
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■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月17日〜10月22日
リプレイ公開日:2006年10月24日
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●オープニング
さく。さく。さく。さく‥‥‥‥
砂浜に刻まれる足跡。歩幅はとても小さく、足跡の間隔も開かない。かといって足跡は子供のそれではなく、単に歩く気のない者が歩いているが故に。
「‥‥‥‥」
刻は早朝。まだ鶏も鳴かないうちから起き出して、彼はいつもの場所に来た。来たくなかったが。
それなのに習慣とは恐ろしいもので、体と頭は勝手に目を覚まし、彼をここまで連れてきた。
なぜここに来た? ――彼は自問する―― ここに来れば、俺は内心を偽らなけりゃならないのに。
「勇二郎さん。ああ、今朝はあなたのほうが早かったのですね」
それは本来なら問うまでもない。自分を偽る事は苦痛、だからだ。
「‥‥勇二郎さん? どうかなさいましたか?」
しかし人の心を痛める事は更なる苦痛。銀の髪と青い瞳をした、異国の少女、セレナ・パーセライト。およそ己と呼べるすべてを高める為の修練を惜しまないその少女の、妨げとなる事だけは避けたかった。
来たくなかったのではない。
来てはならなかったのだ。
「顔色が優れませんね。覇気‥‥と言うのでしたか、それが欠けているように見えるのですが」
常に気丈な彼女が、心配そうに覗き込んでくる。
次のまばたきの時にはもう、彼は彼女をその胸に強くかき抱いていた。
「‥‥え‥‥?」
あまりにも急すぎて、彼女の思考が一時中断される。頭を真っ白にしたまま彼女は、それでも彼を突き飛ばした。
どさっ。抵抗する素振りも見せず、彼は砂の上に尻餅をつく。ざり、と彼の手が砂を掴む音がして。
「‥‥‥‥ははっ。ははははは。あはははははははっ」
だいぶ明るくなった空を仰ぎ、更にきつく砂を握り締め、彼は腹の底から笑った。
「勇二郎、さん?」
彼女の中から、彼への心配など消え失せていた。代わりに生じていたのは、困惑。彼の一連の行動が理解できず、故に自分がどうしたらよいのかもわからないまま、まるで戸に立てかけられた木の棒のよう。
そんな彼女に、笑い声はある時ぴたりと止まった。
「悪い冗談だったな。謝る」
彼は立ち上がり、着物や手についた砂をはらう。
「もう仕込みの時間だから帰るよ」
「あの、本当に、どうかなさったのでは――」
「ばーか」
近寄ってきた彼女を追い返す為、彼はその言葉を放つ。それは自分を偽り、彼女に嘘をつく事と同意ではあるけれど、せめて自分が彼女の妨げとならぬよう。
「人の事考えてる余裕なんてねぇだろ。お前はこの国に修行しに来てるんだぜ」
笑顔を見せられれば一番だったろう。しかし今の彼にはそんな事すらも不可能だった。
◆
甘味処『華誉』から喧嘩の声と音が聞こえなくなって、幾日経っただろう。押しかけてきて職人見習いとなった康太と、康太を受け入れられなかった勇二郎との間には必要最低限の会話しか成立せず、視線を合わせる事も滅多になかった。
勇二郎の兄である栄一郎と兄弟の母親である女主人は、ひとまずの落ち着きに胸を撫で下ろしていた。喧嘩をしていた二人の間に今はぎこちない空気が流れているのも、時が経てば好転すると考えていた。それよりも店の繁盛による日々の忙しさと康太に施す修行とで頭がいっぱいだった。
平和になった事以外、これといった変化のない店内。
先代の頃からの常連であるご隠居が、団子を一口かじっただけで、お代を置いて帰っていった。その日の団子担当は、勇二郎だった。
●リプレイ本文
●ギルドの奥で
「フムフム‥‥つまりまたやらかしてたアルな、勇二郎サンは」
龍星美星(ea0604)がやれやれとため息をついた。
依頼人であるご隠居曰く、勇二郎の作る団子の味が落ちているという。一見の客では気づけないほどわずかなものだが、ご隠居のように毎日通っている者にはおのずとわかるだろうとの事。長引けば店の売り上げにも影響が出るだろうし、何より依頼人は、勇二郎の事を心配して今回の依頼を出した。
「自分の中にモヤモヤがあって、それが自分の作る菓子の味にまでに出てるなら‥‥うーん‥‥」
モサド・モキャエリーヌ(eb3700)はうんうん唸って考え込んでいるが、先日、勇二郎と押しかけ居候の康太との喧嘩を仲裁した者達ならば、味が落ちた理由はそれとなく察しがついた。
「勇二郎さん‥‥きっと凄く苦しんでるよね‥‥」
ぽつりと呟くシスティーナ・ヴィント(ea7435)。勇二郎は康太を受け入れたように見えていたが、その実、心の整理がついていなかったのだ、と。
「私はね、壁にぶつかって考えるのは若者らしくてとてもいい事だと思うのよ。――でも、納得がいかないで小さい事に拘って、小さい人間に纏まってしまうと可哀そうね」
どんよりと重くのしかかる空気を取り払うかのように、カーラ・オレアリス(eb4802)が微笑んだ。年齢を重ねた彼女だからこその言葉ではある。本当に「小さい事」であるかどうかは別として。
カーラの手は、隣に座るラン・ウノハナ(ea1022)の頭を撫でていた。ランは今にも泣き出しそうで――いや、既に泣きはらした後なのかもしれない。青い瞳を赤くして、スカートをぎゅっと握っている。
「以前は康太さまを認めていただく事ばかりを考えて、勇二郎さまのお気持ちを全く理解できてませんでしたの‥‥。勇二郎さまの心の傷を癒すなんて、本来そんな事を言える立場ではありませんわ」
自分を押し殺してまで認めざるを得なかった勇二郎を、彼女だけが見ていた。すぐ側にいた‥‥それなのに。
どれ程自分を不甲斐なく思ったか。
「‥‥でも、このままにはしておけないのです‥‥!」
「そう、そうだよね。何とかしなきゃ!」
ランの言葉には後悔の念が滲んでいたが、一方でしっかりと前を見据えている。後ろを振り返るだけでは意味がない。自分にできる事、思いつく事を精一杯やってみようと、腫れぼったい瞼を何度も瞬かせる。
その力強さにシスティーナが顔を上げた。そしてモサドの両肩をがっしりと捉え、彼を思考の世界から引きずり出す。
「この前、子分さん達から話を聞いてたよね? 何を話してたか教えてほしいの!」
「はあ‥‥いいですけど」
あの笑顔と、あの団子の味を、もう一度取り戻さなければ。それが各人共通の目標だった。
●あの日から、来ていないらしい
老舗呉服屋『鈴乃屋』は今日も商売繁盛だった。
「すみません、もうすぐ休憩をもらえるので、それまで奥で待っていてください」
反物を何本も抱えて、セレナがばたばたと通り過ぎていく。初めてこの店に来たカーラはどうしたものかと困ったが、シルフィリア・ユピオーク(eb3525)は慣れた様子で母屋の玄関へまわる。
使用人とも顔見知りのシルフィリアとその連れのカーラは、すんなりと庭に面した部屋に通された。庭では鈴乃屋のひとり娘である小鈴が、背中を丸め、木の枝で地面に絵を描いていた。
「小鈴ちゃん、何を描いてるんだい?」
シルフィリアが小鈴の肩越しに覗き込んだ先には、三つの丸とそれらを貫く一本の線――串に刺さった団子だ。
「‥‥父様、これ、好き‥‥」
「へえ、そうだったんだねぇ。小鈴ちゃんも好きだよね、お団子」
「‥‥」
小鈴が団子を好きな事をシルフィリアは以前から知っている。それを確認しただけだなのに、小鈴は表情を強張らせた。唇を震わせながら団子の絵をぐちゃぐちゃに塗りつぶしていく。シルフィリアは慌てて小鈴を抱きしめた。
「怖い思いをさせてごめんよ。大丈夫だから‥‥怖くないようにしておくからね、又今度食べに行こうね」
そのまま赤子をあやすようによしよしと揺すっていると、休憩の順を繰り上げてもらったセレナが部屋に入ってきた。
シルフィリアが小鈴の相手で手一杯なので、カーラが、自己紹介の後にセレナへ訪問の理由を述べた。
「華誉の勇二郎くん‥‥彼について、変わった事はなかったかしら」
瞬間、セレナの纏う空気が張り詰めた。
「‥‥それは、どういう意味でしょうか」
即答してもらえない質問だったようだ。その空気を察したシルフィリアが事の次第を説明する。だから先日は小鈴を怖がらせてしまって、今日はその詫びも兼ねてやってきたのだと。
するとセレナは、今度は何かを思い出し始めた。上の空と言ってもいいかもしれない。
「すみませんが、ひとまずお引取り願えますか」
やがて我に返った彼女はこう述べた。
「セレナには最初から突撃したらダメアル。斜めから入り込んで、その後で正拳突きネ」
――とは、セレナという人間を理解する美星の言である。頑固で真面目すぎるセレナに対しては、守りの強固な正面からではなく、死角をつき、できた隙を狙うべきなのだと。
事実、彼女はやってのけた。
「いきなり抱きつかれたらしいネ。勇二郎サン、大分鬱屈してるみたいヨ」
セレナの早朝稽古に付き合い、その合間に聞きだしてきた。世間話やお互いの成長具合から話を始め、徐々に話題を勇二郎の事に向けていったのだ。誘導尋問、とまでは行かないが。
「勇二郎サン、ああ見えて結構不器用だと思うネ。康太サンの事情は同情出来るカラ、それを聞かされて、自分の不満を言い出せなくなちゃタ‥‥そんな所があの人にはある気がするネ」
稽古で乱れた髪を縛りなおしながら美星が言った事に、他の者は‥‥とりわけ先日の依頼に関わっていた者達は、顔を見合わせた。
●準備中
木と木がぶつかる音。その音がしてきたのは店の裏口からで、システィーナはもしやと思い顔を出してみた。予想通り、康太がかまどにくべる薪を切っていた。
「あの、さ‥‥勇二郎さんが変なの、気づいてる?」
遠慮がちに声をかけると、康太は動きを止め、振り向いた。首に巻いた手拭い、汗で額に張り付く汗。システィーナの姿を認めると、薪割りを再開した。危ないのでシスティーナは近づけない。
だが近づけないなりに、大きな声を出した。
「康太さんの事情は聞いたよ!」
ぱかんっ。景気よく真っ二つの薪ができた。斧はそのまま動かない。康太も動かない。舌打ちだけ、聞こえた。
「康太さんは菓子職人として修行を始めて、菓子の材料がどれだけ大事かわかったと思う。少なくとも勇二郎さんがどれだけお菓子もその材料も大事に思ってるかって事は、わかったよね?」
着物をたすきあげているので、康太の肩から先は空気に晒されている。見るからに張りのある、筋肉のついた肩は、呼吸に伴いわずかに上下している。
「その菓子の材料を盗んで売ろうとしたのが、勇二郎さんは未だ許せないんじゃないかな。自分が大事な物の為に他人の大事な物をどうにかしていいって理屈はないよ。それは改めて謝るべきだと思う」
今度は、薪割りが再開される様子はなかった。システィーナは小走りで近寄り、康太の表情を確認した。苛々する自分を必死で押さえつけているような、そんなピリピリした感じを受けた。
「‥‥謝ったさ」
「え‥‥」
「罪悪感はあった。だから謝った。でなきゃ置いてくれなんて言えるかよ。‥‥けど、あいつは納得しなかった。あいつ一人が。どんだけ謝りゃいいってんだ」
薪を拾い上げる姿はどこか痛々しい。
謝るだけではダメなのだと、システィーナは思った。謝るだけでは足りない、もっと別の何かがなければ。
「そうだ!」
急に彼女が笑顔になったので、康太は驚いて一歩後ずさった。しかしその腕はがっしりとつかまれる。康太が嫌そうなのもお構いなしに、システィーナはにこにこと思いついた案の説明を始めた。
●営業時間中の華誉
喧嘩の気配はない。いつもの賑やかさだ。ただしご隠居の姿はないが。
「お客さんが減っているかと思っていたのですが‥‥そうでもないようですね」
隅の席でモサドは茶をすすっていた。
「栄一郎の作る菓子もある。勇二郎のほうだけ味が落ちている事に、気づいていないだけだろう。はっきりとわかる奴は依頼人のような長期の常連か、もしくは味覚の発達した奴か」
そう言う桐沢相馬(ea5171)の隣では、飛麗華(eb2545)が皿を机に戻したところだった。皿の上には申し訳程度にかじられた団子。料理人である彼女の舌は何を感じたのか。モサドと相馬は彼女の感想を待ったが、彼女は小さくかぶりを振った。
やはりな、と呟いた相馬の前には、包みがある。不思議に思った麗華が尋ねてみると「ネタだ」と返された。
●暖簾を下げて
片付けもひと段落して、一息ついていた勇二郎と康太。そんな二人を冒険者達は有無を言わせずに客席へと引っ張り出した。ずらりと並んだ彼らに臆したものの、女性陣に両脇を固められては逃げられず、座らされた。机上の包みに首を傾げたが、それも目隠しされて見えなくなった。
「二人とも、頭ではわかっているんだろう。だが、それで済めば坊主も購い主も要るものか」
淡々と述べる相馬。その内容にカーラの眉がぴくりと動いたが、やはり目隠しされた二人には見えない。
「近隣の店で茶と菓子を買ってきた。聞き茶と聞き菓子だな。やってみろ」
「なんでそんな――んぐっ」
騒ぎ始めようとした康太の口にシルフィリアが饅頭を突っ込んだ。同じ物が勇二郎の口にも突っ込まれる。
「‥‥川向こうの通りの御茶屋」
「正解だ」
先に食した康太よりも早く、勇二郎が答えた。悔しいらしく、康太が次を催促する。
それから何種類もの茶と菓子が二人の胃袋に収められたが、すべて勇二郎の勝ちだった。ずっとこの江戸の街にいたという利がないわけではない。だがそれ以上に、後学の為の食べ歩きと味覚の鋭さが勇二郎に勝利をもたらしていた。
「これが最後だよ」
そう言われて突っ込まれたのは、団子だった。勇二郎の動きがぴたりと止まったかと思うと、自分で目隠しを外してしまった。
「どこの団子か、わかるか」
「俺の作った団子だ。けど――けど、これは」
聞き菓子をして研ぎ澄ませた感覚をもってしてようやく、勇二郎は自分に起きている異変に気づいたようだった。
「‥‥率直に言わせてもらいます。勇二郎さんの作るお菓子ですが、ここ最近、味が落ちているんです」
自分の作った団子を凝視してわなわなと震える勇二郎へ、申し訳なさそうにモサドが述べる。
今や康太も目隠しを外しており、微妙な表情で団子の咀嚼を続けている。
「悩んでいたら味に出ますよ」
麗華がずばりと言った。気づかれていないとでも思っていたのか、勇二郎は目をみはった。
「心って出ますからね。味がわかっているお客さんには、以前の味との差がわかってしまうでしょうね」
そう、例えば今回の依頼人であるご隠居のように。
「悩んで周りが見えない時は、深呼吸をして初心に帰りなさい。いい子でいなくてもいいのよ」
耳に痛い言葉の後にはカーラから労わりと励ましの言葉が贈られる。居たたまれなくなった勇二郎は横を見て、康太も自分を見ている事がわかると、おもむろに立ち上がった。
「勇二郎さま」
逃げ出そうとした彼の背に声がかかる。けれど呼ばれて振り向いた先には誰の姿もなかった。視線を下に落とすと、羽のある彼女が両の足で地面に立ち、深々と頭を下げていた。
「ずっとお傍にいましたのに‥‥それなのに責める形になってしまって‥‥本当に申し訳ありませんでしたわ」
お前が謝る必要はない、と言おうとして、しかし勇二郎は言えなかった。顔を上げたラン、その瞳はまたひと泣きしたらしく、赤かった。
「ラン、以前にも勇二郎さまに言った事ありますわよね? 勇二郎さまがお作りになるお菓子は美味しくて綺麗で大好きです、と。‥‥皆さまを笑顔にする事ができる、素晴らしいお菓子ですのよ? ランだけではなく、ご隠居さまや皆さま、そのお菓子がまた食べたいのです。また勇二郎さまの笑顔が見たいのです。‥‥その為だったら、ランは何だって致します‥‥!」
精神年齢としてはまだまだ幼い彼女の、切なる訴えは勇二郎の心を揺さぶった。自分はこんな子供を泣かせてまで何をしたいのかと、そんな思いが彼の中に生まれて、彼を動揺させていた。
「勇二郎さん。これ、康太さんが作ったんだよ。食べてみて」
呆然と立ちすくむ勇二郎を見て、ここを逃してはならないとばかりにシスティーナが差し出した皿の上には、やや黄ばんだ白色の菓子。勇二郎は顔を背けて拒んだが、システィーナは歌詞をすくい取った匙を、強引に勇二郎の口へ差し込んだ。
「優しい味でしょ? 康太さんの、お母さんへの想いがこもってるんだもん。お菓子よりも大事なものが康太さんにはあったんだよ。菓子職人としての筋より前に、人としてお母さんを大事にするっていう筋を通してたの!」
システィーナも泣きそうになっていたのかもしれない。最後のほうはもう、声が上擦っていた。
そして、強情にも背を向けていた康太以外の全員が、勇二郎はどう受け止めるかと、固唾を呑んで見守っていた。匙をくわえて俯いている勇二郎。
――やがて静けさの中、衣擦れの音が響いた。勇二郎がたすきがけをやり直した音だった。
「‥‥女の子が何でもやるなんて言うもんじゃねぇよ」
一体何日ぶりの事だったろうか。勇二郎が優しい微笑を浮かべたのは。ランの喜びたるや、勇二郎の腹部に突撃をかましたほどだった。
先程食べた物が逆流しそうになって、それを必死に押しとどめる勇二郎。その上にシスティーナが乗しかかって無邪気な追い討ちをかけると、彼の顔色が見るからに危険域となった。
――しばらくお待ちください――
「一つの事に悩むと、他の事まで悩んでくるんですよね」
自分もまともに絵が描けなくなった経験がある、と場をまとめながら、モサドは湯飲みの中で立つ茶柱に表情を緩ませた。
いや、緩んでいるのはモサドだけではない。冒険者一同、皆だ。勇二郎が持てる力を出し尽くした団子を食し、心を温かくしたのだ。
「最後に食わされたやつ、裏ごしが足りなくてざらついたんだよ。あれはやり方も悪いんだな。教えるべき事はたくさんあるみたいだ」
勇二郎は軽口を叩き、かと思うと真剣な顔つきで康太をひと睨みした。
「覚えとけ。次はない。理由が何であってもな」
康太も勇二郎を睨み返す。しかしなぜか剣呑な雰囲気にはならなかった。
「まずはご隠居に団子持ってかねえとなあ」
「セレナにもちゃんと謝るアル」
「そうだな‥‥って、なんで知ってんだよ!?」
笑い声が広まっていく。幾人かの心を痛めていた問題は、ここにひとまずの終息を見せた。