【看板息子】三角関係(鈍感含む)?

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月29日〜04月03日

リプレイ公開日:2007年04月07日

●オープニング

 まだ時折肌寒い日はあれど、確実に春へと変わっていく今日この頃。

 甘味処『華誉』では、まだ寒くて仕方のなかった頃にいつの間にやら冒険者ギルドへ依頼を出して氷の魔法の使い手を募り、ところてんを作っては冷やして凍らせて寒天という名の高級かつ珍しい食材を作っていたわけで。つまりは日々を忙しく過ごしていたのだが、そこは見習いとはいえ菓子職人が一人増え、雑用をこなす男手が五人ほど増えているのだから、全く勝手のわからないまま寒天を発明していた昨年よりは、多少はましになっている、と言えるはず。
 『華誉』を取り仕切る兄弟職人のうち、兄への心配はそろそろ嫁の来てを探すくらいだが、弟は相変わらず職人見習いとの口喧嘩が絶えず、嫁どころではない。取っ組み合いにならないくらいには成長しているようなのだが。

 さて今回は、そんな弟・勇二郎と、見習い・康太と、そしてもう一人‥‥呉服屋『鈴乃屋』で働くセレナの話だ。
 セレナはイギリスから単身やってきた。一人娘である彼女は家業を継ぐ為に商人の勉強をしようと、『鈴乃屋』に住み込んでの修行の毎日である。時には若旦那のお使いで、『華誉』まで団子を買いに来る事もある。
「いつもすまないな。今日は一本おまけしておいた」
「それはありがとうございます。若旦那がお喜びになります」
 流暢なジャパン語で、職人兄弟の一人、兄・栄一郎と会話するセレナ。その様子を調理場から垣間見ているのは康太だった。気持ち悪いくらいにニヤニヤしている。
「なんて顔してんだ。持ち場に戻れよ」
 餅を丸めながら勇二郎が注意する。いつもならこの時点で喧嘩に発展するのだが、今回は違った。
「‥‥いいよなぁ、銀髪」
「は?」
 くるりと体ごと振り向いた康太は、なぜかきらきらしている――ように、勇二郎には見えた。
「あの肌も、すげぇ白いしさ。気は強いみたいだけど、その辺はほら、色恋沙汰は多分苦手で、顔近づけただけで大混乱するんじゃないか?」
「何考えてんだお前は‥‥」
「お前も男だろうが。するんだろ、そういう想像」
 呆れて息を吐く勇二郎の肩を康太が抱く。ありえない状況だ。康太は余程興奮しているらしい。
 康太の荒い鼻息にどれだけ勇二郎が眉間に皺を寄せても、話はまだ止まらない。
「するんだろうがよ。いい年の男がよ、しないで過ごせるほうが変だろうが」
「‥‥しないとは言わねぇよ。けどな、想像の中っつったって、相手は選べ」
「選んでるじゃねぇか。胸はいまいちかもしれねぇが、顔は整ってるほうだ。つーか、髪にしろ肌にしろ、この国の女にはないものが揃い踏みだからな」
「そういう意味じゃねぇんだよ。あいつは――」
「あ? 何? お前ってばもしかしてあの子に!?」
「違っ!?」
「あーそー、そーなのー、だから俺にあの子とのイロイロを想像すんなってかぁー」
「人の話聞けよ! この耳は節穴かっ!!」
 わざとらしく両頬に手を添える康太。
 そんな康太を捕まえ、耳を引っ張る勇二郎。
 頑張ってよい方向に見れば、じゃれあっているようにも見える。一応。
 しかし、ふっと康太の顔つきが変化する。真面目な、そして瞳に強い意志の光が宿ったものへと。
「なら、俺が狙いつけてもいいんだな」
 ぴたり。勇二郎の動きが瞬時に止まる。
「俺がもらっても、いいんだな」
 康太は繰り返した。今度は一音ずつゆっくりと、言い聞かせるようにして。
「‥‥っ、勝手にしろ!」
 真っ赤になった勇二郎は力任せに康太の耳を離すと水桶のほうへ向かった。餅を丸めるという作業へ戻る前に、手を洗うつもりなのだろう。ただやはり平常心ではいられないようで、床に置いてあった桶につまずいて転んで桶をひっくり返している。
 康太も康太で、乱れた着衣を直して作業に戻ったまではよかったが、工程をひとつすっ飛ばしてしまい、後に栄一郎からこってり絞られるはめになった。

 それから数日。
 勇二郎も康太も、ここに心あらず状態で、作業途中にぼーっとしている事が多くなった。康太なぞ、行き先も告げずに一人で出かける回数も増えた。
 困りきって頭を痛くしたのは、彼らを率いている栄一郎である。店が回らないのだから。
 仕方なく彼はまた、冒険者ギルドを訪れるのであった。

●今回の参加者

 ea0604 龍星 美星(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1022 ラン・ウノハナ(15歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 ea5171 桐沢 相馬(41歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0573 アウレリア・リュジィス(18歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3700 モサド・モキャエリーヌ(32歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ec0586 山本 剣一朗(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●第一弾
「喫煙。飲酒。賭博。衆道。女色」
 桐沢相馬(ea5171)が羅列したいかがわしい名詞の数々に、開店前の『華誉』へ集まった面々は一様に眉をひそめた。
「しゅーどー‥‥とは何ですか?」
「ランちゃんは知らなくていい事さね」
 意味がわからないらしいラン・ウノハナ(ea1022)は思い切って質問してみたのだが、シルフィリア・ユピオーク(eb3525)に断られてしまった。世の中には知らないままでもいい事が多々ある。
 他の者はどうやら理解できているようなので、相馬は話を続ける。
「男がダメになる原因としてこの辺が思い当たるところだが――真っ先に喫煙は外して構わないだろう、仮にも菓子職人がそんな馬鹿な事はすまい。においがつく。賭博も違うだろうな、あの二人の性格上、一回で終わる‥‥というか、まず元金がなさそうだ。飲酒もにおいで判るだろうし、衆道は、まあ、冗談だ」
 もっともだと思われる理由で、ひとつひとつ潰していく。結果として残ったのは、女色。
「なんだ、恋の病か」
 あっけらかんと相馬が言い放ち、皆が色めきたった。
「若者らしくていいですねえ」
「お前はじじくさいな」
 お茶を飲みながらしみじみとつぶやいたモサド・モキャエリーヌ(eb3700)に、同じく茶をすする山本剣一朗(ec0586)がツッコミを入れるのはご愛嬌。
 ご愛嬌ではあるのだが‥‥アウレリア・リュジィス(eb0573)に菓子を運んできた栄一郎の様子を目の当たりにすると、そういう軽口も出なくなってしまう。初見の者ですら絶句してしまうほど、栄一郎は青ざめていた。
「だ‥‥大丈夫?」
 卓に突き立てた両腕を支えにしてうなだれる栄一郎を、アウレリアが心配そうに覗き込む。茶のお変わりを持ってきてくれた女将によれば、勇二郎と康太が役に立たない分、どうしても栄一郎が動かざるをえないのだという。
「このままでは栄一郎さまが倒れてしまいますわ。勇二郎さまと康太さまには、なるべく早くお仕事出来る状態に戻っていただかなければっ」
 しゅぱーっと飛んでいくラン。行き先は裏口のほうで雑用をこなしているはずの、康太の子分達の所だ。シルフィリアも後を追う。アウレリアも追いかけようとするが、まだ菓子を食べている途中で、もったいなくて席を立てない。仕方ないので、女将に話を聞く事にした。
「女性のお話は女性にうかがってもらうとして。‥‥本当に大丈夫ですか、栄一郎さん」
「‥‥厳しいな」
 立っているのもつらいようで栄一郎は空いた席へ倒れるように座り込み、そんな栄一郎をモサドが気遣う。腹の底から搾り出される溜息には、モサドも相馬もついつい顔を見合わせてしまった。
「店主をここまで追い詰めても自覚なしとは‥‥恋の病は草津の湯でも治らんというし、難儀だな」
「今度、どこかの屋台で本格的に話聞きましょうか? 愚痴も溜まってるでしょう?」
「ああ、そうだな――って、ちょっと待ってくれ」
 モサドに肩を叩かれた栄一郎は、なぜか目を丸くした。
「恋? あの二人が?」
「そうじゃないかと考えているが」
「頭が痛いな‥‥。それが本当なら、完全解決は厳しいだろう」
「ひとまず今回は、二人が仕事を思い出してくれるようにしましょう。ですから栄一郎さんは店のほうを」
「ああ、頼む」
 程なくして開店の頃合となる。康太の子分と女将への聞き込みも終わった。開店後の店の様子の確認は剣一朗に任せるとして、他の者は己の担当場所へと散った。

 情報収集第一弾の結果として、わかった事がある。
 女将曰く、『鈴乃屋』のセレナがお使いに来ると、康太がやけに客席へ顔を出す。
 康太の子分曰く、康太は父の形見である刀を預けている質屋へ、今まで以上に頻繁に向かうようになった。どうもその刀を使って鍛錬しているらしい。
 鍛錬のほうはよくわからないが、康太がやはり恋の病で、セレナをお目当てにしているのは確かなようだ。では勇二郎はというと、ぼーっとしているだけなので何とも言えない。とは言っても康太と同時期にそうなったのだから、やはり原因はセレナにあると見てもいいだろう。
 となれば、次に突撃する対象はセレナに決定である。
「アタシの出番ネ!」
 セレナがまだイギリスにいた頃からの仲である龍星美星(ea0604)が、ぐぐっと拳を固めた。

●第二弾
 セレナは毎朝早くから、水辺の砂地で武術の鍛錬をしている。これを知っていた美星は、早起きして待ち伏せて、早朝鍛錬に同行する事にした。勇二郎が来てはいまいかと少々不安だったが、『華誉』に職人見習いが増えてからは忙しさゆえに来られなくなってしまったようだとセレナが説明してくれた。
「はぁっ!」
「くっ‥‥まだまだぁっ!」
 一人よりも二人のほうができる訓練の種類が増える。実践を見据えた組み手は、互いにとって有益な時間となろう。会う度に行われれば、鍛錬のひとつの指標ともなる。
「セレナももう、こっちに来て壱年過ぎてるネ。どうネ、浮いた話の一つも無いのカ?」
 セレナの成長具合を確認した後、くすくす笑いながら美星は言った。情報収集の為とはいえ、なかば面白い反応を期待しての事だったのだが、セレナは眉をひそめて首を傾げた。ジャパン語で言うところの「浮いた話」の意味がわからないらしい。おかげで自分の中にあるイギリス語の語彙をひっくり返す羽目になった美星だった。
「ラブ! そう、男女間のラブアルよ!」
「ああ、そういう意味ですか」
 ようやく合点がいったらしいセレナ。しかし彼女は左右に首を振った。
「そちらの方向への関心は持ち合わせていません。私は修行中の身ですし‥‥正直に言うと、それがどんな感情なのか、わからないんです」
「え?」
 素っ頓狂な声を出す美星。わからない、と確かにセレナは言った。つまり――
「私は、恋というものをした事がありませんから」
 初恋未経験。
 セレナの過去を知る美星としては、セレナがこんな風になった理由もわからないではない。
「そか‥‥けど、セレナはいつも輝いてるヨ。弛まずに己を磨く者の輝きに満ちてるネ。着物着て、お店にいる時だけじゃないヨ。こうして、汗と泥に塗れてる時でモ‥‥だから、男がセレナを放っておくはずはないと思うネ」
「はあ、そうですか?」
 フォローはしてみたが、反応はいまいち。勇二郎と康太に少々同情する。
「たまたまイギリスの香料を見つけたカラ、アタシなりに手を加えてみたヨ。よかったら使ってみて欲しいネ」
 これ以上この話をしても意味がないと判断した美星は、荷物から小さな袋を取り出した。輸入品を使っている故に材料費がとんでもなく高価なのは秘密なのだが、秘密にしても商人の勉強をしているセレナにはわかってしまう。こんな高価な物は受け取れないと、一旦は返却した。だがセレナの為に作ったのだと言われては折れないわけにもいかない。終いには、懐かしそうに目を細めて、その香袋を抱きしめた。

●第三弾
 セレナがあのような反応を見せたという事は、康太がまだあからさまな行動をしていないという事になる。
「何か考えがあるのでしょうか」
「鍛錬を始めたっていうのがひっかかるよね。質屋で待ち伏せしてみようよ」
 本人に直撃である。昼休みには確実に来るだろうと予測して質屋に居座ったモサドとアウレリアは、ものの見事に、康太と鉢合わせる事ができたのだった。
「お久しぶりです、康太さん」
「ああ、あんたか。この前はありがとな。‥‥んで、何か用か?」
 話をしながらも康太は質屋の主から形見の刀を受けとる。その刀をすらりと抜く様子はさまになっており、本人としてもやはり手に馴染むようだ。
「いえね‥‥最近、仕事に身が入っていないと聞きましたが、何かあったのですか?」
 表情を変える事なく、声の抑揚も特に変化なく、ただの世間話のようにモサドが探りを入れ始める。だが康太は片眉を動かして反応はしつつも、刀の点検に没頭する振りをして話をはぐらかそうとする。
「まあ、何もないならないで、特に言う必要はないのですが‥‥見てくれだけが良くて味が悪いお菓子を作る職人にならないよう気をつけてくださいね」
「は!? なんだよいきなり」
 奥の手とも言える菓子の事を引き合いに出したモサドに、康太がとうとう食いついた。 
「人間と同じで外見がよくても中身が悪かったら、誰も手にとってくれませんし。何か相談事があるのなら、快く聞きますので。それでは」
 しかし食いついた獲物を釣り上げるつもりはもとからない。モサドは一礼すると至極普通に質屋を出て行った。
 慌てたのはアウレリアである。康太の機嫌が見るからに悪くなっている。
「あ、あのね、私、康太さんの作ったっていうお団子を食べたんだけど‥‥美味しいって友達に聞いてたんだけどね、その‥‥」
 康太の機嫌が悪いからだけでなく、アウレリアは言葉を濁している。彼女が何を言わんとしているかを察した康太の顔から血の気が引いた。
「ねえ、セレナさんの事どう思ってるの? ただの憧れ? それとも真剣?」
「ちょ‥‥待て、なんでその名前が出て――」
 しどろもどろ、という表現がぴったりだった。康太の視線がありとあらゆる角度をさまよう。おかげでアウレリアには康太の本気加減がわかった。
「セレナさんて夢を持って努力して頑張ってる人でしょ。康太さんも美味しいお菓子を作る職人になりたい夢があるなら、仕事頑張って欲しいな。次はどんなお団子食べれるのか、楽しみにしてるから」
 言うだけ言って彼女は遅まきながらモサドを追って質屋を出た。康太の気持ちが確認できたのだから彼女の担当は遂行完了だ。刀による鍛錬が始まったのも、男としての魅力を上げようとしての事だという可能性がある。刀は、菓子と並んで康太を支えてきた柱の一つだと、康太の到着を待つ間に彼女はモサドから聞いていた。

 そして二人目の本人かつ最後の人物に直撃。勇二郎である。担当はランとシルフィリア。まずは建物の陰に隠れて薪割り中の勇二郎を様子見である。
「痛っ」
「勇二郎さま!?」
 様子見、あっという間に終了。したたかに指を打った勇二郎を心配して、ランが飛び出してしまったのである。すかさずリカバーが発動した上にたいした事はなかったが、勇二郎を見ていた事がばれたので、今度はラン達が勇二郎から疑惑のまなざしで見られた。
「その‥‥恋って素敵ですわよね!」
 勇二郎が噴き出した。勇二郎の性格を考えるとなかなか口を割らないだろうから直球でいく――様子見する前からランは言っていたが、まさしく直球そのものである。
 とはいえ、これで攻撃の取っ掛かりができた。勇二郎の耳が赤い。腰が引けている。ここぞとばかりにランは身を乗り出して、勇二郎をつぶらな瞳で見上げる。じっと。
「わかった、言いたい事があるなら聞く。聞きたい事があるなら話す。だからそんな風に見ないでくれ」
 ランには弱い勇二郎だった。
「ではお聞きしますけれど、ご自分で自覚はおありですか? えと‥‥セレナさまを気にしているという」
「気にしてないつもりだけど気にしてんだろ。何かにつけてあいつの顔ばっかり浮かんでくる」
「では――」
「けど、それだけだ」
 勇二郎は言い切って、薪割りに戻った。ランには、勇二郎が自分で自分に言い聞かせているように聞こえた。
 そしてそれはシルフィリアも同じだったらしく、長い髪をかき上げながら勇二郎に話しかける。
「セレナは本当に良く頑張ってるよ。勿論あの子自身の頑張りもあるけど‥‥勇二郎と出会って救われてる部分も大きいと思うよ」
「本当なら嬉しい話だな。だとしてもあいつを救ってるのは俺だけじゃないだろうさ」
 ぱかん。丸太が二つに割れる。
「時には辛くて泣きたい時も、心挫けそうになる時だってあるさ。そんな時、自然体で寄り添ってくれる人がいるって言うのは本当にありがたいものだよ」
「だから? 俺があいつにとってそんな存在かどうか、確認とってきたとでも言うのか?」
 ぱかん。半分になった丸太がまた半分になる。
「‥‥勇二郎さま、今問題なのは勇二郎さまのお気持ちです。自分の気持ちに嘘をつくのが苦しい事は、もう経験していらっしゃるでしょう?」
 次の丸太を置く。
「以前作った桜のお菓子‥‥あれは謝罪の気持ちだけでは作れなかった筈ですわ。『精神美』という言葉に込めた印象や想いをお忘れになって? まだ蕾のように小さな感情でも、それは偽りのない本当の想いです」
 勇二郎は鉈を振りかざせずにいる。
「そうだね、今度は彼女への想いを籠めた『桜』を贈ってみたらどうだい? その為にも仕事は仕事、想いは想いで気持ちを切り替えてさ」
 勇二郎は動かない。話さない。
 ランが飛んでいく。俯く勇二郎の鼻先でにこりと笑う。
「ランは勇二郎さまが大好きだから応援したいのですっ」
 憑き物が落ちたかのように勇二郎が微笑を返すまで、そんなにかからなかった。

●結論
「やはり恋の病だったわけだが――結局どうなったんだ」
 相馬は言ったが、誰にも答えられない。まだ目に見える変化はないからだ。康太も勇二郎も、一番大事な部分には気づいてくれたはず、というだけで。
「まあ、身勝手で無い範囲で本気になれるなら、人生の深みを増すのにはいいものだがな」
「おや。てっきりそちらの方面は嫌いなのかと」
 首を傾げるモサドに相馬は鼻で笑った。
「反対も賛成もせんよ。想い悩み年輪を刻むのは、職人としても人としても将来の役にも――お前達自身の心の余裕の為にも重要だからな」
 そして、通路を挟んで反対側の客席で、並んで正座をさせられている勇二郎と康太に向けて言い放った。正座は女将からのほんのお仕置きである。
「心の余裕‥‥いい事言ったネ。色気に負けて、仕事を疎かにするような男ガ、セレナに振り向いて貰えると思ったら大間違いネ!」
 尽きない小言に晒されながら、足の痺れに震えながら、二人はただじっと、栄一郎と共に買い物へ出かけている女将が帰ってきて許してくれるその時を、耐えて待つ。
「二人は決着をつけるべきなのかも。手合わせとか」
「手合わせでは、剣術の心得のある康太が有利になるな」
「お菓子作りではダメなのですか?」
「そうすると今度は勇二郎さんの有利になりますよ」
 冒険者達の声が明るい。康太と勇二郎の二人の間柄も、そこにセレナを加えた三人の間柄も、まだまだ前途多難で多分また何か問題が起きるんだろうなと誰もが思っていても。