すべては儀式のために!
|
■ショートシナリオ&プロモート
担当:言の羽
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月07日〜08月12日
リプレイ公開日:2005年08月18日
|
●オープニング
腰まで届く銀の髪。常に煌めく蒼い双眸。すっと通った鼻筋。ふっくらとした桃色の唇。透き通る白い肌。
大きすぎず小さすぎない胸のふくらみは、殿方の手にすっぽりと収まることだろう。細くくびれた腰に腕を回せば、彼女のぬくもりを余すことなく味わうことができるだろう。
彼女の舞は見る者を魅了し、しなる指先は至福の時を与えてくれる。
――彼女は村を代表する踊り手である。
「‥‥女のあたしに、あなたの大好きな人がどんなに魅力的かを説明されても反応に困るんですけど」
年上趣味の受付嬢は、カウンターを挟んで向かい合っている青年に、スマイルを贈った。もちろん、目は笑っていない。前にいる青年はどう見積もっても受付嬢より年下であり、ようするに受付嬢の守備範囲外である。
対して青年も、受付嬢は範囲外。というより、村一番の踊り手に心を奪われているので、最初から眼中にない。
「反応なんてしなくていいです。僕が話したかっただけですから」
「‥‥‥‥‥‥」
受付嬢の口元がひきつる。
「いやっ、ええと、それでですね! 依頼のお話をさせていただきたいのですけれども!!」
どうも受付嬢の背後に立ち上る何かが見えたらしい。青年はいきなり態度を変え卑屈になり、必死になって会話の流れを修正した。
◆
青年の村では毎年この時期になると、儀式を執り行うことになっている。
場所は村はずれにある、木々に囲まれた泉。一番深いところでも子供の足が届くほどに小規模ではあるが、湧き水によるものであるため底まで見渡せる、とても神秘的な泉なのだ。
腕に覚えのある村人が泉の周囲で曲を奏で、選ばれた踊り手が泉の中央で舞う。水に困ることがないよう、泉に住んでいると言われる水の精霊に捧げる、ひと時の宴である。
今年も儀式の時期が近付き、それに備えようと村人達が泉を訪れたところ‥‥なんとゴブリンが水浴びをしていた。しかも複数。
大切な儀式の場を、ゴブリンが憩いの場にしていた。これは由々しき事態である。このままでは儀式が行えず、水場を奪われ、尚且ついつ襲われるかとびくびくしながら日々を過ごさなければならない。
村長は決断を下し、自身の孫である青年に命じた。キャメロットの冒険者ギルドに依頼を出すのだ、と。
◆
「つまり、儀式の場に居ついてしまったゴブリンを退治してほしい、と」
「はい、そういうことですね」
「最初から素直にそうおっしゃってくださればいいものを」
うふふふふと微笑む受付嬢の目はやはり厳しいまま。青年もすっかり萎縮して、すみませんと一言言うのがやっとだった。
「他に付け加えることはありますか? あるのなら依頼書に追記しますが」
「そうですねえ。――泉でゴブリンの姿を見た人達によると、体格のいいのが一体、混じっていたらしいです」
青年の言葉をもとにして、受付嬢が羊皮紙の上に羽ペンを滑らせる。その様子をじっと見詰める青年のひたいには、玉の汗が浮かぶ。
書き終わった羊皮紙を互いに確認し、金銭の受け渡しも済むと、受付嬢はいまだおびえる青年に対し、穏やかに言った。
「では、確かに承りました。儀式を行えるよう、この依頼が成功するといいですね」
ちゃんと目も笑っている、真の微笑み。
任務を果たした安堵感からか、青年は受付嬢の手を握り、礼を言いながら何度も頭を下げた。
「これでも、僕は毎年儀式を楽しみにしているんですよ」
「そうなんですか」
「ええ、もちろん。踊り手は薄い衣を身に着けるんですけど‥‥水に濡れると透けるんですよ。今年は特に彼女のあの肌を鑑賞できるのかと思うと、それだけで僕の胸はいっぱいです!」
緊張が解け、つい余計なことを喋ってしまった青年の悲鳴が、ギルド中に轟いた。
●リプレイ本文
●楽しみで仕方がない
村に到着した冒険者一行は、泉に居ついたというゴブリン達の数や出没時間帯などを確認するため、依頼人である青年の家にお邪魔していた。
「僕は実際には見ていないのですが‥‥同時に確認されているのは6体です。そのうちの1体が、体格のいい奴ですね。泉に来る時間はまばらで、でもしょっちゅう来ているみたいですよ」
「しょっちゅう来ていると、なぜわかるのですか?」
ジークリンデ・ケリン(eb3225)が尋ねると、青年は頬を指で掻いた。
「大切な儀式の場所ですからねぇ。狩りを生業としている人に頼んで、日に何度かこっそりとのぞいてもらっているんです。何もできないとわかってはいますが、それでもね。‥‥決して皆さんを信用していないというわけではありませんよ?」
それだけ困っているということだ。
苦笑する青年に、一行は改めてゴブリンの排除を心に決めた。‥‥のだが。
「皆さんには期待しているんです。儀式が行われないと、エルフレアの玉の肌が鑑賞できないですから」
件の踊り手、名前はエルフレアというらしい。受付嬢に叩きのめされた余韻、要するに痣がまだ体に残っているというのに、懲りない青年である。
そんな青年へ生暖かい眼差しを贈る一行だったが、一人だけ、その言葉で奮起した。セイヤー・コナンバッハ(ea8738)だ。
「青年よ、汝に共感した! ぴちぴちぎゃるの舞姿、確かに魅力的じゃ! このワシが依頼を受けたからにはもう安心、ゴブリンどもなどさっさと蹴散らして儀式を行い、ぴちぴちぎゃるの大鑑賞会を催そうではないか!!」
歯を見せてニカッと笑うセイヤー。鼻の下が伸びきっている。年齢のわりに元気なのは、精神的に若いからだろうか。
そんなセイヤーにも生暖かい眼差しはびしばし突き刺さっていたが、当の本人は全く意に介せず、青年と肩を組んで盛り上がり始めていた。
●その前にやるべきこと
「う〜ん、まだゴブリンは来てないみたいやわ。もう少しかかるかもしれんなぁ」
ひょこっ、と茂みから頭を出し、すぐにまた引っ込めたのは蓁美鳳(ea7980)。彼女は今見た通り、まだゴブリン達が来ていない事を仲間に伝えた。うむ、と重々しく頷いて、グレイ・オウル(ea8136)は仲間の顔を順に見渡していく。
「では決めておいた作戦でよいな」
今回の作戦。ゴブリン達が泉で水浴びを開始し油断したところを狙い、ジークリンデのスモークフィールドで包み込む。その後シルヴィア・エインズワース(eb2479)が弓矢でゴブリンを追い立て、反対側で待ち伏せている美鳳、グレイ、セイヤー、賀上綾華(eb3260)で叩き伏せる、というもの。
特にセイヤーは気合が入っており、体格のいいゴブリンは自分が相手をすると意気込んでいる。ぴちぴちぎゃるのためであることは言うまでもないか。
「ジークリンデ殿、効果時間中に奴らが現れるかはわからんが、一応インフラビジョンを頼む」
「わかりました」
ジークリンデがグレイに頷きを返すと、それを待っていたようにシルヴィアが髪を撫で付けながら口を開いた。
「その‥‥インフラビジョンは私を優先してかけてほしい。そもそも泉を汚さないために私が弓を撃つのだし、当たらないように狙いたい」
腕が未熟だから元々当たる確率は低いのだが、念には念を入れたいらしい。
村人にとって、泉がどれだけ大切であるかは、皆が理解している。だからこそ、泉を血で汚さないために今回の作戦を考え出したのだ。
「では、他の皆さんに魔法をかけてから、シルヴィアさんと共にあちらのほうで待機しましょう。そうすれば効果が切れてもすぐにかけなおせますし」
「むぅ‥‥」
考え込むグレイ。
「私はインフラビジョンのかかっている方に指示をもらえれば」
自分にはかけてもらわずともよい、と控えめに綾華が申し出る。
「そうやな、それでええんと違う? 全員に魔法かけるのはさすがにちょっと厳しいやろうし。その分頑張ればええやん‥‥ただしうちやのうて、みんなが、やけどな!」
元気いっぱいに宣言する美鳳を生暖かい視線第二弾が襲う。まあそのおかげで一行の間に漂っていた緊張感も和らぎ、方針もすんなりと結論付けられたのであった。
一時間ほど待っただろうか。泉にゴブリン達がやってきた。
数は情報にあった6体。全てが斧を手にしている。体格のいい1体とはホブゴブリンのことだったようだ。このホブゴブリンが5体のゴブリンを率いているのだろう。
じっと息をのみ様子をうかがっていると、ゴブリン達は皆、泉の淵に斧を放り出した。そして泉に入り、ばしゃばしゃと水を掛け合っている。
「遊んでいるのだろうか‥‥?」
茂みに隠れるシルヴィアがつい言葉を漏らすも、小さな声は水音にかき消された。
本当に遊んでいるのかどうかはわかるはずもないが、今が好機であることは間違いない。シルヴィアはジークリンデに目で合図を送り、ジークリンデは詠唱を開始。程なくして彼女の体は淡い赤色の光に一瞬だけ包まれた。
すると泉の中心部から白い煙があふれ出す。煙はたちまちゴブリン達を飲み込み、見えなくなる。姿は見えずとも、耳障りに騒ぎ立てていることから、突然視界を奪われ、煙から逃れようとしている様子が容易に想像できる。
「シルヴィアさん、いきますよっ」
もう一度ジークリンデの体が光る。今度の対象はシルヴィアだ。
きり‥‥
普段とは異なる視覚を手に入れて、シルヴィアが弓を引き絞る。つがえている矢は2本。インフラビジョンのおかげで、煙の中のゴブリン達が赤い塊に見える。足元に広がる青色は泉だろう。
「なかなか当たらないことがかえって都合がよいとはな」
矢が放たれた。ゴブリン達の動きから、命中はしていないとシルヴィアは察し、次の矢を手に取った。
「よっしゃ、行くでぇっ」
「北辰流 賀上綾華、参る!」
茂みからまず飛び出したのは美鳳、次に綾華。二人は広がる煙に薄く現れるゴブリンの影に拳を打ちこみ、日本刀で切りつけた。
断末魔と共に崩れ落ちるゴブリン。しかし戦いは始まったばかり。
冒険者の存在を知ったゴブリン達は、反撃のため斧の元へ走る。その辺りにはまだ煙が届いていない。
「見逃すと思ったかぁっ!」
グレイが待ち構えていた。日本刀を構え、間合いをはかり、一気に振り下ろす。ゴブリンの腕には深い切り傷ができた。
いきり立つゴブリン達はグレイへ、一斉に素手で攻撃を仕掛けようとした。だがその足元にはシルヴィアの放った矢が刺さり、ゴブリン達を立ち止まらせる。次の瞬間には、美鳳と綾華が追いつき、攻撃態勢に入っていた。
「‥‥おまえさんに恨みはないが‥‥」
重斧を携え、セイヤーは言う。
「これは困っている村を救うためじゃ‥‥」
ホブゴブリンと、1対1で向かい合う。その眼光は鋭く、日々の鍛錬で鍛えた筋肉が緊張している。
敵にもセイヤーの本気が伝わったのだろう。やらなければやられるとばかりに、拳を大きく振りかぶり、セイヤーに殴りかかる。
セイヤーはその一撃を体で受け止めると、重斧を両手で握り締め、天にかざした。
「ぴちぴちぎゃるのためじゃあああ!」
ホブゴブリンの腕が寸断され、宙に舞う。傷口からは血が迸り、セイヤーの腕を、顔を、赤く濡らしていく。
「せぇぇぇぇぇいやぁぁぁぁあっ!」
血が足りないのかホブゴブリンの動きは鈍く、その間にセイヤーの第二撃が繰り出される。
‥‥戦闘が開始してから終わるまでよりも、待ち伏せしている時間のほうが長かった。
●ご苦労様でした
「ありがとうございます。皆さんのおかげで、無事に儀式を行うことができそうです」
青年は心底嬉しそうに、感謝の言葉を述べた。あまりの晴れ晴れしさに、見ているこちらも自然と笑顔になる。
「これでお祭りができるなー♪」
「ふふ、楽しみですね」
美鳳と綾華が顔を見合わせ、可愛らしく首をかしげた。二人とも、儀式の後に行われる祭りに参加するつもりのようだ。
「噂の彼女さんとお茶とお話ができたら嬉しいです」
「噂の彼女といえば‥‥依頼人、儀式の最中にあまりでれでれしないようにな?」
「おおそうじゃ!! ぜひとも儀式にお邪魔させてほしいのう。ぴちぴちぎゃるの舞い姿はさぞ美しいことじゃろう!」
一行は、子供のように目が輝いている。グレイだけは落ち着いて出されたハーブティーをすすっているものの、他は全員、わくわくしているらしいことが伝わってくる。
だがそんな一行の様子と裏腹に、青年が目を丸くした。
「あれ、言ってませんでしたっけ。儀式もお祭りも、すぐには行われませんよ」
「なんやてぇ〜っ!?」
冒険者一行の心中を美鳳が代弁する。急に立ち上がったせいで、椅子が派手な音を立てて床に転がった。もちろん美鳳自身も盛大に驚いたための行動であるが。
だがしかし、やっぱりというか何と言うか、青年は気にせず話を続けた。
「一応皆さんが掃除してくれたみたいですけど、魔物の血で穢れてしまったので、泉を清めないことには儀式ができませんから。もろもろの準備もありますし、数日はかかるでしょうね」
「で、では、わしらは‥‥いや、わしは、ぴちぴちぎゃるを鑑賞できんというのか!?」
セイヤーの顔面は真っ青も真っ青、泉の水のように澄んだ青になっている。
「ギルドに報告するために、キャメロットへ戻らなければならないんでしょう? だとすると、儀式の日までずっとこの村に滞在することはできないですよね」
「そんな‥‥わしの、楽しみが‥‥」
「でも、厄払いも兼ねて今年のお祭りは派手にしようって話になっているので、またギルドに赴いて冒険者の派遣をお願いするつもりです。冒険者って色々な特技を持っている人が多いと聞きますし、お祭りを盛り上げてもらおうと思って」
すがすがしすぎる依頼人の笑顔。
聞こえてくる鳥の鳴き声すらも虚しく響く。
依頼の目的は達したはずなのに、なぜこんなにもやりきれないのか。
冒険者達は脱力し、テーブルに突っ伏した。