【もえでび】いっそ葱は忘れて。

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月26日〜10月01日

リプレイ公開日:2007年10月06日

●オープニング

 鎌倉は江の島の一角で、やや育った葱達がそよそよと風に吹かれてなびいている。イギリスからやってきたカマバット一家が、ご近所の農家から苗を分けてもらい、自宅の裏庭で栽培しているものだ。
 初めての事ばかりで、冒険者に手伝ってもらいようやく形になった、こじんまりとした畑。それは、妻を持ち、息子も生まれた、カマバット家の跡継ぎであるヘモグロビンの心を映し出していた。
「ちっ‥‥こないに小さくまとまりおってからに」
 愛する妻子を養う為に作られた存在へ、ひとりのシフールがその上空に浮かびながら、憎々しげな視線を落としていた。
「折角ジャパンまで葱を広めるゆうからついてきたっちゅうのに、なんや、このザマは‥‥」
 彼の名前はコウ。カマバット一家と一緒にジャパンへと渡ってきた、数少ないフライング葱のファンである。ジャパン語が心もとない一家の通訳として、日々、親身になって彼らの手伝いをしている。
 ――はずだったのだが。
「わいの事までこき使いおって。葱を広めるんやなかったんかっちゅーの。なんや、わいは一家専属の便利屋か?」
 文句を垂れるその内容も、表情も、態度も、全てが一家の知るコウではなかった。明るく陽気な、まさにシフール然としていた青年はどこかにいってしまい、代わりに、近所の悪ガキも裸足で逃げ出すほどの悪人面をした、悪魔のような男がいた。
 いや‥‥もしかすると、本当に、悪魔なのかもしれなかった。ほんの一瞬だけ、腰とズボンとの隙間からのぞいた『アレ』は、シフールにはないモノだった。

 そんな自分の様子をうかがう二対の瞳にも、コウは気づいていた。
「‥‥あれが‥‥ご主人様の‥‥?」
「ああ‥‥いかにもご主人様好みだろう‥‥?」
 ぼそぼそとした声でのやり取りも耳に届く。自分を標的としているのは間違いないようだ。憂さ晴らしの為にはさてどう料理してやろうかと、唇の端を持ち上げる。
 じりじりと近寄ってくる男達。手には何かを持っているようだ。
 勢いよく、コウが振り向く。男達は一瞬怯んだものの、意を決して、自分達に課せられている任務の遂行に尽力した。

 ◆

 コウがいなくなった事は、その日の夜にはカマバット一家の者達の知るところとなっていた。
 近所の住人の証言により、二人の男達に連れ去られたのだという事も判明した。
 つまり、誘拐。

 ヘモグロビンは青ざめた表情で方々を探し回り、男達が江の島を出て鎌倉の街のほうへ向かったと知るや否やそちらにも足を伸ばし、遂に、男二人の行き先を突き止めた。
 それは、鎌倉の中ではなかなかに幅を利かせている商人の店だという。悪い事に、身寄りのない子供達を集めては売り飛ばしたり、気に入った子供(主に男子らしい)は傍において昼夜なく愛で続けるという、まさに悪者な噂が耐えない人物だった。柄は悪いが体格はいい男達が出入りしているという事もあって、ヘモグロビンはよりよい方法でコウを助けようと決心した。
 冒険者ギルドへ頼む事にしたのである。

 ◆

「ちょっ、何やねんお前ら! わいの服を脱がしてどうするつもりやっ!!」
 コウは叫んでいた。だが内心ではまた舌打ちをしていた。10人近い男達に囲まれているので、迂闊に手を出しては逆に自分の身に危険が及ぶと判断しての事だ。
「ご主人様の為にこれを着るのだ!」
「んなっ‥‥て、なんやコレ」
 屈強な男に手渡されたのは、なんとヤギの着ぐるみだった。

 この次の日から、悪徳商人の屋敷の周りを、なぜかヤギの着ぐるみで身を包んだ柄の悪い男達の姿が多数見かけられるようになった。そしてそんな気味の悪い着ぐるみ集団に君臨するように、愛らしい着ぐるみがまぎれていたとか――

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea2563 ガユス・アマンシール(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea9922 桜 あんこ(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec2197 神山 神奈(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec3807 椋鳥 亞沙(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

来生 十四郎(ea5386

●リプレイ本文


「変態に目を付けられるとは被害者も不運だな」
 ガユス・アマンシール(ea2563)の述べた感想は、救出対象であるコウの現状を指してのものだった。
「ちゃんとコウ君のこと見つけてこなくっちゃ‥‥困ってるのは放っておけないもんね」
 コウ、そして依頼人であるヘモグロビンと、たった一回ではあるが会った事がある白井鈴(ea4026)は自分に気合を入れるようにそう言った。ちゃんと顔を覚えているかどうかにはやや不安そうだが。
 だがその不安を払拭するのは、何度も会っているチップ・エイオータ(ea0061)。コウの特徴を皆に説明して聞かせる。
「イギリスから渡ってきたんだけど、通訳ができるくらいにジャパン語はぺらぺらだよ。ただ、ちょっと訛りがあるみたいだけど」
「それは大きな特徴だな」
「でしょ? あと、シフールさんだから羽根があって、それはこんな感じで――」
「うん、把握‥‥」
 日向大輝(ea3597)と瀬崎鐶(ec0097)が真面目に頷き、情報を頭に叩き込む。 
「じゃあ、僕は商人さんの評判でも調べてこようかな☆ 皆はどうする?」
「私も聞き込みに参ります!」
 胸に垂れてくる長い髪を横にどけながら神山神奈(ec2197)が明るく言うと、桜あんこ(ea9922)が自分の意気込みを示して拳を握り締めた。
「屋敷の場所はすぐわかるでしょう。私がブレスセンサーで中をうかがいます」
「それを確認してから、おいらは迷子の振りして周りをうろつくね」
「探している生き別れの弟を見たと聞いたって言う名目で、俺は正面から行く」
「僕も周囲をうろつくよ。ペットの散歩って称して。ね、獅子丸、龍丸」
「わんっ」
「おんっ」
「となると‥‥僕は、騒ぎの隙に忍び込む事になるね」
 救出しなければならないのはコウだけではない、と何人かは思っていた。少年達が捕まっているというのが本当ならば、助け出さなくてはならないのだ。少年達やコウの居場所は、ガユスの魔法が一定の範囲まで絞り込んでくれるだろう。神奈とあんこが持ってきてくれるであろう情報と合わせた後、すり合わせを経てチップ、大輝、鈴の囮三人組をメインとして屋敷の者の気を引きつけている間に、鐶が忍び込む。
 完璧だ。ヘモグロビンがこの場にいればそうのたまっただろう。
 万が一の事を考えて武器の貸し借りをした彼らは、鎌倉の街に散った。


「ヤギの着ぐるみ集団が、鎌倉の名物だとお聞きして、楽しみにして来たのですが、どこらで見かけることができますか?」
 あんこにこう尋ねられた土産物屋の奥さんは、ぽかんと開けた口がしばらく閉まらなかった。
 なんでも、そんな名物はないそうだ。
「でも私はそう聞いて‥‥」
「どこかで話が変わったんだろうね。名物ってわけじゃないんだよ。最近気味悪いヤギの集団が闊歩してるのは事実だけどね」
 よし来た! 心の中で万歳三唱したあんこに、奥さんは「ほら来たよ」と指で示してくれた。あんこが振り向くとそこには――むくつけきヤギ達が軽やかにステップを踏みながら進んでいくという、彼女が凍りつくのも仕方がないほどのすさまじい光景が繰り広げられていた。

 一方、神奈は食事処を兼ねた酒場に来ていた。食事をしている者だけでなく昼間から酒を飲む輩も幾人かは必ずいるもので、そのどちらにともなく彼女はしなを作り、甘い声をかけた。
「ねーぇ、ちょぉっと話を聞きたいんだけどなっ☆」
 半分はだけたような胸元に釘付けになる男達。対して女達は面白くなさそうに眉をひそめたが、神奈は全然気にしない。気にしないどころか、そんな女たちの背後から、肩を強く抱きしめた。羨ましげに見てくる男達。女達は顔を赤くしながら神奈をはがそうとするが、なぜか神奈はとても力強くて、並の女の力では到底はがせないのであったとさ。
「‥‥黒い噂のあるっていう商人の屋敷の場所。知らない?」
 耳元で囁けば、抱きつかれている女の顔色がまた変わる。なぜそれを、と言いたげな目で神奈を見るも、神奈はにっこり明るい笑顔だった。

 以後も各自で情報収集を続けるうちに、どうも藩の上のほうにいる人物と繋がりがあるのではないかと思われてきた。つまり、真っ向からぶつかっていっては、特に大輝が考えていたように、こちらが悪者にされてしまうだろう。
「人身売買をしているなら裏帳簿があると思う‥‥まかせて」
 改めて気合を込める鐶の横では、ガユスが丁度何回目かの魔法を使用し終えたところだった。
「確かにシフールと思しき、小さい呼吸音を聞きました。これがコウ青年かどうかは断言出来ませんが。屋敷内にシフールがいるのは間違いありません」
 余程自信があるのか、断言する。
「閉じ込められてる子供達じゃなくて?」
「子供よりも更に小さいのがひとつありました。‥‥ただ、多くの呼吸に囲まれていたのが気がかりです」
 鈴の疑問にも明確に答えてみせたが、判明した問題点もあったようだ。
「だんだん暗くなってきたね‥‥。なるべく早く助けないと、コウさんが何をされるかわからないよ」
「コウさんらしきシフールの姿が、ヤギ行列の中に紛れていたのを見たように思います。あれは‥‥あれは恐らく拷問です!」
 チップの言葉に、可愛らしいヤギの皮をかぶったごっつい集団を思い出してしまったあんこが目を見開いてわなわなと震え始めた。むんむんもっさりむわっとした空気にか弱いシフールがいつまで耐え切れるというのか。拷問以外の何であるというのか。
「うーん‥‥? 僕が聞いた話だと、ごつい集団の中にいた小さいヤギ、すごく楽しそうに他のヤギを率いてたって」
「今の状況を楽しんでるって事か?」
 不思議そうに疑問を投げかける大輝だったが、神奈にもそれはわからない。本人に直接聞かなければわかるはずもない。


 囮達は一斉に行動を開始した。そのほうが警備を分散させられると判断したからだ。
「今日もお星様が綺麗だねー、獅子丸、龍丸♪」
「わんっ」
「おんっ」
 犬の散歩をしながら屋敷の周囲を歩くのは鈴、ちなみに現在3周目。
「わ、月も綺麗だねっ。こんなに綺麗な夜は、月からうさぎさんが降りてきちゃうかも?」
「残念、ヤギさんだ」
 純粋に夜空を楽しみ始めていた鈴の背中に届く、野太い声。そのまま口を塞がれるも、着ぐるみのもふっとした布の感触だったのが救いか。
 抱えるようにして主人を攫う怪しすぎるヤギに向けて、二頭の忍犬がすかさず吠えた。だが鈴はそんな彼らにかろうじて動かせる指先だけで指示を出す。仲間の所に行け、と。

「頼もうっ」
 真っ向から乗り込んでいった大輝は、すんなりと奥まで通される事となった。いい人ぶって警戒心をなくさせるという手段なのだろうと、ゴツイヤギについていく。途中、庭の見える廊下を通った時、視界の端に二つの影がちらと動くのが見えた。鈴の忍犬達だ。
(「うまくやってくれよ。着ぐるみまでは我慢するけど、それ以上は断固拒否だからな」)
 男相手に、しかも性悪な助平親父なんて神皇様に頼まれたって無理だ。想像しただけで身の毛もよだつ。その割には、すぐ追い出されない為にも胸元や裾を少し緩めてやるか、という気遣いをしてやらねばならないあたり、腹が立つ。
「ここだ」
 ヤギが足を止めて振り向く。目の前には閉じられた襖。この向こうに性悪助平親父がいるのだ。どう心を決めようとも嫌なものは嫌だが、今更引けない。
 歯を食いしばりながら、大輝は襖に手を伸ばした。

「‥‥ぐすっ、ここどこー!? おいらの家はどこーっ!?」
「なんだなんだ、迷子か?」
 お使いからの帰り道に迷った子供を演じるチップ。パラの証であるやや尖った耳さえ隠してしまえば、身長的には子供であると言い張れる。大声で泣きじゃくる真似をしていると、むくつけきヤギが現れた。
「歩き回って疲れただろう、ここで休んでいくといい。ほら、菓子をやるぞ」
 ヒゲモジャという言葉が実にふさわしいヤギがあまりに衝撃的で一瞬固まってしまったものの、チップも屋敷内への侵入に成功した。
「これからお前に会わせたい人がいる。名前を述べて自己紹介するんだぞ」
「なんで自己紹介しなきゃいけないの?」
「お前の家を探す為には、情報が必要だからな」
 なるほど、とチップは思う。そこで子供の出自を再確認して、そのまま誘拐しても平気そうな者を選ぶわけだ。しかしコウを攫ったのが運の尽き、誘拐犯をとっちめて絶対にコウを連れ帰るのだと、促されるまま襖の奥に進んだ。
 そこには先客がいた。大輝だ。まだ何もされていない様子からして、自己紹介の最中だったのだろう。御簾の向こうにいるせいで影しかわからない商人への。
「ああ!?」
 その影が騒いで動いた。近くに控えていたヤギを呼びつけて、耳元で内緒話をしている。影が騒いだ声に、チップは聞き覚えがあるように感じた。
「あの影、助平親父じゃない」
 大輝がヤギに聞き取られないよう声を落として囁く。
「じゃあ――」
「ほら、入れ!」
 そこへ、もう一人の囮、鈴がまるで猫のように、ヤギに首根っこを掴まれて入ってくる。ぽーんと半ば放り投げられるようにされたのにしっかりと着地するのは、さすがだった。
「何やっとんねんお前ら! 一人目はともかく、二人目と三人目は完璧に大人や! 子供やないでっ」
 怒ったような呆れたような罵り声がして、御簾の向こうからヤギが吹っ飛ばされてくる。白い塊から飛び蹴りをくらっての事だった。
 唖然とする大輝、チップ、鈴のいるほうへ、その白い塊が顔を向ける。周囲の、夢に見たならそれは悪夢であるはずのごっついヤギ達と比べ、やけに小さくて可愛らしいヤギが。
「「コウ君!」」
「やっぱり」
「‥‥遠路はるばる、よぅ来たなぁ」
 コウはふんと鼻を鳴らして大仰に振舞った。こんな人だったろうかと、鈴が首を傾げる。確かに言いたい事は我慢せず言ってしまう性格ではあったようだが、明るくハキハキとして憎めない人ではなかったろうか?
「まあ無事に見つかった事だし、帰ろう」
 そう言って差し伸べた大輝の手を、コウはなんと叩き落した。大輝は一瞬、何が起きたのかわからないという顔になった。助けに来た相手に拒否されたのだからだが、コウは全く気に留めない様子で首を鳴らしている。
「なんで帰らにゃあかんねん」
「ヘモさんが心配してるのに!?」
「だから何や?」
 チップが食い下がってもどこ吹く風。今度は指を鳴らした。ごついヤギ達が人数の優勢に任せてぐるりと囮三人組を取り囲み、どこから取り出したのか刀を構える。
「今は用事で留守やけどな、ここの主はわいにベタ惚れや。相手すんの拒んでも、つれない態度がまたイイとかぬかしてなぁ。何でもわいの好きにさせてくれるんや。江の島で通訳やってるより、よっぽど楽な生活させてもろうてるで」
 事実そうなのだろう。仕事もせずにおいしい食事を出してもらい、今はごついヤギになっている男達をこき使い、文字通り毎日を遊んで暮らしているに違いない。
「なんでそういう事言うの。ヘモさんのジャパンでの苦労や努力、コウ君は傍で見て知ってるはずだよ?」
「まぁな。けど、それとこれとは別や」
「コウ君だってヘモさんを応援してたじゃない。一体どうしちゃったのっ?」
 二人が言い合う間にも、ヤギな男達はじりじりと輪を狭めてくる。大輝が腰から木刀を引き抜くのと同時に、鈴が袖口から小柄を滑らせて出し、手の内に準備する。荒事に持ち込む気はなかったのだが、こうなってしまって他に手段もなさそうだった。
「帰りたいならお前らだけで帰れや。わいは帰らんからなっ!!」
「本当に、どうしちゃったの‥‥、まるで悪魔にとり憑かれてるみたいだよ」
 丁度喧嘩でもしていたから帰りにくいのかとチップは最初考えたのだが、コウの頑なさを見る限りではそんなものではないように感じられた。人が変わったような、否、本当に『中身』が変わってしまったような――
 そんなチップの今にも泣きそうな叫びで、コウの表情は変化した。図星をさされた、いや、もっとずっと厳しく、憎しみすらも抱いていると感じさせるほどのものに。
 まさか。チップは携帯品の袋に手を突っ込んだ。聖水の瓶を探り当て、取り出し、
「わんわんわんっ!!」
「おぅーんっ!!」
 その時、二頭の犬が主を呼ぶ声がした。捕らわれの子供達を見つけた合図だった。鈴が咄嗟に小柄を振るい、愛しい二匹の元への突破口を開く。
「チップさん! ‥‥くそっ」
 互いが蛇に睨まれた蛙の如く硬直してしまっている、チップとコウ。大輝も躊躇わずに木刀を唸らせた。


「人の趣味にとやかく言うつもりはありません‥‥」
 哀しげにあんこが呟く。
「けれど貴方がたは変態かつ誘拐犯! 証拠はあがっています!」
 中から子供達のすすり泣きが聞こえてくる蔵の前でむさいヤギ達と対峙する、あんこ、鐶、神奈、ガユス、そして二匹の忍犬。鐶の胸元からは内容の自ずと知れる黒い表紙の書物がのぞいている。悪事の証拠となるそれをお上へ提出しなければならないが、子供達も助けなくてはならない。しかし生憎と今の四人の中に鍵開けをできる者がいないのだ。
 そんな不利を察してか、ヤギ達が月明かりに刃を煌めかせる。四人と二匹も負けてはいない。それぞれの武器を構え、いつでも踏み込めるように足場を固める。
「待て! これが見えないのかっ」
「わいが羽ばたけないからってこの扱いは酷すぎるやろうが! 放せっつーてるやろがぁっ」
 そこへ到着したのが、木刀の先にコウの着ている着ぐるみのフードをひっかけた大輝だった。商人のお気に入りであるコウに傷をつけてはならないと言われているらしく、ヤギ達は大人しく数歩下がった。
 蔵には複数個の錠前がぶら下がっていたが、チップと鈴が二人がかりで、素早くその全てを片付ける。扉を開けると勢いよく子供達が飛び出してきた。
 女性陣で彼らをせっせと宥めながら、じりじりと門に向かう。騒ぎ続けるコウを盾にして。

 何とか屋敷を出て、ここまで来てしまえばもう大丈夫だろうという所までやってくる。子供達は先程、詰所に預けてきた。
 後は――
「そんな目で見んなや! 何やその各種武器はっ‥‥胸に挟むなぁっ!!」
 もしかすると、本当にもしかするとだけど、悪魔が憑いてるのかも。提言したのはチップだった。
 仮に悪魔が憑いているのなら、衝撃を与えれば離れるかもしれない。神奈の胸元で苦しがるコウを、皆が注視している。
「‥‥大丈夫。痛いけど、死なないから‥‥」
「木刀はともかくメイスは頭が割れるわぁっ!!」
 いいツッコミだった。ツッコまれた鐶は少し考えてから、やはり一回は衝撃を与えてみる事を提案した。

 各自手加減をしたので、血が流れる事はなかったが、コウは気絶してしまった。これでさすがに悪魔は離れただろうと皆で胸を撫で下ろす。
 この時に着ぐるみを脱がしていれば、例の尻尾を見れただろうに。