それでもカワイイ我が娘

■ショートシナリオ&プロモート


担当:言の羽

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月13日〜08月18日

リプレイ公開日:2005年08月20日

●オープニング

「冒険者ギルドへようこそ♪ 依頼の申し込みですかぁ〜?」
 年上趣味の受付嬢は、猫なで声で今回の依頼人を迎えた。なぜなら、依頼人はロマンスグレーの素敵なおじさまだったからである。
 外見年齢によってすぐさま受付嬢の優しい対応を得た依頼人は、彼女から勧められた椅子に座った。ちなみにその椅子。つい先程まで他の受付員が使っていた物である。もちろん受付嬢が有無を言わせず徴収してきたのだ。
「それでは依頼の内容と、次に条件や状況などの説明をお願いします♪」
 奥の部屋では椅子を奪われた受付員が涙している。しかしそんな些事を気にかけている暇は、今の受付嬢には、ない。
「あ、でもその前に、お名前と、年齢と、仕事は何をなされているのかと、‥‥そうそう長男ですか? ご両親は?」
「は?」
 もはや仕事をそっちのけにして、自分にとってのみ重要な情報を聞き出そうとする受付嬢。
 その目はまさに獲物を狙う鷹のそれ。
「‥‥名前はラルフ・パーセライト。歳は数日前に誕生日を迎えたので38です。仕事は一応商人を。長男‥‥というか、兄弟はいません。両親は引退して、田舎でのんびり暮らしています」
 生真面目に答える依頼人。
 商人なのにそんなことでいいのだろうか。いつかだまされやしないだろうか。
 ともかく、依頼人の返答を聞き、受付嬢は心の中で神に感謝した。ああ、神よ。ようやくあたしも運命の方と巡り会うことができたのですね。こんな素敵な男性を私の元に送り届けてくださって、本当にありがとうございます。
「依頼の話をしてもいいでしょうか」
「ええ、どうぞ♪」
 幸せいっぱいの受付嬢は、ここぞとばかりに最上級の笑顔を振りまく‥‥しかし、彼女は次の瞬間、一気に凍りつくのであった。

「娘を連れ戻してほしいんです」

 ◆

 依頼人ラルフ・パーセライトいわく。
 彼の娘さんは腕っ節の強さというものにとても憧れているそうな。
 毎朝走り込みをしたり、学友(男子)と組み手をしたり、自分の部屋を改造して訓練室にしてしまったり、近所の悪ガキを拳で説得したり。
 一番ショックだったのは、誕生日にプレゼントした大きなぬいぐるみに技をかけている姿を見たこと。
 だが元気ならそれでいい。欲を言えばもう少し女らしくしてほしいところだが、無理だろう。強引に変えたところで、娘の持つ良さを失うことにしかならないに違いない。
 そういう風に考えて、今までは許容してきた。

 だが魔物退治に出かけたとあっては、もう黙ってなどいられない。
 娘の置き手紙によると、魔物が街道に出没し、通る人を襲っているそうだが‥‥親としては、そこでどうして娘が行かなくてはならないのかがわからない。
 まあそれも当然。行かなくてはならないのではなく、ただ行きたいだけ。行って自分の力がどれほどのものか、確かめたいだけなのだ。

 ◆

 とりあえず語るだけ語って、ラルフは娘の置き手紙を提出した。
 燃えつきかけている受付嬢が虚ろな瞳で流し読みすると、出没している魔物の種類やら場所やらが書いてある。‥‥律儀な。
 娘の性格に察しがついたところで、受付嬢、最後に足掻いた。
「あの‥‥‥‥‥‥奥様は‥‥‥‥」
 賭けだった。
 結婚はしないで養子をとったかもしれないじゃないか、と。
「妻は‥‥娘に何かあったら自分も後を追うと騒いでいます。妻と娘を失いたくないんです! どうか、どうかよろしくお願いします!」
 ――ああ、やっぱり奥さんいるんだ。
 ――神様の、意地悪。
 受付嬢は今日の仕事が終わったらヤケ食いをしようと決めた。

●今回の参加者

 ea0604 龍星 美星(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0200 オードフェルト・ベルゼビュート(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1023 クラウ・レイウイング(36歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2656 イルファ・カーバンクル(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb2669 シヴァ・ブラッディロード(29歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 eb3260 賀上 綾華(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●道程にて
 今回の依頼の目的は、依頼人の娘セレナ・パーセライトを連れ戻すこと。ゴブリンの出現する場所に向かった彼女‥‥その彼女がゴブリンと接触してしまう前に追いつきたい冒険者一行は、ある者は馬、ある者はセブンリーグブーツで、移動速度を高めたのだった。
「‥‥セレナ‥‥か。困ってる人を見たら放っておけないタイプなのかな‥‥?」
 手綱を握りながらオードフェルト・ベルゼビュート(eb0200)が首をかしげた。
「早くセレナ嬢に追いつかねばならんな‥‥。彼女ひとりでは複数のゴブリンを相手にすることなどできまい」
「そうだよね。必ず、助けなきゃ!」
 シヴァ・ブラッディロード(eb2669)が言うと、彼女と手を繋いでいるイルファ・カーバンクル(eb2656)が応えた。――関係ないことだが、馬と同じ速度で歩きつつも手を繋いで会話している姿は、傍から見ていると異様だ。
「‥‥呆れてものも言えぬ」
 意気込みを見せる者がいる一方で、同じくすたすたと歩いているクラウ・レイウイング(eb1023)がため息とともに呟いた。
「いかに低級のゴブリンとはいえ、正式な訓練も受けていない小娘がたった一人で‥‥。愚か者は少々痛い目に会った方が良いとも思うが、父親の気持ちを考えるとそうもいくまいな」
「アタシもそう思うアルヨ。親に心配をかけるのはダメネ! 武侠タル者、父祖の愛を裏切ってはダメアル!」
 クラウは独り言のつもりだった。しかし龍星美星(ea0604)には聞こえていたようだ。彼女は馬上で頬を膨らませ、クラウに意見をぶつけていった。
「‥‥武侠とは何だ?」
「武侠トハ武ヲ以ッテ侠ヲ為ス者ナリ! マァ簡単に言うト強く優しく! って事アル」
 威勢良く説明する美星。並よりも大きめの胸を反らして、馬から落ちそうになってクラウに助けてもらう羽目になったのは秘密だ。

 街道を道なりに進んでいるというのに、一日目は誰の姿も見かけることはなかった。ゴブリンが出没するという情報が広まっているのかもしれない。

●発見せり
 二日目になって、数人の旅人とすれ違った。足早に通り過ぎていったのはやはり、ゴブリンに遭遇しないうちに街へ着いてしまいたいからだろう。わざわざ「危ないぞ」と忠告してくれる者もいた。
「ありがとうございます。しかし私達は冒険者ですから」
 気遣ってくれた中年男性に対し、賀上綾華(eb3260)は微笑みながら礼をした。
「そうかい? じゃあさっきの女の子も冒険者だったのかな」
「女の子!?」
「ああ。15、6の女の子さ。魔物が出るかもしれないって教えたんだが、自分はその魔物を退治しにきたんだと言ってな。走っていっちまったよ」
 男性の話を聞いて、全員が顔を見合わせた。その女の子がセレナに違いない。
 一行は男性に感謝を述べ、再び、移動を開始した。ゴブリン達が出現する地点まであとわずかしかない。はやる気持ちを抑えつつも、馬の腹を蹴り、足を動かし、先を急ぐ。
 すると程なくして、道端に座り込んで休憩をしている人影が見えた。

「私に何か御用ですか?」
 銀の髪を高い位置でひとつにまとめ、シャツとズボンという動きやすそうな服装で、両の拳には保護を目的とした細い布を巻きつけている――依頼人である父ラルフが表現したままの格好だ。念のため名前を尋ねてみたが、やはりセレナ・パーセライトその人だった。
「貴女のお父上から依頼されて、貴女の保護の為に参りました」
「保護?」
 綾華の言葉に、セレナの眉がぴくりと動く。
「私は自分の意思で魔物と戦いに来たんです。あなたがたに保護されるいわれはありません」
「貴女にも言い分はお有りでしょうが、どう言われようと我々は助勢します。単独で挑む愚は論外として、こちらの戦いぶりから貴女も学ぶものがあるでしょう」
「それは私が愚かだと仰りたいのですか」
「愚かでしょう。出没する魔物が複数であることを貴女はご存知だったでしょうに、それでも独りで戦おうとするなんて愚か以外の何ものでもありません」
「‥‥失礼な人ですね。なぜあなたにそこまで言われなければならないんですか」
 口ぶりと表情からして、セレナの機嫌が最悪であることは、誰の目にも明らか。対して綾華も、厳しい姿勢を保ったまま。
 一触即発の雰囲気にイルファがおろおろしはじめて、手にかいた汗が、繋いだ先のシヴァにも感じられた頃‥‥そのシヴァが、突如顔を上げる。
「シヴァ? どうし――」

「きゃああああああああああああ!!!」

 直後、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。

●対決
 街道の少し先。ふたりの若い女性クレリックがゴブリンの集団に追われ、必死になってこちらへ逃げてくるのが見える。巡礼か、もしくは何か他の用事だったのか、ともかくクレリック達は護衛も連れていなければ、戦う力も持っていないようだ。
 ゴブリン達はそんな彼女達の後ろに張り付き、追いかけるという行為をいやらしくも楽しんでいる。ゴブリンの数は全部で5体。容赦なくクレリック達を狙っている斧持ちとは別に、フレイルを振り回しているものもいる。
 この光景に、たまらずセレナが走り出した。
「セレナ殿!?」
「まずいアル!」
 セレナは持ち前の素早さを活かして、クレリックとゴブリンの間に割り込んだ。そしてそのままゴブリンの腹を殴る。だがゴブリンに怯んだ様子はなく、むしろ、より高く斧を振り上げた。
 腕か、胴体か、頭か。どこかを深く抉られる。その恐怖にセレナの全身は凍りつき、つい見開いてしまった目を急いで閉じて、来るべき時に備えた。
 ‥‥が、時は訪れない。恐る恐る瞼を開いたセレナの視界に飛び込んできたのは、腕で斧の柄を受け止めている美星の背中だった。
「何をボーッとしているアルカ! 早くその人達を連れて後ろに下がるアル!」
 振り向くことなく美星は叫び、同時にゴブリンの腹を蹴り飛ばすことで間合いを確保する。すると狙い済ましたようなタイミングでイルファの放った矢が飛んできて、ゴブリンの肩に突き刺さった。
 たまらずうめき声を上げるゴブリン。そのうめき声が戦闘開始の合図となり、ゴブリン達は鎧を身に付けている1体を中心に武器を構えて並び、冒険者達はセレナとクレリック達の前で扇形に陣を組む。
「セレナ‥‥今回はそこで大人しく見てろ。‥‥こういうのは本来俺らの仕事だ」
 言うなりオードフェルトは、肩に担いでいたラージクレイモアを下ろし、力を込めて握りなおした。

 髪をなびかせ、ゴブリンを翻弄するシヴァ。
 シヴァが体を引いたところに矢を撃つイルファ。
 落ち着き払って急所を狙うクラウ。
 わざわざ名乗りを上げ立ち向かう綾華。
 ルビーに似た目を煌めかせて剣を叩きつけるオードフェルト。
 明らかに戦闘慣れしているゴブリンを一手に引き受ける美星。

 セレナは奥歯を噛み締めた。隣を見れば、クレリック達が肩を寄せ合い震えながら、戦いが早く終わることを祈っている。
 セレナは思う。戦う者と震える者とを見比べて。私はこちら側にはいたくない。私はあちら側に行きたい。戦う者の側へ。強い者の側へ。
「私だって‥‥私だってぇぇぇ!」
 悔しそうに雄叫びを上げ、セレナは正面からゴブリンに突進する。大方のゴブリンは既に膝をついている。残るは美星の相手、鎧を着たゴブリン。
 今まさに奥義を繰り出そうとしていた美星が驚いて振り向く。セレナの腕がゴブリンの腕をつかもうとして、フレイルに阻まれる。だがセレナはあきらめない。もう一度試みて、見事ゴブリンの胴体を捕らえ、投げ飛ばした。
「‥‥‥‥‥‥」
 呆然とする美星。そこへイルファの檄が飛ぶ。
「今がチャンスだよ!」
「はっ、そ、そうアル! 奥義! 龍星鳥爪撃!!」
 素早く幾度も蹴りを繰り出されてはゴブリンもひとたまりもなく、その動きをとらえることもできないまま息の根が絶えた。

●お小言の時間
「セレナ・パーセライトッ!!」
 綾華からリカバーポーションを渡され、飲みにくさに唇を尖らせるセレナだったが、彼女の前には美星が仁王立ちで立ちはだかった。
 攻撃のみでなく回避にも優れた彼女は、ひとまわり強いゴブリンと1対1で戦っていたにもかかわらず、無傷だ。多少の疲れはあるだろうがそれを感じさせない美星に、セレナは肩で息をする自分がやけに恥ずかしく思えた。
「いいアルか、勇気と無謀は違うアル。そして自分の強さと敵の強さも分からずに、ただ力試しシタイ、なんていうのは最ッ低の愚かな行いアル!」
「‥‥あなたまで私を愚かだと言うのですか。これでも私はできる限りの努力を重ねてきているんです、無闇に否定しないでください」
「黙れ」
 セレナの主張を、クラウの凛とした声が切り捨てる。
「実力の無い者がいかに喚こうと説得力は無い。認めて欲しければ自らを鍛え上げ実力を見せてから言うがいい」
「同感です。魔物との戦いは喧嘩とは異なるのですから。死の危険はより身近にあることを弁えた上で、訓練を積んでから挑まれるべきでしょう」
 空になったポーションの瓶をしまいつつ綾華が続けて、セレナは愕然とした。話をするのに目も合わせてもらえないほど、自分は呆れられているのか、と。
 しん、とその場が静まりかえる。クレリック達がお礼を言うに言えず、困惑している。
「で、でも、とにかく無事でよかったよ! お父さん、きっと首を長くしてキミの帰りを待ってるよ! うん、きっとそう!」
 明るく手を叩いて、イルファは話題を切り替えることに挑んだ。思惑を察してシヴァがうなずき、他の者も肩をすくめて、以後は何も言わなかった。

 ただ、帰り道で、美星がこう告げた。
「いい師匠と、そして、背中を任せられる、いい仲間を得て。それから、冒険に出るアルよ 」
 ぽんぽんと温かい手で肩を叩かれて、不覚にも、セレナの瞳に涙が滲んだ。自分に足りないものは何なのか、わかったような気がしたのだ。
 そして同時に、これから目指すものも、しっかりと形を持って、浮かんできたのだった。