【街角冒険者】対決! しばわんこ
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■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月31日〜02月05日
リプレイ公開日:2008年02月13日
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●オープニング
江戸の街の一角に、老舗の呉服屋さんがあります。
呉服屋さんの名前は『鈴乃屋』といいます。おかげさまで繁盛しています。切り盛りしている若旦那とその奥様は毎日が大忙しです。
もうすぐ七歳になる一人娘の小鈴は、最近、お母さんとのお勉強のほかに、おうちのお手伝いもするようになりました。畳を箒で掃いたり、縁側を雑巾がけしたり。特に水仕事は冬場にはとてもつらい作業ですが、自分がつらい分だけ他の人がつらくないのだと思うと、小鈴の中にはどんどんやる気が湧いてくるのでした。
◆
でも、同じ年頃のお友達がいないのは相変わらずです。
今日の遊び相手も、お人形と、猫の母子である「かえで」と「もみじ」。人の子供と遊んだ事なんて、本当に数えられるほどしかありません。お父さんとお母さんはそんな小鈴を心配しているのですが、お仕事が忙しい事もあって、どうしたものかと毎日悩んでいました。
ところがある日、転機が訪れました。
「あらまあ、元気のよさそうなお坊ちゃんで」
「お坊ちゃんっていうガラじゃないんですけどね、とにかく元気がいい事だけがとりえの子で」
お庭の奥にある裏口で、お母さんとおばさんがお話をしていました。そのおばさんは3軒向こうの家に住んでいて、大人のしばわんこであるシロの飼い主さんです。
このシロ、いい匂いのするものが大好きなんです。以前、小鈴が冒険者のお姉さん達からもらった香り袋入りのお人形を持ち去った事があります。今も時折抜け出してきては、小鈴がお人形で遊ぶ様子をじっと眺めています。大人で体の大きいわんこですから、小鈴はシロが苦手です。
そしてただでさえ小鈴はシロが苦手なのに、更に苦手なものが増えようとしていました。
おばさんの横には、シロだけでなく、一人の男の子がいました。その男の子も、縁側で遊ぶ小鈴をじっと眺めています。とても人見知りをする小鈴は、見るからにいたずらっ子兼ガキ大将っぽいこの男の子に対し、一瞬で身構えてしまいました。
「何してるの、小鈴、いらっしゃい。ご挨拶なさい」
障子の陰に隠れても、お母さんに呼ばれては仕方ありません。小鈴はびくびくしながら出て行きました。半ば呆れるお母さんの着物の裾を掴みながら、ぺこりと頭を下げました。
正太郎と言うらしいその男の子は、おばさんの妹夫婦の子供だそうです。妹夫婦は同じ江戸の街の別の地区に住んでいるのですが、もうすぐ赤ちゃんが生まれるので、おばさんのところにしばらく正太郎を預ける事になったようです。
「正太郎君はね、小鈴と同い年なんですって。仲良くしてもらいなさい」
お母さんはいい機会だと考えたようで、小鈴を前に押し出しました。
けれど小鈴にとってはたまったものではありませんでした。正太郎は見た目どおりの、いたずらっ子兼ガキ大将だったからです。
「何びびってんだよ。シロは頭は悪いけどいい奴なんだぞ」
小鈴がシロを怖がっている事に気づいた正太郎は、毎日お友達を連れてやってきては、小鈴にシロをけしかけました。逃げようとしても、正太郎のお友達が道を塞いでしまいます。最後には背中に乗っかられて、涎でべったべたにされてしまうのです。
何度も泣きそうになりました。お母さんに言おうかとも思いました。でも、お母さんは小鈴に、正太郎と仲良くしてもらいたいと願っていました。
小鈴を助けようと、自分の何倍も大きな相手に毛を逆立てるかえでともみじを見て、小鈴は歯を食いしばりました。
このままじゃダメなんだ。
小鈴はおこづかいの入った巾着を持って、冒険者ギルドに向かいました。
●リプレイ本文
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小鈴はぺちょりと頭を下げました。手には熨斗袋が握られています。小鳥遊郭之丞(eb9508)お姉さんが贈った物です。
「明けましておめでとう。遅くなったがお年玉だ」
中身はお年玉にしては豪華すぎるのですが、ここで断るのも失礼なので、小鈴のお母さんもありがたく受け取る事にしたのです。
「‥‥今回も宜しくお願いします」
「こちらこそ。詳しい事はこの子が教えてくれないのですが、なんだか面倒な事をお願いしたようで‥‥」
瀬崎鐶(ec0097)お姉さんはお母さんと挨拶を交わします。仕事を抜け出せないお父さんの分まで、小鈴の事を頼まれてしまいました。
「小鈴ちゃーんっ、会いたかったよぉー!」
大事な物専用箱に熨斗袋をしまう小鈴に、シルフィリア・ユピオーク(eb3525)お姉さんが飛びつこうとします。嬉しい反面びっくりした小鈴は、つい避けてしまいました。そして身を翻した先で、ぽすんっと日下部明穂(ec3527)お姉さんにぶつかったのです。
「あ‥‥」
「あらあら、周りはよく見ないと、危ないわよ」
小鈴にとって明穂お姉さんは初めて会う人です。何か考えるよりもずっと早く、小鈴の体は固くなってしまいました。
聞きしに勝る人見知りっぷりだと肩をすくめる明穂お姉さん。ちょっと悲しそうなお姉さんの顔を見て、小鈴は何か言わなきゃと口を開けたのですが、喉の奥で詰まってしまって言葉が出てきてくれません。
「なるほど、重傷ね」
明穂お姉さんの言葉にお母さんが苦笑いします。他のお姉さん達も顔を見合わせました。
「では、近くの茶屋にでも行きましょうか」
「いえ、このままこの母屋にいらしてください。私は店に戻りますので」
雰囲気を変えようと申し出たガユス・アマンシール(ea2563)お兄さんでしたが、それを制して、お母さんが立ち上がります。もう一度頭を下げると、部屋を出て行きました。
「ねえねえ、僕の出番まだー?」
すると、庭のほうから少しすねたような声が聞こえてきました。縁側にもたれるようにして地面に座り込んでいる、白井鈴(ea4026)お兄さんです。鈴お兄さんの隣には、首に忍者の額当てを巻きつけたかっこいいしばわんこと、小鈴が見た事のないわんこが、おとなしく並んでいます。
知らない人が明穂お姉さんの他にもいた事に気づいた小鈴は、隠れる場所を求めて、郭之丞お姉さんの背中に飛びつきました。郭之丞お姉さんの顔は一瞬とてつもなく緩んだものの、すぐにきゅっと口元が引き締められたのを、鐶お姉さんは見逃しませんでした。
●
「‥‥いいの?」
「いいんだよ、あっちはあっちに任せておこうね」
シルフィリアお姉さんは、小鈴を連れて奥まった部屋に移動しました。鐶お姉さん、ガユスお兄さん、足を綺麗に拭いたわんこ達を連れた鈴お兄さんも一緒です。小鈴がびくびくしているので、わんこ達と鈴お兄さんはお部屋の端っこにいなければなりませんでしたが。
「これを読んでみようか」
そう言ってシルフィリアお姉さんが広げたのは、写本『動物誌』。絵付きなので、文字の練習を始めて間もない小鈴でも理解できなくはないです。が、いかんせん、そこに載っているのは欧州近郊の山野で見かけられる動物ばかり。小鈴が怖がっているシロはしばわんこであり、この国固有の犬種。『動物誌』を見ても載っていません。
「では私が代わりましょう。お嬢ちゃん、いいかな」
眉間に皺を寄せているとガユスお兄さんがそう切り出したので、小鈴は正座をしなおして、背筋を伸ばします。
「お嬢ちゃんは人見知りです。人見知り‥‥わかりますか?」
こくりと小鈴が頷いたので、お兄さんも頷き返します。
「初見の人を恐れる事が人見知りです。恐れとは大抵が未知の恐怖。つまり、相手が良く判らない事が怖いのです」
お兄さんの言葉には時々、小鈴にはやや難しいものが含まれています。それでもだいぶ噛み砕いた後のものなのですが、なかなか理解が追いつきません。小鈴なりに頭をめいっぱい使っている事は傍目からもわかるので、お兄さんはなるべくゆっくり、お話を続けます。
「今回は、シロと正太郎君達の事を良く知らない事が怖いという事になりますので、まず犬について勉強しましょう」
「‥‥はい」
「いい返事です」
満足気に頷いたガユスお兄さん――いえ、ガユス先生の授業の始まりです。
「さて、犬とは、そもそも群れで生きる動物です。群れとは、家族、一族の事です。そして群れでは上下関係が厳しいのです。つまり偉い奴に弱い」
小鈴がお父さんとお母さんの言う事を聞くように、わんこも目上の人のいう事を聞くのだと小鈴は理解しました。
「シロはおばちゃんの家族です。家族の中でおばさんはシロより偉い。それをシロは知っています。そして、おばさんと小鈴ちゃんは仲良しですから、シロは小鈴ちゃんを無視できません。つまりおばさんと仲良しの小鈴ちゃんはシロより偉い人になれます」
「‥‥偉い人になったら、シロに乗られない?」
おばさんと仲良しなのは小鈴ではなくむしろお母さんなのですが、とりあえずシロよりも目上になればいいようです。
「ええ、そうです。体の大きさは関係ありません。問題は立場です。シロより偉い人になれば、シロは言う事を聞きますよ。その為にも、まずシロに『駄目』とはっきり言いましょう」
「‥‥そう‥‥嫌な事をされた時には、相手にそれを伝えないと判らないからね‥‥」
鐶お姉さんが相槌を打ちながら付け加えます。自分の意思をはっきりと口に出す事も大切なのだと、お姉さんは小鈴を見つめながら言いました。
しかしこれは実は、小鈴には難しい事でした。シロを前にして逃げようとしたり、せいぜい泣くのを我慢できるくらいなのですから。
すると、ようやく出番だとばかりに、鈴お兄さんが膝行して前へ出ます。
「まずは、大人の犬に慣れる事から始めようって事で、僕の飼ってる犬。家にもまだまだたくさん居るんだよ」
すっと動いた飼い主の手に合わせて立ち上がったのは、二匹のわんこ。シロと同じ大人のしばわんこで、しかも忍犬の、龍丸。セッターという狩りのお手伝いをする種類の子供だという、白星。ちなみに白星はシルフィリアお姉さんの『動物誌』に似たような絵がありました。
子供の白星はともかく、大人で凛々しい龍丸には、小鈴はやはり腰が引けています。シロと違ってかしこそうなのが、襲われたらどうしようという気持ちを一層大きくしているようです。
「大きいから恐いっていうのは僕も小さいからわかるよー」
でも鈴お兄さんはにこにこと笑顔のまま、龍丸の頭を撫でました。
「大丈夫、龍丸はきっちり訓練してあるからのしかかったりしないよ。ほら、ここを撫でてみて」
普段から教師をしている鈴お兄さん。自分で言っているように背が低いのと、にこにこ笑顔で、いつも子供達と一緒になって遊びすぎてしまい、他の先生に怒られてしまうのだそうです。でもそれは、言い換えれば子供達に受け入れられているという事。小鈴も鈴お兄さんの笑顔に誘われて、手を伸ばしてみます。
整えられた毛並みの、心地よい感触がしました。龍丸はくぅ、と鼻を鳴らし、目を細めました。
「ゆっくり‥‥そう、少しずつでいいから」
名前が似ている事も親しみ安さの一因なのか、二人と二匹は急接近。鐶お姉さんとシルフィリアお姉さんの目に羨ましそうな色の炎が灯ります。でも我慢です。小鈴の成長の為に、ひたすら我慢です。
やがて、小鈴は龍丸の首に抱きつく事ができるまでになりました。白星と二匹で力を合わせ、湿ったお鼻をふんふふんふと小鈴に押しつけていますが、小鈴は怖がるどころか、笑っています。勿論、鈴お兄さんも笑顔を絶やす事なく見守っています。
「そうだよ、小鈴ちゃん。仲良くなるには、いつも明るく笑っている事が大事なんだ」
シルフィリアお姉さんの柔らかい声に、小鈴が振り向いて小首を傾げます。
ずっと狙っていたのでしょう。その隙を狙い、白星が小鈴の着物の袂をぱくっとくわえてしまいました。
「めっ‥‥!」
小鈴はちゃんと、めっ、する事が出来ました。これならもう大丈夫だろうと、皆が視線を合わせます。
それから、もっと勇気が湧いてくるようにと、ガユス先生は小鈴にお札をくれたのでした。
●
その頃。郭之丞お姉さんと明穂お姉さんは正太郎率いる友人達、そしてシロと、庭でばっちり睨み合っていました。
「‥‥なんだよ、その角」
「お前達に灸を据えてやるという意気込みの表れだ!」
いかにも「めんどくせぇ」と言いたげな正太郎達に、郭之丞お姉さんは鬼角を揺らして答えます。
お姉さん達は正太郎からシロをけしかける理由を聞こうと考えていました。けれど正太郎達は、小鈴の姿が見えないとわかると、入ってきた裏口からまた出て行こうとしました。
「待て!」
郭之丞お姉さんは走って、裏口と正太郎達の間に割り込みました。
「皆で菓子でも摘みながら話そうではないか」
掲げた小袋に正太郎達の目がきらりと輝いたのを見て、お姉さん達は心の中でしてやったりと笑ったのでした。
ただの保存食ではあるけれど、ほんのり小豆味。それだけで一日分の食料となるくらいだから、量もそれなり。正太郎達は我先にと口に放り込み、もごもごとよく噛みながら、お姉さん達の質問に答えています。
「何故シロをけしかける? 小鈴が怯えておる事くらいはわかるであろう?」
「だってさ、んぐ、ちょっかい出したくもなるだろ。あんなにおどおどしてさ、むしろ、かまってくださいって誘ってんじゃねーか、みたいなさぁ‥‥うめぇな、これ」
腹を割ってというよりは、腹を埋めているような感じです。
「でも、嫌がっていたでしょう?」
汚れた口周りを綺麗にしなさいと手拭きを渡す明穂お姉さんの口調も、たしなめるのではなく、やや呆れている様に聞こえます。まあ子供なので仕方ありませんね。
「そうなんだけどさ。シロはあいつと遊びたがってんだよ。だから遊ばせてる」
子供なので、お姉さんから借りた手拭きであろうと気にせずに汚します。
「それであの子が尚更シロを怖がるようになっているのよ。わかっているのかしら?」
悪意を持っているわけではないと確認できたので、明穂お姉さんが郭之丞お姉さんに目配せします。
さあ、ここから畳み掛けていくのです。
「ねえ、正太郎くん。相手が嫌がるやり方では、余計に『シロが怖い』と思わせてしまうだけよ。そうなる事はシロだってきっと望んではいないわ。シロは小鈴ちゃんと仲良くなりたがっているのでしょう」
「う‥‥」
「例えば、正太郎くんだって食べ物の好き嫌いはあるでしょう? お母さんから嫌いなものだけ出されて『食べなさい』と言われたとしたら、好きになれる?」
「‥‥‥‥‥‥」
「おねーさんの雰囲気にのまれてるぞーっ」
自分達の大将が言いくるめられているのを見て、正太郎のお友達がはやし立てました。でもすぐに、郭之丞お姉さんが黙らせます。物理的に。
「悪い事は悪いと教えてあげられるのが本当のお友達よ。正太郎くんはシロのお友達よね?」
じっ、と正太郎の瞳を覗き込む明穂お姉さん。
正太郎が渋々ながら頷くまで、そうはかかりませんでした。
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「要するに‥‥シロが小鈴さんと仲良くしたくて‥‥でも小鈴さんはシロが怖くて‥‥正太郎さんは怖がる小鈴さんを見て面白がってた‥‥?」
シルフィリアお姉さんが買ってきてくれたお菓子に舌鼓を打ちながら、鐶お姉さんはお茶をすすりました。そういう事みたいね、と明穂お姉さんが答えます。
実は正太郎は、もうシロを連れてこないと言い出していました。でも、郭之丞お姉さんはそれを止めてしまいました。
(「確かに正太郎の接し方にも問題はあった‥‥だが、端から相手と向き合うのを放棄する小鈴も悪い。小鈴の将来を思えば、今回私達が仲を取り持ってやった所で根本的解決にはならぬ」)
小鈴は目の前にある美味しいお菓子よりも、すぐ来るだろうシロとの対峙の時の事を思い、がっちがちに固くなって怯えていました。鈴お兄さんや二匹のわんこと訓練したといっても、どうやら小鈴の中でシロは別格のようです。ガユスお兄さんからもらったお札を破れそうなほどに握り締めて、ぎゅっと奥歯を噛み締めています。
そんな小鈴の姿に、郭之丞お姉さんはとうとう行動に出ました。
「こ、小鈴の弱虫に振り回されるのにはもううんざりだ! 悪いが私は正太郎達の味方をする事にしたぞっ」
心を鬼にして捨てゼリフを吐き、振り向きもせずに庭へ下りていきます。そろそろ、また正太郎達が来る頃合です。
小鈴は、何が何だかわかりませんでした。いつも可愛がってくれる郭之丞お姉さん。でもお姉さんは小鈴に嫌気がさしているというのです。悲しくて悲しくて、シロに乗っかられた時よりももっとずっと怖くて‥‥
「‥‥小鳥遊さんは、小鈴さんを嫌いになったわけではないよ‥‥」
「そうそう。憎まれ者って知ってるかい? 嫌われちゃう事を覚悟してまで、あえて厳しくしてくれる人の事だよ」
思わずまた涙目になって無言の助けを求めた小鈴に、鐶お姉さんとシルフィリアお姉さんが微笑みながら語りかけてくれました。
それでも小鈴の瞳からは怯えの色が消えません。
「小鳥遊さんに抱きついて‥‥みるといいよ‥‥それが判るから」
シロの前に、まずは大好きなお姉さんから。勇気を出して。大丈夫。
小鈴は駆け出しました。わかったのです。「ダメな事はダメ」――郭之丞お姉さんはそれを実行して、嫌いだとか怖いとか来るなとか、拒否する言葉を言われる事の辛さを、小鈴にわからせてくれたのだという事に。
「‥‥おねぇちゃんっ‥‥!」
断腸の思いだった郭之丞お姉さんの歩みは重く、全速力の小鈴はすぐに追いつきました。そしてそのまま、お姉さんの腰に飛びつきました。
「ごめんなさい‥‥シロとも仲良くできるように頑張るから‥‥! だから、だから‥‥小鈴を嫌いになっちゃやだぁっ‥‥」
泣き虫の小鈴は、やっぱり泣いてしまいました。
「私のほうこそすまぬ‥‥っ! どうして私が小鈴の事を嫌いになれようかっ」
自分こそ嫌われてもかまわないと考えていた郭之丞お姉さんも、泣かずにいようと決めていたにも関わらず泣いてしまいました。けれど、お姉さんが我慢しようとしていた涙と、今この時流れている涙の意味は、天と地ほども違うのです。
二人が泣きながら抱き合っているうちに、シロと正太郎達がやってきました。シロはわふわふと小鈴に近寄ると、舌で優しく涙を舐めとってくれました。
小鈴はもう、シロが怖くはありませんでした。ありがとう、と笑ってシロにお礼を言う事ができました。