【鎌倉藩】若様捜索

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月14日〜04月24日

リプレイ公開日:2008年04月25日

●オープニング

 鎌倉藩藩主の一人息子、細谷一康は、ここのところ酷く沈み込んでいた。
 というのも先日、冒険者と共に向かった盗賊退治が失敗に終わってしまったからである。数名の手下は生かして捕らえる事ができたものの、肝心要の頭領には逃亡を許してしまったのだ。
 この事実は、真面目な一康に重くのしかかってきた。体の傷は魔法の薬によって容易く癒えようとも、心の傷はそう簡単に塞がりはしない。
 病床にある父に、自分の成長を見せ、安心させたかったのだ。
 勿論、盗賊という害を排除して民の安全を図る為でもあった事は言うまでもない。――が、母を亡くして久しい一康にとって、父への孝行は最も大きな動機のひとつであった。
(「‥‥父に合わせる顔がない」)
 以前は日ごとに父の寝所を訪ね、様子をうかがっていたのだが、それすらもしなくなった。自らの未熟を悔い、鍛錬に明け暮れる日々。

 故に、気づけようはずがなかった。
 父と、父の周囲で、更に起きようとしていた変化に。

 ◆

 鎌倉の名所にして人々の大きな心のよりどころ。それがここ、鶴岡八幡宮である。
 参道の両脇には桜の木が並び、丁度見頃を迎えている。参拝のついでに花見をする者もいれば、その逆の者もいる。おかげで境内はいつも以上に賑わっているのだが、大変なのは、参道周りの掃除を担う者達である。
 桜の花びらが風に舞い散るさまはいかに優雅で美しくとも、地に積もりすぎればいずれ汚れてみすぼらしくなる。そうなる前に掃き清めなくてはならず、かといって風流を損なわない程度には留めておかなければならない。
 加減の難しい仕事である。しかし鶴岡の玄関口を整える仕事なれば、誰しもが喜んで作業した。
「でも、葉桜はさすがにちょっと‥‥」
「‥‥毛虫はね‥‥」
 合間に些細な言葉を交わすくらいはご愛嬌だ。
「ずっと花のままならいいのに」
「それは無理というものだよ」
 口を動かしながら手も動かす少年達は、やがて、こちらに向かってくる数名の男達の姿に気がついた。着物、髷、腰にはいている刀。藩の役人であろうと察するのは容易かった。
 これだけなら特にどうという事もない。熱心に通ってくる者など珍しくない。しかしその男達はどう見ても、参拝に訪れたという雰囲気ではなかった。吊り上がった目で、落ち着きなく周囲を探っている。
 少年達は顔を見合わせ、頷いた。一人が社のほうへと駆け出した。
「おい!」
 役人が声を張り上げた。大股で近づいてくる。
 箒で自身を隠すようにして身構える少年達。歯を食いしばって堪えてはいるが、荒事の経験などないに等しい者達ばかり。怖くないはずがない。
「おい、貴様! 返事をしないかっ」
 節くれだった手が少年に伸びる。胸倉を掴んだ。
 ひっ、と少年達の息を呑む音がした。
「私が代わりに返事をしようか」
 そこに聞こえてきたのは、凛として、よく通る声だった。
「それとも私では不満か、お役人殿」
 語りかけながらも、少年達をかばうように前へ出たのは、ひとりの男。
 誰何しようとした役人を、別の役人が引きとめ、耳打ちする。開いた扇を口元に添え、供の青年を引き連れた白い衣の男――この男こそが、鶴岡八幡宮の主、大伴守国である、と。
 少年を捕まえていた役人がやや慌てた様子でその手を離すと、少年は小走りで守国の背後に隠れた。
「‥‥失礼をいたしました。気が急いておりまして」
「ほう?」
 耳打ちした男が頭を垂れると、守国は先を促すように首を傾げた。同時に、手を軽く振って少年達を下がらせる。
「実は、我らが藩主のご嫡男、細谷一康様の行方が昨日から知れぬのです。一康様はこちらによく参られていたとの事、もしやと思いましてな」
「なんと、一康殿が? 何ゆえにそのような事に」
「それはまだわかりませぬ。我らも困惑しているのです」
 ふむ、と守国は考え込む仕草をしたが、役人達は相当に気が急いているようで、来ているのかいないのかの返答を催促した。
「残念ながら一康殿は来られていない。こちらでも気にかけておくから、ひとまず帰ってもらえるだろうか。今月は例祭があって、その準備で忙しいのでね」
 しかし返ってきたのはつれない言葉ばかりだった。
「では、せめて境内の捜索を」
 成果なしでは戻れないと思ったのか、背を向けようとした一康に役人が追いすがる。
 バチンッ。
 その鼻先を掠めるようにして、勢いよく扇が閉じられた。
「帰ってくれ、と言ったのだが?」
 言い放った守国からは、柔和な笑みなど消えていた。

「気になるな」
 右腕とも呼べる供、日乃太を引き連れて社へと戻る道すがら、守国は役人の言葉を思い返していた。
「あの一康殿が病床の父上を残して姿をくらませるなど信じがたい。しかも、一康殿ひとりがいなくなったのであれば、まず飛んでくるのはあの教育係だろう。そうしなければならない理由があったと考えたほうが、筋が通る」
 一康には生まれた直後から、教育係として雉谷長重という人物がついている。まるでつがいのように二人一組で動くのが基本だ。守国と日乃太のように。
 その雉谷が来ないという事は‥‥
「藩の方で何かあったと?」
「だろうな。先程の者達は下っ端のようだし、詳しくは知らされていないのかもしれないがね」
 忙しい時に限って色々と起こる。口ではそうぼやく守国だが、ただでさえ細い目が更に細められ、涼しいを通り越して冷たさすら感じられる。
 日乃太は思う。こんな時、自分にできる事は限られていると。
「まあ、勝手に捜索されて妙なところに入り込まれても面倒だ。見回りを強化しておいてくれ」
「承知しました」
「それと、冒険者ギルドへ連絡を。役人より先に一康殿を見つけ出し、話を聞きたい」
「依頼書をそのものずばりで記す事は避けたほうがいいですね。細工しておきます」
「任せる」
 掃除が途中で終わってしまった為、道にはまだ適量以上の花弁が残る。避けるのも難しいそれを、守国は仕方なく踏みしめた。

 ◆

 できる事が限られる中で、どのように動くか。そこにはその者の人となりがまざまざと浮かび上がってくる。
「‥‥本当にいいのかしら。こんな依頼書を張り出して」
 『若様を連れ戻してください』と書かれた依頼書を手に、冒険者ギルドの受付嬢は困惑していた。『若様』の二文字の下部には、小さく『馬鹿じゃないほう』との補足があった。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0833 黒崎 流(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb9508 小鳥遊 郭之丞(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec4124 オデット・コルヌアイユ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●鶴岡
「関所で怪訝な顔をされたから、役人にはここの手伝いに来たって言ったんだ。口裏を合わせておいてもらえるか?」
「それくらいならかまわんよ」
 日向大輝(ea3597)の申し出に、守国は快諾の意を示した。ただし、それならなるべく役人の目に留まらぬようにとの注意も添えて。
「ああ、もしもの時は守国さんが逃げたから探してたって言い逃れるから」
 言い切った大輝にとって、呆気にとられている守国などもはや二の次。傍らに置いた霞刀に触れ、心に浮かべるのは今回の捜索対象である一康の無事を願う。
「一体何があったのか――いや、起きているのか」
 参拝客を装ってやってきた黒崎流(eb0833)が述べる。すると守国も我に返り、その真意を問うた。
「今はまだ、詳しくは申し上げられません。ですが、懸念している事が」
「‥‥軽々しく口にできない事、か」
 閉じた扇を唇に添え、暫し思考する。流の険しい顔つきと発言から、彼の懸念が何であるかを察したようだ。ならばなおの事、気を引き締めて捜索にあたってほしいと冒険者一同に述べた。
「それについて、守国さんに用意してもらいたいものがあるのです」
「何だ?」
 小首を傾げるオデット・コルヌアイユ(ec4124)からは、大輝や流と違って緊張感のようなものが今ひとつ感じられない。役に立つだろうと流に呼ばれたという彼女だから、仕方のない部分もあるかもしれない。だがそれが一種の清涼剤になったらしく、守国が目を細めた。
「地図がほしいのです」
「町並みでも調べるのか」
「燃やすのですよ」
 あっけらかんと述べられた言葉に、細められた目は、あっという間に元に戻ってしまった。
 地図、特に精度の高いものは多大な労力を費やされて作成され、政や戦、商売など様々な分野において重要視される。鶴岡にもある事はあるが、燃やされてはたまったものではない。
 しかし一康を探す為の手段の一つであると聞けば、仕方ないと用意された。幾枚もの布切れ、そして筆とともに。
「現物を燃やされるのは困る。書き写してからにしてもらいたい」
 これには流が応じる。侍の嗜みとして、絵を描く事には通じている。
 同じく加賀美祐基(eb5402)にも嗜みがあり、こちらは絵具も持参しているが、地図の写しではなく、一康を知る者に顔の造詣を教えてもらいながらの人相書きの作成に入った。
「で、そこの二人は何をむくれている」
 守国も人相書き作りに一役買っていたが、ふと部屋の端のほうを見やった。そこではシルフィリア・ユピオーク(eb3525)と小鳥遊郭之丞(eb9508)が、関所で自分達の行く手を遮った役人の人相書きを作っていた。
「おのれ‥‥刀を置いてこなければならなかったこの断腸の思い、いつか知らしめてくれる」
「一康公に申し訳がたたないからって言ってるのにさ‥‥」
 朝比奈の関所付近を騒がせていた盗賊、その討伐を引き受けつつも肝心の女首領を逃してしまった二人。関所を通る際、その首領を今度こそ捕まえる為に来たと告げたところ、鼻で笑われた挙句にもう余計な事はするなと言われたのだ。以前から冒険者に対する役人の印象はよくなかった。それが度重なる失敗で更に悪くなってしまったようだ。
 更に、郭之丞は守国との縁談があると恋愛成就のお守りを見せたが、公にそんな話が出ているわけでもなく、特別でもない物で証明などできやしない。シルフィリアは密命を受けていると説明したが、引き続き冒険者に命じる者がいるとすればそれは一康であり、一康の行方が知れない事は関所にも伝わっていた。これも通じるはずがない。
 大人しく最初からギルドの証書を示したほうが、まだよかっただろう。

 地図を燃やす。即ち、バーニングマップ。完成した人相書きと名前をもとに一康の居場所を指定した結果、
「なぜかひとつではないのですよ!?」
 残った灰が指定した位置までの道を示してくれるはずなのだが、綺麗な一本道にはならなかった。
「馬か何かで移動中なのかもしれないのです」
「追っ手をまこうとしている可能性も考えられるね」
 灰の迷走を眺め、流が思った事を述べる。
 元より人ではなく場所を指定する魔法だ。その場所が定まっていないのであればうまく効果を発揮しない。もし本当に移動中なのであれば、一康の向かう先に見当をつけなければすれ違う可能性もある。時間を空けて幾度か繰り返せば、居場所そのものは特定できなくとも方角くらいは判明するだろう。
 それまでに細かい情報を集めればいい。一康が姿をくらませた理由を含め。

●調査
 瀬戸喪(ea0443)が八百屋へ顔を出すと、店主はやや驚いた様子で、しかし確かに喜んで出迎えてくれた。
「もう来ないのかと思ってたよ。皆、お前さんを楽しみに待ってたんだぞ色男」
「そうですか」
 つれない言葉と裏腹に、絶える事のない笑顔。その落差がよいのだと、なぜか距離をとって喪を見守りながら力説するのは、向野家の下働きをしている女中達だった。彼女らに喪は殊更柔らかな笑顔を向ける。歓声が上がった。
「凄いねえ。相変わらず」
「変化がないのは平和の証、変わりないなら何よりでしょう。江戸では色々きな臭い事になっていますが、あなたがたはお変わりないですか?」
 真実を交えて会話の流れを誘導していく。人気のかいもあり、女中達は微塵も疑わずにすらすらと答えてくれる。
 基本的にはどうでもいい事柄ばかりだったがそこをこらえて聞き続けていると、最近忙しくなったとぼやく者が出た。人の集まる回数が増えて、酒や肴の用意をするのが大変だと。
「お花見?」
「それならまだわかるのだけど、違うのよね。一式揃ったら人払いで、あとはおかわりの時に呼ばれるだけ」
「そうね、変よね。部屋を締め切って、男だけ集まって」
 誰もが急に忙しくなった事に不満を抱いていたようだ。そうだそうだと後は勝手に細部まで語り合ってくれる。
 口を挟む必要はない。喪がすべき事は、彼女達がもたらしてくれる情報を残さず記憶し、仲間に届ける事だ。

 人通りの少ない道端で、流は郭之丞が描いた女首領の人相書きを眺めていた。
 やがて足音が聞こえてくる。人相書きを素早く丸めると、素知らぬ顔で足音の主に頭を下げた。
「前に見ていただいた占い師さん?」
「ご無沙汰しておりました。修行の旅に出ていたもので」
 喪と同様、面識のある女中を狙って待っていたのだ。占い師という仮の姿を今度も巧みに利用する為に。
「前にお話していただいた尼僧様、このようなお顔の相ではありませんか?」
 取り出したのは無地の布切れ。先の人相書きと同じ顔になるよう、墨をつけた筆でその布を撫でていく。
「いいえ、尼僧様はもっとお美しい、女神のようなお顔立ちよ」
「そうですか‥‥まだまだ修行が足りないようです」
 あてが外れた。では一体、とすぐに思考を開始したのをおくびにも出さず、流は頭を下げて去ろうとする。だが「あら?」と女性が声を上げたので踏み止まった。流の手元を覗き込んだ彼女は、眉間に皺を寄せて「やっぱり似てる」と呟いた。
「似ている? どなたにですか?」
「たまに来る娘によ。誰かの使いだったかしら」
 急かすと逆に何故か思い出せないのが世の常。努力してみるからまた明日と約束を交わし、その日は別れた。

 全体的に貧しい鎌倉ではあるが、それでも店や宿の並ぶ中心部は賑やかだ。人通りも幾分多い。それをいい事に姿を紛らせ、大輝は大きな屋敷の前に出た。鎌倉で一、二を争う大店の屋敷だ。別の依頼で侵入した事があるのだが、どうも藩の上のほうと繋がりがありそうだった。それをどこからか知った一康が独自に捜査しているかもしれないと考えたのだ。
「さすがにずっと路地に立ってるって事はないか」
 予想の範囲内であり、彼はそのまま近くの飯屋の暖簾をくぐる。糸目で線が細い男を捜しているのだがと店内にいた者に尋ねてみるも、首を左右に振られるばかり。
「若様は来ていないよ」
 名前を出さずとも守国の事だと思い込まれたのは幸いであったのか。
「御免。この女を捜しているのだが」
 丁度そこへ、盗賊の首領を探して店を渡り歩いていた郭之丞もやってきた。しかしあくまでもふたりは無関係を装う。情報交換は夜に宿で行なえばいい。
「この娘、あそこのお屋敷の遠縁とかいう娘じゃないかね。出入りしてるのを見た事あるよ」
「本当か!?」
 店員の言葉に、郭之丞は思わず身を乗り出した。
「悪い噂の絶えないとこなんだけどさ、それでも多少の義理の心は残ってるのかと思ったから覚えてるんだ」
 すぐさま屋敷に乗り込みたいが、ここで騒ぎを起こしては一康捜索にどんな悪影響が出るかもわからない。ぐっと堪えて、またの機会を待つ事にするしかなかった。

 祐基は以前使った手口を再利用する事で、向野の一人娘と二度目の対面を果していた。幸という名の娘はすっかり祐基の絵に惚れ込んでいるようで、すんなりと受け入れられたのだ。
「お嬢様の花嫁姿はさぞお美しいでしょうね。いつか祝言が行なわれる際には、晴れ姿を描かせて頂きたいものです。――そういえば、先日お話されていた婚約者の方とは、その後お会いになられましたか?」
 筆を動かしながら、一康の近況を聞き出せないものかと画策する。幸に対する時は、女中の時のように媚を売らないで済む分、気が楽だ。
「元々、会った事は数えるほどしかありませんの。意味なく参るのも憚られますし」
 はずれか。淡い期待を裏切られるのでは用無しだと、祐基は筆を動かす速度を増す。
「でもね、父はもう少しで祝言を挙げられると言うの。藩主様が快方に向かわれたのかしら。二重に嬉しいわね」
 笑う幸からは、彼女が蝶よ花よと育てられたのだとうかがえる。誰かを疑う事など、今までに一度もなかったに違いない。

 まず雉谷の屋敷の場所を尋ねるところから始めなければならなかったシルフィリア。人や者の出入りを観察したが妙な点はない。直接戸を叩いてみれば、主は不在とはねのけられた。
(「軟禁されているかもしれないしね」)
 裏口からどうにか侵入を果たした後は、庭の茂みに身を潜めて巻物を開く。透明になった彼女は誰の目にも留まらぬまま邸内を移動し、別の巻物で雉谷に接触しようと考えていた。だがじきにその考えが浅い事に気がつく。
 造りを知らぬ屋敷。周囲が見えづらい状態での探索。巻物に関する習熟度。そして、魔力の量。
 発動失敗も含めて魔法を繰り返した結果、すぐに魔力が底をついて退散するしかなくなった。判明したのは、恐らく雉谷はここのところ屋敷に帰っていないという事だけだった。

●そして
 振袖に白く輝く帯と花飾りの帯止めという喪の姿は、どこからどう見ても女性のそれだった。守国は露骨に眉をひそめたのだが、喪本人はどこ吹く風。守国の反応が予想の範囲内だという事だろう。
「一康さんは、どうやら南に向かったようなのです」
 守国が馬鹿様と呼ばれるのも理解できる――心の内でにやりとするオデットが、バーニングマップを繰り返して得た成果を、集まった一同に告げる。南、つまりは江の島だ。
「なんで江の島なんだ?」
「ヒマだったので魔法の合間にエプロンつけて外のお掃除をしていたのですが、何度か役人が顔を出したのです。最初はこの鶴岡に来るつもりだったのが、役人を見つけて仕方なく別の案をとったのかもしれないです」
 首を傾げる祐基にオデットの仮説が飛び出したが、一康に確認しなければ本当のところはわかるまい。
 より一層大事な事柄は、冒険者の集めた情報から導き出された、これまた仮説ではあるがより確実性の高いもの。
「筆頭家老の向野による内乱か」
「裏で糸を引いているのは、向野家に出没している尼僧かと」
 依頼人の利を優先した流から情報を聞くと、守国は立ち上がった。
「尼僧については調べておこう。一康殿を頼む」

 夜の海は酷く寂しい感じがする。干潮の時刻なのか、江の島への道が浮かび上がっている。喪は戦闘馬、大輝はそれに相乗りし、流は魔法の草履で、導き出された一康の居場所へ向かう。
 朱塗りの鳥居。奥に見える小ぶりの社。弁財天を祭っているというその社の扉が内側から開かれると、現れたのはやややつれた一康だった。
「なぜここが‥‥」
「後でご説明します。今はこれに着替えて、共に鶴岡へ」
 驚く一康に墨染めの衣と三度笠を手渡そうとする流だったが、それはかなわなかった。
 笠で顔を隠した男が三人、退路を塞ぐようにして刀を抜いていた。
「道を作ります、行ってください!」
「しかしっ」
「一康さんをお願いします」
「わかった。馬は借りていくよ、瀬戸さん」
 一康を連れてゆくのが最優先。誰か一人がつくならば面識のある大輝だと、喪は馬から飛び降り、代わりに大輝が手綱を取って一康を引っ張り上げる。主人に尻を叩かれると、馬は地を蹴った。
 見知らぬ男達は勿論、馬を狙う。だが喪と流は男達と馬との間に素早く割って入ると、その攻撃を受け止めた。ガキン、と静かな潮騒を乱して響く。男達の動きに隙ができ、大輝と一康を乗せた馬はするりと男達の向こう側へと抜けた。

●時は少し遡る
 月光の下。建物の影に潜み、天堂蒼紫(eb5401)は己に疾走の術を施した。向野の屋敷に忍び込むのだ。
 この前日は藩主の屋敷に潜ったのだが、特に収穫はなかった。夜間であっても慌しかったのは一康が行方不明であるからだろうし、藩主の様子をうかがおうにもさすがに警備が厳重で近寄れなかった。
 情報を求めて、また、以前に叩き出された苦い記憶もあって、向野の屋敷に的を定めたわけだ。
(「‥‥明るすぎるな」)
 庭には篝火が焚かれている。向野本人の姿はないが、覚えのある側近は見つけた。
 わざと暗いほうを通り、床下に忍び込む。造りを思い出しながら向野の居室の下を目指す。
 進んでいくうちに、記憶にある部屋とは別の位置で話し声が耳に入ってきた。小声なのか聞き取りづらいが、それでも会話をしている二人のうち、一人は目的の向野であるように思われた。
 身動きせず息を殺し、耳をそばだてる。もう一人は女だ。
「鼠は嫌いよ」
 急にその女の声がはっきりと聞こえた瞬間、肩に痛みが走った。床を貫く刃が肩の肉を削いでいた。
 曲者だ、と向野が叫んだ。
 捕まっては仲間に迷惑がかかる。蒼紫は必死で這い床下を抜ける。駆けてくる足音に、躊躇せず壁を飛び越える。薬を飲むのはもう少し後、追っ手を振り切ってからだ。

「申し訳ありません、逃げられたようです」
「‥‥ここ数日、鼠が増えているようだ。飼い主を見張れ。何かを掴めば動くはず」
「はっ」
 自分の去った後にこんな会話が交わされていたとは、蒼紫は知る由もなかった。

●情報伝達
郭之丞、シルフィリア(盗賊に関する話)→大輝、流
流(向野家に関する話)→蒼紫以外、守国
祐基(向野の娘と一康との縁談の話)→蒼紫以外