村を守って! それからおじいちゃんも!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:言の羽

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月16日〜08月21日

リプレイ公開日:2005年08月27日

●オープニング

 よく晴れた日のこと。
 青い空に白い雲。明るい日差しがとてもまぶしくて。
「昼ごはんはまだかのぉ、コニーさんや」
 ‥‥まぶしくて‥‥
「腹が減って腹が減ってたまらんのじゃよ。早くしてもらえんかのぉ」
 ‥‥まぶし‥‥
「のぉ、コニーさんやぁ」
「おじいちゃん‥‥私の名前はコニーじゃなくて、リーシャだよ‥‥。コニーは私のお母さんで、おじいちゃんの息子のお嫁さんの名前でしょう‥‥」
 むしろおじいちゃんの笑顔と頭頂のほうがまぶしかった。

 ◆
 
 昼食後のお散歩は、孫娘とおじいちゃんの日課である。腰の曲がったおじいちゃんの手を引く孫娘の姿はとてものどかだ。農作業に精を出す村人たちに温かい眼差しで見守られ、二人は今朝も村一周お散歩の真っ最中だった。
「で、で、出たああああああっ!!」
 転がるように――いや、言葉どおりに村の入り口へ転がりこんできたのは一人の青年。背に負った籠からはハーブやら茸やらが飛び出し、地面に散らばった。
 青年は顔面蒼白で、大きく肩を揺らしては、ぜいぜいと音を立てて新鮮な空気を取り込もうとしている。
「どうした、そんなにあわてて。いったい何が出たっていうんだ」
 すぐ横の畑で土を耕していた村人が汗を拭き拭き、青年に話しかける。
 青年の説明は、息が整っていない上に気が動転しているため、なかなか要領を得なかった。しかし時間をかけて聞き出すことで、聞き手に回った村人は至極簡単な結論に達した。

 金棒を持ったオーガが、森を徘徊している。

 いつの間にやら出来上がっていた人だかりがどよめく。
 この村には小規模ではあれど、自警団が存在している。その自警団を送り込み、退治してもらおう。幸いなことにオーガは1体のみのようだ。罠を仕掛けるなど、うまく策を練れば何とか――
「いやさ、わしが行く!」
「おじいちゃん!?」
 人だかりから一歩進み出たおじいちゃんは、いつになく輝いていた。

 ◆

 ところ変わって、キャメロットの冒険者ギルド。

「そういうことなので、おじいちゃんをよろしくお願いします」
 リーシャはぺこりと頭を下げて報酬の話に移ろうとしたが、年上趣味の受付嬢はそれを遮り、片手を挙げた。
「オーガの退治はいいとして。あなたのおじいさんをよろしくとはどういうことでしょう」
 受付嬢が疑問に思うのも無理はない。
 リーシャの提示した依頼内容は、森を徘徊するオーガの退治、および、彼女の祖父の護衛である。どうして彼女の祖父が出てくるのかが、受付嬢にはさっぱりわからないのだ。
「現れたオーガが、おじいちゃんに屈辱を与えた相手だからです」
「‥‥屈辱?」
「正確には、そういう風におじいちゃんが勘違いしているだけなんですけど」
 聞けば彼女の村近くの森には、何年か前にも一度、オーガが出没したことがあるらしい。当時の自警団がどうにか追い払ったのだが‥‥追い払う前に、若かりし頃の彼女の祖父がひとりで前に出て、返り討ちにされたのだとか。
 自警団に入りたての、血気盛んな若者にとって、どれほどの衝撃だったかは想像するに容易い。
 孫娘を嫁と間違えるようになっても、深く深く刻み込まれた悔しさは忘れることができなかったのだろう。当時と重なる出来事が起きて、当時の記憶が蘇り、雪辱を遂げようと立ち上がったのである。
「‥‥あの‥‥つまり‥‥退治にはあなたのおじいさんも参加すると?」
「はい。ですから自警団ではなく、冒険者に依頼するよう、村のみんなに私がお願いしました。自警団の人達ではおじいちゃんの面倒までみられないそうなので」
「おじいさんはかなりの高齢なのでしょう。さすがにどうかと思うのですが」
「でも、おじいちゃんはやる気まんまんなんですよ」
「だからって危険を承知で送り出すなんて」
 本人のためにも、おじいさんにはあきらめてもらったほうがいいのでは。差し出がましいとは思いながらも、受付嬢は進言した。
 すると一拍おいてから、リーシャは唇を緩ませ、目を細めた。
「オーガの話を聞いてから、おじいちゃんは私のこと、ちゃんとリーシャって呼んでくれるんです。母と間違えないで呼んでくれるんです!」
 気持ちはわからないでもない。
 だがおじいさんが加わることによって冒険者の危険度も上昇すると考えると、受付嬢も渋い表情を崩せない。
「この依頼がおじいちゃんのわがままであり、私のわがままであることは承知しています。ですから、そのぶん報酬ははずませていただきます。お金はどうにかかき集めました、‥‥お願いです‥‥」
「どうしてそこまで? 他に何か特別な理由でもあるのですか」
 冒険者への報酬はもともと決して安くはない。リーシャはかき集めたと言ったが、以降の暮らしはとても厳しいものになるだろう。
 何が彼女をそうさせるのか。
 受付嬢が問いかけると、リーシャは寂しげに微笑んだ。
「おじいちゃん、もう長くないんです‥‥お医者様に言われました。せめて悔いのないようにしてあげたいんです」
 消え入るような声。そして彼女は零れた涙をそっと拭ったのだった。

●今回の参加者

 ea4885 ルディ・ヴォーロ(28歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea5652 ジノーヴィー・ブラックウッド(39歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea9111 和泉 綾女(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0266 イクス・アーヴェイン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3213 シュラ・ロイヤルナイツ(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

バルディッシュ・ドゴール(ea5243)/ クロノス・エンフィード(ea7028

●リプレイ本文

●ちょっとした騒動
 草木生い茂る森の中、ルディ・ヴォーロ(ea4885)はオーガの痕跡を探していた。
「えーっと、草がこっちに折れてるから、進行方向は‥‥」
 日光は半分も届かないが、それでも薄暗いというほどでもない。村人がしょっちゅう茸を採りに来るくらいだから、本来は危険とは無縁の場所なのだろう。地面や草を調べていると色々な小動物に出くわすことから、豊かな森であることもわかる。
 豊かだからこそ、食料を求めてオーガが住み着くのかもしれないが。
「近くにいるとは思うんだけどなぁ。そっちはどう?」
 ルディのもつ知識では、なんとなく察しはつくものの確信は得られない。腰の曲がったおじいちゃんを連れているため、あまりうろうろすることはできれば避けたい。ゆえに彼はデティクトライフフォースを唱えていたジノーヴィー・ブラックウッド(ea5652)に、意見を求めた。
「たくさんの小さな命が栄えています。実にいい森ですね」
「で、大きい命は?」
「探査可能な範囲にはいませんね。思っていたよりもこの森は広いようです」
 行き詰るふたり。先ほど判明した進行方向に進み、改めて魔法での探査を試みようかと話していると――
「きゃあっ!?」
 わずかに後方からシュラ・ロイヤルナイツ(eb3213)の悲鳴が上がった。
 オーガが出たのか。いやしかし魔法にはひっかからなかったのに。
 焦って駆けつけたふたりの目には、真っ赤になりながら両手でスカートを押さえているシュラの姿が飛び込んできた。彼女の横にはオーガの姿などなく、護衛対象のおじいちゃんがノーマルソードを鞘ごと杖代わりにして立っているだけだ。
「‥‥どうしたの?」
「か、風もないのに、妾のスカートが急にめくれたのじゃ!」
 通常は人を見下ろすような態度をとるシュラだったが、めくれたスカートに必死になっているさまは実に可愛らしい。
 まあそのおかげで、ルディもジノーヴィーもある種の倦怠感に襲われたわけだが。

 一方近くの茂みでは、カメノフ・セーニン(eb3349)とイクス・アーヴェイン(eb0266)がこっそり様子をうかがっていた。
「ほっほっほ。どうじゃ、いい眺めじゃったろう」
「ああ‥‥素敵なモノを見させてもらったよ」
 シュラのスカートをめくったのはカメノフのサイコキネシスだった。イクスはそれに便乗したのだ。
 幼い少年がするような、ほんの些細ないたずらである。だがそれでもこのふたりとっては幸せの素。自然と緩む口元にどうにか体裁を保たせながら、今見たばかりのものを脳裏に刻み込む。
「カメノフ。もう一回頼む」
「お安い御用じゃよ」
 自らのひげを撫でながら、高速詠唱でサイコキネシスを発動させるカメノフ。シュラのスカートの、彼女が押さえていない側がふわりとめくれ、再び短い悲鳴が上がった。うしししし、と妙な笑いを漏らしながら、イクスは喜びを噛みしめる。
 だが次の瞬間、ごすっ、ごすっ、と連続で鈍い音がした。
 和泉綾女(ea9111)が日本刀の峰を、渾身の力を込めて彼らの脳天にそれぞれ叩きつけたのであった。

●森が震える
「さーて、気合入れて探すとするか!」
 次の日。森の中の開けた場所にテントを張って一夜を過ごした一行は、一日目に見つけられなかったオーガを今日こそ倒そうと息巻いている。
 まあ約一名は女性陣から平手打ちをくらい、両の頬にくっきりと手形を残しているのだが、同情の余地はもちろん、ない。女性陣のテントに潜り込んだ報いだ。
「最近の女の子は手が先に出るんかのう‥‥」
 痛む頬をさするカメノフには目もくれず、一行はオーガに続く手がかり探しにやっきになる。
 オーガに一度は返り討ちにされたおじいちゃん。勘違いしているとはいえ、今度こそ倒してやろうとするおじいちゃんの気持ちは、皆が理解している。おじいちゃんの命がそう長くないことも聞いている‥‥この機会を逃したら、もう雪辱を晴らすことはできないだろう。
 今もノーマルソードを支えにゆっくり歩いているおじいちゃんを、前線に立たせることはできないが、せめて止めは刺させてあげたい。
「見つけました」
 昨日と同じようにデティクトライフフォースで探っていたジノーヴィーが言った。
「こちらに向かって移動していますね。速度からして私達には気づいていないようですが‥‥」
「よし、迎え撃とう。ルディ、爺さんを頼むぞ」
 厳しい表情で剣を抜き、イクスは臨戦態勢をとる。同時におじいちゃんを一番後ろに下がらせようとしたが、おじいちゃんはこれに反発した。
「わしが前に出ないでどうするというんじゃ!」
「僕達が戦うよ。おじいちゃんは指揮をしてくれれば――」
「嫌じゃ! この手で奴を倒さねばおさまらん!」
 ノーマルソードを振り回すおじいちゃんを制そうと、ルディはパラであるがゆえに小柄な体を、いっぱいに広げている。孫娘リーシャからクロノス・エンフィード経由でおじいちゃんの性格は頑固だと伝え聞いていたシュラも、何とかなだめようと努力する。
「将はその時期が来るまでドッシリ構えておくものですよ」
 ジノーヴィーも笑顔で進言する――嘘くさい笑顔ではあるが、声の抑揚や身振り手振りから、おじいちゃんもその気になってしまうから不思議だ。
「来たぞっ」
「はあああああっ!!」
 そうこうしているうちに、オーガが一行の前に現れた。まだ距離があるうちに少しでもダメージを与えようと、気合と共に綾女がソニックブームを撃つ。生じた真空波はまっすぐオーガに向かっていき、オーガの皮膚を裂いた。
 聞き苦しい雄叫びを上げるオーガ。持っていた金棒を振り上げたかと思うと、どしどしと重たそうに走り出す。しかしその両足にはすぐに緑の蔦が何重にも絡み付き、進めなくなった。
「これがオーガか‥‥お世辞にも可愛いとは言えんのぅ」
 ため息混じりにぼやくシュラがプラントコントロールのスクロールを広げていた。
 自由を求めて、オーガはとにかく金棒を振り回しはじめる。それは第二撃をくらわそうと近付いていた綾女に、十分届くもの。綾女はとっさに日本刀を構え、強力であるに違いない攻撃を受け流そうとした。
「防御なら俺に任せとけ!」
「イクス様!?」
 だが間に割り込んだイクスの掲げた盾により、金棒は弾かれる。
「油断するでない、そろそろ足止めがもたんぞ!」
 すかさず後方からおじいちゃんが叫んだ。その言葉通りすぐに蔦は引き千切られ、オーガの動きもいよいよ活発になる。
「援護いくよっ」
「妾からもじゃ!」
 スリングによる石礫と、スクロールによるムーンアロー。どちらもオーガにはかすり傷程度しか与えられないが、前衛から気を逸らせるには十分。怒りで目がルディやシュラに向いているうちに、綾女はオーガの背後にまわる。
 障害物はどけとばかりに、オーガの空の手がイクスに迫る。腕なり胴体なりを握りつぶそうという魂胆なのだろう。しかしイクスは容赦なく切りつけてその手を退けさせる。
「悪いな‥‥俺はまだくたばるわけにはいかねぇんだよ!!」
 オーガの咆哮が全員の腹部に響く。
 おじいちゃんのために。冒険者たちは一丸となってオーガに挑む。

 その気持ちを知ってか知らずか、おじいちゃんは指示を出しながらも、なんとなく寂しそうな表情を浮かべていた。
「どうかしたかの」
 おじいちゃんと年の頃が近いカメノフが問いかける。あくまでオーガの動きからは目を離さず。
 するとおじいちゃんは髪の毛のない頭頂を撫で、ゆっくりと首を振った。
「年はとりたくないのう‥‥体が言うことを聞かぬ」
「それが自然の摂理じゃよ」
「力が足りずに悔しい思いをしたのが忘れられず、努力して力を得たというのに。今はもうその力すらもこの体から抜けてしまいおった」
 支えがなければ立つこともままならない。そんな自分がどこまでも情けない。
 あの時のオーガも、幾度も吼えた。対して自分はひとりだった。仲間の存在を忘れて、突っ走り、血に染められた。吼えられるたびに硬直して、歯ががちがち鳴った。かろうじて助かったのは、追いついた仲間が力を合わせ、オーガを追い払ってくれたからだ。
 今も同じようにオーガを目の前にして、しかし、胸で疼くのは復讐心ではない。
「‥‥わしにやらせてくれんかの」
「そのつもりじゃよ、みんな」
 カメノフはジノーヴィーに声をかけた。イクスと綾女の挟み撃ちのかいあって、オーガには既に無数の深い傷が刻まれている。血の足りないオーガが振るう金棒には、初撃ほどの勢いはない。
 ジノーヴィーの詠唱が最後の一句を告げると共に、彼の体が黒く淡い光に包まれる。その光を確認して、カメノフも瞬時に魔法を発動させる。
「‥‥闇よ包み込め、ダークネス!」
「サイコキネシス!」
 視力を奪われ、オーガがうろたえる。金棒が勝手に離れた場所へ飛んでいくのも厭わず、闇を振り払おうとあがく。その隙にイクスが右足に、綾女が左足に切りつけ、オーガの体は地面に崩れ落ちた。
 おじいちゃんはもがくオーガに歩み寄り、ノーマルソードから鞘を取り払った。節くれ立った指には、長年の訓練の厳しさを示す、剣たこがこびりついている。
 ためらわずに剣を逆手に持ち、オーガの胸に突き立てるも、剣は皮膚の浅い部分で止まる。イクスがおじいちゃんの手に自分の手を重ねてようやく、剣はすべて、オーガに埋まった。
 痙攣を繰り返し、じきにオーガは動かなくなる。
「これで、若き日の愚行と決別できたわい‥‥」
 はらはらと涙を流すおじいちゃん。それから冒険者達の顔を順に見渡し、深々と、頭を下げたのだった。