恋したこと、ありますか
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■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月31日〜06月03日
リプレイ公開日:2008年06月08日
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●オープニング
冒険者ギルドにその男が現れたのは、太陽が山向こうに沈み、京の街に暗い帳が降り始めた頃だった。
人目を避けるように笠を目深にかぶり、さっと身を翻して屋内に入ってきた男は、奥の座敷に通してほしいと受付員に耳打ちした。
今は情勢が情勢だ。この男ももしかしたらいずれかの陣営に所属する密偵なのかもしれない――そう考えた受付員は、すぐさま言われたとおりにしたのだが。
「恥を忍んで頼む! この通りだ!」
ふすまを閉じて上司を呼びに行こうとした受付員の腕をいきなり掴んで部屋に引きずり込んだかと思うと、男はイグサの香る畳に額をこすり付けて土下座した。
受付員が慌てるのも無理はなく、かといって男の腰に刀があるのでは、何かの拍子に斬りつけられないとも限らない。とにかく興奮しているらしい男を刺激しないように訪ねてみると、次第になんとなーく、事情がわかってきた。
「えー‥‥つまり、息子さんが女性に興味を抱くようにしてほしい、と」
「それだけではないぞ! 所帯を持ち、子をなし、家を繁栄させていく事の素晴らしさを知らしめてほしいのだ!」
「はぁ‥‥」
男には、一人しか子供がいない。一人息子。つまり、その一人息子が結婚して子供を作らなければ、そう遠くない未来に家が途絶える。特に位が高いわけではないが、いっぱしの武士として、家を途絶えさせるわけにはいかない。
しかし困った事に、その息子はまったくといっていいほど、女性に興味を抱かなかった。かといって同性を好むというわけでもない。朴念仁で、そっち方面が苦手で、避けているうちに「養子をとればいいじゃないか」と言い出すまでになった。
「私としては、やはり血の繋がった者に継いでもらいたい。それに人として孫を抱きたいというのもある。妻も娶らねば世間体が悪いどころの話ではない」
「まあ、そうですよね。お気持ちお察しします」
建前の中に本音が混じっているようだ。親っていうのも大変なんだなぁ、とまだ若い受付員はしみじみ思う。
「具体的な方法のご希望はございますか?」
「うむ、それなのだがな。‥‥‥‥‥‥あー、その、なんだ‥‥」
歯切れが悪い。受付員から目を逸らし、というか泳がせ、いい年して頬を赤らめ、咳払いをする。
うっわぁ‥‥と受付員は生暖かい気持ちになったのだが、努めてそれを表に出さないようにした。
「わ、私は妻と惹かれ合って結ばれたくちでな。多少の喧嘩はあれど、たまに話に聞くような問題も起こらず、仲睦まじくやってきた。子宝に恵まれたのは一度きりだが、元気な男の子が生まれたのだからやはり幸運だったのだ。ぜひとも息子にも、私のような家庭を築いてもらいたいのだよ」
頬はますます赤らんで、男は甘酸っぱい青春時代真っ只中の青年のような表情と動きで説明する。――いや、いまだに奥方との間で青春を繰り広げているのかもしれない。
「わかりました。要するに、息子さんが恋愛結婚をなさるように仕向けてほしい、という事ですね」
「うむ、平たく言えばその通りだ」
受付員は男の言葉にイラッとくる一方で、そう感じるのは最近仕事が忙しくて恋人とのんびりした時間を過ごせていないからだと気づき、すねているかもしれない彼女の機嫌を直す方法を考えなければならないなと、自分も足元を見つめるいい切欠となったのだった。
◆
[受付員のお話]
えー、そんなわけで。
依頼内容は「依頼人の男性のお宅に赴き、息子さんにお話をする事」となりました。
お話のテーマは、『恋愛って素晴らしい!!!』です。
息子さんは依頼人の男性ががっつりとお宅に留め置いてくれるそうですので、そのあたりは気にしないでかまいません。皆さんは、恋愛というものがいかに素晴らしく、いかによいものであるかを、実際の経験などを含めまして切々と語ってくださればそれでOKです。
あと、逢引の実演などをしてもらってもよいそうです。むしろ推奨だそうですよ。息子さんに覗き見させるんだとか。
ただし、息子さんはこういった方面に接してこなかった方なので、報告書に書けそうもないような事柄やそれに準じる類に関しては控えていただきますように、お願いしますね?
●リプレイ本文
●
「初恋もまだなんだ。やっぱりあーんなコトとかこーんなコトとかも、みんな知らなかったりするのかな?」
愛くるしい笑顔をふりまくエルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)は、そう言うなり問答無用で正座する息子の膝の上を陣取った。女の子から甘えられる事に慣れてもらおうと、ここぞとばかりに体を擦り付けてみるのだが、軽く頭に手を乗せられただけで終わる。幼い外見が災いして、女の子ではなく人懐こい子供と認識されたようだ。
ちぇっ。‥‥と胸中で舌打ちしたかどうはかわからないが、不満や不平などはおくびにも出さず、彼女は依頼の流れや趣旨などを説明する。しかし、息子は面倒そうにため息ひとつを吐き出すのみ。
「なんだか親近感が湧くなあ」
息子の様子に自身の過去を思い出し、雪切刀也(ea6228)が頬を指先でかきながら苦笑いした。今は隣に槙原愛(ea6158)が寄り添っているが、以前は恋愛事とは距離をとっていたのだ。
「こら、あまりくっつくな」
「いいじゃないですか〜。久しぶりに一緒の依頼なのですから〜♪」
そんな過去もなんのその。超ご機嫌な愛にしっかりと腕を抱かれては、自分が折れるしかない。
「‥‥すまない。何だかもの凄く恥ずかしいんだ。その、何分、こういう依頼は初めてなもので」
「そういえばおふたりは、どんな風に知り合ったのかな?」
朴念仁の息子に任せていると話が進まないので、自然とエルが進行役となる。
「どんなって‥‥俺が冒険者として受けた、最初の依頼からになるな」
「そこで刀也さんを弄って以来の付き合いなのです〜。刀也くんが女の子を苛めてたのですよね〜」
こんな風に、と愛が笑顔のままで刀也の頬を指でつまみ、引っ張る。あまり伸びない。
刀也は愛の手を自分の頬から放すと、そのままつまみ返した。
「まあ、恋仲になったのはそれからかなり後だ。俺の家でよく話してはいたんだが」
「告白は刀也くんからしてくれたのですよね〜♪」
やっぱり女としては男の人からしてもらえると嬉しい――と言う愛に、エルも両頬に手を添え、同意しながら悶える。
「人の中にずけずけ入り込んでは振り回し、おまけに何でもかんでもあっさり受け止められて‥‥いつの間にか好きになってたんだよ」
困ったもんだよな、とまた苦笑いをする刀也だが、好きになって付き合ってそれで終わり、ではない。彼が未開の地、豪州に渡っていた約一年、愛はずっと恋人の帰りを待っていたのだ。どれだけ寂しくて辛かったかは容易に想像できる。見限られていてもおかしくないだろうに、戻ってきた彼を、笑って抱きしめてくれた。
「好きになれて、ホントによかったと思ってるよ。人にも勿論よるだろうけど、そういう相手を探してみるのもいいんじゃないかな?」
「甘えられますし、抱いてもらうとはにゃ〜んな感じになりますし〜」
「はにゃ〜んとはどういう状態だ?」
「今の愛おねーちゃんみたいな状態だよ」
眉根を寄せる息子の疑問にはエルが回答する。息子は成る程と言いはしたが、どう見てもいまいち理解できていないようだった。
●
天下の往来を歩く仏頂面の息子と満面の笑みのエル。手を繋ぐ姿はまるで親子のようだが、会話の内容は親子では決してしなさそうなものだった。
『恋愛のナニがいいかって言うとー‥‥やっぱりアレかな? ずばり、「ひとつになるコトの快感」ッ!!』
繰り返す。往来である。
だが声は二人以外には聞こえない。なぜならエルのテレパシーにより心の声で話しているからだ。
『あ、別にえっちな意味じゃないよー? 一緒にいるとか、同じコトを考えるとかー。‥‥そーゆー意味もあるけど』
あるのか。言葉でツッコむ代わりに、繋がれた手がぴくりと動いた。
『詳しくは諸事情で言えないけど、それはそれはとっても気持ちのいいコトなんだよ。何て言うんだろう‥‥心の何処かの空っぽな処が満たされるような、そんな感じ。安心感、とも言うかな? ココロもカラダも纏めてとろけちゃうような、この世のモノとは思えない気持ちよさなんだよー♪』
『先程の二人と同じだな』
安心感から来る快感。その安心感は「好き」という感情から来るもの。人として安心感も快感も抗いがたい感覚であるから、「好き」も普遍的なものとなる。成る程――と、堅苦しい理由付けをして息子は頷いた。
『‥‥ふふ、一回試してみる?』
その堅苦しさを切り崩したいのか、エルは蟲惑的な表情で繋いだ手を自らの胸に持っていったが、またしても頭にその手を置かれて終わる。
『「好き」の相手とすべきなのだろう?』
確認するように尋ねられて、仕掛けた側がきょとんとした。
「‥‥ただいま‥‥」
「‥‥お帰りなさい」
待ち合わせたのは彼の家の前。エスナ・ウォルター(eb0752)はケイン・クロードにぎゅっと抱きついて、半年振りの再会をじっくりと味わっていた。優しい腕に、懐かしい感覚に、帰ってきたんだなぁ‥‥という実感が押し寄せてくる。
「えっと‥‥話したい事がいっぱい、いっぱいあるんです」
「うん、聞くよ。何でも。全部話してくれるかな?」
笑ってくれるのに甘えて、月道の向こうで得てきた思い出をつい、次から次へと話してしまう。
小さな町づくりをした事。その名前。新しいものを作るのは大変で、苦労や問題は後から後から沸いてくる。それでも、ちょっとずつでも形が出来ていく様は、子供を育てているかのように充実していた。
「お誕生会に招待してもらって‥‥飾りとか、プレゼントとか‥‥色々がんばって作ったんだよ‥‥」
お茶屋の店内、一番奥まった席。入口付近からは覗けない衝立の向こうで、二人は並んで座っている。普通なら向かい合って座るのだろうが、今は、腕を組みたくて隣にいる。結構な身長差のある二人だから、立っている時はなかなかうまく腕を組めないのだ。
「お料理もがんばって‥‥オムレツは失敗しちゃったけど‥‥」
「そうなんだ」
「あ、でも‥‥ローズシャーベットは褒めてもらったから、今度作ってあげるね‥‥」
「へぇー。美味しいんだろうね、楽しみだなあ」
ケインの受け答えには、相手をたてようとか、そういう技巧のようなものは感じられない。ただエスナの話を聞いて、話の腰を折らない程度に相槌を打つ。
話したいだけ話してほしい。想い出を共有したいと思ってくれる事が、嬉しそうに話してくれる事が、ケインの喜びとなる。それだけで幸せなのだ。
「でね、そこの教会で、刻印をさせてもらえる事になったの‥‥」
「刻印?」
エスナはハーフエルフ。ケインは人間。異種族婚をよしとしない教会が、まさか刻印を認めてくれるなんてとケインはつい聞き返した。
「ん‥‥だから――」
「わかった。行こうね。結婚式が済んだら」
くっついているエスナの頭のてっぺんに、こてん、とケインの頭が乗っかる。結婚式という単語に反応したエスナの熱さが、ケインに直接伝わっていく。
「どうかした?」
「あ、あの、その‥‥一緒に居られなかった時間の分‥‥今日は、時間の許す限り‥‥一緒に居てね?」
離れていた時間を取り戻す為に、密度の濃い時間を。エスナの発する言葉にも熱が帯びてきている。それもやはりケインに伝わって、ケインの熱もエスナに伝わって。相手の熱さが自分を更に熱くする。
ケインがエスナから頭を離した。
(「これは‥‥また、キ、キ‥‥はぅぅ‥‥」)
一年ほど前にも感じたことのあるこの空気。そう、初キスは一年前だった。
「帰り際にって思ってたんだけど。ちょっと、もちそうにないな」
照れながら微笑むケイン。けれど彼の青い瞳もまた、熱を帯びている。
エスナの胸も一際大きく鼓動した。ゆっくり下ろすのではなく、ぎゅっ、と瞼を閉じるのは、慣れないから。それがどんどんケインを熱くするとも知らずに。
「ん」
重なる唇。二人が同じところにいる証。
息を継ぐ、一瞬の吐息もまた、二人の帯びる熱を促進した。
『何をしているのだ』
『キスだよ? そんなことも知らないの、おにーちゃんってば』
衝立の脇、縦に並ぶふたつの顔。依頼の事などすっかりどこかに吹き飛んでしまった二人を覗く、息子とエルである。
『あれも「一つになる」という事か』
『唇くっつけるだけなんて初歩の初歩だよ。高レベルなキスなんて、おなかにきゅんって来るくらいにスゴイんだから♪』
エルのコメントはさておき。
息子は、口と口をくっつける事の意味を掴みかねているようだった。
空に月と星が輝く頃には、刀也と愛は刀也の家でごろごろしていた。庭から家の中が覗けるようにされている。だが視線を感じようと気にしない。少なくとも愛はがっつり甘えている。
「にゃう〜♪ 刀也く〜ん♪」
「はいはい」
愛の行動は、昼間のエルが息子にしていた事と大差ない。一方、された側の対応はというとまるで違う。刀也は愛しそうに愛の髪を指先でなぞっている。
実は昼の間に呉服屋で着物を見たり馴染みの団子屋に行ったりと、街中を歩き回って疲れている。まあ要するに刀也はいつものごとく愛に振り回されていたわけだが、別にいいらしい。疲れる逢引もいつもの事だし、心地よい疲れというものもある。
「んふふふ〜♪」
愛の胸元は少しはだけていた。普段は着物の下で胸を押さえつけているさらしも、一体いつの間にはずしたのか。多分、刀也の位置からは色々見えている。
「‥‥おい」
「別に悪い事とか見られて困る事をしてるわけでもないですし〜?」
「少しは困れ」
会話中も髪をなぞる指は止まらない。そのうち、三つ編みをまとめている紐がするりと解かれる。
「刀也くんこそ〜♪」
それを喜ぶ愛も愛なのだが。
「お前が悪いんだ、お前が」
照れ隠しを言いながら、刀也はごろごろしすぎで本当に寝転がっていた愛の上体を起こし、一度、きつく抱きしめる。ちらっと庭のほうへ視線を走らせた。
「俺だけ恥ずかしいのも癪だから、愛も付き合え」
何を、とは愛は問わないし、拒む事もない。同時に距離を狭めていく。恐らく幾度も繰り返された行為だから。角度も、タイミングも、長さも、わかっている。心と、体の望むものも。
愛の体を支える刀也の手に、一段と力が込められた。
『あれもキスとやらか』
『さっきよりも上級者向けだね♪』
庭の片隅、茂みの陰。大きい息子と小さいエルが、身を寄せ合って隠れている。バレている事はお互いにわかっているが、隠れるのが最低限の礼儀というものだろう。
『何が違うのか、さっぱりわからん』
首を振る息子に対し、エルはんべっと小さな舌を出してみせる。
『入れて、色々スルの』
『‥‥何がいいのだ、それの』
ようやく理解しかけてきたところへ、またわからない事が出てきたようだ。眉間のしわをつまんで揉んでいる。
『んー。前に言った、ひとつになるコトの快感と、あとは‥‥好きな人は受け入れたいものだよ』
キスをしたくて好きになるのではなく、好きだからキスをしたくなるのだから。
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みずみずしい朝露がまだ葉の上に残り、空気も引き締まって感じられる。そんな早朝。橘一刀(eb1065)は自宅で剣の修行に励んでいた。
彼の身につけている流派は夢想流。夢想流といえば居合いである。必要なのは目にも留まらぬ速度。鞘への抜き差しを繰り返し、体の軸がぶれぬよう、腕が刀が軽やかに動くよう、額に玉の汗を滲ませて尚、空を切り裂き続ける。
終わりがないかのように思えたその動きも、やがてはぴたりと止まった。心中で数えていた回数を終えたのだ。どれだけの数をこなしたのかは、大分暖かくなっている空気から察せられよう。
「一刀殿、御疲れ様です。少し休憩になさいませんか?」
見守りながら頃合を見計らっていたのだろう。和泉みなも(eb3834)が近づいてきて、太陽のにおいのする白い手拭いを渡してくれる。
「いつも済まぬな」
「‥‥一刀殿が頑張っている姿を見るのは、好きですから」
礼を言われて、わずかにはにかむ。頬にも少し、朱が差している。そんなみなもに、一刀の胸も暖かくなる。
ふと視線を動かせば、既に朝食の膳が用意されているのが確認できた。隣の家に住んでいるみなもが作って、差し入れに持ってきてくれたものだ。作られてからまだほとんど時間が経っていない事を示す、ゆらゆらと立ち上る湯気。目を見張るほどどうこうという事はないのだが、味噌汁の具から飯の固さまで、一刀の好みに合わせられている。その心遣いが隠し味となって、とても美味く感じられるのだ。
「お昼もお持ちしようと思うのですが、何か食べたい物はありますか?」
「そうだな‥‥」
ひとつ屋根の下で暮らしていないだけで、まるで夫婦のような会話である。さもありなん、二人は幼馴染であり、かつ、婚約してから一年以上も経っている。互いの好みや呼吸を知り尽くしたような仲なのだ。
幼い頃に味わった辛さも知っている。黒ではない髪の色や目の色は、ジャパンにあってとても目立つ。色々言われたし、された。
――僕、みなもを護れる位強くなるから、もう泣くな。
健気に涙を堪えようとするみなもに、一刀はそう宣言したのだ。子供ながらに護りたいと思った、あの気持ちは今も変わらない。だから、待たせている事に心苦しさを感じながらも、世界各地を飛び回り、修行に明け暮れている。心底惚れている証拠だ。
打ち込むものがあれば、他のものにはなかなか時間を割けない。会う時間をとれない事にみなもが胸を痛めているのもわかっているのだが、それを言わずに飲み込んでしまうから、つい甘えてしまっている。
「足りない材料があるので、御買物に付き合って頂けますか?」
「ああ、かまわない」
二人の逢引は、日用品や食材の買出し程度。それは逢引とは言えないのではないか、とみなもの脳裏にもよぎる事はある。が、並んで歩くだけでも嬉しいのだから、逢引と呼んで差し支えはないはずだ。
店の開き始める時間帯。掃除や洗濯を済ませて家を出ようとしたみなもの所へ、一刀がやってくる。迎えに来てくれた、と認識した途端に顔が熱くなる。
すると一刀は困ったような、それでいて嬉しいような顔になって、みなもの静止も聞かずに、腕を回した。小さな体を包み込むように。みなもの耳が、尖っている先のほうまで真っ赤になっている。しかし、やめない。彼女が恥ずかしがっているのは百も承知。けれどそれでも彼女は抱き返してくれるから。
溢れて零れる愛おしさが落ち着くまでは、このままで。
『‥‥』
息子は感じ入っているようだった。価値観にうまく当てはまったのだろう、ようやく色々なものの合点がいったのだ。
『互いを想い、支え合う‥‥「好き」という気持ちがあるゆえの事なのだな。思い返してみれば自分の父母もそうであった』
『ふぇ?』
不思議そうに小首を傾げるエルの手をとり、立ち上がらせる。大事な時間を垣間見させてくれた者達へ贈る、礼の品を買い求めに行こうと告げて。