ぼくのうしゃぎを守って
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■ショートシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月29日〜07月02日
リプレイ公開日:2008年07月11日
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●オープニング
江戸の街を出て、少し行った所。街道近くに小さなおうちがありました。
そのおうちに住んでいるのは、近所の山林でお仕事をしているお父さんと、そのお手伝いをしているお母さんと、そんな二人のかわいい息子――三歳になったばかりの良之助で、三人家族です。
お父さんは山を大事にしているので、山に住んでいる生き物達の事も、とても大切にしています。勿論、家族みんなもです。
例えば‥‥
「うしゃぎーっ!!」
そう、うしゃぎ‥‥っていうか、うさぎ。兎。ウサギ。
家族の住んでいるおうちのまわりは、なぜか、うしゃぎ天国になっていたのです。
「野菜の皮や切れ端をあげていたからかしらねぇ」
「元々、繁殖しやすい生き物だからなぁ」
お母さんはもお父さんも、口では困ったと言いながら、まぁいっかーな感じです。
でも、二人がそういう風になるのも、ある意味、仕方がないのです。だって良之助が、うしゃぎ大好きなんですもの。昼間は一緒に遊んで、夜は何匹かをお布団に連れ込んで一緒におねむ。良之助の毎日は、うしゃぎを中心に回っていました。
そんなある日。
「丸々太ったウサギがたくさんいるじゃねーか」
「こりゃあ美味いウサギ料理ができそうだな?」
嬉しそうに笑うおじさん達が、網やら籠やらを持ってやってきました。そして、うしゃぎ達を捕まえようとしたのです。
「だめーーーっ!!」
「うおっ、なんだっ!?」
勿論、良之助は黙って見ている事なんてできません。おじさん達に突撃して、ぽかぽか叩いたり、腰にくっついたりしました。
「良之助!!」
「どうしたのっ」
そうして騒いでいるうちに、異変に気がついたお父さんやお母さんもやってきます。おじさん達はあからさまに顔をしかめました。
「このウサギはあんたんとこで飼ってんのか?」
「‥‥いや、野性のものにエサを与えていたらなついたんだ」
「はーん。じゃあ、誰のものでもないってわけだな」
「俺達がもらって帰ってもいいって事だ」
顔を見合わせてひそひそするおじさん達。どうしたのかと見ていると、包みを取り出して、開き始めました。中に入っていたのは――包丁。
「俺達は料理人でな。なかでもウサギ料理を得意としている。今日は、料理に使うウサギを探しに来たんだよ」
腕に自信があるらしく、なんなら今すぐこのなかの一匹を捌いて料理を作ってもいい、と胸を張っています。
お父さんが言ったように、うしゃぎ達は野生の子。狩りに来たおじさん達を止める権利は、この家族にはありません。
でも、でもやっぱり、良之助がたくさんたくさん仲良くした子達なのです。友達なのです。
「うしゃぎ達を食べちゃだめぇぇーーーーーっ」
悲しくなってしまった良之助は、大きな声を上げて泣きじゃくり始めました。
良之助が泣き止まないので、お父さんとお母さんはすっかり困ってしまいました。ばつが悪いとおじさん達も渋い顔。
やがて、おじさん達はこんな事を言い残して、帰っていきました。
「何日かしたらまた来る。その時に囲いの中に入っているウサギは、坊やの言う事を聞いてくれるお友達だと判断して、捕まえない事にしよう」
囲いの外にいたら捕まえてしまうよ、というのです。
それなら大丈夫だ、と良之助は思いました。だって、うしゃぎはみーんな、良之助の友達なんですから。
――でも、お父さんとお母さんの眉毛の間のシワは取れません。なぜなら、うしゃぎ達の中には、とんでもなく個性的で、大人しく囲いに入ってくれるとは到底思えないような子が混じっていたのですから。
●リプレイ本文
●参加動機
そんなものは人それぞれなのです。でも今回は、大体二種類に分けられそう。
「ただ単にうしゃぎを見たかったからですかね。小動物好きというのもありますが‥‥」
と、恥ずかしげもなく言い切る好青年はディファレンス・リング(ea1401)お兄さん。
「うしゃぎ達の可愛い姿に癒されたいんだよー」
一際もこもこな子うしゃぎを抱っこしようとして、安産型お母さんうしゃぎから早速ひっぷあたっくの洗礼を受けるシルフィリア・ユピオーク(eb3525)お姉さん。でもなんだかとっても嬉しそう。
「あたしはどっちかっていうと猫派なんだけど、ちっちゃいコ達って可愛いし、何よりうしゃぎも大好きなのよね♪」
とりあえず愛でたいらしい御陰桜(eb4757)お姉さんの周りには、もう二匹のうしゃぎがいます。しかもそのうち一匹は妙に青白くて、バチバチいっているような‥‥?
――以上の皆さんが、主な『うしゃぎを可愛がり隊』です。
一方。
「ウサギ達は、一羽たりとも料理人達には渡しません」
食べられてしまうのは可哀想だ、と手伝う決意を固めているガユス・アマンシール(ea2563)お兄さん。おうちには何だか凄い生き物がいるとかで、自信満々。
「うしゃぎさんがいっぱーいっ☆ こんなにふかふかなのに食べちゃうなんて、もったいなーいっ☆」
その辺にうごめいているうしゃぎを見て、連れてきた自分のうしゃぎを抱き上げながら飛び跳ねているのは、ジュディス・ティラナ(ea4475)お姉さんです。
「食わなきゃ生きていけないってのは真理だけど‥‥そういう意地悪は大人のすることじゃねぇよなぁ。この勝負、負けられねぇ!」
拳を握り締める本庄太助(eb3496)お兄さんはなんだかかっこいいです。
――こちらが、主な『料理人さん達をこらしめ隊』です。
「うーん‥‥うしゃぎさん、と言うと何だかちょっぴり恥ずかしいですね」
皆の言葉を聞いて、ほんのり赤らんでいるのは所所楽柚(eb2886)お姉さんで、どうやら照れちゃってる様子。でも、それ以上に照れているのは‥‥
「ほらほら、出ておいでよ」
「大丈夫っ、すっごく可愛いわよっ☆」
移動の足や荷物持ちとして連れてきたお馬さん達がいるのですが、その陰からちらちらと、こちらを覗く黒髪、そしてうしゃ耳がありました。
「恥ずかしがり屋なのを頑張ってつけたんだから、出てこなきゃ意味がないでしょ〜?」
「う‥‥うぅ‥‥」
唸りながら引っ張り出される、小鳥遊郭之丞(eb9508)お姉さん。そのさなかにも、頭上のうしゃ耳が揺れています。見回せば他のお姉さん達も全員、うしゃ耳装備中。お昼寝の時間が終わったらしくお母さんに手を引かれて外に出てきた良之助が目を輝かせるのも、無理はありません。
「うしゃっ、うしゃっ、うしゃーーーーーっ♪」
「そうね、うしゃぎさんね。仲間が危ないのを知って、助けに来てくれたのよ」
大興奮する良之助をなだめる為、お母さんは素敵な嘘をつきました。
●囲い
良之助とのご挨拶が済んだ皆は、早速作業に取り掛かる事にしました。馬や魔法の草履で先行してくれていた人達が色々な準備を済ませてくれていたので、すんなりと次の段階に進む事ができます。
「お父さん、間伐材はあるでしょうか」
「ある事はあるが。それで作るのかい?」
間伐材というのは、くっつきすぎちゃってなかなかいい感じに育ってくれない木々から何本かを間引いた時、その間引いた木の事です。お日様がよく当たってもっと成長するようにと願って、ごめんなさいをしながら切るのです。
もちろん、そのまま捨てるなんて勿体無い事はしません。基本的にあまり育っていない、つまり細いものばかりなので建築材には向かないのですが、薪にする事は出来ます。
で、ガユスお兄さんはそんな間伐材を囲いの材料にしようというのです。
「強度に不安はないかな。ウサギは結構強力だよ」
「できる限り補強します。あとは隙間も詰めればいいでしょうか。親ウサギが通れない隙間でも子ウサギは通ってしまうでしょうし」
「板張りのしっかりしたのを作りたいところだが、時間もあまりないみたいだしな。出入口は何箇所か設置しよう。扉の外側に止め具代わりに杭を打って、外からは押せば入れるけど中からは出られないようにすれば、ウサギはそこからは出られない」
「穴掘りでの脱走も防止しないといけませんから、砂利や石などを土の下に敷いておく必要があるでしょうね。一番近い川へはどれくらい時間がかかりますか?」
「野茨とか野薔薇なんかの、トゲのある蔓を持つ植物の生えてる場所も教えてくれるかい? 柵の下部に巻いて、野犬避けもしておかないと」
ディファレンスお兄さんと太助お兄さんにシルフィリアお姉さんもその会議に参加して、最終的な位置や設備、揃えなければならない材料をまとめていきます。
用意する材料が決まったら、今度はそれを揃えなければなりません。
ディファレンスお兄さんは愛馬の翼徳を連れて近くの川へ。ガユスお兄さんと郭之丞お姉さんは、間伐材をわけてもらおうと倉庫へ。驢馬のトーマスと一緒に、うしゃぎの寝床になる草をとりに行くというジュディスお姉さんは、ついでにトゲつき蔓もとってくる事になりました。
◆
「こんな感じでいいかーい?」
囲いを作る位置は、お母さんがいつもエサをあげている勝手口側――つまり、家族の暮らす家の裏手です。なぜなら、そこを餌場と認識しているうしゃぎが多いらしいから。
シルフィリアお姉さんが縄で囲んで、大体の範囲を決めてしまいます。うしゃぎに広さを確認したかったようなのですが、警戒しているらしく今は茂みの向こうに逃げてしまっていて、テレパシーで語りかける事ができません。良之助がいれば近づいてくるかもしれませんが、工具を広げているのでちょっと危険。仕方なく諦めたのです。
柚お姉さんと太助お兄さんは、扉をつける位置などの印をつけていきます。寝床や餌場の位置のバランスを考える事も忘れません。
「やはり扉は二重にしたいですね。『安全な寝床』として作るのがいいと思いますし」
「だよなあ‥‥どれだけ作業が順調に進むかにかかってるけど」
「できる限り過ごしやすい場所にしたいのです。いきなり囲いの中に入ってもらうわけですから」
そうです。うしゃぎをただ閉じ込めてしまうのでは可哀想ですし、うしゃぎ達だって納得がいかないに決まっています。。なるべく快適なおうちを提供する事が、彼らの身を護る為とはいえ行動を制限してしまう事への「ごめんなさい」にもなるのです。
「よし、次は穴を掘るか」
「材料が届くまでに、なるべく進めておきたいよねぇ」
「わっ、わたくしもお手伝いします!」
身を乗り出して申し出る柚お姉さんを、太助お兄さんとシルフィリアお姉さんは、じぃーっと見つめてしまいました。つい。お兄さんもどちらかと言うとあまり体力のあるほうではありませんが、柚お姉さんはそれに輪をかけて非力だからです。でも本人が頑張ると主張しているし、ここはお願いするところなのでしょう。
シルフィリアお姉さんは笑顔の柚お姉さんを眺めて微笑むと、足りない分のスコップを借りに行きました。
材料が届いた後は、なんだか凄い事になりました。
ディファレンスお兄さんがじゃらじゃらと石を敷き詰める横で、郭之丞お姉さんが間伐材の長さを調節していきみるみるうちに木材と呼べるものを積み上げていきます。木目や性質を考えながら木材を削って杭を作るという太助お兄さんの作業は、判別にガユスお兄さんも加わったおかげですいすい進みました。細い木を編むようにして扉を作るのは柚お姉さんとシルフィリアお姉さんで、大量に草を手に入れてきたジュディスお姉さんはそれを入れるためのかごをお母さんにもらいに行くのでした。
●確保
ディファレンスお兄さん曰く。
「追い込みは極力避けたいところですね」
これ、皆が同じ気持ち。だからまず、あの手この手で説得を試みる事にしました。
『新しいおうちの中に入れば、いつも一緒だよっ☆ ――だって』
工具を片付けた後、姿を見せた良之助を発見して近寄ってきたうしゃぎ達に、ふたば(うしゃぎ)は飼い主であるジュディスお姉さんからの伝言を伝えました。
「うしゃぎの心はうしゃぎがいちばんよく分かってると思いますので♪」
ディファレンスお兄さんもこう言いながら、雲長(うしゃぎ)を囲いの内側へと送り込みます。柵に囲まれ、柔らかい寝床、沢山のごはん‥‥安全で素敵な場所だと他のうしゃぎ達に教える為です。
『今までは大丈夫だったけれど、うしゃぎさん達を捕まえたいと考える人が表れるようになったのです』
『そうそう。知らない人に連れてかれないように柵の中に入ろうね』
印を結ぶ柚お姉さんと巻物を広げたシルフィリアお姉さんとが、人とうしゃぎとの橋渡しを務めます。
でもこれですんなり入るのは、ほんの数匹だけでした。
『ご飯は良之助のお母さんにもらえるしー、大将が僕らを守ってくれるものー』
賢いほうだとはいえ、やっぱりうしゃぎはうしゃぎ。自分達を率いているボスがいれば安心だと信じているのです。
「これは‥‥大将を、先に入れないと‥‥いけないようですね‥‥」
妖精さんや妙な丸い光りと組んでうしゃぎを追い詰めては自分の手で捕まえていたガユスお兄さんが、息も絶え絶えに言いました。逃げ回るうしゃぎと追いかけっこをしたようです。何匹かはそれでどうにかなったものの、全部は無理です。体力的に厳しいものがあります。
じゃあその大将はどうしているのかというと。
「うしゃぎといえば人参だろう、ほら大将、人参だ――がふっ!?」
「あらやだ。郭之丞ちゃん、大丈夫?」
忍びの術で体の匂いを人参のものにした桜お姉さん。その匂いに誘われて近づいてきた大将とその取り巻きに、桜お姉さんが八百屋さんで買ってきた人参を差し出した郭之丞お姉さんでしたが、取り巻きから一斉にうしゃぎきっくを受けて幸せに浸っているうちに、大将に人参を奪われてしまいました。攻撃をあえて受けるという選択をした時点で、人参はとられると決まっていたようなものなのです。
「しょうがないわねぇ。柚ちゃん、お願いできるかしら?」
「はい。‥‥『桜さんのうしゃぎさんと勝負をして、大将さんが勝ったら、美味しいご飯と安全な寝床を提供、負けたらこちらの言う事を聞く‥‥というのはどうでしょうか?』」
『ふ‥‥ひよっこが俺に勝負を挑むというのか。よかろう、相手をしてくれるわっ』
大将はすぐにノってきました。そしてかけっこにも早食いにも勝ちました。耳の傷跡は歴戦の勇者の証、ダテではありません。
こうして大将はご飯と寝床を手に入れたわけですが、どっちが勝とうが負けようが結果的には同じ事。いい気分で囲いの中の一番いいところに陣取った大将を見て、他のうしゃぎもぞろぞろと中に入っていきました。
残る姉御のほうは‥‥なんと桜お姉さんのお膝の上でまっさーじと毛づくろいを受けていました。目を細め、耳を倒して、気持ちよさそうにしています。――が、頑としてお膝の上から動こうとしません。これはこれで問題です。しかもやきもちを焼いているらしい跳太(青白いほう)が横でバチバチいっていて、姉御の取り巻きと今にも喧嘩を始めそうなのです。
(「私も撫でたい‥‥が、これはまさに一触即発‥‥!」)
羨ましくてたまらない郭之丞お姉さん他数名が、手を伸ばすに伸ばせず、ごくりとつばを飲みました。
「えぇ〜っ、まだ入らない子がいるのっ!?」
そこへ、追加のエサを取りに行っていたジュディスお姉さんが戻ってきました。お姉さんは変な装飾の施された枝を取り出すと、なんと、ローブの裾を翻して踊りだしたのです。
「ふんわかどしどしどらぽんたぁ〜んっ☆」
しゃらんらー。うしゃみみ魔法少女に大・変身☆
不思議な力で体の動きを止められてしまった姉御はそのほんの一瞬の間に宙を舞い、囲いの入口付近で待機していた柚お姉さんの腕に中にもふっと。そう、もふっと。そしてそのまま囲いの中へ。
バチバチ跳太は桜お姉さんにメッされて、いい気味だとにやにやする姉御の取り巻きもその隙にディファレンスお兄さんやガユスお兄さんが小脇に抱え、姉御の側へ連れて行ったのでした。
◆
後で我に返った大将は、やっぱりちょっぴり怒っていたようなのですが‥‥もう一度きちんと説明を受けて、良之助だけでなくお父さんとお母さんもうしゃぎ達の事を大事に思っていて、だから守ろうとしているのだとわかって、鼻をふんかふんかさせながらそっぽを向いて照れていました。
寝床の側に吊るされた香り袋に向かってふんかふんかしてるのは子うしゃぎで、ようやくお母さんうしゃぎにお許しをもらった幸せそうなシルフィリアお姉さんに抱っこされています。撫で撫でだってしちゃいます。
小さくて丸っこくて白くてふわもこの、子うしゃぎです。勿論、誰もが羨ましがって、次は自分だと競争で抱っこして撫で撫でしていきます。
蹴られながら。
良之助もそこに加わろうとしたのですが、太助お兄さんがそれを引き止めました。囲いから出て、向かい合って、男同士のお話です。
「魚や野菜‥‥というか植物も俺達やウサギと同じで生きてる、っていうのはわかるか?」
お兄さんの問いに良之助はこくこく頷きます。
「俺達、人は、少し前まで生きてたそいつらの命を取って食わないと生きていけないんだ」
生きているから可哀想、は通用しないのです。だからといって食べないでいると身がもたない‥‥食べなければ生きていけないのです。
料理人のおじさん達も、悪い人ではありません。別にお金儲けをしようというのではなく、美味しいものを提供したかっただけなのです。
「だから、出されたものは好き嫌いしないで残さず食えよ。お前にくれる命を無駄にしない為にもな」
またこくこく頷く良之助ですが、まだ三歳。どこまで理解できているかは怪しいですし、お兄さんだって普段からそんな事考えながらご飯を食べているわけではありません。
けれど、忘れてはいけない、大事な事です。
それは良之助にもわかったらしく、家に戻っていったかと思うと、何かを持って飛び出してきて、やや息の荒い笑顔でお兄さんの手にそれをねじ込みました。
不思議に思いながらもお兄さんが手を開くと、そこには見るからに大事にされていたとわかる、小ぶりの独楽があったのでした。