【ご近所冒険者】カッコイイとこ見てみたい

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 22 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月14日〜10月17日

リプレイ公開日:2008年11月07日

●オープニング

「冒険者ってすげぇんだってよ!」
 子供、特に男の子というものは、とかく強い者に憧れがちである。
「僕も聞いたことあるよ! どかーん、ばりばりー、ごぉーっ、って感じで、魔物なんてあっという間に片付けちゃうんだって!」
 強いだけでなく、見た目が派手だったり、圧倒的だったり、――とにかく一見して凄いと思わせるだけの迫力があれば、それだけで『ひーろー』なのである。
 自分もあんな風にかっこよくなりたい。そう考えても不思議ではないし、目標ができる事で励みになって高みを目指すのであれば、その子にとってもよい影響を及ぼしているという事になる。
 しかし、必ずしもよい影響ばかりにはとどまらないのが憧れというものであり、親達の悩みの種であった。
「見たくねぇ? カッコイイ冒険者のカッコイイとこ」
「見たい見たい! ちょーカッコイイんだぜきっと!」
「だろっ。じゃあやっぱあそこに行くっきゃないよな」
「あそこってどこだよ」
「決まってんだろ。冒険者といえば‥‥」
 いつも遊び場にしている路地裏の片隅で、元気な男の子三人が声を潜めてこそこそと相談する。子供達にとっては、こういう相談からして楽しいのは言うまでもない。

 そんなわけで、少年達がやってきたのは、いわずと知れた冒険者ぎるどだった。
「魔物退治を見たいんだけど」
 やってくるなりそう言ってのけた少年達に、運悪くつかまってしまった受付嬢は面食らってしまった。
「危険なんだよ、だから君達を魔物退治の場に連れて行くわけには‥‥」
「危険だってことは承知の上さ!」
「危険に立ち向かわなきゃ得られないものもあるんだ!」
「あ、その台詞カッコイイ!」
「だろ、俺の父ちゃんが言ってたんだぜ!」
「‥‥君達、お姉さんの話、ちゃんと聞いてくれるかな?」
 どんなに弱いとされる魔物でも、一般人にとっては大きな脅威である。ましてや子供なんて。怪我でもさせたら、親に申し訳が立たない。場合によっては一生を不意にしてしまう可能性だってあるのだ。
 お父さんやお母さんを悲しませないように、と懇々と言い聞かせると、少年達はしおらしく頭を下げ、ギルドから出て行った。
 ――が、それで終わるだなんて、受付嬢も思ってはいない。彼女とてかつては子供だったのだ、こういう時に子供が起こす次の行動は大体読める。少年達が一枚の依頼書をちらちらと盗み見ていた事にも気付いていた。

 ◆

「皆さんに今回退治してもらうのは、江戸から程近い花畑に居ついた、毒を持つ蝶です。街道のすぐそばですので、確実に仕留めていただきたいですね。目撃証言によれば、蝶は3体との事。毒にさえ注意すれば、比較的容易に済ませられるでしょう。ただし‥‥」
 集まった冒険者へ説明していた受付嬢だったが、言葉を途切れさせるとため息をついた。
「‥‥ただし、厄介な懸念事項がひとつあります。冒険者に憧れる子供達が皆さんの後をつけていく可能性が高いのです。ぎるどとしてもこれを回避したいのはやまやまなのですが、完全に防ぐ事はできないでしょう。皆さんに連れ戻してもらうとしても、その間も街道が危険に晒されると考えると難しく――ですので、尾行に気付いてもそのまま依頼を遂行してください。その場合は子供達に危険が及ばないよう、最大限の注意を払ってくださるようにお願いします」
 勿論、その分の報酬は上乗せしますので。そう言った受付嬢の顔には、困りきった笑みが浮かべられていた。
 

●今回の参加者

 ea1401 ディファレンス・リング(28歳・♂・ウィザード・パラ・ノルマン王国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

●道中注意
「いるのか?」
「右斜め後方、茂みの中を移動中、だな」
 加賀美祐基(eb5402)が声を潜めて確認すると、同様に天堂蒼紫(eb5401)も小さく呟くようにして答えた。
「‥‥ちょっと厄介だね」
 長い槍を携えて歩くカイ・ローン(ea3054)。その槍へたまに熱い視線が注がれているのをなんとなく感じている。
 立派な人を尊敬するように、カッコイイものには憧れる。それが男の子というものだ。今回の依頼に集まった冒険者総勢五人も、かつては、彼らの後方にいる子供達と同じ少年だった。故に気持ちはわかるし、その想いを壊したくないとも思う。
「やっぱりここは、カッコイイところを見せたいですよね」
「俺自身、望んで冒険者になったから気持ちはわかる‥‥けど」
 だからディファレンス・リング(ea1401)は微笑みながら張り切っているのだが、やはりカイはどうしても難色を示す。
 どんなにカッコよくても、武器は武器。傷つける為のもの。冒険者という職もまた、危険と隣り合わせの職だ。そこを理解していないと、危険が増すだけ。
「危ないものは危ないって、教えないといけないよな。『いつかは俺も』で冒険者になっちゃった身からすると、あんまり無下にするのも確かに可哀想だけどさ」
 憧れに向けて絶賛突っ走り中の少年達。そんな彼らの行く先が闇へと伸びないようにする大変さを感じ、子育てというものの難しさを思いながら、日向大輝(ea3597)も己の刀に手を添える。彼もまた、子供達からの視線を感じてやや居心地が悪いようだ。
 九烏飛鳥から聞いておいた毒蝶の特徴は、大輝から他の皆へ、既に伝えられている。毒はリンプンに含まれており、吸い込んだ者を内側から傷つけるのだという。万が一にも子供達がリンプンを吸い込む事のないよう、蝶に近づかせるわけにはいかない。
「そこにいるのはわかってるんですよ。出てきてください」
 いざという時に散らばっていては守りづらいから、逆に傍に置いて守る。それが、彼らの出した結論だった。
 だがディファレンスの呼びかけに子供達が応じる様子はない。立ち止まった冒険者達に合わせて、茂みの中でじっと息を潜めている(つもり)。暫し待ってみたが変わらない。
 やがて、冒険者達はまた歩き始めた。茂みもがさごそと動く。
 ぱちんと大輝が指を鳴らすと、同時に彼の体が赤い光に包まれた。一瞬で消えたから、子供達は目の錯覚と思うだろうか?
 ――おい、今なんか光ったぞ!
 ――やっべ、カッコイイ!
 ――あれじゃね!? ぱわーあっぷ、ってやつ!!
 一斉に囁き出した。気に入ったようだ。
 それには聞こえない振りをしながら、次に大輝のとった行動は、ディファレンスから手渡された小石を、前を向いたまま後方に放り投げる事だった。
 石は当然、地面に落ちる。するとそこから、ゴォッ! と勢いよく、炎が噴き出した。
「わあああああっっ!」
 赤々と燃える、見るからに高熱を伴った炎は、子供達を驚かせるには十分すぎるくらいだった。驚きすぎて立ち上がった者もいれば、尻餅をついて茂みから転がり出た者もいた。
「さて。じゃあ一列に並んでもらおうか」
 あっという間に炎が消えるよりも更に早かったかもしれない。子供達は冒険者達によって逃げも隠れもできないように囲まれていた。

 正座して並んだ少年の人数は三人。覚悟していたよりも少なかった事に安堵しつつも、話を聞いてみればやはり頭は痛くなった。どんなに危険だと諭したところで、その危険に敢えて立ち向かうのがカッコイイとぬかす始末。ああ言えばこう言う。今怒られている状況もまた、子供達にとっては憧れの冒険者と触れ合える、貴重で素晴らしい時間でしかないようだった。
「冒険者をカッコイイと思ってくれるのは嬉しいけど、子供を怪我させたり、お仕事を失敗する冒険者は、カッコいいとは思わないよね」
 膝を折り、子供達一人一人と目線の高さを合わせて、カイは説得を試みる。が。
「そりゃあそうなったらカッコ悪いけど、そうはならないんだろ?」
「冒険者は自分を盾にして弱い奴を守るんじゃ?」
「受けた依頼は必ずやり遂げるんでしょ?」
 キラキラ輝く目。
 腕を組み、どうしたものかと悩む祐基のその眼前で、なんと拳が振り上げられた。振り上げたのは大輝。そのままコンコンコン、とリズミカルに子供達の頭部に軽く一発ずつ。
「なんでかはわかるな? ギルドのお姉さんに注意されたんだろ‥‥全く」
 しょうのない奴らだなという、親しみを込めた拳骨だ。当然だが痛みなどない。
 けれどそれによって子供達は大人しく「ごめんなさい」と謝ってきた。ぎるどの受付嬢に使われた例の戦法かとも思われたが、憧れの存在に怒られたという点で、やはりショックは何倍も大きいようだ。
「カッコいい冒険者が見たくて同行したいというのなら、ちゃんと俺達の言うことを聞く事。そうでないなら連れて行かないよ」
 ようやくまともに話を聞くだろうと判断して、カイは改めてそう告げた。しゅんとしていた子供達の顔にぱっと花が咲き、万歳三唱を始めたので、また小突くはめになった。

●お花畑でこんにちは
 ディファレンスが魔法を使用する必要もなく、花畑とその上を飛び交う毒蝶3匹はすぐに見つかった。実に楽しそうにふよふよと舞っている。気付かれる前に準備を済ませてしまわなければならない。
 子供達を中心として、カイが聖なる結界を張る。本来ならば念には念を入れて二重にしたいところだが、重ねがけしても意味がないので諦める。大輝ももう一度、淡く赤い光に包まれる。毒への抵抗を高める為に、己の士気を向上させたのだ。ディファレンスも初撃を魔法にしようと詠唱を開始する。
 これで万全と思われた。しかしそうではないのが約一名。
「嫌がらせだな、絶対に嫌がらせだ‥‥」
 蒼紫によって得物を奪われた祐基は、なんと素手で魔物と対面する羽目になっていた。
「いいか。お前たちも男なら、誰かの為に強くなれ。歯を食いしばって、大切な人達を守りぬけるように――加賀美のように」
 返せと言っても返してくれない。安全な結界の中で子供達に語りかける蒼紫は、とても真剣な眼差しをしていた。あっさり終わったのでは見物人も面白くなかろうと、友を強制的にやられ役として仕立て上げた者とは思えないほど。
「お前達は何も知らない。戦いの怖さも、人間の弱さも。現実は物語のようにカッコよくいく事など滅多に無い。その逆のほうが多い。だが」
 いつになく饒舌な蒼紫は、まさに戦いの始まったばかりの花畑へと自らの視線を向ける事で、子供達の視線も誘導した。蒼紫への文句をぶつぶつ呟きながら、祐基が必死で毒リンプンの回避を試みたところだった。
「たとえ倒れたとしても、また立ち上がればいい。泣いたとしても、また笑う事が出来ればいい。カッコ悪くても、精一杯やってみせる。それが出来れば、そいつが本当の『ひーろー』というやつだ」
「えー‥‥できればずっとカッコイイほうがいいなぁ」
 なあ、と頷きあう子供達。報われない祐基。蒼紫はまさにこの状況を楽しんでいるので問題なし。
「風よ、切り裂け! ウインドスラッシュ!!」
 その時、風の刃が発動して蝶の翼を切り裂いた。派手さを演出できればと試しに決め台詞を付け加えてみたディファレンスだったが、これがなかなか好評だった。
 しかし一撃ではやはり仕留められず、逆に怒った蝶がリンプンを撒き散らしながら突撃してきた。ディファレンスはそれをひとまず杖でしのいでから、次に、詠唱の為に腰の鞘へと収めていた反身の刀を抜いた。
「量を吸い込む前に、一気に決めたほうがいい!」
 大きく叫んだのは大輝だった。自らは即座に蝶の一匹へと距離を詰めると、刀を大きく振りかざしてから、叩きつけた。高威力であるが大振りとなるので読まれやすい動きであるはずだが、そこを本人の技量で補っている。
 一撃で蝶の息の根を止めた大輝に、子供達は拍手喝采だった。
「そうですね、ではこちらも行くとしましょうか、真牙壬(まがみ)!」
 熊狩りに出向いても立派に任をこなせるまでの能力を持つ柴犬。ディファレンスはそんな愛犬の名を呼び、傍らに付かせて共に仕掛ける。相棒と共に戦うという状況もまた、子供達好みのものであった。
 魔術師であるディファレンスだけでは、傷や毒を受けていた事だろう。だが彼は愛犬と力を、そして心を合わせる事で、見事、蝶を倒したのである。
 残る蝶は一匹。やられ役こと祐基に何度も何度も噛み付こうとしては、ぎりぎりのところでいなされている。
「お、おのれ卑劣な魔物め! だが、この程度でやられる俺じゃない! この花畑と街道の平和は、俺が‥‥俺達が守る!」
 何やらカッコイイ台詞を吐いている祐基だが、残念ながら事前に用意されていたものであり、ぎこちなさが残る。子供達はいっせいに頬の肉をひきつらせたが、そんな彼らの頭に、蒼紫はぽんと手を乗せた。
「危険を乗り越えるには、相応の実力を身につけておかないといけない。無謀と勇気は別物だ、あれを見ればわかるだろう?」
 それまで膝を折っていた蒼紫だったが、すっと立ち上がった。察したカイは連れていた妖精と忍犬に指示を出し、援護を命じる。
「加賀美! 時間を稼いでやる、トドメは任せたぞ!」
 蒼紫は自身に術をかけた後、祐基に彼の愛刀を投げ渡した。にやりと笑う友に、祐基も額の汗を拭って同様に笑った。
「んじゃ、本気出して行きますか!」
 いい加減痺れを切らしていた蝶の攻撃を、今度は肉薄した蒼紫が受け持つ。流れるような動きで回避してから、両の拳を振るってお返しをする。耐え切れるはずもなく蝶は吹っ飛んだが、落下した先は詠唱を終えた祐基の足元だった。
「炎よ!」
 大上段に構えられた刀に炎が宿る。自らの窮地に気付いた蝶は傷ついた羽をばたつかせて逃走を始めたが、間に合わない。
「どぉぉりゃぁぁああああ!!」
 重みと魔法の炎ごと振り下ろされた刀は、綺麗に蝶の体を二分した。

●憧れも悪くない
 蝶の死骸は、大輝の発案により回収され、その場で燃やされた。灰も地面に埋められた。毒リンプンの危険をなくす為だ。
 子供達はそれぞれディファレンス、大輝、祐基の真似をして、さっそく遊び始めている。冒険者からの苦言をすっかり忘れたかのようなのが不安だが、今は信じるしかない。彼らは確かに感じ取ってくれたのだと。
 幸運にも、その兆候はすぐに確認する事ができた。
「俺に当てられたらおやつやるよ」
 大輝から鞘に収められた刀を渡されて、軽い部類に入るとはいえ「武器」の重みを体感した彼らは、それをぎゅっと強く握り締めた。
 当然のごとく大輝が本気で避けるわけもなかったが、刀を振るうのではなく逆に振られる事となった子供達は、何度も転倒するはめになった。すりむいた腕や膝はカイの手当てを受けたものの、それでもまた向かっていく。
 体力の尽きるまで繰り返した彼らは、殊勲賞だと呈されたお菓子を受け取る事を拒んだ。いつか必ず当ててみせる、お菓子はその時にもらう、と。
「実際に動いてみてわかったでしょう、憧れるだけじゃつまらないと思います。自分で冒険者になれるように努力してみてはいかがでしょう?」
 ディファレンスからの提案には夢心地で頷く子供達。彼らは憧れの冒険者の背に負われて、今は両親の待つ家へと戻るのだった。