【街角冒険者】雪遊び
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■イベントシナリオ
担当:言の羽
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月26日〜12月26日
リプレイ公開日:2009年01月27日
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●オープニング
冬の寒い頃、火鉢にあたっている間は、至福の時間です。
なんてったって、ぬくぬくですから。
だけど、寒いからこそ楽しめる、そんなとっておきの時間もあるのです。
◆
呉服屋『鈴乃屋』の一人娘である小鈴は、火鉢にあたりながら今日の分のお勉強をしていました。字の読み書きがだいぶできるようになったので、お母さんが書いてくれた御伽噺を、声に出して読んでいます。
ぬくぬくが好きなのは小鈴だけではありません。にゃんこ達も母子揃って、火鉢のすぐ傍を陣取って丸まっています。眠っているらしく鼻がすぴすぴ動いています。母子が同じ拍子ですぴすぴしているので、小鈴は思わずくすりと笑ってしまいました。
やがて、小鈴の視線がお庭に面した障子に向きました。何かがいつもと違う、そんな気配を感じたのです。
首をかしげながら小鈴は立ち上がりました。せっかく温まっているお部屋がまた寒くなっても困るので少しだけ、そーっと、障子を開けました。
「わぁ‥‥」
白いものがいくつもいくつも、お空から降ってきていました。雪です。
いつから降っていたのでしょうか。お庭や塀の上やお隣の家の屋根が既に、うっすらと雪に覆われています。
これでは寒いはずです。これからもっともっと冷え込むかもしれません。けれど小鈴は、お庭に出ずにはいられませんでした。お気に入りの半纏をはおりながら草鞋を履いて、転がるようにして雪の下へ。
みるみるうちに、髪や肩が白く染められていきます。小鈴は気にしませんが。むしろ大喜びです。
「すごいー♪ すごいのー♪」
騒ぎながら走り回っていると、お母さんや使用人さん達が何事かと飛んできて、呆れたお顔になりました。
真っ白けな小鈴。でもほっぺただけは熟した林檎みたいに赤い小鈴。
「嬉しいのはわかるけど、風邪を引いたら大変よ。もう中に入りなさい」
もともと小鈴は季節の変わり目には必ず体調を崩していたくらいなので、あまり体が強いほうとは言えません。大事な大事な一人娘に何かあっては大変と、お母さんは心配でしょうがないのです。
「‥‥」
でも遊びたくてうずうずしている小鈴には素直にうんと言う事ができませんでした。きゅっと眉毛を寄せて、お母さんを見上げています。
お母さんは困ったようなため息をつくような、それでいて嬉しそうな、複雑なお顔になりました。
「大丈夫よ、こんなに冷え込んでいるんだもの。町外れにはきっとそのまま残っているはず。一緒に行ってくれるようセレナに頼んでおくから、お友達を誘って楽しんでいらっしゃい」
ぱぁぁぁぁぁっ! と、満面の笑顔になった娘から雪を払い落とすお母さん。娘への甘さを実感したひと時でした。
●リプレイ本文
●まっしろ
「おおおおーー!!」
誰の口からもそんなため息交じりの感嘆の声が飛び出ました。それくらいに、曲がり角の向こうは一面が真っ白だったのです。
綺麗な雪景色。誰の足跡もついていない、まっさらな白い絨毯。小鳥遊郭之丞(eb9508)お姉さんは一目見た瞬間から飛び込みたくてうずうずしているのですが、子供達の手前、あくまでも大人な振る舞いをしなくてはならないと、一生懸命に自分をいさめていました。
が、そんな心中は子供達の知った事ではありません。ずらりと並んだのは、小鈴の同い年の正太郎とその仲間達が数名。そして大人のしばわんこであるシロでした。彼らは郭之丞お姉さんの顔を見てニヤリとすると、一斉に駆け出しました。
「ああっ! ずるいぞ、お前達!!」
どんどん増えていく足跡に、郭之丞お姉さんももう我慢してはいられません。白い絨毯に飛び込んで、正太郎達よりも多くの足跡をつけられるよう、奮闘を始めたのです。
郭之丞お姉さんが躍起になれば、正太郎達も一層燃えて、互いが互いのやる気を刺激して。誰にも止められないくらいの盛り上がりようになるまで、さほど時間はかかりませんでした。奇声と表現しても許可されるだろう雄叫びをあげて、我先にと次なる無垢の雪を求める者達。
「あーらら。さすが郭之丞ちゃんよねぇ。あんた達も行ってきていいわよー?」
御陰桜(eb4757)お姉さんは足元にいたにゃんことわんこにそう言いましたが、喜んで走っていったのはわんこのほうだけでした。にゃんこは桜お姉さんの足に擦り寄って、そこから暖をとっているようです。よく見てみれば、小鈴の抱いている子にゃんこも、腕の中で微動だにしていません。動く気はさらさらないように思えます。
「やっぱり猫は寒いのが苦手なんやなぁ。先に火を焚いたほうがええかもしれん」
「抱いたままだと‥‥大変だしね‥‥」
言うが早いか、てきぱきと行動を開始したのは、藤村凪(eb3310)お姉さんと瀬崎鐶(ec0097)お姉さんです。かまくらを作り、その中で焚き火をするというので、セレナお姉さんが持ってきたスコップを使います。なるべく大きなかまくらを作るためには、なるべく大きな雪山をまず作らなくてはなりません。これはかなりの重労働ですが、のちの楽しみを目標に、せっせと雪を運んでは山にして固めていきます。固くなれー、立派なかまくらになれー、と祈りを込めながら、ぺしぺしとスコップで叩きます。
小鈴も手伝おうとしましたが、子にゃんこを抱いていなかったとしても無理でしょう。まずは楽しんでいらっしゃい、と桜お姉さんが微笑みます。
「力仕事は大人にまかせて、小鈴さんはお友達と一緒に遊びましょう。それが子供の仕事です♪」
それでもまだ眉毛を八の字にする小鈴の手を、緋村櫻(ec4935)お姉さんが引っ張ります。少年達+郭之丞お姉さんの集団は、しばわんこが後ろ足で勢いよく掘った雪をいかに上手に避けられるかという妙な競争をしている真っ最中。そこに混ざるには、幾分冷たい思いをしなければなりません。
勿論、その冷たさが雪遊びの醍醐味なので、皆がついつい笑ってしまうのです。
●雪合戦〜「合戦」の名はダテではない〜
かぶった雪で体が真っ白になり、騒ぎすぎで寒いどころかむしろ暑くなる頃。どどーん! と立派なかまくらが出来上がっていました。
中には、おうちから持ってきた薪や炭が中央に置かれていました。既に火がつけられていて、橙色のまだ小さな炎がゆっくりと育っているところです。元気に燃えるくらいに育ったら、すぐに今度はお湯を沸かせるよう、鐶お姉さんは凪お姉さんに手伝ってもらって準備を始めます。
「‥‥小鈴も」
さっきまで一緒になってはしゃいでいた郭之丞お姉さんでさえ毛布と甘酒の用意をしているのを見て、小鈴は今度こそ自分も手伝うのだと、目をキラキラさせていました。
「ううん、ここは大丈夫‥‥。‥‥小鈴さんは、雪合戦をしてくるといいよ‥‥」
すかさずそう言ったのは鐶お姉さんでした。火に小鈴を近づかせないようにする為です。
でも小鈴はしょぼんとしてしまいました。自分はもうだいぶ色々な事ができるようになったのに、と、ちょっぴり切なくなってしまったのです。
「‥‥ああ、ほら‥‥火が怒ってる。残念だけど‥‥小鈴さんと火とは、相反する運命なのかもしれないね。‥‥いや、宿命」
「しゅくめい‥‥」
難しい言葉なのでわかっているのやらいないのやら、小鈴は首を傾げました。が、実際に焚き火が一瞬ごうっ! と唸りを上げて燃え盛ったので、おとなしく従うしかありませんでした。実際には火の番を引き受けた凪お姉さんが火箸でかき混ぜたから燃え盛っただけなのですが、こっそりとやったので小鈴は気付かなかったのです。
――‥‥さすがです。
――まかせといてや〜♪
当然、ふたりのお姉さんの目の会話にも気付く事はありませんでした。
「雪合戦、もちろんセレナさんもご一緒ですよ?」
ずっと小鈴に抱かれていた子にゃんこが暖かいところを求めて飛び降りたのを機に、傍で見守っていたセレナお姉さんの腕を櫻お姉さんが掴みます。
「あ、いえ、私は――」
「セレナ殿にも参加して貰えば、良い勝負ができるだろうな! お前達も文句なかろう?」
用意を終えた郭之丞お姉さんの目線は、断ろうとするセレナお姉さんから、焚き火で手を温めている少年達へと移ります。
子供の勝負に大人が首を突っ込むな? いえいえ、そんな事はありません。
「別にかまわないぜ、班分けさえきっちりしてくれれば」
少年達はあっけらかんとそう述べると、すぐに班分けの話し合いを始めたのです。これにはさすがのセレナお姉さんもびっくりしました。自分がいつの間にか雪合戦要員に加えられているのもさる事ながら、話し合いの内容が「いかにして大人を先に潰すか」というものだったので、尚更です。
この場を無理に断ろうものなら水を差してしまう。そう考えたセレナお姉さんは、観念して、されるがままに雪原へと引きずられていきました。
にゃんこ班:小鈴、長助、寛太、郭之丞、櫻
わんこ班:正太郎、平之助、セレナ、シロ(わんこ)
「は〜い、、それじゃ〜行くわよ〜? はじめっ☆」
桜お姉さんの合図で、一斉にしゃがみます。まずは玉を作らない事にはどうにもなりませんので、先程遊んでいた間に作り上げていたらしい雪の壁の裏で、せっせと雪を丸めていきます。
「後は頼むぜ」
「了解、山にしとくよ」
先に動いたのは、わんこ班の正太郎とシロでした。いくつもの雪玉を入れた風呂敷包みを首に引っ掛けたシロを従えて、正太郎はにゃんこ班へと向かっていきます。
「そいやぁっ!!」
「ぶふっ」
初撃は見事、郭之丞お姉さんの側頭部をとらえました。
「くっ‥‥なぜ私を最初に狙う!?」
「一番狙いやすいからに決まってんだろ。ほーれ、もう一丁!!」
続けざまに放たれた第二撃。ですが郭之丞お姉さんは華麗に身を反らして避けたのです。
「ふふん。そら見たことか、先程は油断しただけだ」
「あんたが避けた玉は寛太に直撃してるけどな」
正太郎のしたり顔に郭之丞お姉さんが慌てて振り向くと、櫻お姉さんが寛太の顔を手ぬぐいで拭っているところでした。
「陣地の中では固まってる上に油断しがちだからな。子供だからって馬鹿にぶふぅっ!!」
偉そうに演説する正太郎の顔にも玉が突撃。投げたのはなんと、櫻お姉さんです。
「ええ、油断大敵ですね?」
櫻お姉さんのにっこり笑顔で、正太郎の負けず嫌いに火がついたようです。シロの風呂敷に手を突っ込んだかと思うと、次に投げる雪玉を手に――そして今度は、その手に玉をくらいました。長助に手ほどきを受けた小鈴が投げたものです。
こうなってはもう止まりません。大人を先に潰す計画はどこへやら、ただひたすら敵班と投げ合うだけ。使えるものは何でも使い、壁は勿論、風呂敷や手ぬぐいやシロの前足まで。
「理解できました。とにかく敵方に雪玉を当てればいいんですねっ」
雪合戦に慣れていないらしいセレナお姉さんが投げます。その際の態勢は見よう見まねの即席だし、投擲の訓練を受けているわけではありませんが、雪玉はまっすぐ飛んでいき‥‥小鈴のおでこにくりーんひっと。
「っ!?」
「小鈴さん!」
当たった勢いで、小鈴はそのまま、後ろに倒れてしまいました。大人たちは大慌てで駆け寄ります。
「‥‥ふぇ‥‥」
「大丈夫か?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥楽しいねぇ♪」
ほわり。白い雪にまみれながら浮かべられた心の底からの笑顔は、その雪さえも溶かしそうなほどにあったかいものでした。
「しょーがない、俺らだけでも続けようぜ、正太郎!」
「負けるかよっ」
長助の投げた玉に対して正太郎のとった行動は、避けるでもあえて受けるでもなく、風呂敷で弾き返すというとんでもなくとっぴなものでした。しかし当たり所がよかったのか、風に乗って飛ぶ鳥のように玉は飛んでいき、
ぼすっっ
「あぁら、そんなにあたしと遊びたかったのぉ?」
桜お姉さんのおっきなお胸の間にすっぽりと収まったのです。
まだ子供とはいえどきどきが止まらなくて、正太郎と長助は思わず目を反らしました。その隙に、桜お姉さんは忍の術で華麗に移動です。物凄い爆発音と共に。
「なんだこの音ぉぉぉおわあああっ!?」
「あらあら、はしたないわよ郭之丞ちゃん。そんなに大声出して」
「つ、冷たっ冷たいっ、背中がっ!! おのれ桜、伏兵とは卑怯なっ」
さすがに子供へ仕返しはできないので、自分が感じた冷たさを郭之丞お姉さんに返した桜お姉さんでした。
「さあ、今度は雪だるまや雪うさぎを作りましょうね」
「それならさっきわたしも作ったから、お手本にしてもいいわよ〜♪」
ぱんぱんと手を叩く櫻お姉さんに、桜お姉さんも何食わぬ顔で同調します。どこからともなく取り出したのは、葉っぱのお耳と南天の実のおめめが可愛らしい、ちんまい雪うさぎ。子供達からも、大人達からも、感嘆のため息が漏れました。
●体を温める腹ごしらえ
「しっかり拭かんと、風邪ひーてまうからな〜?」
満足げにかまくらに戻ってきた子供達へ、凪お姉さんが厚手の手ぬぐいを渡します。ついでに頭をわしゃわしゃっ、としてあげると、男の子達はやや乱暴にそれを振り払いました。
「自分でできるから!」
「お? なんや〜、小鈴さんの前やからって照れとるんかぁ」
「違うわぁっ!!」
口では否定していても、体は正直。耳まで真っ赤になる男の子達を見て、小鈴の目はぱちくりしています。大人のお姉さん達はというと、にやにやしたり、男の子達を落ち着かせるためのお茶を用意したり。
「はい、お茶だよ‥‥熱いから、気をつけて」
「ねえねえ、さっき小鈴ちゃんのお母さんが来てたみたいだけど、ちゃんと持ってきてくれたかしら?」
「‥‥この鍋のこと?」
「そうそう、これこれ♪ 特別にあたしがよそってあげるわね〜」
桜お姉さんがお鍋のふたを開けると、すごい量の湯気が、ぶわっと飛び出てきました。びっくりしつつ覗き込むと、何とも言えない甘い香りが。桜お姉さんが事前に頼んでおいたお汁粉です。
時間をばっちり計算したうえで淹れられていたお茶を飲みながら、人数分のお汁粉がよそわれるのを、じっと待ちます。このお茶、冷えた体にとっては温かいを通り越して熱いくらいなのですが、火傷しないようにちょっとずつ飲むのも、それはそれでおつなもの。
「お椀を持ってるだけでも温まるな!」
「おいしいのー‥‥♪」
お汁粉入りのお椀が配られて、まずは一口。口の中から鼻を通って、ふぅわりと広がる甘い香りに、皆が頬を緩ませます。疲労回復によく効くのが甘いものですが、食べた人を幸せにする不思議な力もあるようです。
「お餅を足したい人は、焼いてますから言ってくださいね。もちろん、そのまま食べるのでもいいですよ」
たくさん動いたので、おなかもすいているでしょう。お醤油をたらすだけでなく海苔も巻くのは、味的な理由もありますが、これまた火傷対策になるからです。焼きたてのお餅はすごくすごく強敵なので、たくさん対策をしておいても損はありません。伸びるし。
「んぎいいいいいいっ!! 切れねえええええ!!」
「ああっ、そんなに伸ばしたら――」
いざ切れた時に垂れて大変な事になる。そう言って止めようとした櫻お姉さんですが、残念、間に合いませんでした。伸びに伸びて切れて垂れたお餅は、正太郎のあごにぺったりと張り付いてしまったのです。
熱がる正太郎。笑う男の子達。
焦るお姉さん。雪で冷やそうとすくってくるお姉さん。
対応が早かったので大事には至りませんでした。ほっと安心した表情の小鈴に、セレナお姉さんも安心してお茶を味わう事ができます。
にゃんこやわんこ達も、のんびり油断しきった態勢で、くつろぎきっていました。
賑やかなかまくらの前にずらりと並んだ、雪だるま、そして雪うさぎ。じっと見つめるのは、雪合戦を見守る間に凪お姉さんが描いていた、雪上の雪ウサギと埴輪たち。楽しみながら描かれた彼らはとても楽しそうに踊っていて、見つめているほうにもそれが楽しいのか今にも歌い出しそうで。
これらはいつかは溶けてなくなってしまうものですが、今日という日の記憶は、いつまで経ってもなくなる事はないでしょう。